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第二章 宝探し
第100話 立ち上がりし家族
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「お、おい……どうしたんだよ、急に……?」
と、若干引き気味に私を見上げるのは隣に座る神田くん。
急に大声を上げた驚きも勿論あるのだろうけど、恐らくその大部分を占めているのは、この赤と青に光る瞳だ。
「大和くんが言ってたじゃないですか……『お前らは家族。生き残る時も死ぬ時も……一緒だ』って」
デバイスから大和くんの『え?』という声が漏れる。
スクリーンに映し出されたキョトン顔を見るに、やっぱりあの時の大和くんは偽者だったよう。だが、今はそんなことどうでもいい! 彼らを説得することの方が最優先! 無視無視!
「あの言葉を聞いて神田くんも少なからず悪い気はしなかったはず。絆と……家族と……優勝を目指すと言った彼を。違いますか?」
続く私の『口撃』に「いや、俺は……」と、口ごもってしまう神田くん。
だが、私の前で嘘はつけない。少しでも答えた時点で、この眼が真実を暴き出す――
「嘘、ついてますね? 神田くん、本当は大和くんのこと好きになりかけてるんじゃないですか?」
「――ッ⁉」
微笑む私に神田くんは一瞬目を見開き、気恥ずかしそうに視線を泳がしては、口を小さく尖らせている。
そう。私の目には神田くんが真っ赤に映し出されていた。つまり彼は『嘘』をついてるということ。あの時、彼が絆されていたのを私は覚えている。そして、神田くんはこのクラスのリーダー格。落とせば間違いなく、他のクラスメイトも動くはず。なら……!
「神田くん……例え博打だとしても、ここは張るべきです。でないと私たちは一生、彼と肩を並べることなんてできません」
「肩を並べる……?」
と、神田くんは今一度、真剣な眼差しで私を見上げる。
「そうです。今このクラスは良くも悪くも大和くんを筆頭に動いています。いえ、動かされています。確かに彼についていけば間違いはないのかもしれません……。でも、ついていくだけじゃダメです! クラスメイトなら一緒に肩を並べないと! 彼が頭を下げて頼み込んでいる今が、まさにその最後のチャンスです。どうかお願いします! 彼に……彼に力を貸してあげてください!」
私は頭を下げた。深く深く、自分ができうる限界まで。
目を瞑るとデバイスから微かに、『牧瀬……』と大和くんの声が届く。だが、それ以降は何も聞こえない。広い講堂ゆえか、より顕著にその静寂を痛感する。やっぱり私だけじゃ……
「俺は行くよ……牧瀬さん」
その時ばかりは私も、その声に心強さを感じた。
顔を上げるとそこには、私と同じように立ち上がる蛯原くんの姿が。
「蛯原くん……」
私がその名を呼ぶと蛯原くんは小さく頷き、後方に居座るクラスメイトたちへと振り返る。
「まあ、俺が言うのも何だけどさ……。あいつは世間一般で言うところの『裏切り者』だよ。みんなが渋る気持ちも分かる。でもアイツは俺と違って、そのぅ……悪いことはしてないからさ。みんなだってそれはもう薄々気づいてるだろう? だから、ヤツの話しに乗って損はないと思う。……コテンパンにやられた俺が言うんだから間違いないよ」
自嘲気味に告げた蛯原くんの言葉に皆の視線が揺れ動く。
人というのは何処まで行ってもとどのつまり、その場の空気に従う生き物だ。一人、また一人と立ち上がれば、否が応でもその流れに乗ってしまう。
だからこそ、あと一手……あと一手さえあれば……!
「あぁぁ、もうしょうがねえ! 行こうぜみんな!」
祈りが通じたのか……最後の一手である神田くんが、髪を掻きむしりながら、遂にその重い腰を上げる。
一人ひとり丁寧にクラスメイトを見渡すと、荒くなった息遣いと共に己が想いを吐き出していく。
「もうここまで来たんだからよぉ……優勝目指そうぜ? 多分もうこんなチャンス、二度とこない! お前ら来年になって同じことできんのか? できねえだろ? 俺だってできない! 大和みたいなバカがいる今しかチャンスはねえんだよ! 『家族』が助け求めてんだ! 見捨てるわけにはいかねえだろ……?」
神田くんの熱い呼びかけに、今一度静寂を迎える二年B組……
だが今回は違う。
目つきが、顔つきが、覚悟の炎を宿す――
「そうだな……行こう!」
一人……
「ここで逃しちゃったら勿体無いもんね……!」
また一人と……
「もうここまで来たらヤケクソだ!」
「私も一回くらい優勝したい!」
「せっかくの祭りなら最後まで楽しまねえとな!」
クラスメイト全員が立ち上がったのだ。
「みんな……!」
私はその光景を前に自然と目頭を熱くしていた。
これは『代償』のせい? いいや、きっと違うだろう。だって初めてだったから……この学園でこんなにクラスが一致団結してる姿を見るなんてのは。
「おい、大和ォ! こっちは全員参加だ! 今からそっち行くから指示出せや!」
と、神田くんがすかさずデバイスで伝えると、向こう側から微かに『フッ……』と笑むような声が届く。
『ああ、協力感謝する。……ありがとう』
初めて齎された大和くんからの感謝に、皆は何処かちょっぴり気恥ずかしそう。
だが、その余韻に浸っている暇はない。
我々は即座に気持ちを切り替え、再び『草創の森』へと走り出した。
と、若干引き気味に私を見上げるのは隣に座る神田くん。
急に大声を上げた驚きも勿論あるのだろうけど、恐らくその大部分を占めているのは、この赤と青に光る瞳だ。
「大和くんが言ってたじゃないですか……『お前らは家族。生き残る時も死ぬ時も……一緒だ』って」
デバイスから大和くんの『え?』という声が漏れる。
スクリーンに映し出されたキョトン顔を見るに、やっぱりあの時の大和くんは偽者だったよう。だが、今はそんなことどうでもいい! 彼らを説得することの方が最優先! 無視無視!
