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第三章 初夏の候

第120話 エロ養護教諭と女教師

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 異能力開発学園、二年B組――

 時刻は八時半。HRの時間となり、教室の扉を滝――

「おっはよ~! みんな~! 元気してる~?」

 ではなく、養護教諭の鈴木九音すずきちかねがバシンと開け放つ。

「あれ? チカちゃんじゃん」
「滝先生はー?」
「相変わらずエッロイなぁ……」

 六月らしく夏服になっていた生徒たちは、大して驚くこともなく、寧ろ鈴木の登場にテンションを上げていた。

「滝ちゃんはなんと~……遅刻で~す! なので私が代わりにHRエッチなルームしちゃいたいと思いま~す!」
「「「「「うぉおおおおおおッッ‼」」」」」

 そう言って教卓の上でセクシーに足を組む鈴木に、男どものテンションは最高潮。
 女子一同は呆れたように溜息をつくも、『まあ、あの養護教諭なら無理ないか』と、断腸の思いで彼女の存在を受け入れていく。

 そんな鈴木の目に余る姿をただ一人、親の敵でも討つかのごとく睨みつけている存在がいた。……っていうか、大和だった。

「ったく……何やってんだアイツは……!」

 誰に言うともなく、ボソッと呟く大和。
 そんな彼に問いかけたのかどうか、隣に座る藤宮が頬杖を突きながら口を開く。

「あの滝ちゃんが遅刻なんて珍しいわね~」
「ほう……そんなに珍しいのか?」
「うん。アタシはサボり気味だったから噂でしか知らないけど、滝ちゃんって学園に入ってから一度も遅刻したことないんだってさ。だよね? 牧瀬さん」

 と、藤宮は振り向き様、一限の準備を済ませた牧瀬へと同意を求める。

「はい。遅刻どころか授業、会議にさえ遅れたことはないと、もっぱらの評判です。そんな彼女が遅刻なんて……ちょっぴり心配しちゃいますね」

 言葉通り、心配げな面持ちを見せる牧瀬。
 大和は腕組みすると、「ふーん……」と思案するように眉根を寄せる。

 教室内はただ今、エロティック出席確認の真っ最中だ。



 職員室――

「遅刻して申し訳ありませんでした!」

 時刻は八時四十分過ぎ。職員室内に響き渡るのは私、滝優里の声。
 結局、朝のHRにも間に合わず、誠心誠意の謝罪と学年主任の五十山田いかいだ先生へ頭を下げる。

「まあまあ、そう深刻に捉えずに。誰にだって遅刻の一つや二つありますから。取りあえず事故とかじゃなくて本当に良かったですよ」
「事故……」

 老年たる五十山田先生は笑みを零しつつ、優しく気を遣ってくれている。
 でも、今の私にとっては寧ろ、その優しさは逆効果。酷く心を抉るものだった。

「どうかなさったんですか、滝先生?」

 と、俯く私に違和感を感じたのか、ずれた眼鏡を直す五十山田先生。

 その優しさに甘えられたらどれだけいいか……。そんな考えがよぎった瞬間、首に巻き付けられていたチョーカーが急激に絞まりだす。

「なっ……なんでもありません……。失礼します……」

 私はできるだけ悟られまいと今一度頭を下げ、早々に自席へと戻る。

 やっぱりダメだ……。助けを求めようとすると、このチョーカーに言葉を奪われてしまう。まるで『余計なことを言うな』と口を塞がれてるみたいに……

「やっほー、滝ちゃん。遅刻なんて珍しいね~?」

 そんな気持ちさえ塞ぎつつあった私に語りかけてくれたのは、隣席の鈴木先生。
 ニヤニヤしながら肘で小突いてくる彼女の明るさが、今は眩しい……

「鈴木先生……おはようございます」

 対して私の表情は、あまりにもぎこちない。

「はい、おはよ。あ、HRは私がやっといたから。それはもう……淫らにね!」
「ありがとうございます……。ご迷惑をおかけしました……」
「あっれれ~? 元気ないね? いつもだったら『不埒です! 生徒たちに悪影響でしょうが!』とか言うじゃない?」

 私が「そ、それは……」と口籠っていると、

「それとも――ただの遅刻じゃないのかしら?」

 鈴木先生はその真ん丸な目で隠れた異変を射抜いてきた。

 沈黙は時として雄弁である。
 視線をそらすことしかできない私に、鈴木先生は更なる『口撃』へと転じる。
 
「纏められているとはいえ、お手入れのなってない髪。雑なメイク。にもかかわらず、だけはしっかりつけてる。いつもはつけてないのにね」

 助けて……

「おしゃれのつもり? いいえ、滝ちゃんはそんなことしないわ。わざわざ遅刻なんてしてまでね。やるならまず、身だしなみの方をキッチリする。それがあなた。……違う?」

 助けて……! そう思うたび、私の首はまた絞まっていく。ダメだ……言葉が出ない……! 行動で示すことも、何も……

「私っ……授業がありますので……」

 結果、私は教材を持つなり、逃げるように職員室を後にする。
 鈴木先生からの視線を背に感じるも、彼女はそれ以上、追及してくることはなかった。
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