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序章
第13話 お姫様が悪漢から逃げてるらしいけど、そもそもそんな都合よく出会わない③
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「あのさ……。君は知らないだろうけど、うちには【昇華】があるんだよね」
「ん? サブリーダーのメシを?」
「違う。【昇華】だ。ほら、玄関の横とキッチンのところに置いてある花。あれのことさ」
サブロウはその方向へと指を差し、リリスの素粒子ほどしかない脳髄にも分かり易く教える。
「あぁ……あの蕾が閉じてる花ね。それが何だっていうのよ?」
「【昇華】は蕾を開くことで効力を発揮する魔法の花。それを踏まえたうえで、玄関に置いてある一番右の花を見てくれ。開いてるでしょ? あれは妨害能力が付与された【昇華】のModel-Oなんだ」
リリスは理解できないのか首を傾げる。百二十度くらい。
「えーっと、つまりね。ここには関係者以外、誰も立ち寄れないってことさ」
「………………」
リリスは暫し考える。腕を組みながら考える。途中、『今日の晩御飯、何にしようかしら?』とか、『最近、エステ行ってないわ~』とか、くだらない思考に寄り道しつつ、やっとこさ理解へ至る。
「――えっ⁉ ってことは、ここには関係者以外、誰も立ち寄れないってこと⁉」
「うん。今、そう言った」
「どどどどうしよう⁉ このままじゃ、お姫様を誘き出せないじゃない⁉」
ヴィジュアル・コメディさながらの慌てっぷりを見せるリリスに、「せめてお姫様の身を心配しようよ」と一応冷静にツッコむサブロウ。
「ちょっと、サブロウくん! 何で教えてくれなかったのよ!」
「教えようとしたさ。でも前に僕が得意気に話そうとしたら、『早口のオタクみたいでキモイ』って一蹴したでしょ? あれ、結構傷ついたからね?」
「だって、それは……本当にキモかったんだもん!」
「最低だな、こいつ……」
さすがのサブロウでも、これ以上気遣いはできなかった。寧ろ次はどんな拷問魔法を執行しようかと魔天籠に接続さえしていた……が、そんな折――
ドン! ドン! ドン! と、扉を叩く音が耳に届く。
「あれ……? 今、扉の叩く音が……もしかしてお姫様っ⁉」
「まさか。お姫様が辿り着けるような場所じゃ……」
「はいはい! 少々、お待ちを~!」
家主でもないうえに誰かも分からず勝手に出て行くリリスは、やはり素で能天気なおバカさんだと言えよう。
「いやぁー、すみませんね! お姫様だっていうのに、こんなしょうもないとこまで出張ってもらっちゃっ……て……?」
「お姫様? 何故、そのことを知っておる? ははーん……さては貴様じゃな? この辺りに妙な結界を張っているのは?」
ご登場なさるはマジカルゲートボール大会で万年四位。カワウソに似てると評判のベルベット老師だった。
「えーっとー……誰、おじいちゃん? あ、お薬貰うところは此処じゃないわよ?」
「ジジイが全員、診察終わりだと思ったら大間違いじゃボケェッ! 昨日、行ってきたばっかりじゃ!」
行ってんじゃん。
「おやおや、こんな大所帯で。一体、何用ですかな?」
サブロウはリリスの肩を抱き、庇うように自分の後ろへと誘導する。
「ワシらは某国のお姫様を絶賛追跡中だったんじゃが、この森を覆う忌々しい結界によって頓挫してしもうた。っつー訳で、ムカついた腹癒せに、その諸悪の根源をデストロイしに来たっちゅうわけじゃよ」
「なるほど。それで逆探知してきたって訳ですか。流石、マジカルゲートボール大会で万年四位だけはありますね」
「そうそう、万年四位――って、何で知っとるんじゃっ⁉ ワシ、まだ一言も言ってないのに⁉」
私とサブロウの前では全ての敵が無力であった。
「結界のことは謝ります。ですから、このままご帰宅願えませんかね? 僕の大事な畑を荒らされたくないもので」
そのサブロウの一言は悲しくも、ベルベットの愚かな思考を刺激してしまう。
「フッ、馬鹿め! 自ら弱点を曝け出すとは浅はかなり! 者ども出会え! この愚かな小童の大事なものを踏み躙ってしまえッ‼」
「「「アイアイサー!」」」
いや、受け答え、もうちょい考えろよ。悪代官張りの号令出したベルベットが可哀想だろ。
「ん? サブリーダーのメシを?」
「違う。【昇華】だ。ほら、玄関の横とキッチンのところに置いてある花。あれのことさ」
サブロウはその方向へと指を差し、リリスの素粒子ほどしかない脳髄にも分かり易く教える。
「あぁ……あの蕾が閉じてる花ね。それが何だっていうのよ?」
「【昇華】は蕾を開くことで効力を発揮する魔法の花。それを踏まえたうえで、玄関に置いてある一番右の花を見てくれ。開いてるでしょ? あれは妨害能力が付与された【昇華】のModel-Oなんだ」
リリスは理解できないのか首を傾げる。百二十度くらい。
「えーっと、つまりね。ここには関係者以外、誰も立ち寄れないってことさ」
「………………」
リリスは暫し考える。腕を組みながら考える。途中、『今日の晩御飯、何にしようかしら?』とか、『最近、エステ行ってないわ~』とか、くだらない思考に寄り道しつつ、やっとこさ理解へ至る。
「――えっ⁉ ってことは、ここには関係者以外、誰も立ち寄れないってこと⁉」
「うん。今、そう言った」
「どどどどうしよう⁉ このままじゃ、お姫様を誘き出せないじゃない⁉」
ヴィジュアル・コメディさながらの慌てっぷりを見せるリリスに、「せめてお姫様の身を心配しようよ」と一応冷静にツッコむサブロウ。
「ちょっと、サブロウくん! 何で教えてくれなかったのよ!」
「教えようとしたさ。でも前に僕が得意気に話そうとしたら、『早口のオタクみたいでキモイ』って一蹴したでしょ? あれ、結構傷ついたからね?」
「だって、それは……本当にキモかったんだもん!」
「最低だな、こいつ……」
さすがのサブロウでも、これ以上気遣いはできなかった。寧ろ次はどんな拷問魔法を執行しようかと魔天籠に接続さえしていた……が、そんな折――
ドン! ドン! ドン! と、扉を叩く音が耳に届く。
「あれ……? 今、扉の叩く音が……もしかしてお姫様っ⁉」
「まさか。お姫様が辿り着けるような場所じゃ……」
「はいはい! 少々、お待ちを~!」
家主でもないうえに誰かも分からず勝手に出て行くリリスは、やはり素で能天気なおバカさんだと言えよう。
「いやぁー、すみませんね! お姫様だっていうのに、こんなしょうもないとこまで出張ってもらっちゃっ……て……?」
「お姫様? 何故、そのことを知っておる? ははーん……さては貴様じゃな? この辺りに妙な結界を張っているのは?」
ご登場なさるはマジカルゲートボール大会で万年四位。カワウソに似てると評判のベルベット老師だった。
「えーっとー……誰、おじいちゃん? あ、お薬貰うところは此処じゃないわよ?」
「ジジイが全員、診察終わりだと思ったら大間違いじゃボケェッ! 昨日、行ってきたばっかりじゃ!」
行ってんじゃん。
「おやおや、こんな大所帯で。一体、何用ですかな?」
サブロウはリリスの肩を抱き、庇うように自分の後ろへと誘導する。
「ワシらは某国のお姫様を絶賛追跡中だったんじゃが、この森を覆う忌々しい結界によって頓挫してしもうた。っつー訳で、ムカついた腹癒せに、その諸悪の根源をデストロイしに来たっちゅうわけじゃよ」
「なるほど。それで逆探知してきたって訳ですか。流石、マジカルゲートボール大会で万年四位だけはありますね」
「そうそう、万年四位――って、何で知っとるんじゃっ⁉ ワシ、まだ一言も言ってないのに⁉」
私とサブロウの前では全ての敵が無力であった。
「結界のことは謝ります。ですから、このままご帰宅願えませんかね? 僕の大事な畑を荒らされたくないもので」
そのサブロウの一言は悲しくも、ベルベットの愚かな思考を刺激してしまう。
「フッ、馬鹿め! 自ら弱点を曝け出すとは浅はかなり! 者ども出会え! この愚かな小童の大事なものを踏み躙ってしまえッ‼」
「「「アイアイサー!」」」
いや、受け答え、もうちょい考えろよ。悪代官張りの号令出したベルベットが可哀想だろ。
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