口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第三章 初夏の候

第123話 覚悟の女教師

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 現在――

 こういった経緯があり、私は命令に逆らって久我の下へと足を運ぶことに。
 当然、誰も連れてきていない。久我もすぐそのことに気付いたようで……

「あれれ~? 滝先生、一人のようだけど?」

 部下一同、若干のピリつきを見せる久我不動産。
 でも、ここだけは譲れない。この身がどうなろうとも……

「見てのとおりよ。アンタたちの言うことは聞けない……!」

 と、私は怒りと恐怖で震える拳を握り締めながら、久我を睨みつける。

「へえ~……案外、意志が強いんだね。だいたいこの『首輪』つけたら、みーんなすぐ言うこと聞くのに。腐っても教師ってわけだ」
「当たり前よ。私にはあの子たちを守る義務がある! 絶対、指一本触れさせやしない。つまり、アンタたちの望みは永遠に叶わないってわけ。残念だったわね」

 せめてもの抵抗と強気に笑んでみせる私。
 だが久我は、ただうなじを摩りつつ溜息をつくだけ。

「もう少し躾が必要みたいだな。……おい?」

 次いで久我は部下たちに顎で指示を出すと、頷いた四人が下卑た笑みで私へと近づいてくる。

「ちっ……近づかないで! 私も能力者なのよ⁉ それなりの準備は――」
「それができるんなら最初っからやってるでしょ? そもそも今は俺の支配下だ。生徒の為には逆らえても、自分の身じゃ……その意思も弱まる」

 悔しいが久我の言う通り……私の体にはもう既に抵抗する力が無い。受け入れてしまっている。この状況を……

 気が付けば部下四人に囲まれてしまい、その一人が最後の確認と久我へ声を張り上げる。

「おい、周防! 本当にいいのか? この姉ちゃんも中々の上玉だぜ? 売ったら相当、金になんだろ?」
「目先の金なんかどうだっていい。こりゃビッグビジネスなんだ。エリート校の女子高生売りゃ、ごっそり大金が入ってくる。成功させる為には滝先生の力が必要だ。だからこれ以上、逆らえないよう……しっかり体に教えてやれ」

 部下は「よし来た!」とガッツポーズを繰り出し、そのままその汚らしい手で私の服を――

 ゥゥゥウウウゥゥゥ……ゥゥゥウウウゥゥゥ……!

 脱がそうとした刹那、遠くの方から届くは微かなサイレン音。

「――ッ⁉ なんだ……?」

 そう呟いたのは恐らく久我。正直、私も状況が読めていない。部下たちもそれは同じようで、一様に手を止めていた。

 何層にも重なるその音は次第に大きくなり、四方八方の隙間からは赤い光が差し込む。
 そこから更に何人もの足音が周囲を囲むや否や、裏口からスーツ姿の男性が一気に雪崩れ込んでくる。

「おいおい、嘘だろ⁉」
「どういうことっスか! これ⁉」
「あり得ねえ! だってこいつはッ……!」
「くそっ……! だから僕は嫌だったんだ!」

 どうやら部下たちも察したようだ。
 社会の安全、そして秩序を守りし正義の番人――『警察』が来たことを。

「馬鹿なッ……! 俺の命令に逆らえるはずは……!」

 久我は歯を食い縛りつつ、私を睨めつけている。が、依然として私も状況が……

「失礼します……」

 と、低音ボイスで正面の扉を開けたのは、角刈りで威圧感のある男性。
 見た感じ二十代と若そうだが、ガタイが良く、ネイビーのスーツが盛り上がっていた。

「警視庁異能課の江崎歩えざきあゆむです……。久我不動産の方たちとお見受けしますが?」

 そう続ける江崎さんは警察手帳を提示しつつ、不動産の連中へと順々に視線を移していく。

「え、ええ……そうですが……。どういったご用件で?」

 久我はすぐさま営業スマイルへと移行し、部下たちも疑われぬよう、いつの間にか私から離れていた。

「恐喝罪で逮捕状が出ています。その他にも貸金業法違反や出資法違反などなど……。署までご同行願えますか?」

 淡々と逮捕状を見せる江崎さんに、さすがの久我も表情が崩れ始めていく。
 だが、すぐに持ち直し、口元を隠しながらも笑みだけは絶やさなかった。

「な、何のことですかね? 証拠でもあるんでしょうか?」
「もちろん。ご覧ください……」

 江崎さんは既に準備していたのか、矢庭に携帯の画面を私たちへと見せる。すると、そこには――

『滝先生さぁ。能力者が『犯罪』侵したら……色々とマズいよね?』
『あなた達、まさか……!』
『そう睨まないでよ。こっちは黙っといてあげるつもりなんだから。ま、もちろん払うもん払ってくれたらの話だけどね?』

 今朝方、削除したはずのドラレコの記録、映像が映し出されていたのだ。

「――ッ⁉ 復元……したのかッ……! 何故だ……どうやって察知した⁉」

 化けの皮が剥がれ、消え去る笑みと共に狼狽えだす久我。

「匿名で連絡がありましてね。それで発覚したというだけの話です」

 対して江崎さんは表情一つ変えず、逮捕状と一緒に携帯を懐に。

「ご理解していただけたようなら、署までご同行を――」

 続けて江崎さんが一歩踏み出そうとした瞬間――

「あーあ! もうこうなったら仕方ないかぁー……。滝先生、おいで」

 久我は一転、投げやりな態度で『首輪』を付けた私を手招きした。
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