WATARI~サブロウくんのストップライフ~

最十 レイ

文字の大きさ
上 下
7 / 117
序章

第6話 モーニングルーティーン中にブチ切れ案件起こす堕天使②

しおりを挟む
「え⁉ ちょ――ええぇぇえっ⁉ 何コレええぇぇえっ⁉」

 リリスは突如、錆びついた無機質の椅子に三首を拘束される。
 背もたれの頂からは大鎌を両手に携える死神が姿を現し、瘴気を漂わせると共に受刑者を見下ろしていた。
 
「これはね……レベル6の権限がないと使えない魔法で、名を【永獄拷子えいごくごうす】と言う」

 徐に立ち上がったサブロウは、ゆるりとリリスの横へ歩き出し、通り過ぎざまに拷問椅子に触れると、視界から外れるように後方のソファーへと腰かけた。

「え、えいごくコース……⁉」
「【永獄拷子えいごくごうす】だ。対象者が感じる痛みを四百四十四倍まで引き上げ、死をもたらすことなく永遠の苦痛だけを与える拷問魔術の一種さ」

 淡々と語るサブロウの表情が見えないのも相まって、リリスの恐怖心が滝のような汗となって頬を伝う。

「あの……サブロウきゅん? もしかして怒ってる? ハハ……冗談冗談……。お姉さん少し、からかっちゃっただけだから。だからね? サブロウきゅんもね? そろそろ、機嫌治してくれたら嬉しいなぁ……なんつって」
「別に怒ってないよ? それに、ちゃんと説明したじゃないか――死なないって。せいぜい、精神崩壊を起こしながら糞尿を撒き散らす程度だから安心してくれ」

 サブロウは優し気な口調のまま腰を上げ、先程とは逆の方向から拷問椅子の横を通る。
 玄関の右手にはテーブルが備えられており、その上にある三つの蕾に触れると、一番右の金に輝く蕾が花開いたことにサブロウは気付いた。

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってサブロウきゅん⁉ ヒロインとっ捕まえて拷問とか趣味が悪いわよ⁉ わかった! 謝るから! 怒ったんなら謝るからっ! 許して、許して、許してにゃん! これで、いいでしょ⁉」
「怖がらなくていい。よくあるだろ? ヒロインを犠牲にして世界を救うって話がさ?」

 焦るリリスなど何処吹く風。
 サブロウは上を指差しながら、光の差し込む天窓の存在をアピールする。

「いや、逆じゃない⁉ 普通、世界犠牲にしてヒロイン救うでしょ⁉ それに今やってるの拷問だからっ‼ ヒロイン拷問して救われる世界の話なんか誰が見んのよ⁉」
「僕は君を犠牲にして世界を救う。それで初めて主人公になれる気がするんだ!」

 サブロウはビシッ! とリリスを指差す――ことなく、玄関から対面の壁に設置してある本棚へと指差した。

「いつになく前向き⁉ でも、言ってること最低だからっ‼ それに、なれるとしてもサイコパス系の作品にしか需要ないでしょ、それ⁉」

 拘束具をガチャガチャ言わせつつ、逃げ出そうとする受刑者を余所に、サブロウは腰を屈めて蔓かごを拾うと、リリスから見て正面のキッチンを眺める。

「じゃあ、僕はさっき収穫してきた野菜を保管庫に置いてくるよ。あ、ちなみに保管庫は玄関の扉から入ってきて右斜め向かいの部屋だ。右奥まで進めばバスルームで、その手前の階段を上がれば寝室サ!」
「だから、誰に説明してんの⁉ やっぱり怒ってるじゃん⁉ さっきから地味に部屋の描写差し込んでるし、やっぱり怒ってるじゃん⁉」
「大丈夫、大丈夫。もう粗方、済んだからさ。じゃ、ごゆっくり……」

 サブロウは余裕でリリスを見捨て、宣言通り保管庫の中へと姿を消していった。

「え⁉ ウソでしょ⁉ マジで見捨てるの⁉ ヒロイン見捨てるとか、あり得ないんですけどっ‼」

 慌てふためくリリスの動揺をトリガーとしたのか、死を齎すことのないらしい死神は瘴気を存分に纏うと、腕を子犬並みに震わせながら大鎌をメッチャ振りかぶる。

「いやいや、絶対殺す気満々じゃん‼ 大丈夫なの、コレ⁉ 話し、ちゃんと通ってる⁉」
『ア……ダイジョブッス……ジブン……ハジメテッスケド……ガンバルッス……』
「いや、喋るんかい! しかも、声小っさ! そんでもって初めてやし! 随分と謙虚な死神やのう! って、言うてる場合か⁉ あーもう! こうなったら形振り構ってられないわ! 天使の呪われし力、見せてあげる‼ 堕天使流柔術秘奥義――」

 リリスは覚悟を決めた。
 このままでは自分が祭り上げようとした男に殺されるという、アホな展開になりかねない。で、あればヒロインが持つ恥や外聞など投げ捨てるしかないと。

 リリスは溢れ出す天使の力をその身に宿し、輝かしい光を一気に解き放つ――

「【場面転換】ッ!」

 ……見事なアヘ顔と共に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...