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序章
プロローグ サブローキュウで売られた少年
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少年の名はサブロウ。
彼は七歳にして、実の父親に売られた。
売られたと言っても決して親子仲が悪かったわけではない。
のっぴきならない事情で一時的に出品されただけ……とサブロウは言っていた。
出品されたのは、あらゆる世界と売買ができる魔天籠ショッピング。まあ、ネットショッピングの次元飛び越えバージョンとでも思ってくれればいい。
そんな魔天籠と呼ばれる異空間で父親の仕事、その後始末が終わるまで匿ってもらおうというのが今回の作戦。
サブロウ少年も普段から危険と隣り合わせの生活をしてる為、特に疑問に思うことなく、大人しく待っていたと言う。
今回もすぐに終わるだろう……。
そう思っていたサブロウ少年に、ただ一つ誤算があったとすれば――
「いやぁー、369円で子供が買えるなんて……世も末だわ」
普通に買われてしまったことだ。
◆
小汚い1LDKに正座するサブロウは、己が現状を確かめんと視線を巡らす。
室内はゴミ屋敷一歩手前の如く物が散乱しており、窓から見える景色は一面暗黒の世界で、どうも逃げること叶わぬといった様子。
「さて、先ずは坊やの名前から聞こうかしら?」
そう問うてきたのは白い翼を背に持つ天使兼、この部屋の主ことリリス。
サブロウ少年を買った張本人で、いずれ堕天する黙ってれば美人の性格う〇こマンである。
「あ、えっと……サブロウです」
純白の袖の無いワンピースドレスのミニスカと、これまた白いロングヘアーを揺らしながら、品性の欠片もなく胡坐をかくその姿に、サブロウも外見と中身の乖離を感じ始めていた。
「サブロウくん……ね。実の父親に売られるなんて災難だったわね~。あ、でも大丈夫よ。私が買ったからには、すーぐに新しい人生送らせてあげるから!」
近くにあったスルメイカを咥えたリリスは、偉く旧式な箱型のパソコンをいじりだす。
「いや……僕、一時的に出品されただけなので、できれば返品してほしいんですけど……」
「一時的? 何よそれ?」
リリスはパソコンの手を止め、怪訝な眼差しを向ける。
「えっと……父は麻雀の代打ちをしてまして……。どうもそこであったいざこざから、僕を守る為に一時的に匿ったというかなんというか……」
リリスは「ふ~ん……」と考え込むように腕を組み、瞳を閉じると暫くして――
「うん。ドンマイ!」
サムズアップで舌をぺろりんちょ。
ダメな大人を前にし、サブロウ少年は目をパチクリさせてしまう。
「いや、ドンマイじゃなくて……返品は?」
「しないわよ」
ジト目で睨む、サブロウ少年。
「……なぜ?」
「返品ってのは商品に問題があった時にするものでしょ? サブロウくんは別に問題ないじゃない」
「七歳の子供が売られてるのは充分問題だと思いますが……」
リリスは再びパソコンに向き合い、手を動かす。
「そもそも匿うんなら、もっと高値で出品するはずでしょ? 『369円』で売るってことは、もう要らない子だって暗に言われてるのよ。ギャンブラーなら、なおさら子供は邪魔でしょうしね。ドンマーイ!」
サブロウ少年は返す言葉がなかった。
何故なら父親が自分の身を顧みないほどの、生粋のギャンブラーだと知っていたからだ。
(確かに……父さんはよく、麻雀中に電流が走るとか言ってたし、よっぽどスリルが好きなんだろう。僕がいない方が幸せ……なのかな?)
