口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第二章 宝探し

第105話 駁撃の鉄拳

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 エリア①――

「……ここは?」

 転移が完了し、辺りを見回す画星えぼし
 数瞬後、自分が大きな切り株の上に立っていたことに気付く。

「ごめんなさい……ここは多分、エリア①の中央付近。他にになるものが近くになかった……」

 隣に立つ手科てしなは元から暗かった雰囲気をより暗くし、瞼を伏せる。

「いや、寧ろここなら騒音が無くて好都合だよ。方角は大体分かってるし、あとはそこに絞って【反響定位】を使うだけさ!」

 そう言いながら画星は再びフィンガースナップ、もとい【反響定位】を発動させる。

 目を閉じ、反響を受信しつつ、頭の中でその映像を構築。
 ただ真っ直ぐ、目的の場所へ一心に駆けていくと、そこにはまるで無理やり切り開いたかの如き、不可思議な空間が一つあった。

 画星はその光景を確認すると同時に即開眼。
 すぐさまデバイスの向こうで待つ御大将へと繋いだ――



 エリア⑱――

『大和くん、聞こえるかい? 画星えぼしだけど! 『泉』を見つけた……エリア⑫だ!』
「本当か⁉ 画星っ!」

 残り五分。最後の希望を手にし、思わず声を弾ませる大和。

『うん。間違いないよ。エリア⑫の北東部に不自然に開かれた空間がある。恐らくランダムで転送されたことによる弊害だろうね。空から行けば曲がりくねって密集した木々が見えると思うからすぐに分かると思うよ!』

 画星からの吉報に大和と神田は顔を見合わせ、互いに頷く。

「そうか……助かった。恩に着る!」
『うん! 頑張ってね……大和くん』

 神田は会話が終わるなり即座に翼を広げ、手を差し出す。

「よし! じゃあ、行くとしようぜ! 大将!」

 大和も通信を切り、その手を掴むと

「ああ。必ず優勝してみせる……!」

 二人は『永遠とわの指輪』を目指し、大空へと羽ばたいていった。



 エリア⑫、北東部――

 ただ今の時刻、AM.11:57。
 大和を運んでいる為もあってか多少時間はかかったものの、二人は上空から木々が曲がりくねる不可思議な空間を目視する。

「お……? あれか! 大和!」
「ああ。間違いない。降りてくれ!」

 顔を綻ばせる神田に、こちらも頬が緩む大和。
 神田は木々の隙間を見つけ、翼が傷つかぬよう、ゆっくり地に降り立つ。

 もはやここまで来ると辺りを見回す必要もない。
 正面……鬱蒼としていたであろう木々は不自然に曲がりくねっており、その様相はまるで巨大な猛獣が抉じ開けたかの如き獣道のよう。

 だが一転、その先には木漏れ日が照らす、透き通った水色のオアシスが……

「あれが……『泉』……」

 幻想的な雰囲気と今までの苦労が合わさり、思わず見惚れてしまう大和。

「最初に見た時は何にも思わなかったけど、今こうして見ると全然違うなぁ……。さ、行けよ? 優勝、掴んでこい!」

 優しく背を押す神田に、大和は「ああ……」と笑みで返す。
 これで世界は守られる……。そんな安堵と共に大和は『泉』へと踏み出していく。


 一歩一歩……だが、そんな足音に合わせて忍び寄る、一つの影が死角から姿を現す。


 油断も勿論あっただろう。しかし、それ以上にこの男の技量がズバ抜けていた。
 まるで暗殺者の如く標的と呼吸を合わせ、を握り締めると――意識の外から大和へと鉄拳を振りかざす。

「――ッ⁉」

 大和はすんでで気付くも頬を殴られ、バランスを崩し――

「テメエッ⁉ 何しやがる!」

 神田もすぐさま迎撃せんと拳を放つが、襲撃者は難なくその一撃を止めてしまう。

「ぐっ……⁉ どういうつもりだ……ッ!」

 と、頬を押さえながら怨念隠せぬまなこでねめつける大和。

「どういうつもりって……盛り上げに来たんだよ。これでも一応、なんでね」

 しかし、襲撃者はまるで気にも留めず、貼り付いたような笑みでさらりと躱す。

 そう。最後に立ち塞がったのは、ここまで御膳立てした張本人――葦原計都であった。

「何が運営側だコラァッ‼ テメエは参加者だろうがッ⁉」

 神田は即、止められた拳を今一度握りしめ、思いっ切り押し返そうと試みる。が――

「おっと、お前の相手は俺じゃないだろ……⦅⦅⦅神田岳斗かんだがくと⦆⦆⦆くん?」

 葦原がいきり立つ神田と目を合わせるや否や状況は一変。
 神田は腕をだらりと落とすと、「そうだな……」という台詞と共に――

「――ッ⁉ ……どういうつもりだ、神田ッ!」

 突如、浴びせられた神田からの拳撃。
 何とか受け止めた大和へ、葦原がずれたメリケンサックをはめ直しつつ解説を入れる。

「実は神田岳斗くん、お前んとこに潜り込ませてたでさぁ……。やっぱフィナーレにはどんでん返しがつきものだろ? 俺は演出にも凝るタイプなんでね」

 そう言って葦原が顎で指示を出すと、神田は大和へと膝蹴りを繰り出す。

「――ぐッ⁉」

 よろめいたところで空いた左拳による追撃を食らい、さらに葦原から強烈なアッパーが……

「――ぐはぁッ‼」

 一人はクラスメイト。もう一人は鉄拳制裁を生業とする風紀委員長。流石にこの二人相手では大和も分が悪く、敢え無く地に横たわってしまう。

「おいおい、大丈夫か大和慧? もう残り二分を切ったぞ。急げ急げ~」

 と、葦原はデバイスを覗き込みつつも、必ず神田の後方に陣取る。神田を盾にして、逆転の芽を摘んでいるのだ。

「……風紀委員がそんなモン使うのかよ?」
「あぁ、コレか? こいつはただ単に拳を保護してるだけのものさ。『能力者ゴミ』ども相手に自分が傷つくなんてアホらしいだろ? だから――」

 しかし、葦原がメリケンサックに視線を移した刹那、大和はなんと懐から無骨な飛び道具――『拳銃ハンドガン』を取り出し、容赦なく神田の足目がけて引き金を引いた。
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