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第二章 宝探し
第93話 漢の生き様
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エリア⑥――
大和たちを先に行かせ、一人、樫江田の足止めを買って出た伍堂。
しかし、その有り様は……
ぷらーん……ぷらーん……ぷらーん……
ただただ、ぶら下がるだけ……
あれからずっと膠着状態。流石の伍堂も――
「おぉぉおおおおいい‼ いつまでぶら下げとくつもりやぁッ⁉ 早よ下ろさんかぁぁああいィッ‼」
ブチ切れモード全開。ブンブン腕を振る所為で、いつもより余計に揺れていた。
「下りたきゃ勝手に下りろよ? 頭に血ィのぼらせてないでな?」
対する樫江田は切り株に座り、優雅に煙草を一服中。変わらず閉じた日傘を肩に乗せながら。
「お前は一回、ワシに負けたやろうが⁉ 言うとくけどな! あん時のワシは手加減しとったんやでぇ? わざと死ぬためになッ! せやからどう足搔いたって、お前はワシには勝てん! 今さら無駄なことすんなや‼」
「奇遇だな。実は俺もあの時は本気じゃなかった。殺すなという命令だったからな。だが、今回は違う。殺しに行っていーんだ。この着ているスーツのお陰でな?」
と、己が胸元を親指でつつき、瞳孔を開かせる樫江田。
伍堂は「上等やッ……!」と額に血管を浮かび上がらせると、体全体を揺れた反動で持ち上げ、脚に装着されたワイヤーを掴んでは――
「どぉおおりゃあぁああああッッ‼」
思いっきり引き千切ってみせた。
「馬鹿力が……」
樫江田が言うや否や、伍堂は三点着地。
即座に「樫江田ァッッ‼」と殴りかかろうとする。が――
「――ッ⁉」
煙草を顔面へと投げつけられた為、回避せんと咄嗟に体を反らす。
結果、死角から髪の毛を掴まれ、顔面へとジャンピングニーを叩きこまれてしまう。
「ぐっはァ……ッ‼」
本来なら鼻血の一つでも出してるところだろうが、『Turritopsis』のお陰もあってか無傷で済む。ただ、痛みは貫通するので伍堂は顔を歪めていた。
「ほら、おかわりだ!」
樫江田は間髪容れずニヤリと笑うと、髪の毛を一気に引き抜き、それを『媒体』に無数のワイヤーを生成。装着された伍堂は、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた蝶の如く、動きを拘束されてしまう。
「クソッ……! またかいな⁉」
「テメエはまっすぐすぎんだよ、伍堂。俺がただ、やられてただけだと思ったかァッ‼」
樫江田は空いた左手で伍堂の頬を殴りつけると、その後も追撃の手を緩めることなく甚振り続けて行った。
脇腹を蹴り、腹を殴り、裏拳で頬を殴りつけては、また腹に膝蹴りを喰らわす……
その連撃がループされる度に、スーツの輝きは失われ、気付けば伍堂は瀕死の状態まで追い込まれていた。
「はぁはぁ……どうだ……? これで分かったろ? ……俺とお前の差が」
肩で息をする樫江田に対し、伍堂は顔を俯かせ、沈黙している。
「おら……どうした? もう終わりか? もう終わりかって言ってんだよ、伍堂ォッ‼」
「……ちゃうなぁ」
「あ……?」
「お前の拳……前とはちゃう。何があった?」
突如、顔を上げながら確信めいた一言をぶつける伍堂。
「テメエ、何を訳の分からんことを……」
と、樫江田は誤魔化すものの、険しかった面持ちが崩れ去ったところを見るに、どうやら当たらずも遠からずといった様子。
「ワシは鼻が利く。それに散々喧嘩に明け暮れとったんや。せやから一発受ければ大抵のことは分かる。何があった?」
「………………」
「今のお前の拳は『まっすぐ』や。何かの為に振るう拳。違うか?」
