3 / 117
序章
第2話 魔王軍が攻めてきてるらしいけどお茶を飲む②
しおりを挟む
自然が生い茂る町の一角。
この場所を本隊の一時的な拠点にしようと、ピクニック気分でレジャーシートを広げる魔王軍。
その中心には幹部であるバーバリアン将軍が、御大層な椅子に腰かけつつ、大好きなツナマヨおにぎりに舌鼓を打っていた。
『将軍! バーバリアン将軍! 緊急事態です!』
そんな小春日和の中、鳥人型の魔物は慌てた様子で翼をはためかせながら、獣人型の魔物である将軍の下へ小走りで駆け寄る。
『どうした? 最近、この部隊に配属されたばかりのバードマン参謀』
『あ、わざわざキャラ説明ありがとうございます! ってそれより、奴がっ……サブロウがこの街に居るのを見かけました!』
『何っ⁉ あのサブロウが⁈』
ウキウキ気分でお弁当箱を広げる部下たちは、上司たちの口から出た知らぬ名に、
『誰なんすか、その……サブロウって?』
と、タコさんウィンナーを頬張りながら尋ねる。
『あぁ、お前たちは知らんのか。まあ、奴のことなんて一部の連中くらいしか知る由もない。奴は……サブロウは……俺ですら一目置くほどにヤバい奴なんだよ』
『え……それって、どんくらいヤバいんすか?』
『まあ、そうだなぁ……。例えるなら百巻以上続いた漫画が、しょうもない終わり方した時くらいヤバいな』
『マジっすか⁈ めっちゃヤバいじゃないっすか⁈ そんな奴がこの街に居るんじゃ、俺ら勝てないっすよ⁈』
よく分からない例えに慌てふためく部下たちは、キャンプ用のテントを組み立てていた手を思わず止めてしまう。
『いや、つってもアレだよ? お前らが勝てないんであって、俺だったらギリいけるかなぁって感じのアレだかんな? あんまり一緒にすんなよ?』
『なーんだ、じゃあ安心っすね! あまりにも怖い例えするから、ビビっちまいましたよ』
落ち着きを取り戻した部下たちは一様に笑いだし、和気あいあいとテント組み立て作業に戻る。
『だとしても、ここに留まるのは危険だ。前線に居る奴らに撤退するよう伝えろ。お前らもキャンプはなしだ』
将軍はおにぎりを口に放り込むと、御大層な椅子から重い腰を上げる。
『えー⁉ せっかく今回の為に買ったんすよー⁉ 勿体無いじゃないっすかー⁉』
『それはー、アレだ。今度、社員旅行あるだろ? その時に使うってことで、手打ちにすりゃあいいじゃねえか。だから、それまでは、ちゃんと保管しておけ。な?』
部下たちは『ハーイ……』と不服そうに返事し、広げていたお弁当箱を片付けては荷造りを始める。
それを確認した将軍は頷きながら振り返り、一人……歩き出していく。
『将軍。私も同行します』
将軍の背にそう語りかけたのは、翼を胸に当てて頭を下げるバードマン参謀だった。
『気持ちだけ貰っておこう、バードマン参謀。俺と奴とじゃ、戦力の差は五分と五分。恐らくレバニラとニラレバくらいの戦いなるだろう』
将軍は立ち止まると、その大きく、毛深く、時に切ない、心強さを持った背でそう告げる。
『なるほど……いや、すみません。やっぱ、よく分かんないです……』
バードマンは頭を上げて一瞬納得しかけるが、根底にある真面目さが断じて許し難しだった。
『フッ……つまり、こう言いたいのさ』
将軍は目一杯白い歯を見せ、
『休みの日に会社の人に会うと、めっちゃテンション下がる……ってな?』
振り返ると、煌めくサムズアップで答えた。
『あ……はい……』
だが、当然バードマンには届くはずもなく、将軍は何を勘違いしたのか、やり切ったような笑みでキメると、腕を天高く掲げて歩き出していった。
『『『ウオオオオオオッッッ‼』』』
『かっけえ! 流石はバーバリアン将軍だぜ!』
『今夜、抱かれてもいい!』
『ケツの穴の準備はできています!』
何故か盛り上がる部下たちと、震える足取りで死地に向かう将軍。
そんな光景を見ながらバードマンは、『入る部署、間違えたかなぁ……』と心の中で呟くのであった。
この場所を本隊の一時的な拠点にしようと、ピクニック気分でレジャーシートを広げる魔王軍。
その中心には幹部であるバーバリアン将軍が、御大層な椅子に腰かけつつ、大好きなツナマヨおにぎりに舌鼓を打っていた。
『将軍! バーバリアン将軍! 緊急事態です!』
そんな小春日和の中、鳥人型の魔物は慌てた様子で翼をはためかせながら、獣人型の魔物である将軍の下へ小走りで駆け寄る。
『どうした? 最近、この部隊に配属されたばかりのバードマン参謀』
『あ、わざわざキャラ説明ありがとうございます! ってそれより、奴がっ……サブロウがこの街に居るのを見かけました!』
『何っ⁉ あのサブロウが⁈』
ウキウキ気分でお弁当箱を広げる部下たちは、上司たちの口から出た知らぬ名に、
『誰なんすか、その……サブロウって?』
と、タコさんウィンナーを頬張りながら尋ねる。
『あぁ、お前たちは知らんのか。まあ、奴のことなんて一部の連中くらいしか知る由もない。奴は……サブロウは……俺ですら一目置くほどにヤバい奴なんだよ』
