24 / 117
序章
第23話 おじさんと少女が邂逅しそうで、しなかったりするお話①
しおりを挟む
「ぶぁっぱひぃふぉがひぃわ!」
リリス。食べかす堕天使。
パスタを口いっぱいに頬張り、品性の欠片もなく食べかすを飛ばすそのザマは、見る者の拳を振り上げさせる。【場面転換】による改変能力が強力だ。
「食うか喋るか、どっちかにしなよ。何言ってるか分かんない」
サブロウ。巻き込まれおじさん。
常にリリスに引っ掻き回されており、長きに渡る努力で身に着けた【永獄拷子】による拷問プレイは、サブロウの趣味の一つとなっている。
「なっとらん。あとどこぞの図鑑っぽくナレーションするな」
さて、サブロウからツッコミが入ったところで状況説明を。
あれからサブロウは男の娘フェアから退散、リリスを元気づける為にと近くの喫茶店へ連れてきていた。
昼時ということもあってか店内は満席。
サブロウたちはテラス席で昼食をとりつつ、作戦を練り直しているというのが現状だ。
「ごくっ……やっぱりおかしいわって言ったのよ! だってそうでしょ? 奴隷と言えば可愛い女の子と相場が決まってるのに、いきなり男の娘を引くなんて! ありえないわ!」
「別にありえなくはないでしょ? クオリティ結構高かったし。ってことは、それなりに需要があるってことなんじゃない?」
「嘘だッ! だって全然、お客いなかったじゃない!」
ビシッと指差すリリスの手を、サブロウは二本指でぬるっと横にずらす。
「魔天籠ショッピングがあるじゃん。体裁とか気にするタイプの人は、そっちの方で購入するだろうから、一概には判断できないと思うよ?」
売られた本人が言うと説得力が違うな。
「確かに……それもそうね。っていうか、何でこの世界は、ちょいちょい現代風なのかしら? なんか調子狂うんだけど」
サブロウはリリスの御尤もな感想に微笑を浮かべつつ、口元に頼んでいた紅茶を運ぶ。ちなみに昼食は頼んでいない。サブロウは基本的に外食はしないのだ。
「古きを捨て、新しきものを取り入れる。立派な世界だと思うけど?」
「冗談じゃないわ。これじゃあ、現代知識無双ができないじゃない。私の崇高な作戦がまた一つ、始まる前に終わったわ」
ようやく取り戻しつつあった元気も、また消沈。
リリスは肩を落とすと同時に、食べ終わったフォークを置いた。
「まあ、そう落ち込まないで。そろそろ帰ろうか? 食べ終わったみたいだしね」
「は? 何言ってんのよ、サブロウくん? まだ、終わりじゃないわ!」
「え? ……まだやんの?」
せっかく嗜んでいた紅茶の手が、ピタッと止まるサブロウ。
今日は早く帰れると高を括って奢ったその顔は、二重の意味で引き攣っていた。
「当たり前よ! 今回のは凡ミス……ちゃんと下調べをしなかったのが原因よ! やっぱり、近所のヤスモトさん情報だけでは不十分だったわ!」
「誰だよ、近所のヤスモトさんって……」
「というわけで私、色々調べにいってくるわ! あ、サブロウくんは待ってるだけでいいから安心して。サブロウくんのことは全部、私がやってあげるから! じゃ、行ってきまーす!」
もはや反論する暇もなく、颯爽と走り去っていくリリス。残念ながら良くない方向に元気を出してしまったようだ。
そんな背を見つめつつサブロウは、『この隙に帰ってしまおうか?』と安易に腰を浮かす。
――が、今この瞬間、不運にもサブロウは……一人になってしまっていた。
普段、リリスが余計なことをして相殺していたサブロウのある体質が覚醒し、タイミングを見計らったように隣のテーブルにいた二人組のおじさんの会話が聞こえてしまう。
「おい、聞いたか? 奴隷商人が来てるって話……」
「聞いた聞いた。男の娘の方じゃなくて、ガチの方が来てるんだろ? 美女揃いの方の……!」
「ああ。ついにこの街にも来ちまったみてえだ。何とか助け出してやりてえが、俺にはその力がねえ」
「ああ。もしこれを聞いてる奴がいたとして、物凄い力を持っているのに見過ごそうとしてる奴がいたら、俺は一生そいつを軽蔑するね」
サブロウは帰ろうかと浮かしていた腰を下ろし、頭を抱える。
そう。サブロウは一人になると――メチャクチャ巻き込まれる体質だった。
リリス。食べかす堕天使。
