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第一章
第32話 妾は機嫌が悪いので、詳細はメイドから聞きなさい。でも、謝るっていうなら許さなくもないんだからね!
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既にツンデレキャラが居ることを知らない哀れなサブタイ――もといソフィア師匠。
当然、謝ることなど無いので、サブロウは普通にメイドさんから話を聞くのであった。
「サブロウ様。まずは先日の奴隷商人の件……救出いただいたこと、他のメイドを代表して感謝いたします」
ご丁寧なお辞儀をするメイドさんからは、ふわりと花のような芳しい香りが漂う。
「あぁ、やっぱり君たちだったんだ。見た顔だと思ったんだよね」
「あら、覚えていてくださったのですね? 嬉しいですわ……」
とろんと顔を綻ばせ、サブロウを見つめるメイド。
そんな主人公的状況を快く思わない狂犬が一人いた……っていうかリリスだった。
「ちょちょ、ちょいっ! え、何この感じ? 何で私だけ置いてけぼりなの? 私、ヒロインだよね? っていうか、奴隷商人の件って何? まさか、あの話ってサブロウくんが解決したの⁉ 私、聞いてない⁉ ヒロインなのに⁉」
若干、声が上擦るリリスに、サブロウは淡々と述べ始める。
「いや、そもそも君ヒロインじゃないでしょ? 何故なら僕が主人公じゃないからね。せいぜい僕たちは村人AとCがお似合いさ」
「え、何でB飛ばしたの? 何でちょっと距離間あいてるの? やだ……何か思った以上に寂しいんですけど……」
口を開けば残念堕天使ことリリスが沈黙の戦艦となったところで、サブロウはメイドさんへと視線を戻す。
「で、話ってのは奴隷商人の件? やっぱり助けちゃったのが問題だったのかな?」
「あ、はい……。私たちとしては、あの有名なサブロウ様に助けていただいて、本当に嬉しかったというか、ドキドキしたというか、むしろそのまま連れ去ってくださいませというか、貴方様の奴隷になら喜んで志願するというか、明日結納というか……」
本当に嬉しかったのだろう。メイドさんは赤らめた頬を両の手で包み、お一人で勝手に盛り上がっていた。
「う、うん……。それで、師匠は何と?」
メイドさんは引き気味のサブロウに気付いたのか、恥ずかし気に頬を染めたままコホンと息を整える。
「……失礼いたしました。それでは本題に移らせていただきます。サブロウ様が先程から察せられている通り、私たちは、あの奴隷商人の下にマスターの命で潜入していたのです。理由としましては裏社会を掃討する足掛かりを得る為。ですが、サブロウ様が介入されたことで、その計画が頓挫してしまいました。ゆえに責任を取っていただきたいというのが、我がマスターの意見で御座います」
終わりの意を示すよう、メイドさんはこれまたご丁寧にお辞儀をする。
「責任ねぇ……具体的に何をしろと?」
「マスターからは『妾の傍にずっとい――」
「却下」
「……と、仰られると思いましたので代替案を。先日、ビスマルク家の王女であるハルフリーダ様が、セイターンの街に出奔なされたとのこと。ひいてはそのご令嬢をビスマルク家へ連れ帰ってほしいと、マスターは願っています」
「ふ~ん……大方、ビスマルク家に顔を売ろうって魂胆かな。それで僕が素直にやると思ってるのかい?」
「それは分かりかねます。ですが、マスターはこう仰っていました。『サブロウは必ず責任を取る男……あと可愛い』と」
「可愛いは余計だ」
「『返事は結構。あとは行動で示しなさい』とも仰っていました。ここまでがマスターからの伝言になります。ご理解いただければ幸いです」
「なるほどね。話は理解したよ。まあ、やるかどうかは分からないけど、師匠にはよろしく伝えておいてくれ。それじゃ」
話が済んだサブロウは影人間と化しているリリスの背中を押し、戻る為にと昇華の前に立つ。
「……あの、サブロウ様!」
しかし、帰ろうとするサブロウを、メイドさんが幾分か緊張した面持ちで引き止めた。
「まだ何か?」
「いえ……もし差し支えなければなのですが……。今度、ご自宅にお邪魔してもよろしいでしょうか? お一人では何かと寂しいと存じますので、私で宜しければ、その……お世話などを……」
振り返ればそこには俯きながら顔を火照らせる、シャボントーンを従えたカワイ子ちゃんがいた。
そんな主人公的、千載一遇のチャンスを前に当のサブロウは、
「いや、大丈夫。うちにはもう騒がしいのが居るからさ」
普通に断り、リリスの首根っこ掴んで速攻で帰っていった。