『え……それって、どんくらいヤバいんすか?』
『まあ、そうだなぁ……。例えるなら百巻以上続いた漫画が、しょうもない終わり方した時くらいヤバいな』
『マジっすか⁈ めっちゃヤバいじゃないっすか⁈ そんな奴がこの街に居るんじゃ、俺ら勝てないっすよ⁈』
よく分からない例えに慌てふためく部下たちは、キャンプ用のテントを組み立てていた手を思わず止めてしまう。
『いや、つってもアレだよ? お前らが勝てないんであって、俺だったらギリいけるかなぁって感じのアレだかんな? あんまり一緒にすんなよ?』
『なーんだ、じゃあ安心っすね! あまりにも怖い例えするから、ビビっちまいましたよ』
落ち着きを取り戻した部下たちは一様に笑いだし、和気あいあいとテント組み立て作業に戻る。
『だとしても、ここに留まるのは危険だ。前線に居る奴らに撤退するよう伝えろ。お前らもキャンプはなしだ』
将軍はおにぎりを口に放り込むと、御大層な椅子から重い腰を上げる。
『えー⁉ せっかく今回の為に買ったんすよー⁉ 勿体無いじゃないっすかー⁉』
『それはー、アレだ。今度、社員旅行あるだろ? その時に使うってことで、手打ちにすりゃあいいじゃねえか。だから、それまでは、ちゃんと保管しておけ。な?』
部下たちは『ハーイ……』と不服そうに返事し、広げていたお弁当箱を片付けては荷造りを始める。
それを確認した将軍は頷きながら振り返り、一人……歩き出していく。
『将軍。私も同行します』
将軍の背にそう語りかけたのは、翼を胸に当てて頭を下げるバードマン参謀だった。
『気持ちだけ貰っておこう、バードマン参謀。俺と奴とじゃ、戦力の差は五分と五分。恐らくレバニラとニラレバくらいの戦いなるだろう』
将軍は立ち止まると、その大きく、毛深く、時に切ない、心強さを持った背でそう告げる。
『なるほど……いや、すみません。やっぱ、よく分かんないです……』
バードマンは頭を上げて一瞬納得しかけるが、根底にある真面目さが断じて許し難しだった。
『フッ……つまり、こう言いたいのさ』
将軍は目一杯白い歯を見せ、
『休みの日に会社の人に会うと、めっちゃテンション下がる……ってな?』
振り返ると、煌めくサムズアップで答えた。
『あ……はい……』
だが、当然バードマンには届くはずもなく、将軍は何を勘違いしたのか、やり切ったような笑みでキメると、腕を天高く掲げて歩き出していった。
『『『ウオオオオオオッッッ‼』』』
『かっけえ! 流石はバーバリアン将軍だぜ!』
『今夜、抱かれてもいい!』
『ケツの穴の準備はできています!』
何故か盛り上がる部下たちと、震える足取りで死地に向かう将軍。
そんな光景を見ながらバードマンは、『入る部署、間違えたかなぁ……』と心の中で呟くのであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?
ラララキヲ
ファンタジー
姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。
両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。
妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。
その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。
姉はそのお城には入れない。
本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。
しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。
妹は騒いだ。
「お姉さまズルい!!」
そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。
しかし…………
末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。
それは『悪魔召喚』
悪魔に願い、
妹は『姉の全てを手に入れる』……──
※作中は[姉視点]です。
※一話が短くブツブツ進みます
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げました。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です
sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。
そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。
冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる