上 下
108 / 132
第二章 宝探し

第105話 駁撃の鉄拳

しおりを挟む
 エリア①――

「……ここは?」

 転移が完了し、辺りを見回す画星えぼし
 数瞬後、自分が大きな切り株の上に立っていたことに気付く。

「ごめんなさい……ここは多分、エリア①の中央付近。他にになるものが近くになかった……」

 隣に立つ手科てしなは元から暗かった雰囲気をより暗くし、瞼を伏せる。

「いや、寧ろここなら騒音が無くて好都合だよ。方角は大体分かってるし、あとはそこに絞って【反響定位】を使うだけさ!」

 そう言いながら画星は再びフィンガースナップ、もとい【反響定位】を発動させる。

 目を閉じ、反響を受信しつつ、頭の中でその映像を構築。
 ただ真っ直ぐ、目的の場所へ一心に駆けていくと、そこにはまるで無理やり切り開いたかの如き、不可思議な空間が一つあった。

 画星はその光景を確認すると同時に即開眼。
 すぐさまデバイスの向こうで待つ御大将へと繋いだ――



 エリア⑱――

『大和くん、聞こえるかい? 画星えぼしだけど! 『泉』を見つけた……エリア⑫だ!』
「本当か⁉ 画星っ!」

 残り五分。最後の希望を手にし、思わず声を弾ませる大和。

『うん。間違いないよ。エリア⑫の北東部に不自然に開かれた空間がある。恐らくランダムで転送されたことによる弊害だろうね。空から行けば曲がりくねって密集した木々が見えると思うからすぐに分かると思うよ!』

 画星からの吉報に大和と神田は顔を見合わせ、互いに頷く。

「そうか……助かった。恩に着る!」
『うん! 頑張ってね……大和くん』

 神田は会話が終わるなり即座に翼を広げ、手を差し出す。

「よし! じゃあ、行くとしようぜ! 大将!」

 大和も通信を切り、その手を掴むと

「ああ。必ず優勝してみせる……!」

 二人は『永遠とわの指輪』を目指し、大空へと羽ばたいていった。



 エリア⑫、北東部――

 ただ今の時刻、AM.11:57。
 大和を運んでいる為もあってか多少時間はかかったものの、二人は上空から木々が曲がりくねる不可思議な空間を目視する。

「お……? あれか! 大和!」
「ああ。間違いない。降りてくれ!」

 顔を綻ばせる神田に、こちらも頬が緩む大和。
 神田は木々の隙間を見つけ、翼が傷つかぬよう、ゆっくり地に降り立つ。

 もはやここまで来ると辺りを見回す必要もない。
 正面……鬱蒼としていたであろう木々は不自然に曲がりくねっており、その様相はまるで巨大な猛獣が抉じ開けたかの如き獣道のよう。

 だが一転、その先には木漏れ日が照らす、透き通った水色のオアシスが……

「あれが……『泉』……」

 幻想的な雰囲気と今までの苦労が合わさり、思わず見惚れてしまう大和。

「最初に見た時は何にも思わなかったけど、今こうして見ると全然違うなぁ……。さ、行けよ? 優勝、掴んでこい!」

 優しく背を押す神田に、大和は「ああ……」と笑みで返す。
 これで世界は守られる……。そんな安堵と共に大和は『泉』へと踏み出していく。


 一歩一歩……だが、そんな足音に合わせて忍び寄る、一つの影が死角から姿を現す。


 油断も勿論あっただろう。しかし、それ以上にこの男の技量がズバ抜けていた。
 まるで暗殺者の如く標的と呼吸を合わせ、を握り締めると――意識の外から大和へと鉄拳を振りかざす。

「――ッ⁉」

 大和はすんでで気付くも頬を殴られ、バランスを崩し――

「テメエッ⁉ 何しやがる!」

 神田もすぐさま迎撃せんと拳を放つが、襲撃者は難なくその一撃を止めてしまう。

「ぐっ……⁉ どういうつもりだ……ッ!」

 と、頬を押さえながら怨念隠せぬまなこでねめつける大和。

「どういうつもりって……盛り上げに来たんだよ。これでも一応、なんでね」

 しかし、襲撃者はまるで気にも留めず、貼り付いたような笑みでさらりと躱す。

 そう。最後に立ち塞がったのは、ここまで御膳立てした張本人――葦原計都であった。

「何が運営側だコラァッ‼ テメエは参加者だろうがッ⁉」

 神田は即、止められた拳を今一度握りしめ、思いっ切り押し返そうと試みる。が――

「おっと、お前の相手は俺じゃないだろ……⦅⦅⦅神田岳斗かんだがくと⦆⦆⦆くん?」

 葦原がいきり立つ神田と目を合わせるや否や状況は一変。
 神田は腕をだらりと落とすと、「そうだな……」という台詞と共に――

「――ッ⁉ ……どういうつもりだ、神田ッ!」

 突如、浴びせられた神田からの拳撃。
 何とか受け止めた大和へ、葦原がずれたメリケンサックをはめ直しつつ解説を入れる。

「実は神田岳斗くん、お前んとこに潜り込ませてたでさぁ……。やっぱフィナーレにはどんでん返しがつきものだろ? 俺は演出にも凝るタイプなんでね」

 そう言って葦原が顎で指示を出すと、神田は大和へと膝蹴りを繰り出す。

「――ぐッ⁉」

 よろめいたところで空いた左拳による追撃を食らい、さらに葦原から強烈なアッパーが……

「――ぐはぁッ‼」

 一人はクラスメイト。もう一人は鉄拳制裁を生業とする風紀委員長。流石にこの二人相手では大和も分が悪く、敢え無く地に横たわってしまう。

「おいおい、大丈夫か大和慧? もう残り二分を切ったぞ。急げ急げ~」

 と、葦原はデバイスを覗き込みつつも、必ず神田の後方に陣取る。神田を盾にして、逆転の芽を摘んでいるのだ。

「……風紀委員がそんなモン使うのかよ?」
「あぁ、コレか? こいつはただ単に拳を保護してるだけのものさ。『能力者ゴミ』ども相手に自分が傷つくなんてアホらしいだろ? だから――」

 しかし、葦原がメリケンサックに視線を移した刹那、大和はなんと懐から無骨な飛び道具――『拳銃ハンドガン』を取り出し、容赦なく神田の足目がけて引き金を引いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

今日のオツボネさん

菅田刈乃
大衆娯楽
このお話はフィクションです。あなたの身近にいるおばさんとは一切関係ありません。  (気が向いたら投稿)

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...