パスタを口いっぱいに頬張り、品性の欠片もなく食べかすを飛ばすそのザマは、見る者の拳を振り上げさせる。【場面転換】による改変能力が強力だ。
「食うか喋るか、どっちかにしなよ。何言ってるか分かんない」
サブロウ。巻き込まれおじさん。
常にリリスに引っ掻き回されており、長きに渡る努力で身に着けた【永獄拷子】による拷問プレイは、サブロウの趣味の一つとなっている。
「なっとらん。あとどこぞの図鑑っぽくナレーションするな」
さて、サブロウからツッコミが入ったところで状況説明を。
あれからサブロウは男の娘フェアから退散、リリスを元気づける為にと近くの喫茶店へ連れてきていた。
昼時ということもあってか店内は満席。
サブロウたちはテラス席で昼食をとりつつ、作戦を練り直しているというのが現状だ。
「ごくっ……やっぱりおかしいわって言ったのよ! だってそうでしょ? 奴隷と言えば可愛い女の子と相場が決まってるのに、いきなり男の娘を引くなんて! ありえないわ!」
「別にありえなくはないでしょ? クオリティ結構高かったし。ってことは、それなりに需要があるってことなんじゃない?」
「嘘だッ! だって全然、お客いなかったじゃない!」
ビシッと指差すリリスの手を、サブロウは二本指でぬるっと横にずらす。
「魔天籠ショッピングがあるじゃん。体裁とか気にするタイプの人は、そっちの方で購入するだろうから、一概には判断できないと思うよ?」
売られた本人が言うと説得力が違うな。
「確かに……それもそうね。っていうか、何でこの世界は、ちょいちょい現代風なのかしら? なんか調子狂うんだけど」
サブロウはリリスの御尤もな感想に微笑を浮かべつつ、口元に頼んでいた紅茶を運ぶ。ちなみに昼食は頼んでいない。サブロウは基本的に外食はしないのだ。
「古きを捨て、新しきものを取り入れる。立派な世界だと思うけど?」
「冗談じゃないわ。これじゃあ、現代知識無双ができないじゃない。私の崇高な作戦がまた一つ、始まる前に終わったわ」
ようやく取り戻しつつあった元気も、また消沈。
リリスは肩を落とすと同時に、食べ終わったフォークを置いた。
「まあ、そう落ち込まないで。そろそろ帰ろうか? 食べ終わったみたいだしね」
「は? 何言ってんのよ、サブロウくん? まだ、終わりじゃないわ!」
「え? ……まだやんの?」
せっかく嗜んでいた紅茶の手が、ピタッと止まるサブロウ。
今日は早く帰れると高を括って奢ったその顔は、二重の意味で引き攣っていた。
「当たり前よ! 今回のは凡ミス……ちゃんと下調べをしなかったのが原因よ! やっぱり、近所のヤスモトさん情報だけでは不十分だったわ!」
「誰だよ、近所のヤスモトさんって……」
「というわけで私、色々調べにいってくるわ! あ、サブロウくんは待ってるだけでいいから安心して。サブロウくんのことは全部、私がやってあげるから! じゃ、行ってきまーす!」
もはや反論する暇もなく、颯爽と走り去っていくリリス。残念ながら良くない方向に元気を出してしまったようだ。
そんな背を見つめつつサブロウは、『この隙に帰ってしまおうか?』と安易に腰を浮かす。
――が、今この瞬間、不運にもサブロウは……一人になってしまっていた。
普段、リリスが余計なことをして相殺していたサブロウのある体質が覚醒し、タイミングを見計らったように隣のテーブルにいた二人組のおじさんの会話が聞こえてしまう。
「おい、聞いたか? 奴隷商人が来てるって話……」
「聞いた聞いた。男の娘の方じゃなくて、ガチの方が来てるんだろ? 美女揃いの方の……!」
「ああ。ついにこの街にも来ちまったみてえだ。何とか助け出してやりてえが、俺にはその力がねえ」
「ああ。もしこれを聞いてる奴がいたとして、物凄い力を持っているのに見過ごそうとしてる奴がいたら、俺は一生そいつを軽蔑するね」
サブロウは帰ろうかと浮かしていた腰を下ろし、頭を抱える。
そう。サブロウは一人になると――メチャクチャ巻き込まれる体質だった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)


【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる