口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第二章 宝探し

第99話 黄泉帰りし絆

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「なんなんだこれ……?」

 見下ろせばそこには数多に輝く金貨……
 予想外の光景を前に、思わず視線が泳いでしまう大和。

「それがお前の求めていた『宝』さ」

 葦原はというと、ただ悠然とその姿を眺めている。
 大和はそんな男へと、すぐさまガンを飛ばした。

「図ったのか……⁉」
「おいおい……お前、今まで何してた? まさか何もせずにここまで来たわけじゃあるまい?」

 葦原はガンをいなしつつ、腕組みしては顎で宝箱を指し示す。
 大和は数瞬後、その意味を理解し、宝箱に刻まれていたであろう『暗号』を読み解く。

「P……GFF……OA……LL……。これを復号すると……M……DCC……LX……II……1762年……?」
「そう! 1762年といえば……ローマで何があったかな?」
「1762……トレヴィの泉が完成した年……?」
「ご名答。トレヴィの泉といえば、泉に背を向けてなんてことで知られる名所だ。そして投げる枚数で、その意味も変わってくる」
「一枚は再訪、三枚は別れ、そして二枚が――『永遠』」
「さあ、御膳立てしてやったぞ大和慧!」

 そう言うと葦原は二歩三歩と踵を返し、

「精々、最後まで盛り上げてみせろ……!」

 天を仰ぐように両手を広げては、上がる口角を大和へと見せつけた。

 AM.11:26――

「御膳立てって……何処かに泉があるってのか⁉」
「頭を回せ~、大和慧。冷静に考えれば分かる」

 と、葦原は側頭部付近にて人差し指をくるくる回す。

「トレヴィの泉……場所……場所はローマ……ローマ……? あるのは確かローマの中心街……中心……? ――エリア㉑か⁉」
「いいぞ~。しかし、エリア㉑は……?」

 葦原はどこか嬉しそうに大和を指差すと、その指でわざとらしく己が顎をさする。

「封鎖されてる……オレがそうした……」
「となると~、どういった処理がなされるんだったかな?」

 ――はいはーい! もし消失したエリアに宝があったら、どないなるんや?――
 ――その際は自動的に別のエリアへ転送されるようになってるから安心して。まあ、ランダムで移動しちゃうから、余計大変になっちゃうかもしれないけど……――

「ランダムで転送……」
「おーっと! 大変なことになったなぁ、大和慧? 今回参加してる奴らは優秀な所為か、封鎖エリアが四ヶ所しかない。残り17エリア。今から探すとなると……骨が折れるなぁ?」

 葦原はデバイスのマップを見下ろしつつ、煽るだけ煽りながら大和の後方へ。

「何だったら手を貸してやろうか? お前がそこまで優勝に拘る理由は知らんが、返答次第ではモニタリング室にいる風紀委員から情報を流してやらんこともない。……な? こっちこいよ?」

 さらに耳元で囁くと、葦原は大和の肩に優しく手を置く。
 響く低音ボイスが、渦巻く闇へ引きずり込まんと鼓膜を刺激する。が――

「まだだ……まだ手はある……ッ!」

 大和は置かれた手を即座に振り払うと、その手でデバイスに残されたあるアイテムを起動した。



 講堂、観戦エリア――

『ただ今、音声トラブル中です。復旧まで暫しお待ちください。繰り返します――』

 大和くんが宝箱を開けた今なお、音声の復旧はなされていない。
 立ち尽くす彼を見るに、中身は『永遠とわの指輪』ではなかったよう。

 もう残り三十分ちょっと……。大和くん、大丈夫か……ん……?

 私がデバイスに表示されていた時刻を確認していると、その付けていた腕に突如――が走り始める。

「え……? 嘘……⁉」

 と、まさかの展開に目を見開いてしまう私。
 そしてその異変は私だけではなく……

「おいおい、お前らッ……スーツが⁉」

 神田くんも己がスーツの赤光しゃっこうに気付き、

「これってつまり……」

 蛯原くんもシャツの中を覗き込んでいた。

 それどころか他のB組メンバーのスーツにも血が通っており、皆一様に互いの姿を見遣っている。これは一体……?

『お前ら……聞こえるか?』

 すると音声通信にて、B組のデバイスから大和くんの声が聞こえてくる。

「大和くん⁉ 今、私たちのスーツが……!」

 私は声が届くようにと、デバイスへ口元を近づける。

『ああ。今、『復活の十字架』なるアイテムを使ってお前たちを戦線復帰させた。頼む……力を貸してくれ……!』

 珍しく下手したてに出る大和くんに、神田くんも「おい……どういうことだよ?」と声色に動揺が。

『……当てが外れた。指輪を手に入れる為の鍵は手にしたが、どうやら宝の眠る場所はエリア㉑だったらしい。封鎖された今、指輪はランダムで別のエリアに……。頼む……! オレ一人じゃ手が足りない……。一緒に探してくれ……!』

 スクリーンには頭を下げる大和くんの姿が映り込む。
 本気で……本気で優勝したいのだと、声も合わせてその必死さは充分に伝わった。のだが……

「もう……別に良くない……?」

 一人……

「今から探したって絶対無理だろ……」

 また一人と冷めた声を上げるクラスメイトたち。

「このまま終わるまで待てば……さ?」
「そうそう。わざわざリスク侵す必要ないって……」
「生き残るだけでも恩恵あるって言うし……」

 右を向いたら右。まるで羊の群れのように、一度流れ出した空気に従うみんな。

 マズイ……このままでは『現状維持』がクラスの総意に……! 大和くん、どうすれば……⁉

『………………ッ!』

 違う……! 彼はもう手立てが無いから、こうして頭を下げてるんだ……。なのに彼を頼ってどうする! 橋本さんも藤宮さんも、伍堂くんも渡くんも、あの蛯原くんだって……! 自分のやるべきことをしっかり全うした。なのに私は何も……

 ――オレら二年B組は……――

 その時、私の脳裏に一筋の光明が差す。

 そうだ……私がここにいる理由って……!

「わ、わた……『オレら二年B組は……絆で繋がってる!』」

 私は立ち上がった。講堂に響き渡る大きな声と赤ら顔で。
 クラスメイトどころか他の人たちも注目する中、私は心を鬼にして【嘘見はけんの明】を執行する。

 そう。私に課せられた役目、それは――大和くんとみんなを繋ぐ、架け橋になることだ。
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