WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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第一章

第33話 おい、サブ? お前、あのババアんとこに行ったんだろ? だったら俺の方にも、ちょっと面貸せや?

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常世の居城ブラック・パレス】の一件から一日経った朝。
 収穫を終え、一息つく為と椅子に座って汗を拭っていたサブロウは、今日も今日とてサブタイが乗っ取られていることに気付く。

「今度は兄貴の方かい……」

 サブロウは気だるさを存分にアピールしつつ、これ見よがしに溜息をつく。

「どうしたの~、サブロウく~ん? 溜息なんかついて~?」

 対してこちらは相変わらず朝から居座る、ソファーに寝転んだ元天界の異端児ことリリス。
 サブロウの仕事を一切手伝わないどころか、純白の紐パンを恥ずかしげもなくおっぴろげている、生まれながらの痴女だ。

「どうやら、また呼び出しみたいでね。ちょっと行ってくるよ」

 サブロウは頭をポリポリ掻きながら、億劫そうに『よっこらせおじさんムーブ』で立ち上がる。

「ふぁ~ぁ……呼び出し? あの師匠って人から?」

 リリスは上体だけ起こし、欠伸交じりに伸びをする。

「いや、今回は兄弟子の方からさ」
「へ~、サブロウくんって兄弟子もいたんだ?」
「ああ。この世界で生きてこれた残りの半分は、その人のおかげでね。生きていくための力を授けてくれた僕の兄貴分さ」
「サブロウくんの兄貴分か……中々、興味をそそられるわね。面白そうじゃない。私も行く――」
「君はやめた方がいい」

 勢い良く立ち上がったリリスを、サブロウは一刀両断――すぐさま止める。シリアスフェイスで。

「何よ、サブロウくん? マジな顔しちゃって……」
「兄貴は純度100パーのヤバいお人でね。君みたいな子が行ったら恐らく……喰われてしまう」
「喰われる? 殺されるってこと……?」

 恐る恐る問いかけるリリスに、サブロウは神妙な面持ちを崩し、若干気まずそうに視線をずらしていく。

「いや……そういう意味じゃなくて、その~……なんて言うんだろう……」

 何処か煮え切らないサブロウ。その反応を見たリリスは瞬時に察した。何故なら淫乱堕天使だから。

「あ~……もしかしてエッチな事されるって意味? 肉体的に喰われるっていう?」
「……うん」

 コクリと頷く、純なおじさんことサブロウ。
 そのギャップにリリスは、にんまりと笑みを零す。

「へぇ~? ふぅ~ん? もしかしてサブロウくん……心配してくれてるの? まったくも~! なんだかんだ言って私のことが気になっちゃうのね? 愛いやつめ~、このこの!」

 リリスも満更ではないのか幾分か頬を染め、サブロウを肘でグイグイ小突く。
 しかし、私は言った。残念ながらこの二人が、そのような展開にはならないということを。

「そりゃあ、心配さ! だって……だって兄貴は――だから……」
「…………え? 何て?」
「早漏……」

 ⁉

 リリスはサブロウの言っている意味が理解できず、どこぞの少年誌が如き感嘆符疑問符を頭上に浮かべていた。

「えーっとー……言ってる意味がよく分からないのだけど……?」
「兄貴はめちゃくちゃ強いお人だ。男から見ても惚れるほどの漢……。そうなれば当然、関わった女性は間違いなく、その強さに魅了されてしまう。そして、愛し合った二人は徐々にその距離を縮め、身体を重ねる。でも、兄貴はっ……数秒で果ててしまうんだ……!」
「は?」
「僕はもう嫌なんだ! 失望される兄貴の姿を……見るなんてことはッ……!」

 辛酸をなめるかの如き面持ちで拳を握り締めるサブロウ。
 勝手に一人で盛り上がるその姿に、リリスは……

「いや、心配してるの兄貴分の方かあぁぁあぁあいッッ⁉」

 沸々と湧き上がる怒りを、東洋一のツッコミに乗せて放出なさった。
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