一人残されたメイドさんは暫し目をパチクリしたのち、キリっとした面持ちでこう呟く。
「ライバル出現、といったところですわね……!」
違います。
当然、謝ることなど無いので、サブロウは普通にメイドさんから話を聞くのであった。
「サブロウ様。まずは先日の奴隷商人の件……救出いただいたこと、他のメイドを代表して感謝いたします」
ご丁寧なお辞儀をするメイドさんからは、ふわりと花のような芳しい香りが漂う。
「あぁ、やっぱり君たちだったんだ。見た顔だと思ったんだよね」
「あら、覚えていてくださったのですね? 嬉しいですわ……」
とろんと顔を綻ばせ、サブロウを見つめるメイド。
そんな主人公的状況を快く思わない狂犬が一人いた……っていうかリリスだった。
「ちょちょ、ちょいっ! え、何この感じ? 何で私だけ置いてけぼりなの? 私、ヒロインだよね? っていうか、奴隷商人の件って何? まさか、あの話ってサブロウくんが解決したの⁉ 私、聞いてない⁉ ヒロインなのに⁉」
若干、声が上擦るリリスに、サブロウは淡々と述べ始める。
「いや、そもそも君ヒロインじゃないでしょ? 何故なら僕が主人公じゃないからね。せいぜい僕たちは村人AとCがお似合いさ」
「え、何でB飛ばしたの? 何でちょっと距離間あいてるの? やだ……何か思った以上に寂しいんですけど……」
口を開けば残念堕天使ことリリスが沈黙の戦艦となったところで、サブロウはメイドさんへと視線を戻す。
「で、話ってのは奴隷商人の件? やっぱり助けちゃったのが問題だったのかな?」
「あ、はい……。私たちとしては、あの有名なサブロウ様に助けていただいて、本当に嬉しかったというか、ドキドキしたというか、むしろそのまま連れ去ってくださいませというか、貴方様の奴隷になら喜んで志願するというか、明日結納というか……」
本当に嬉しかったのだろう。メイドさんは赤らめた頬を両の手で包み、お一人で勝手に盛り上がっていた。
「う、うん……。それで、師匠は何と?」
メイドさんは引き気味のサブロウに気付いたのか、恥ずかし気に頬を染めたままコホンと息を整える。
「……失礼いたしました。それでは本題に移らせていただきます。サブロウ様が先程から察せられている通り、私たちは、あの奴隷商人の下にマスターの命で潜入していたのです。理由としましては裏社会を掃討する足掛かりを得る為。ですが、サブロウ様が介入されたことで、その計画が頓挫してしまいました。ゆえに責任を取っていただきたいというのが、我がマスターの意見で御座います」
終わりの意を示すよう、メイドさんはこれまたご丁寧にお辞儀をする。
「責任ねぇ……具体的に何をしろと?」
「マスターからは『妾の傍にずっとい――」
「却下」
「……と、仰られると思いましたので代替案を。先日、ビスマルク家の王女であるハルフリーダ様が、セイターンの街に出奔なされたとのこと。ひいてはそのご令嬢をビスマルク家へ連れ帰ってほしいと、マスターは願っています」
「ふ~ん……大方、ビスマルク家に顔を売ろうって魂胆かな。それで僕が素直にやると思ってるのかい?」
「それは分かりかねます。ですが、マスターはこう仰っていました。『サブロウは必ず責任を取る男……あと可愛い』と」
「可愛いは余計だ」
「『返事は結構。あとは行動で示しなさい』とも仰っていました。ここまでがマスターからの伝言になります。ご理解いただければ幸いです」
「なるほどね。話は理解したよ。まあ、やるかどうかは分からないけど、師匠にはよろしく伝えておいてくれ。それじゃ」
話が済んだサブロウは影人間と化しているリリスの背中を押し、戻る為にと昇華の前に立つ。
「……あの、サブロウ様!」
しかし、帰ろうとするサブロウを、メイドさんが幾分か緊張した面持ちで引き止めた。
「まだ何か?」
「いえ……もし差し支えなければなのですが……。今度、ご自宅にお邪魔してもよろしいでしょうか? お一人では何かと寂しいと存じますので、私で宜しければ、その……お世話などを……」
振り返ればそこには俯きながら顔を火照らせる、シャボントーンを従えたカワイ子ちゃんがいた。
そんな主人公的、千載一遇のチャンスを前に当のサブロウは、
「いや、大丈夫。うちにはもう騒がしいのが居るからさ」
普通に断り、リリスの首根っこ掴んで速攻で帰っていった。
一人残されたメイドさんは暫し目をパチクリしたのち、キリっとした面持ちでこう呟く。
「ライバル出現、といったところですわね……!」
違います。
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