上 下
8 / 117
序章

第7話 おじさんよりも女の子同士の話がいい①

しおりを挟む
 セイターンの街、中央街――

 先日、魔王軍が攻め込んできたこの場所は、早くも勇者レッドの銅像が立てられるほどのフットワークの軽い街である。

 そんなこともあってか、街は連日お祭り騒ぎ。
 勇者フィーバーも相まって、そこらかしこで男女が盛りあっていた。

 歩けども歩けども淫靡な光景を前に、両手で顔を隠すは勇者レッドの姿。
 なんちゃって魔王軍を撃退した少女は耳まで真っ赤にしながら、任務斡旋場である『滑遁会なめとんかい』の扉に頭をぶつけつつ、そそくさと中へ入っていく。

「う~、緊張したぁ~。あんなの初めて見たよぉ~……。街のみんな、アグレッシブだなぁ……」

 レッドはこの手の話に疎いのか、火照った顔を手でパタパタ仰ぎつつ、男客が酒を飲み交わす光景を横目に、奥にあるバーカウンターを目指す。

「お? これはこれは、今を時めく勇者のレッドちゃんじゃないか。任務受付なら右奥のカウンターだよ?」

 カウンターの下からひょっこり顔を出したのは、この酒場エリアを任されている小太りのマスター。
 人の好さそうな雰囲気が内から溢れ出す柔和なおじさんは、蓄えた口髭に触れながら右奥の方へと指を差している。

「あ、マスターさん。こんにちはです。今日は任務を受けに来たわけじゃ……」
「あぁ、そうだったそうだった。魔王軍を退けたっつって、街から報奨金が出てるんだっけ? そりゃあ、暫く任務受ける必要もねえわな!」

 気風よく笑うマスターに、レッドも「……恐縮です」とにへら顔で返す。

「じゃあ、今日は何かい? 酒でも飲みにきたのかい? つってもレッドちゃんは、まだ十七歳だろ? さすがに勇者の肩書があっても、酒の提供はできないぜ?」
「いやいや、違いますって~。ほら、私この世界に来て日が浅いじゃないですか? お恥ずかしながら魔法についてはからっきしで……。だから、余裕があるうちに魔法を学びたいんです。誰か詳しい人を知りませんか?」
「ほう……レッドちゃんは真面目だね~。しかし、詳しい奴か。となると……」

 マスターが顎髭に触れながら、脳内の連絡先をスクロールしていると……

「ふん! まさか魔王軍を退けた勇者が、エミィと同い年の女の子だったなんてね!」

 腕を組むその姿は、まさしく威張り暴娘。赤髪ツインテールの目が吊り上がった少女がリングインだ。

「えっと、あなたは……?」
「私の名はエミリア! この街で魔法を知りたいのなら、エミィに聞くといいわ! 別に友達が欲しいから、こんなこと言ってるんじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」

 へそ出しルックのショートパンツガールは、猫の手足を模ったグローブを身に着けつつ、ちょこんと出た指でビシッとレッドを差す。

「相変わらず目敏いなエミリア。でも、友達が欲しいなら欲しいって素直に言った方がいいぞ?」
「うるさいわね! 違うって言ってるでしょ! エミィは目がいいから、ちょっと目についちゃっただけ! でも、どうしてもって言うなら……もう少し抑えめでいってあげなくもないんだからね……」

 マスターからの指摘に徐々にペースダウンするエミリア。
 見ての通りこの少女、まるでツンデレを使いこなせていないのである。

「じゃあ、友達になろうよ! 私も同年代の女の子が居れば心強いしさ!」

 そんな落ち込むエミリアを見かね、レッドは覗き込むように微笑みかける。
 この子はいい子だ。もう、こっちが主人公でいいんじゃないかな。

「え、いいの……? ふ……ふん! まあ、そこまで言うなら友達になってあげなくもないんだから! 勘違いしないでよね! でも、どうしてもって言うなら、今夜うちに来るといいわ! お泊り会をセッティングしてあげるから!」
「悪いね、レッドちゃん。見ての通りエミリアは距離の詰め方がへたっぴだ。できる限りでいいから仲良くしてやってくれ」

 下手に出るマスターからの提案にもレッドは嫌な顔一つせず、「はい! おかげでお友達ができました!」と天使の笑顔。

 そう。こういうのでいいんだよ、こういうので……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...