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序章
第28話 今日も魔王様(社長)は現実逃避に励む①
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魔王軍直轄地、東部エリア――
オンボロのプレハブ小屋が建ち並ぶ荒れ果てた領地。
その最奥にある一際大きい魔王城(プレハブ)の一室には、魔王軍代行稼業有限会社の魔王(社長)こと、ロリエル・コンクェスターが座していた。
「どうなのだ将軍……? 足りるのだ……?」
魔王(社長)……といっても、見た目は完全に幼女。
毛先の跳ねた紫のショートカットの上に小さな制帽をかぶり、側頭部からは、ねじれた角がぴょこんと挨拶をしている。
そんな、ぶかぶかの軍服だけを羽織ったロリエルは、八重歯を覗かせつつ、トレードマークのジト目で神妙に語りかけていた。
「いやぁ、全然足らないですよ……予算」
そう答えるのは電卓をたたくバーバリアン将軍。
かつてサブロウと激闘を繰り広げ、敢え無く撤退した……ということにして、ロリエルからのお咎めを無しにした、世渡り上手な獣人型の魔物である。
「あぁ……やっぱし、足らんのだ……。確実に前回の遠征に失敗したのが響いてるのだ……」
「仕方ないですよ。相手はあの先輩ですし。このバーバリアンの力を以てしても紙一重でしたからね」
ぐでーんと机にお顔を乗せるロリエルに、将軍はさらっと嘘を織り交ぜつつ、赤字だらけの予算表をまとめる。
「サブロウかぁ……。アイツが居た時は良かったのだ。寝てるだけで、お金が入ってきてたのだ」
「そうやってサボった結果、先輩は愛想を尽かして出ていっちゃいましたけどね~……」
在りし日の思い出に耽るよう、ロリエルと将軍は暫し虚空を見つめる。
「……サブロウは元気だったのだ?」
「え? まあ、いつも通りでしたよ。相変わらず飄々としてるっていうか、なんていうか……」
「そっかぁ。我も久しぶりに会いたいものなのだ。サブロウは優しくて好きなのだ!」
「確かに。このバーバリアンがケツを差し出してもいいと思えるほどの男ですからね。当時の幹部連中からも信頼されてましたよ。ま、みんな辞めちゃいましたけどね……」
どんより空気が流れるのも仕方のないこと。
今この事務所にはロリエルと将軍、そして本日は出張しているバードマン参謀の三つしか席がない。
嘗ての栄光は見る影もなく、予算もなければ従業員に支払う給料もかつかつ……世知辛い状況が続いていた。
「ハァ……思うようにいかんものなのだ。ストラテジータイプのゲームだと発展させていくの結構うまい方なんだが……現実は斯くも厳しいものなのだ」
「やっぱ今時、魔王軍の代行なんて流行らないんですよ。南部エリアの奴らも、今はリゾート開発に切り替えて儲けてるって近所のヤスモトさんが――」
キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……
「あ、終業のチャイムなのだ」
そそくさと帰り支度を始める社長と将軍。
無論、従業員たちも全員定時上がりで、ぞろぞろと外へ出始めていた。
「結局、今日も仕事らしい仕事しませんでしたね」
「会議も仕事のうちなのだ。だから問題ないのだ」
ダメな会社の典型……のように見えるが、従業員たちは皆笑顔だった。
サブロウが在籍していた時はいわゆる全盛期。ジャンジャンバリバリ働く時代だったが、今の仕事と言えば地域との共生くらい。プライベートタイムが充実すると、従業員からは意外と好評だったりしていた。
「すっかりホワイト企業になりましたけど大丈夫なんですかね? うちの会社」
「まあ、バードマン参謀が裏カジノ設営の交渉に行ってるから、それの結果次第で我が社の命運が決まるのだ。今さら焦ってもしょうがないし、さっさと帰って撮り貯めたアニメでも消化するのだ!」
「相変わらず呑気な社長だなぁ……」
ロリエルはトコトコと走り出し、呆れた将軍と共に事務所を後にした。
