WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

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序章

第9話 おじさんよりも女の子同士の話がいい③

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「可愛いいいいいいっ‼」
「レッドちゃん最高ぅ‼」
「仕事休んできた甲斐があったぜぇい‼」
「これで今週も生きていけるぅぅう‼」

 涙を流しながらベスト8を喜ぶかの如く抱き合う男たち。
 もちろん女の子の恥ずかしい姿が見たいから、この場所に来ていることは内緒だった。

「うぅぅ……恥ずかしぃぃ……」

 対するレッドは頭から湯気が出ており、そんな縮こまる肩をポンと叩くエミリアも若干頬を赤らめていた。

「お疲れ様、レッド! それと……メチャクチャ可愛かったわっ! 勘違いしちゃうくらいにね!」
「嬉しくないよぉ~……。でも、これで魔法が使えるようになるんだよね……?」
「ええ! 接続が完了すると、どこからともなく音が聞こえて――」

 ドゥルン~ドゥルィ~ン……テン……テン……テン……

「そうそう、こんな感じのやつ!」
「なんか古き良きパソコンの起動音みたいだね……」
「そんでもって音声案内されるはずだわ!」

 エミリアとレッドが二人して虚空を見つめるていると――――と低音の一言だけが添えられる。

「……これで登録できたってことなのかな?」
「あれ、おかしいわね。登録済みってことは元から登録されてたってことだわ。……どういうこと?」
 
 小首を傾げるエミリアに、

「恐らく聖剣のせいでしょう」

 と、受付のお姉さんがレッドの腰挿すつるぎを指差す。

「え? これって聖剣だったんですか?」
「はい。それは『代行者のつるぎ』と言って、『魔天籠の管理者が不在の今現在、最高権限を持つ代行者と同等の力を有することができる』とされる聖剣です。代行者というのは――」

 代行者とは――

 その名の通り、魔天籠の管理を代行する者たちを指す言葉である。

 議席数は七つに分けられ、一人の者が悪用しないよう、権限を分散させている……と言うのは昔の話で、今は普通に悪用されてたりするガバッぷりである。

 中でも『代行者のつるぎ』とは、議席を一つ確保している通称『N』によって創造された聖剣であり、光ったり鳴ったりするのが特徴だ。

 特に細部までこだわった造形はDX版とは比較にならず、新録された『N』のボイスも相まったCSM版は、もはや解説など不要のクオリティと言えるだろう。変身――

「……という訳なんです」
「なるほど……。え? っていうか、お姉さん知ってたんですか? だったら、やる必要なかったんじゃ……」
「はい。でも私は、可愛い女の子が顔を赤らめるようなポーズを取りながら、恥ずかしいセリフを言う姿に興奮する質でして」
「なんだか悪意のある言い方に聞こえるのですが……」

 蕩ける頬を支える受付のお姉さんとは対照的に、呆れ切って落ちていく肩をそのまま受け入れるレッド。

「申し訳ありません。何ぶん、これでうちの滑遁会は、ご飯が食べられているので。このコーナー、結構男性のお客さんたちに人気なんですよ?」

 「ははは……」と苦笑いを浮かべるレッドは、このままではいかんと頭を小刻みに振り、気持ちを切り替えるようにエミリアへ問う。

「それでエミリアちゃん。これで一応、魔法は使えるんだよね? 早速だけど何か教えてもらえないかな?」
「ギクッギクッ⁉ ドッキング⁉」

 エミリアはぺったんこの胸を必死に押さえる。
 汗はタランタラン、目はキョロキョロ……。まるで噓がバレそうになった時の子供のようだ。

「あれ、何だろう……この分かり易いリアクションは……」
「あ! ちなみにエミリアさんは、ランク1の任務ですら達成できない程のポンコツさんなので、魔法のご教授なら他の方をお勧めします」

 エミリアは受付のお姉さんの無慈悲な一言に、慌てたように大振りのジェスチャーで弁解する。

「ち、違うもん! 今は準備期間なだけで……エミィには伸びしろがあるもん! だから、その……友達やめるなんて言わないで……?」

 最初の勢いは何処へやら。
 エミリアは徐々に大人しくなり、上目遣いでレッドを見つめる。

 そんな愛くるしい姿にレッドの母性は爆発――気づけばその身体を抱きしめていた。
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