問われた樫江田は舌打ちののち、深く嘆息すると日傘を杖のように突く。
「誤解されたままだと癪だから教えてやるよ。俺はな……ただここにケジメをつけに来ただけだ」
「ケジメ……?」
「ああ。俺らはあの時、与えられた命令をこなせなかった。それどころか、お前なんぞに阻まれる始末。普通なら今頃、処分されてるとこだろう」
「せやけど処分は見送られた。……あの蛯原のお陰で」
樫江田は「そうだ」と冷ややかに眉尻を下げると、また肩に日傘を乗せては数歩だけ踵を返し出す。
「あの時点ではアイツが俺らのトップ。だからこそアイツは、ケジメをつけることになった。だが……」
「アイツは生き残ってしもうた。兄弟の策でな?」
「お陰で何時こっちに『裁き』が回ってきてもおかしくない状況になった。だから先にアピールするのさ……俺らは使える人間だって」
そして伍堂へと向き直ると、日傘の先端を指しながら口端を吊り上げてみせた。
一見、保身とも思えるその言動。
しかし伍堂の鼻は、眼前に立つ者の『漢気』を嗅ぎ分けていた。
「なるほどなぁ……これで合点がいったわ! つまりお前は――仲間の為に拳を振るっとるっちゅうわけやな?」
「……は?」
樫江田の構えていた日傘が、ぷらーんと下がる。
「だってせやろ? お前、さっきから俺ら俺ら言うてたし。それは詰まる所、『俺はアイツらのトップ。俺が何とかすりゃあ、アイツらへの『裁き』もなしになる』って言うてるのと同じやろ? 案外、エエとこあるやんけ!」
「おいおい……妙なこと抜かすのは、あの大和だけで充分だぜ。テメエはここで終わる。ただそれだけだ」
樫江田は呆れたように頭を振りつつも……否定はしなかった。
「そうかそうか。せやったら――」
だが、そんな漢は伍堂の大好物。
逆に体の底から力が湧き上がり、それを利用しながら身体を目一杯前進。装着されていたワイヤーを次々外していくと――
「ワシも本気でその想い……受け止めたらなアカンわッ!」
巣から脱した蝶は宙を舞い、立ちはだかる蜘蛛へと反旗を翻した。
大和たちを先に行かせ、一人、樫江田の足止めを買って出た伍堂。
しかし、その有り様は……
ぷらーん……ぷらーん……ぷらーん……
ただただ、ぶら下がるだけ……
あれからずっと膠着状態。流石の伍堂も――
「おぉぉおおおおいい‼ いつまでぶら下げとくつもりやぁッ⁉ 早よ下ろさんかぁぁああいィッ‼」
ブチ切れモード全開。ブンブン腕を振る所為で、いつもより余計に揺れていた。
「下りたきゃ勝手に下りろよ? 頭に血ィのぼらせてないでな?」
対する樫江田は切り株に座り、優雅に煙草を一服中。変わらず閉じた日傘を肩に乗せながら。
「お前は一回、ワシに負けたやろうが⁉ 言うとくけどな! あん時のワシは手加減しとったんやでぇ? わざと死ぬためになッ! せやからどう足搔いたって、お前はワシには勝てん! 今さら無駄なことすんなや‼」
「奇遇だな。実は俺もあの時は本気じゃなかった。殺すなという命令だったからな。だが、今回は違う。殺しに行っていーんだ。この着ているスーツのお陰でな?」
と、己が胸元を親指でつつき、瞳孔を開かせる樫江田。
伍堂は「上等やッ……!」と額に血管を浮かび上がらせると、体全体を揺れた反動で持ち上げ、脚に装着されたワイヤーを掴んでは――
「どぉおおりゃあぁああああッッ‼」
思いっきり引き千切ってみせた。
「馬鹿力が……」
樫江田が言うや否や、伍堂は三点着地。
即座に「樫江田ァッッ‼」と殴りかかろうとする。が――
「――ッ⁉」
煙草を顔面へと投げつけられた為、回避せんと咄嗟に体を反らす。
結果、死角から髪の毛を掴まれ、顔面へとジャンピングニーを叩きこまれてしまう。
「ぐっはァ……ッ‼」
本来なら鼻血の一つでも出してるところだろうが、『Turritopsis』のお陰もあってか無傷で済む。ただ、痛みは貫通するので伍堂は顔を歪めていた。
「ほら、おかわりだ!」
樫江田は間髪容れずニヤリと笑うと、髪の毛を一気に引き抜き、それを『媒体』に無数のワイヤーを生成。装着された伍堂は、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた蝶の如く、動きを拘束されてしまう。
「クソッ……! またかいな⁉」
「テメエはまっすぐすぎんだよ、伍堂。俺がただ、やられてただけだと思ったかァッ‼」
樫江田は空いた左手で伍堂の頬を殴りつけると、その後も追撃の手を緩めることなく甚振り続けて行った。
脇腹を蹴り、腹を殴り、裏拳で頬を殴りつけては、また腹に膝蹴りを喰らわす……
その連撃がループされる度に、スーツの輝きは失われ、気付けば伍堂は瀕死の状態まで追い込まれていた。
「はぁはぁ……どうだ……? これで分かったろ? ……俺とお前の差が」
肩で息をする樫江田に対し、伍堂は顔を俯かせ、沈黙している。
「おら……どうした? もう終わりか? もう終わりかって言ってんだよ、伍堂ォッ‼」
「……ちゃうなぁ」
「あ……?」
「お前の拳……前とはちゃう。何があった?」
突如、顔を上げながら確信めいた一言をぶつける伍堂。
「テメエ、何を訳の分からんことを……」
と、樫江田は誤魔化すものの、険しかった面持ちが崩れ去ったところを見るに、どうやら当たらずも遠からずといった様子。
「ワシは鼻が利く。それに散々喧嘩に明け暮れとったんや。せやから一発受ければ大抵のことは分かる。何があった?」
「………………」
「今のお前の拳は『まっすぐ』や。何かの為に振るう拳。違うか?」
問われた樫江田は舌打ちののち、深く嘆息すると日傘を杖のように突く。
「誤解されたままだと癪だから教えてやるよ。俺はな……ただここにケジメをつけに来ただけだ」
「ケジメ……?」
「ああ。俺らはあの時、与えられた命令をこなせなかった。それどころか、お前なんぞに阻まれる始末。普通なら今頃、処分されてるとこだろう」
「せやけど処分は見送られた。……あの蛯原のお陰で」
樫江田は「そうだ」と冷ややかに眉尻を下げると、また肩に日傘を乗せては数歩だけ踵を返し出す。
「あの時点ではアイツが俺らのトップ。だからこそアイツは、ケジメをつけることになった。だが……」
「アイツは生き残ってしもうた。兄弟の策でな?」
「お陰で何時こっちに『裁き』が回ってきてもおかしくない状況になった。だから先にアピールするのさ……俺らは使える人間だって」
そして伍堂へと向き直ると、日傘の先端を指しながら口端を吊り上げてみせた。
一見、保身とも思えるその言動。
しかし伍堂の鼻は、眼前に立つ者の『漢気』を嗅ぎ分けていた。
「なるほどなぁ……これで合点がいったわ! つまりお前は――仲間の為に拳を振るっとるっちゅうわけやな?」
「……は?」
樫江田の構えていた日傘が、ぷらーんと下がる。
「だってせやろ? お前、さっきから俺ら俺ら言うてたし。それは詰まる所、『俺はアイツらのトップ。俺が何とかすりゃあ、アイツらへの『裁き』もなしになる』って言うてるのと同じやろ? 案外、エエとこあるやんけ!」
「おいおい……妙なこと抜かすのは、あの大和だけで充分だぜ。テメエはここで終わる。ただそれだけだ」
樫江田は呆れたように頭を振りつつも……否定はしなかった。
「そうかそうか。せやったら――」
だが、そんな漢は伍堂の大好物。
逆に体の底から力が湧き上がり、それを利用しながら身体を目一杯前進。装着されていたワイヤーを次々外していくと――
「ワシも本気でその想い……受け止めたらなアカンわッ!」
巣から脱した蝶は宙を舞い、立ちはだかる蜘蛛へと反旗を翻した。
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