口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第三章 初夏の候

第118話 焦る女教師

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 季節は夏。六月に入り、じりじりと太陽が照り付けるようになり始めて数日、異能力開発学園の教師である私、滝優里たきゆうりは、学園からそう遠くない真っ赤な廃倉庫へと足を運んでいた。

 昼休みに入ってすぐ車を飛ばした為、そこまで時間はかかってないはず。何事も無ければ午後の授業にも問題なく間に合うだろう。
 そう自分に言い聞かせて頬を動かしてみるが、如何せん強張って上手く笑えない。

 クーラーもガンガン浴びていたはずなのに、着ていたワイシャツは今や背に貼り付いている。
 強がってみてはいるが、身体の方は正直なようだ。『どう転んでも状況は芳しくないぞ』と。

 ちなみにドラマとかでよくある、『囚われの生徒を助けに来た』だとか、そんな格好のいい理由ではない。ただ、私はここに――『教師として来た』ことだけは間違いなかった。

 そうこう思ってるうちに、もう廃倉庫の扉前へ……

 私は一度立ち止まり、あの大和くんの顔を思い浮かべる。
 情けない話だが、せめて彼のようなポーカーフェイスをと大きく深呼吸。意を決し、汗の滲む両手で軋む重い扉を開いていく。すると……

「やあ、待ってたよ……滝先生」

 眼前にはあのいけ好かない男、久我周防くがすおうが下っ端四人を引き連れ、待ち構えていた。



 四時間半ほど前――

 カーテンが日射しを受け、室内をほんのり照らす中、私は漸く心地よい眠りから目覚める。
 体を起こし、大欠伸と共に背伸びをすると、不思議といつも感じる寝起きの疲労感がなかった。

 職業柄、毎日のように疲れが残ってたのにこれは珍しい。今日はなんだかイイことありそ!
 そんなアホなことを思いつつ携帯を手に取ると――

「あれ……電源が入らない……」

 画面は真っ暗。タッチしようがボタンを長押ししようが、私の酷い寝起き顔が映るだけ。

「えぇ……ちゃんと充電したはずなのになんで……」

 私は乱れた髪を掻きむしりつつ、寝惚け眼で充電ケーブルを辿っていく。
 結論から言うと電源タップにはACアダプターが挿してある。だが、スイッチの光が……点灯していなかった。

「はぁ⁉ 消えてるし⁉ もう~っ‼ 昨日、押したじゃん‼」

 と、誰に言うともなく悪態をつく私。
 どう考えても自分の押し忘れが原因なのだが、こういう時はとにかく自分のせいにしたくないのだ。

「って、ちょっと待って……? 今の時間っ――」

 さらにここで、やっとこさ思い出す。
 今日が週の半ばである水曜日で、当然の如く学校がある事を……

「ヤバッ⁉ 遅刻じゃん、遅刻っ‼」

 壁掛け時計の針が八時を過ぎてると分かるや否や、私は大慌てで出勤の準備をしだす。
 何から手を付けていいものかとワンルーム内を右往左往し、取りあえず遅刻の報告と携帯を取るが、「って、充電してないでしょうが⁉」とセルフツッコミののち、スイッチオン。

 その間に他の準備とメイクを五分ちょいで済ませ、次に髪のセット。
 スーツに着替えるころには携帯も復活し、学園へと報告するや否やバタバタの状態で家を飛び出した。



 愛車に飛び乗った私は、法定速度ギリギリで車を飛ばす。
 教師としてはもうアウトだが、生徒視点から見ても正直かなり際どい。HRにも間に合うかどうかといった状況。

「はぁはぁ……仕方ない。裏通りから行くか……!」

 私は車中で息を弾ませつつ、最短ルートである裏通りへ。
 普段使っている大通りとは違って道幅が狭く、少々走らせるには勇気がいるが、人通りはほぼ無いと言っていいので安全……なはず。

「あの子たちにカッコ悪いとこ……見せられない!」

 この時の私は妙に焦っていた。先月のレクリエーション、その『宝探し』で活躍した、自分の生徒たちに対して……

 最初はまるで統率が取れず、問題ばかりあったけど、今や大和くんを筆頭に一致団結。レクリエーションで優勝するにまで至った。
 みんなよく笑うようになったし、クラスの雰囲気としても過去最高にいい。他の先生方からも褒められて、担任としても鼻が高かった。

 でも、それと同時に内心では焦りが募り始めていた。だって……そこに私は含まれていないから。

 本来、彼らを導くのは教師である私の役目。にもかかわらず、私は何もできていない。全て後手に回っている。
 みんながみんな大和くんの背を見ており、私の存在意義って……? と、最近は自問自答することも少なくない。

 だからこそ、あの子たちの前ではちゃんとしよう! そんな気持ちばかりが先行して、遅れるわけにはいかないと、この裏通りを選んだ。選んでしまった……

 結果はどうだったか?

 道は一直線。対向車はなし。
 都内とは思えないほど寂れていて、人通りもなく、アクセルを踏むには絶好の状態。

 ぐんぐんと加速してく車。
 これならHRには間に合うと腕時計を覗き込む私。


 ――ドゴォッ‼


 そして沈黙した車内に伝わる、鈍い衝撃……

 咄嗟にブレーキを踏むも、もう遅い。
 ハンドルを握る手は震え、ドクドクと跳ね上がる鼓動。

 ゆっくりドアを開け、外に出ると、目の前には――

「嘘よ……そんな……」

 一人の男性が血だらけで倒れていた。
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