94 / 132
第二章 宝探し
第91話 本物の悪意
しおりを挟む
「『暴露』……ですって……⁉」
四十九院は顔を歪ませ、恐怖と驚愕に唇を震わせる。
だが、大和はそれでも止まらない。その口は『口撃のヤマト』の名の下に淀みなく動き始めていく。
「ああ。まずは今言った『条件』から行こう。お前の『条件』は……『屈服した獲物が近くにいること』だ」
「――――ッ⁉」
四十九院の顔が更に引き攣った。
当たった感触に気を良くしたのか、大和は邪悪な笑みで『口撃』を続ける。
「お前は忌み嫌っているにもかかわらず、己がクラスに男を配置した。ま、親父さんが男子全員排除なんて蛮行を許さなかっただけかもしれんが、その理由は能力の『条件』を常に満たせるようにするためだろう。まるで蜘蛛の巣で獲物を絡めとるように……」
「あなたッ……! それ以上口にしたらどうなるか分かっていますのッ⁉」
「聞いてたか人の話? 屈服した存在が居なきゃ、お前は能力を使えないんだ。つまり男どもが出払った今、もうどうにもならないってこと。話を続けるぞ~」
大和はまるでテレビマンの如く指を回すと、『巻き』のジェスチャーと共に次なる『口撃』へ。
「さて、次に『媒体』だが、お前の『媒体』は唾液……いや、正確には『体液』と言った方がいいかな? お前のことについて色々調べたが、プライベートでは結構ハメを外していたそうじゃないか? 夜な夜な自分の気に入った女を無理やり連れ込み、あれやこれやと放蕩三昧……。羨ましいね~」
「――ッ⁉ あなた……どこまでッ……!」
「まあ、朝っぱらからするような話でもないし、この辺りで割愛するとしよう。では最後に『代償』だが――」
「黙りなさいと言っているのッ‼ もうこれ以上、穢らわしい声を耳に入れたくありませんわ……‼ 下等生物は下等生物らしく、人間様に迷惑をかけぬよう、隅で怯えていなさいな! さあ? 貴女たちも力を貸して? あの害虫を駆除するのよッ‼」
一頻り罵声を浴びせた四十九院は、侍らせていた仔猫にぎこちない笑みを送ると、眼前に立つ害虫へと指を差し返す。
命を受けた女子生徒たちは互いに頷き合うと、凛々しい顔つきで主に微笑み返し、守るように大和の前へと立ち塞がってくれた。が――
「みんな……? どうしたの……? どうして助けてくれないのォ⁉」
それは全て四十九院の妄想だった。
女子生徒たちは一様に視線を逸らし、当然の如く壁にすらなってくれない。
そして女王の城に亀裂が入り始めたこの隙を、『口撃のヤマト』を冠する男が見逃すはずもなかった。
「四十九院星花は女王。逆らうこと許さず。それがこの学園に足を踏み入れた者へ周知される掟。だが今、そいつに逆らう者が出てきた。ここを逃せば支配から脱却するチャンスは二度とこないかもしれない。そんな考えが彼女たちの頭の中によぎったのかな?」
「そんな……杏奈っ! この害虫を何とかしなさい! 貴女の力でっ!」
しかし、水間寺は……いつもの角度で頭を下げるだけ。
「まさか……貴女までわたくしを裏切るというの……⁉」
と、わなわなと唇を震わす四十九院。
対して水間寺は一欠けらも表情を変えずに顔を上げる。
「申し訳ありません、星花さま。社長からのご指示ですので」
「社長ぉ……? なんでお父様が⁉」
まるで自覚のない四十九院に嘆息する大和。
続けて後方に控える水間寺秘書を手のひらで指し示す。
「こちらの秘書さんに取り次いでもらって親父さんと契約したのさ。お前、卒業したら会社の経営に携わるんだろ? でも、今のまんまじゃクソの役にも立たない。だから今のうちに大清算するって話になってな。これからお前は普通の人間として普通の高校へ行き、普通に経営を学ぶ。その為なら……『暴露』をしても構わないと」
大和の言葉に何度も首を横に振る四十九院。その目にはうっすらと涙が……
「そんな……嘘よ‼ お父様がこんな害虫に屈するわけ――」