いいように騙されている哀れなサブロウ少年。
残念ながら過去の回想の為、『サブロウ! 後ろー!』と声掛けすることも叶わず、リリスのエンターキーによって運命は決してしまう。
「はーい! 申請完了! 晴れてサブロウくんは転生者になりましたー! パーチパチパチ!」
子供をあやすように拍手しながら、立ち上がるリリス。
当然、サブロウはなんのこっちゃと言葉を返す。
「え? 転生って生まれ変わるって意味ですよね? 僕、死んじゃったんですか?」
「もう死んだも同然でしょ? 一応、裏ルートだけど細かいことは気にしないでいいから。ほら、行った行った!」
何やら不穏な空気が漂う中、サブロウは襟元を掴まれ、無理やり玄関の前へ立たせられる。
「あの……行くってどこへ?」
「新生活応援セールよ」
「何か貰えたりとかは……?」
「サバイバルの基本は現地調達。まずはCQCの基本を思い出して」
「あ、もういいです……」
サブロウは諦めた。最早この女に何を言っても無駄と心得たようだ。
「さあ! 行くのよ、サブロウくん! そして主人公になりなさい! 私を伸し上げるために!」
ビシッと指を差すリリスを背に、サブロウは扉を開けた先のワームホールに向かって歩き出す。
「ちゃーんと、あとで迎えに行くから! しっかり頑張るのよー!」
手を振って送り出すリリス。
そう言って彼女が迎えに来たのは、それから――三十年も後のことだった。
彼は七歳にして、実の父親に売られた。
売られたと言っても決して親子仲が悪かったわけではない。
のっぴきならない事情で一時的に出品されただけ……とサブロウは言っていた。
出品されたのは、あらゆる世界と売買ができる魔天籠ショッピング。まあ、ネットショッピングの次元飛び越えバージョンとでも思ってくれればいい。
そんな魔天籠と呼ばれる異空間で父親の仕事、その後始末が終わるまで匿ってもらおうというのが今回の作戦。
サブロウ少年も普段から危険と隣り合わせの生活をしてる為、特に疑問に思うことなく、大人しく待っていたと言う。
今回もすぐに終わるだろう……。
そう思っていたサブロウ少年に、ただ一つ誤算があったとすれば――
「いやぁー、369円で子供が買えるなんて……世も末だわ」
普通に買われてしまったことだ。
◆
小汚い1LDKに正座するサブロウは、己が現状を確かめんと視線を巡らす。
室内はゴミ屋敷一歩手前の如く物が散乱しており、窓から見える景色は一面暗黒の世界で、どうも逃げること叶わぬといった様子。
「さて、先ずは坊やの名前から聞こうかしら?」
そう問うてきたのは白い翼を背に持つ天使兼、この部屋の主ことリリス。
サブロウ少年を買った張本人で、いずれ堕天する黙ってれば美人の性格う〇こマンである。
「あ、えっと……サブロウです」
純白の袖の無いワンピースドレスのミニスカと、これまた白いロングヘアーを揺らしながら、品性の欠片もなく胡坐をかくその姿に、サブロウも外見と中身の乖離を感じ始めていた。
「サブロウくん……ね。実の父親に売られるなんて災難だったわね~。あ、でも大丈夫よ。私が買ったからには、すーぐに新しい人生送らせてあげるから!」
近くにあったスルメイカを咥えたリリスは、偉く旧式な箱型のパソコンをいじりだす。
「いや……僕、一時的に出品されただけなので、できれば返品してほしいんですけど……」
「一時的? 何よそれ?」
リリスはパソコンの手を止め、怪訝な眼差しを向ける。
「えっと……父は麻雀の代打ちをしてまして……。どうもそこであったいざこざから、僕を守る為に一時的に匿ったというかなんというか……」
リリスは「ふ~ん……」と考え込むように腕を組み、瞳を閉じると暫くして――
「うん。ドンマイ!」
サムズアップで舌をぺろりんちょ。
ダメな大人を前にし、サブロウ少年は目をパチクリさせてしまう。
「いや、ドンマイじゃなくて……返品は?」
「しないわよ」
ジト目で睨む、サブロウ少年。
「……なぜ?」
「返品ってのは商品に問題があった時にするものでしょ? サブロウくんは別に問題ないじゃない」
「七歳の子供が売られてるのは充分問題だと思いますが……」
リリスは再びパソコンに向き合い、手を動かす。
「そもそも匿うんなら、もっと高値で出品するはずでしょ? 『369円』で売るってことは、もう要らない子だって暗に言われてるのよ。ギャンブラーなら、なおさら子供は邪魔でしょうしね。ドンマーイ!」
サブロウ少年は返す言葉がなかった。
何故なら父親が自分の身を顧みないほどの、生粋のギャンブラーだと知っていたからだ。
(確かに……父さんはよく、麻雀中に電流が走るとか言ってたし、よっぽどスリルが好きなんだろう。僕がいない方が幸せ……なのかな?)
いいように騙されている哀れなサブロウ少年。
残念ながら過去の回想の為、『サブロウ! 後ろー!』と声掛けすることも叶わず、リリスのエンターキーによって運命は決してしまう。
「はーい! 申請完了! 晴れてサブロウくんは転生者になりましたー! パーチパチパチ!」
子供をあやすように拍手しながら、立ち上がるリリス。
当然、サブロウはなんのこっちゃと言葉を返す。
「え? 転生って生まれ変わるって意味ですよね? 僕、死んじゃったんですか?」
「もう死んだも同然でしょ? 一応、裏ルートだけど細かいことは気にしないでいいから。ほら、行った行った!」
何やら不穏な空気が漂う中、サブロウは襟元を掴まれ、無理やり玄関の前へ立たせられる。
「あの……行くってどこへ?」
「新生活応援セールよ」
「何か貰えたりとかは……?」
「サバイバルの基本は現地調達。まずはCQCの基本を思い出して」
「あ、もういいです……」
サブロウは諦めた。最早この女に何を言っても無駄と心得たようだ。
「さあ! 行くのよ、サブロウくん! そして主人公になりなさい! 私を伸し上げるために!」
ビシッと指を差すリリスを背に、サブロウは扉を開けた先のワームホールに向かって歩き出す。
「ちゃーんと、あとで迎えに行くから! しっかり頑張るのよー!」
手を振って送り出すリリス。
そう言って彼女が迎えに来たのは、それから――三十年も後のことだった。
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