WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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序章

第23話 おじさんと少女が邂逅しそうで、しなかったりするお話①

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「ぶぁっぱひぃふぉがひぃわ!」

 リリス。食べかす堕天使。
 パスタを口いっぱいに頬張り、品性の欠片もなく食べかすを飛ばすそのザマは、見る者の拳を振り上げさせる。【場面転換】による改変能力が強力だ。

「食うか喋るか、どっちかにしなよ。何言ってるか分かんない」

 サブロウ。巻き込まれおじさん。
 常にリリスに引っ掻き回されており、長きに渡る努力で身に着けた【永獄拷子】による拷問プレイは、サブロウの趣味の一つとなっている。

「なっとらん。あとどこぞの図鑑っぽくナレーションするな」

 さて、サブロウからツッコミが入ったところで状況説明を。
 あれからサブロウは男の娘フェアから退散、リリスを元気づける為にと近くの喫茶店へ連れてきていた。

 昼時ということもあってか店内は満席。
 サブロウたちはテラス席で昼食をとりつつ、作戦を練り直しているというのが現状だ。

「ごくっ……やっぱりおかしいわって言ったのよ! だってそうでしょ? 奴隷と言えば可愛い女の子と相場が決まってるのに、いきなり男の娘を引くなんて! ありえないわ!」
「別にありえなくはないでしょ? クオリティ結構高かったし。ってことは、それなりに需要があるってことなんじゃない?」
「嘘だッ! だって全然、お客いなかったじゃない!」

 ビシッと指差すリリスの手を、サブロウは二本指でぬるっと横にずらす。

「魔天籠ショッピングがあるじゃん。体裁とか気にするタイプの人は、そっちの方で購入するだろうから、一概には判断できないと思うよ?」

 売られた本人が言うと説得力が違うな。

「確かに……それもそうね。っていうか、何でこの世界は、ちょいちょい現代風なのかしら? なんか調子狂うんだけど」

 サブロウはリリスの御尤もな感想に微笑を浮かべつつ、口元に頼んでいた紅茶を運ぶ。ちなみに昼食は頼んでいない。サブロウは基本的に外食はしないのだ。

「古きを捨て、新しきものを取り入れる。立派な世界だと思うけど?」
「冗談じゃないわ。これじゃあ、現代知識無双ができないじゃない。私の崇高な作戦がまた一つ、始まる前に終わったわ」

 ようやく取り戻しつつあった元気も、また消沈。
 リリスは肩を落とすと同時に、食べ終わったフォークを置いた。

「まあ、そう落ち込まないで。そろそろ帰ろうか? 食べ終わったみたいだしね」
「は? 何言ってんのよ、サブロウくん? まだ、終わりじゃないわ!」
「え? ……まだやんの?」

 せっかく嗜んでいた紅茶の手が、ピタッと止まるサブロウ。
 今日は早く帰れると高を括って奢ったその顔は、二重の意味で引き攣っていた。

「当たり前よ! 今回のは凡ミス……ちゃんと下調べをしなかったのが原因よ! やっぱり、近所のヤスモトさん情報だけでは不十分だったわ!」
「誰だよ、近所のヤスモトさんって……」
「というわけで私、色々調べにいってくるわ! あ、サブロウくんは待ってるだけでいいから安心して。サブロウくんのことは全部、私がやってあげるから! じゃ、行ってきまーす!」

 もはや反論する暇もなく、颯爽と走り去っていくリリス。残念ながら良くない方向に元気を出してしまったようだ。

 そんな背を見つめつつサブロウは、『この隙に帰ってしまおうか?』と安易に腰を浮かす。

 ――が、今この瞬間、不運にもサブロウは……になってしまっていた。

 普段、リリスが余計なことをして相殺していたサブロウのが覚醒し、タイミングを見計らったように隣のテーブルにいた二人組のおじさんの会話が聞こえてしまう。

「おい、聞いたか? 奴隷商人が来てるって話……」
「聞いた聞いた。男の娘の方じゃなくて、の方が来てるんだろ? 美女揃いの方の……!」
「ああ。ついにこの街にも来ちまったみてえだ。何とか助け出してやりてえが、俺にはその力がねえ」
「ああ。もしこれを聞いてる奴がいたとして、物凄い力を持っているのに見過ごそうとしてる奴がいたら、俺は一生そいつを軽蔑するね」

 サブロウは帰ろうかと浮かしていた腰を下ろし、頭を抱える。

 そう。サブロウは一人になると――メチャクチャ巻き込まれる体質だった。
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