「あの言葉を聞いて神田くんも少なからず悪い気はしなかったはず。絆と……家族と……優勝を目指すと言った彼を。違いますか?」
続く私の『口撃』に「いや、俺は……」と、口ごもってしまう神田くん。
だが、私の前で嘘はつけない。少しでも答えた時点で、この眼が真実を暴き出す――
「嘘、ついてますね? 神田くん、本当は大和くんのこと好きになりかけてるんじゃないですか?」
「――ッ⁉」
微笑む私に神田くんは一瞬目を見開き、気恥ずかしそうに視線を泳がしては、口を小さく尖らせている。
そう。私の目には神田くんが真っ赤に映し出されていた。つまり彼は『嘘』をついてるということ。あの時、彼が絆されていたのを私は覚えている。そして、神田くんはこのクラスのリーダー格。落とせば間違いなく、他のクラスメイトも動くはず。なら……!
「神田くん……例え博打だとしても、ここは張るべきです。でないと私たちは一生、彼と肩を並べることなんてできません」
「肩を並べる……?」
と、神田くんは今一度、真剣な眼差しで私を見上げる。
「そうです。今このクラスは良くも悪くも大和くんを筆頭に動いています。いえ、動かされています。確かに彼についていけば間違いはないのかもしれません……。でも、ついていくだけじゃダメです! クラスメイトなら一緒に肩を並べないと! 彼が頭を下げて頼み込んでいる今が、まさにその最後のチャンスです。どうかお願いします! 彼に……彼に力を貸してあげてください!」
私は頭を下げた。深く深く、自分ができうる限界まで。
目を瞑るとデバイスから微かに、『牧瀬……』と大和くんの声が届く。だが、それ以降は何も聞こえない。広い講堂ゆえか、より顕著にその静寂を痛感する。やっぱり私だけじゃ……
「俺は行くよ……牧瀬さん」
その時ばかりは私も、その声に心強さを感じた。
顔を上げるとそこには、私と同じように立ち上がる蛯原くんの姿が。
「蛯原くん……」
私がその名を呼ぶと蛯原くんは小さく頷き、後方に居座るクラスメイトたちへと振り返る。
「まあ、俺が言うのも何だけどさ……。あいつは世間一般で言うところの『裏切り者』だよ。みんなが渋る気持ちも分かる。でもアイツは俺と違って、そのぅ……悪いことはしてないからさ。みんなだってそれはもう薄々気づいてるだろう? だから、ヤツの話しに乗って損はないと思う。……コテンパンにやられた俺が言うんだから間違いないよ」
自嘲気味に告げた蛯原くんの言葉に皆の視線が揺れ動く。
人というのは何処まで行ってもとどのつまり、その場の空気に従う生き物だ。一人、また一人と立ち上がれば、否が応でもその流れに乗ってしまう。
だからこそ、あと一手……あと一手さえあれば……!
「あぁぁ、もうしょうがねえ! 行こうぜみんな!」
祈りが通じたのか……最後の一手である神田くんが、髪を掻きむしりながら、遂にその重い腰を上げる。
一人ひとり丁寧にクラスメイトを見渡すと、荒くなった息遣いと共に己が想いを吐き出していく。
「もうここまで来たんだからよぉ……優勝目指そうぜ? 多分もうこんなチャンス、二度とこない! お前ら来年になって同じことできんのか? できねえだろ? 俺だってできない! 大和みたいなバカがいる今しかチャンスはねえんだよ! 『家族』が助け求めてんだ! 見捨てるわけにはいかねえだろ……?」
神田くんの熱い呼びかけに、今一度静寂を迎える二年B組……
だが今回は違う。
目つきが、顔つきが、覚悟の炎を宿す――
「そうだな……行こう!」
一人……
「ここで逃しちゃったら勿体無いもんね……!」
また一人と……
「もうここまで来たらヤケクソだ!」
「私も一回くらい優勝したい!」
「せっかくの祭りなら最後まで楽しまねえとな!」
クラスメイト全員が立ち上がったのだ。
「みんな……!」
私はその光景を前に自然と目頭を熱くしていた。
これは『代償』のせい? いいや、きっと違うだろう。だって初めてだったから……この学園でこんなにクラスが一致団結してる姿を見るなんてのは。
「おい、大和ォ! こっちは全員参加だ! 今からそっち行くから指示出せや!」
と、神田くんがすかさずデバイスで伝えると、向こう側から微かに『フッ……』と笑むような声が届く。
『ああ、協力感謝する。……ありがとう』
初めて齎された大和くんからの感謝に、皆は何処かちょっぴり気恥ずかしそう。
だが、その余韻に浸っている暇はない。
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