「確かに! いくら放蕩娘でも『暴露』なんて裏切り行為、呑むはずがない。でもな? こっちのバックにも居るんだよ……『恐怖』を糧とする『脅し』のプロってやつが」
「脅し……? それってまさか――」
「おっと! それ以上は詮索しない方がいい。その歳で幼稚園からやり直したくはないだろう?」
右手で制された四十九院は次第に沈黙。大粒の涙と共に俯いていく。
対して大和は漸く『暴露』の場が整ったと満足げに笑み、鼻息をフンと漏らした。
「では最後に『代償』だ。お前の『代償』はズバリ……視力の低下だ。使うたび、視力が落ちていくんだろう? だから毎回、変わりの物を用意しろと水間寺を折檻する。当たってるか?」
実に楽しげな大和だが、彼女の方は迷子の少女が如く、ただ泣きじゃくるだけ。
大した返答が得られず、肩を竦めた大和は、「まあいい」と最後の工程へ。
「さて、これで全てが揃った。糸による拘束、毒の生成、視力の悪化……。オレは、これら三つを一言で表せられる画期的な言葉を一つ知っている。それは……」
大和は一旦間を開け、小刻みにステップを踏むと、くるりと一回転。
盛大に勿体ぶりつつ、フィンガースナップと共に、四十九院を指差し――
「【女郎蜘蛛】だ」
異能名を告げた。
四十九院は顔を歪ませ、恐怖と驚愕に唇を震わせる。
だが、大和はそれでも止まらない。その口は『口撃のヤマト』の名の下に淀みなく動き始めていく。
「ああ。まずは今言った『条件』から行こう。お前の『条件』は……『屈服した獲物が近くにいること』だ」
「――――ッ⁉」
四十九院の顔が更に引き攣った。
当たった感触に気を良くしたのか、大和は邪悪な笑みで『口撃』を続ける。
「お前は忌み嫌っているにもかかわらず、己がクラスに男を配置した。ま、親父さんが男子全員排除なんて蛮行を許さなかっただけかもしれんが、その理由は能力の『条件』を常に満たせるようにするためだろう。まるで蜘蛛の巣で獲物を絡めとるように……」
「あなたッ……! それ以上口にしたらどうなるか分かっていますのッ⁉」
「聞いてたか人の話? 屈服した存在が居なきゃ、お前は能力を使えないんだ。つまり男どもが出払った今、もうどうにもならないってこと。話を続けるぞ~」
大和はまるでテレビマンの如く指を回すと、『巻き』のジェスチャーと共に次なる『口撃』へ。
「さて、次に『媒体』だが、お前の『媒体』は唾液……いや、正確には『体液』と言った方がいいかな? お前のことについて色々調べたが、プライベートでは結構ハメを外していたそうじゃないか? 夜な夜な自分の気に入った女を無理やり連れ込み、あれやこれやと放蕩三昧……。羨ましいね~」
「――ッ⁉ あなた……どこまでッ……!」
「まあ、朝っぱらからするような話でもないし、この辺りで割愛するとしよう。では最後に『代償』だが――」
「黙りなさいと言っているのッ‼ もうこれ以上、穢らわしい声を耳に入れたくありませんわ……‼ 下等生物は下等生物らしく、人間様に迷惑をかけぬよう、隅で怯えていなさいな! さあ? 貴女たちも力を貸して? あの害虫を駆除するのよッ‼」
一頻り罵声を浴びせた四十九院は、侍らせていた仔猫にぎこちない笑みを送ると、眼前に立つ害虫へと指を差し返す。
命を受けた女子生徒たちは互いに頷き合うと、凛々しい顔つきで主に微笑み返し、守るように大和の前へと立ち塞がってくれた。が――
「みんな……? どうしたの……? どうして助けてくれないのォ⁉」
それは全て四十九院の妄想だった。
女子生徒たちは一様に視線を逸らし、当然の如く壁にすらなってくれない。
そして女王の城に亀裂が入り始めたこの隙を、『口撃のヤマト』を冠する男が見逃すはずもなかった。
「四十九院星花は女王。逆らうこと許さず。それがこの学園に足を踏み入れた者へ周知される掟。だが今、そいつに逆らう者が出てきた。ここを逃せば支配から脱却するチャンスは二度とこないかもしれない。そんな考えが彼女たちの頭の中によぎったのかな?」
「そんな……杏奈っ! この害虫を何とかしなさい! 貴女の力でっ!」
しかし、水間寺は……いつもの角度で頭を下げるだけ。
「まさか……貴女までわたくしを裏切るというの……⁉」
と、わなわなと唇を震わす四十九院。
対して水間寺は一欠けらも表情を変えずに顔を上げる。
「申し訳ありません、星花さま。社長からのご指示ですので」
「社長ぉ……? なんでお父様が⁉」
まるで自覚のない四十九院に嘆息する大和。
続けて後方に控える水間寺秘書を手のひらで指し示す。
「こちらの秘書さんに取り次いでもらって親父さんと契約したのさ。お前、卒業したら会社の経営に携わるんだろ? でも、今のまんまじゃクソの役にも立たない。だから今のうちに大清算するって話になってな。これからお前は普通の人間として普通の高校へ行き、普通に経営を学ぶ。その為なら……『暴露』をしても構わないと」
大和の言葉に何度も首を横に振る四十九院。その目にはうっすらと涙が……
「そんな……嘘よ‼ お父様がこんな害虫に屈するわけ――」
「確かに! いくら放蕩娘でも『暴露』なんて裏切り行為、呑むはずがない。でもな? こっちのバックにも居るんだよ……『恐怖』を糧とする『脅し』のプロってやつが」
「脅し……? それってまさか――」
「おっと! それ以上は詮索しない方がいい。その歳で幼稚園からやり直したくはないだろう?」
右手で制された四十九院は次第に沈黙。大粒の涙と共に俯いていく。
対して大和は漸く『暴露』の場が整ったと満足げに笑み、鼻息をフンと漏らした。
「では最後に『代償』だ。お前の『代償』はズバリ……視力の低下だ。使うたび、視力が落ちていくんだろう? だから毎回、変わりの物を用意しろと水間寺を折檻する。当たってるか?」
実に楽しげな大和だが、彼女の方は迷子の少女が如く、ただ泣きじゃくるだけ。
大した返答が得られず、肩を竦めた大和は、「まあいい」と最後の工程へ。
「さて、これで全てが揃った。糸による拘束、毒の生成、視力の悪化……。オレは、これら三つを一言で表せられる画期的な言葉を一つ知っている。それは……」
大和は一旦間を開け、小刻みにステップを踏むと、くるりと一回転。
盛大に勿体ぶりつつ、フィンガースナップと共に、四十九院を指差し――
「【女郎蜘蛛】だ」
異能名を告げた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!
西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。
友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。
しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。
「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」
これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。
週一、不定期投稿していきます。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


モンスターが現れるようになった現代世界で悪魔として生きていく
モノノキ
ファンタジー
ある日、突如として引き起こった世界のアップデート。
これにより人類は様々な種族へと進化し、世界中にモンスターが解き放たれた。
モンスターだらけになってしまったことで、人類はそれぞれの地域の避難所に集まり生活することに。
そんな中、悪魔に進化してしまった佐藤ヒロキは避難に遅れてしまい1人で活動することになってしまう。
そうして眷属を増やしたり人を救ったりしているうちに何やら大事になっていく話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる