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序章
第12話 お姫様が悪漢から逃げてるらしいけど、そもそもそんな都合よく出会わない②
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「あっぶねえええッ⁉ 死ぬとこだったわッ‼」
開幕ブチかますのは、床に四つん這いになりながら、8ℓくらい汗を出している、クソ堕天使筆頭株主ことリリス。どうやら、サブロウの拷問から抜け出せたようだ。
「あれ? 女の子同士の話がいいって言ってなかったっけ? わざわざ、おじさんチームに戻ってこなくてもよかったのに」
サブロウは保管庫から顔をひょいっと出し、こちらを見つめながらクレームを入れてくる。ほっとけ。
「ちょっと、サブロウくん……なんの話してるの……? っていうか、おじさんチームって何? それじゃあ、私もおじさんみたいに聞こえるじゃない!」
「フッ……人類は皆、おじさんに集約するのさ。しかし、よく抜け出せたね? 相変わらず君の【場面転換】の能力は素晴らしい。一体、どういう原理なんだか。それに何故、柔術なのかも気になるところだね」
サブロウは保管庫での作業を終えてキッチンに戻ると、樽に取り付けた回転式コックを開き、水で手を濯ぐ。
「さあね……。私が覚えた時には既に柔術だったわ。その前は槍術って聞いたけど」
キッチンにも花が生けてあり、蕾は閉じたまま。しかし、手をかざせば蕾が開き、液体のようなものを吐き出しては、また閉じる。それを揉み込めば、あら不思議……ハンドソープの出来上がりだ。
「聞かなきゃよかった。更に謎が深まってしまったよ」
再び手を濯いで泡を落とすサブロウは、蕾を閉じている別の花に手をかざす。
開けばそこから風が吹き、水滴を残らず飛ばす。まるでエアータオルのようだ。
「それで? 君は一体、何しに来たのかな? わざわざ喧嘩を売りに来たわけじゃあるまい」
「おっと、そうだった。それじゃ、高らかに宣言させていただきましょうかね!」
女豹のポーズ気味だったリリスは、おじさんの如く緩やかに立ち上がり、両手を腰に当ててプルンと胸を張る。
「サブロウくん! お姫様が悪漢から逃げてるらしいわよ!」
「へー」
「反応うっす⁉ お姫様が逃げてるのよ⁉ 助けたら主人公街道驀進案件じゃない! わかってるの⁉」
興味のないサブロウに、身振り手振りで説くリリス。新手のジェスチャーゲームか何かか。
「お姫様が悪漢から逃げてるねぇ……。でも残念ながら、そんな都合よく出くわさないでしょ? 人生はそこまで劇的ではないのさ」
お前が言うかね、それを。
「チッチッチッ。甘いわね、サブロウくん! その為に私が居るんじゃない!」
人差し指を左右に振るリリスに対し、サブロウはあからさまに顔を顰める。
こういう時は大抵、よからぬ展開に発展することをサブロウは知っていたからだ。
「どういう意味か聞いても?」
「ええ。でも、その前にサブロウくんに問うわ。物語に必要なものって何?」
「唐突に来たね……。まあ、この流れから察するに積極性とかかな?」
「そう! 積極性よ! でも、サブロウくんにはそれがない。だから、私が能天気なバカになってあげるってわけよ!」
サブロウは気遣いのできる男だった。『能天気なバカはいつものことだろ』と思ったが口には出さなかったのだ。ヒロインは拷問するけど。
「ほ~ん……能天気なバカになると、どうなるわけ?」
「ほら、よくいるじゃない? パニック映画物で『何でそういう行動取るのよ!』っていうキャラがさ? ああいう能天気なバカのおかげで、物語は否応なしに進むの。わかる?」
リリスは気遣いのできない女だった。パニクってたら、いつもと違う行動をとってしまうことを理解できない、哀れな思考回路をしていた。やはり、チリ紙交換行きだな。
「つまり、何かい? 君はお姫様をこちら側に……」
「そう! 誘き寄せたわ! もうじき、この家に来ることでしょう。さあ! これで主人公の階段を一気に駆け上がるのよ、サブロウくん!」
してやったりと両手を広げ、ドヤ顔を披露するリリス。
しかし、リリスは侮っていた。
海よりも深い、サブロウの用心深さを。
開幕ブチかますのは、床に四つん這いになりながら、8ℓくらい汗を出している、クソ堕天使筆頭株主ことリリス。どうやら、サブロウの拷問から抜け出せたようだ。
「あれ? 女の子同士の話がいいって言ってなかったっけ? わざわざ、おじさんチームに戻ってこなくてもよかったのに」
サブロウは保管庫から顔をひょいっと出し、こちらを見つめながらクレームを入れてくる。ほっとけ。
「ちょっと、サブロウくん……なんの話してるの……? っていうか、おじさんチームって何? それじゃあ、私もおじさんみたいに聞こえるじゃない!」
「フッ……人類は皆、おじさんに集約するのさ。しかし、よく抜け出せたね? 相変わらず君の【場面転換】の能力は素晴らしい。一体、どういう原理なんだか。それに何故、柔術なのかも気になるところだね」
サブロウは保管庫での作業を終えてキッチンに戻ると、樽に取り付けた回転式コックを開き、水で手を濯ぐ。
「さあね……。私が覚えた時には既に柔術だったわ。その前は槍術って聞いたけど」
キッチンにも花が生けてあり、蕾は閉じたまま。しかし、手をかざせば蕾が開き、液体のようなものを吐き出しては、また閉じる。それを揉み込めば、あら不思議……ハンドソープの出来上がりだ。
「聞かなきゃよかった。更に謎が深まってしまったよ」
再び手を濯いで泡を落とすサブロウは、蕾を閉じている別の花に手をかざす。
開けばそこから風が吹き、水滴を残らず飛ばす。まるでエアータオルのようだ。
「それで? 君は一体、何しに来たのかな? わざわざ喧嘩を売りに来たわけじゃあるまい」
「おっと、そうだった。それじゃ、高らかに宣言させていただきましょうかね!」
女豹のポーズ気味だったリリスは、おじさんの如く緩やかに立ち上がり、両手を腰に当ててプルンと胸を張る。
「サブロウくん! お姫様が悪漢から逃げてるらしいわよ!」
「へー」
「反応うっす⁉ お姫様が逃げてるのよ⁉ 助けたら主人公街道驀進案件じゃない! わかってるの⁉」
興味のないサブロウに、身振り手振りで説くリリス。新手のジェスチャーゲームか何かか。
「お姫様が悪漢から逃げてるねぇ……。でも残念ながら、そんな都合よく出くわさないでしょ? 人生はそこまで劇的ではないのさ」
お前が言うかね、それを。
「チッチッチッ。甘いわね、サブロウくん! その為に私が居るんじゃない!」
人差し指を左右に振るリリスに対し、サブロウはあからさまに顔を顰める。
こういう時は大抵、よからぬ展開に発展することをサブロウは知っていたからだ。
「どういう意味か聞いても?」
「ええ。でも、その前にサブロウくんに問うわ。物語に必要なものって何?」
「唐突に来たね……。まあ、この流れから察するに積極性とかかな?」
「そう! 積極性よ! でも、サブロウくんにはそれがない。だから、私が能天気なバカになってあげるってわけよ!」
サブロウは気遣いのできる男だった。『能天気なバカはいつものことだろ』と思ったが口には出さなかったのだ。ヒロインは拷問するけど。
「ほ~ん……能天気なバカになると、どうなるわけ?」
「ほら、よくいるじゃない? パニック映画物で『何でそういう行動取るのよ!』っていうキャラがさ? ああいう能天気なバカのおかげで、物語は否応なしに進むの。わかる?」
リリスは気遣いのできない女だった。パニクってたら、いつもと違う行動をとってしまうことを理解できない、哀れな思考回路をしていた。やはり、チリ紙交換行きだな。
「つまり、何かい? 君はお姫様をこちら側に……」
「そう! 誘き寄せたわ! もうじき、この家に来ることでしょう。さあ! これで主人公の階段を一気に駆け上がるのよ、サブロウくん!」
してやったりと両手を広げ、ドヤ顔を披露するリリス。
しかし、リリスは侮っていた。
海よりも深い、サブロウの用心深さを。
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