WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第一章

第35話 サブ……お前、来なくていいっつったろ? ったく……まあ、来ちまったもんはしょうがねえ。俺は機嫌が悪いから、あとは一号から聞け。

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 『あの師匠にしてこの弟子あり』とでも言うべきか……どいつもこいつも初登場にも関わらず、まるでその自覚がないようで嘆かわしい。
 サブロウも最早ツッコむ気がないのか、今は目の前で足を組む執事くんへと言葉を返すようだ。

「ああ。一号くんも元気そうで何よりだね」 
「もちろんさ。サブロウおじさんに逢えて、その……嬉しいからね……」

 頬を染めながらニコリと笑い、シャボントーンを飛ばしながら、とろんとした瞳で見つめる執事一号。
 その異様とも言える雰囲気は隣にいたリリスでなきゃ見逃しちゃうね。

「ちょいちょいちょい! え、何⁉ 何なの、この感じ⁉ え? 君ってその格好から察するに執事でしょ? ってことは、男の子……よね?」

 リリスが戸惑うのも致し方ないこと。目の前に御座す執事一号くんはフォーマルな執事服を着てはいるものの、その顔は抜群に整っていて、美少年なのか美少女なのか一見では判断しづらかった。

 ブルーアッシュのハンサムショートヘアを靡かせ、白い肌とは対照的な凛々しい眉毛を宿しつつ、それでいてまつ毛の長いぱっちりお目め。
 スッと通った鼻筋と潤った薄い唇はシャープな顔立ちと共鳴し、見事な黄金長方形のパワーで次元の壁をもこじ開ける程であった。

「うん。男のだよ」
「ん? 男の……よね?」
「うん。男のだよ」
「ごめん。聞き方が悪かったわ……お〇んちんついてるわよね?」

 下ネタも辞さない自称ヒロインに対し、サブロウは「何を聞いてんだ君は……」と呆れ交じりに呟くが、当然その声が届くことはない。

「うん。ついてるよ」
「じゃあ、男のってことよね?」
「うん。男のだよ」
「そっかそっか、なら一安心――って、安心できるかあああああッッ‼ あなた男の子なんでしょ⁉ なのにこんな冴えないおじさん相手にシャボントーン飛ばすんじゃ――ひぃっ⁉」

 リリスの喉元に突如突き付けられる切っ先。
 その殺意を何処からともなく出した日本刀に乗せるのは、目の据わっていた執事一号くんであった。

「それ以上、おじさんの悪口は言わない方がいいよ、お姉さん? ここは『裏代興業』のシマ……人一人消すくらい朝飯前だということを忘れちゃいけないよ?」
「うっ、裏代興業ッ……⁉ それって裏社会で有名な組織じゃない⁉ ちょ、ちょっとサブロウくん⁉ またしても聞いてないんだけど、私⁉ ヒロインなのに⁉」

 両手を上げてビビり散らすリリスに対し、サブロウは「そんなことより一号くん」とノータッチの構え。
 リリスが「そんなことってヒドっ⁉」とショックを受ける中、語りかけられた一号くんは、それはそれは嬉しそうに刀を納めた。

「何かな、おじさん?」
「兄貴が僕を呼び出した理由を聞かせてもらえないかな? 何も悪いことはしてないと思うんだけど?」

 一号くんは眉を八の字にし、若干困ったように可愛らしく微笑む。
 解放されたリリスはというと、「ちょっと、おしっこ漏れちゃったわ……」と、背を向けてスカートの中を覗いていた。

「……うん。ボクもそう思うんだけど、ボスが言うには『噓とはいえ、俺らの名を語った奴に、お前は喧嘩を吹っ掛けた。ということは、俺に喧嘩を売っているのと同じこと。つまり、俺と喧嘩するのが筋ってことだ!』って言い分らしいんだよね」
「相変わらずメチャクチャなこと言うな……」

 ボサボサの後頭部を呻りながら搔きむしるサブロウ。
 一号くんもこの手の展開には辟易しているようで、同調すように何度も頷いて見せる。

「というわけで、サブロウおじさん――」

 しかし一号くんは、その意に反するかのように椅子から立ち上がり、

「――ボクと……闘ってもらおうか?」

 再び抜刀しては悲喜交々ひきこもごもの面持ちで、敬愛するサブロウへと、その切っ先を向けた。
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