というわけで、今日も魔王様(社長)は現実逃避に励む。
ちなみに次回へ続くかどうかは分からない……
オンボロのプレハブ小屋が建ち並ぶ荒れ果てた領地。
その最奥にある一際大きい魔王城(プレハブ)の一室には、魔王軍代行稼業有限会社の魔王(社長)こと、ロリエル・コンクェスターが座していた。
「どうなのだ将軍……? 足りるのだ……?」
魔王(社長)……といっても、見た目は完全に幼女。
毛先の跳ねた紫のショートカットの上に小さな制帽をかぶり、側頭部からは、ねじれた角がぴょこんと挨拶をしている。
そんな、ぶかぶかの軍服だけを羽織ったロリエルは、八重歯を覗かせつつ、トレードマークのジト目で神妙に語りかけていた。
「いやぁ、全然足らないですよ……予算」
そう答えるのは電卓をたたくバーバリアン将軍。
かつてサブロウと激闘を繰り広げ、敢え無く撤退した……ということにして、ロリエルからのお咎めを無しにした、世渡り上手な獣人型の魔物である。
「あぁ……やっぱし、足らんのだ……。確実に前回の遠征に失敗したのが響いてるのだ……」
「仕方ないですよ。相手はあの先輩ですし。このバーバリアンの力を以てしても紙一重でしたからね」
ぐでーんと机にお顔を乗せるロリエルに、将軍はさらっと嘘を織り交ぜつつ、赤字だらけの予算表をまとめる。
「サブロウかぁ……。アイツが居た時は良かったのだ。寝てるだけで、お金が入ってきてたのだ」
「そうやってサボった結果、先輩は愛想を尽かして出ていっちゃいましたけどね~……」
在りし日の思い出に耽るよう、ロリエルと将軍は暫し虚空を見つめる。
「……サブロウは元気だったのだ?」
「え? まあ、いつも通りでしたよ。相変わらず飄々としてるっていうか、なんていうか……」
「そっかぁ。我も久しぶりに会いたいものなのだ。サブロウは優しくて好きなのだ!」
「確かに。このバーバリアンがケツを差し出してもいいと思えるほどの男ですからね。当時の幹部連中からも信頼されてましたよ。ま、みんな辞めちゃいましたけどね……」
どんより空気が流れるのも仕方のないこと。
今この事務所にはロリエルと将軍、そして本日は出張しているバードマン参謀の三つしか席がない。
嘗ての栄光は見る影もなく、予算もなければ従業員に支払う給料もかつかつ……世知辛い状況が続いていた。
「ハァ……思うようにいかんものなのだ。ストラテジータイプのゲームだと発展させていくの結構うまい方なんだが……現実は斯くも厳しいものなのだ」
「やっぱ今時、魔王軍の代行なんて流行らないんですよ。南部エリアの奴らも、今はリゾート開発に切り替えて儲けてるって近所のヤスモトさんが――」
キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……
「あ、終業のチャイムなのだ」
そそくさと帰り支度を始める社長と将軍。
無論、従業員たちも全員定時上がりで、ぞろぞろと外へ出始めていた。
「結局、今日も仕事らしい仕事しませんでしたね」
「会議も仕事のうちなのだ。だから問題ないのだ」
ダメな会社の典型……のように見えるが、従業員たちは皆笑顔だった。
サブロウが在籍していた時はいわゆる全盛期。ジャンジャンバリバリ働く時代だったが、今の仕事と言えば地域との共生くらい。プライベートタイムが充実すると、従業員からは意外と好評だったりしていた。
「すっかりホワイト企業になりましたけど大丈夫なんですかね? うちの会社」
「まあ、バードマン参謀が裏カジノ設営の交渉に行ってるから、それの結果次第で我が社の命運が決まるのだ。今さら焦ってもしょうがないし、さっさと帰って撮り貯めたアニメでも消化するのだ!」
「相変わらず呑気な社長だなぁ……」
ロリエルはトコトコと走り出し、呆れた将軍と共に事務所を後にした。
というわけで、今日も魔王様(社長)は現実逃避に励む。
ちなみに次回へ続くかどうかは分からない……
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