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第二章 宝探し
第91話 本物の悪意
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「『暴露』……ですって……⁉」
四十九院は顔を歪ませ、恐怖と驚愕に唇を震わせる。
だが、大和はそれでも止まらない。その口は『口撃のヤマト』の名の下に淀みなく動き始めていく。
「ああ。まずは今言った『条件』から行こう。お前の『条件』は……『屈服した獲物が近くにいること』だ」
「――――ッ⁉」
四十九院の顔が更に引き攣った。
当たった感触に気を良くしたのか、大和は邪悪な笑みで『口撃』を続ける。
「お前は忌み嫌っているにもかかわらず、己がクラスに男を配置した。ま、親父さんが男子全員排除なんて蛮行を許さなかっただけかもしれんが、その理由は能力の『条件』を常に満たせるようにするためだろう。まるで蜘蛛の巣で獲物を絡めとるように……」
「あなたッ……! それ以上口にしたらどうなるか分かっていますのッ⁉」
「聞いてたか人の話? 屈服した存在が居なきゃ、お前は能力を使えないんだ。つまり男どもが出払った今、もうどうにもならないってこと。話を続けるぞ~」
大和はまるでテレビマンの如く指を回すと、『巻き』のジェスチャーと共に次なる『口撃』へ。
「さて、次に『媒体』だが、お前の『媒体』は唾液……いや、正確には『体液』と言った方がいいかな? お前のことについて色々調べたが、プライベートでは結構ハメを外していたそうじゃないか? 夜な夜な自分の気に入った女を無理やり連れ込み、あれやこれやと放蕩三昧……。羨ましいね~」
「――ッ⁉ あなた……どこまでッ……!」
「まあ、朝っぱらからするような話でもないし、この辺りで割愛するとしよう。では最後に『代償』だが――」
「黙りなさいと言っているのッ‼ もうこれ以上、穢らわしい声を耳に入れたくありませんわ……‼ 下等生物は下等生物らしく、人間様に迷惑をかけぬよう、隅で怯えていなさいな! さあ? 貴女たちも力を貸して? あの害虫を駆除するのよッ‼」
一頻り罵声を浴びせた四十九院は、侍らせていた仔猫にぎこちない笑みを送ると、眼前に立つ害虫へと指を差し返す。
命を受けた女子生徒たちは互いに頷き合うと、凛々しい顔つきで主に微笑み返し、守るように大和の前へと立ち塞がってくれた。が――
「みんな……? どうしたの……? どうして助けてくれないのォ⁉」
それは全て四十九院の妄想だった。
女子生徒たちは一様に視線を逸らし、当然の如く壁にすらなってくれない。
そして女王の城に亀裂が入り始めたこの隙を、『口撃のヤマト』を冠する男が見逃すはずもなかった。
「四十九院星花は女王。逆らうこと許さず。それがこの学園に足を踏み入れた者へ周知される掟。だが今、そいつに逆らう者が出てきた。ここを逃せば支配から脱却するチャンスは二度とこないかもしれない。そんな考えが彼女たちの頭の中によぎったのかな?」
「そんな……杏奈っ! この害虫を何とかしなさい! 貴女の力でっ!」
しかし、水間寺は……いつもの角度で頭を下げるだけ。
「まさか……貴女までわたくしを裏切るというの……⁉」
と、わなわなと唇を震わす四十九院。
対して水間寺は一欠けらも表情を変えずに顔を上げる。
「申し訳ありません、星花さま。社長からのご指示ですので」
「社長ぉ……? なんでお父様が⁉」
まるで自覚のない四十九院に嘆息する大和。
続けて後方に控える水間寺秘書を手のひらで指し示す。
「こちらの秘書さんに取り次いでもらって親父さんと契約したのさ。お前、卒業したら会社の経営に携わるんだろ? でも、今のまんまじゃクソの役にも立たない。だから今のうちに大清算するって話になってな。これからお前は普通の人間として普通の高校へ行き、普通に経営を学ぶ。その為なら……『暴露』をしても構わないと」
大和の言葉に何度も首を横に振る四十九院。その目にはうっすらと涙が……
「そんな……嘘よ‼ お父様がこんな害虫に屈するわけ――」
「確かに! いくら放蕩娘でも『暴露』なんて裏切り行為、呑むはずがない。でもな? こっちのバックにも居るんだよ……『恐怖』を糧とする『脅し』のプロってやつが」
「脅し……? それってまさか――」
「おっと! それ以上は詮索しない方がいい。その歳で幼稚園からやり直したくはないだろう?」
右手で制された四十九院は次第に沈黙。大粒の涙と共に俯いていく。
対して大和は漸く『暴露』の場が整ったと満足げに笑み、鼻息をフンと漏らした。
「では最後に『代償』だ。お前の『代償』はズバリ……視力の低下だ。使うたび、視力が落ちていくんだろう? だから毎回、変わりの物を用意しろと水間寺を折檻する。当たってるか?」
実に楽しげな大和だが、彼女の方は迷子の少女が如く、ただ泣きじゃくるだけ。
大した返答が得られず、肩を竦めた大和は、「まあいい」と最後の工程へ。
「さて、これで全てが揃った。糸による拘束、毒の生成、視力の悪化……。オレは、これら三つを一言で表せられる画期的な言葉を一つ知っている。それは……」
大和は一旦間を開け、小刻みにステップを踏むと、くるりと一回転。
盛大に勿体ぶりつつ、フィンガースナップと共に、四十九院を指差し――
「【女郎蜘蛛】だ」
異能名を告げた。
四十九院は顔を歪ませ、恐怖と驚愕に唇を震わせる。
だが、大和はそれでも止まらない。その口は『口撃のヤマト』の名の下に淀みなく動き始めていく。
「ああ。まずは今言った『条件』から行こう。お前の『条件』は……『屈服した獲物が近くにいること』だ」
「――――ッ⁉」
四十九院の顔が更に引き攣った。
当たった感触に気を良くしたのか、大和は邪悪な笑みで『口撃』を続ける。
「お前は忌み嫌っているにもかかわらず、己がクラスに男を配置した。ま、親父さんが男子全員排除なんて蛮行を許さなかっただけかもしれんが、その理由は能力の『条件』を常に満たせるようにするためだろう。まるで蜘蛛の巣で獲物を絡めとるように……」
「あなたッ……! それ以上口にしたらどうなるか分かっていますのッ⁉」
「聞いてたか人の話? 屈服した存在が居なきゃ、お前は能力を使えないんだ。つまり男どもが出払った今、もうどうにもならないってこと。話を続けるぞ~」
大和はまるでテレビマンの如く指を回すと、『巻き』のジェスチャーと共に次なる『口撃』へ。
「さて、次に『媒体』だが、お前の『媒体』は唾液……いや、正確には『体液』と言った方がいいかな? お前のことについて色々調べたが、プライベートでは結構ハメを外していたそうじゃないか? 夜な夜な自分の気に入った女を無理やり連れ込み、あれやこれやと放蕩三昧……。羨ましいね~」
「――ッ⁉ あなた……どこまでッ……!」
「まあ、朝っぱらからするような話でもないし、この辺りで割愛するとしよう。では最後に『代償』だが――」
「黙りなさいと言っているのッ‼ もうこれ以上、穢らわしい声を耳に入れたくありませんわ……‼ 下等生物は下等生物らしく、人間様に迷惑をかけぬよう、隅で怯えていなさいな! さあ? 貴女たちも力を貸して? あの害虫を駆除するのよッ‼」
一頻り罵声を浴びせた四十九院は、侍らせていた仔猫にぎこちない笑みを送ると、眼前に立つ害虫へと指を差し返す。
命を受けた女子生徒たちは互いに頷き合うと、凛々しい顔つきで主に微笑み返し、守るように大和の前へと立ち塞がってくれた。が――
「みんな……? どうしたの……? どうして助けてくれないのォ⁉」
それは全て四十九院の妄想だった。
女子生徒たちは一様に視線を逸らし、当然の如く壁にすらなってくれない。
そして女王の城に亀裂が入り始めたこの隙を、『口撃のヤマト』を冠する男が見逃すはずもなかった。
「四十九院星花は女王。逆らうこと許さず。それがこの学園に足を踏み入れた者へ周知される掟。だが今、そいつに逆らう者が出てきた。ここを逃せば支配から脱却するチャンスは二度とこないかもしれない。そんな考えが彼女たちの頭の中によぎったのかな?」
「そんな……杏奈っ! この害虫を何とかしなさい! 貴女の力でっ!」
しかし、水間寺は……いつもの角度で頭を下げるだけ。
「まさか……貴女までわたくしを裏切るというの……⁉」
と、わなわなと唇を震わす四十九院。
対して水間寺は一欠けらも表情を変えずに顔を上げる。
「申し訳ありません、星花さま。社長からのご指示ですので」
「社長ぉ……? なんでお父様が⁉」
まるで自覚のない四十九院に嘆息する大和。
続けて後方に控える水間寺秘書を手のひらで指し示す。
「こちらの秘書さんに取り次いでもらって親父さんと契約したのさ。お前、卒業したら会社の経営に携わるんだろ? でも、今のまんまじゃクソの役にも立たない。だから今のうちに大清算するって話になってな。これからお前は普通の人間として普通の高校へ行き、普通に経営を学ぶ。その為なら……『暴露』をしても構わないと」
大和の言葉に何度も首を横に振る四十九院。その目にはうっすらと涙が……
「そんな……嘘よ‼ お父様がこんな害虫に屈するわけ――」
「確かに! いくら放蕩娘でも『暴露』なんて裏切り行為、呑むはずがない。でもな? こっちのバックにも居るんだよ……『恐怖』を糧とする『脅し』のプロってやつが」
「脅し……? それってまさか――」
「おっと! それ以上は詮索しない方がいい。その歳で幼稚園からやり直したくはないだろう?」
右手で制された四十九院は次第に沈黙。大粒の涙と共に俯いていく。
対して大和は漸く『暴露』の場が整ったと満足げに笑み、鼻息をフンと漏らした。
「では最後に『代償』だ。お前の『代償』はズバリ……視力の低下だ。使うたび、視力が落ちていくんだろう? だから毎回、変わりの物を用意しろと水間寺を折檻する。当たってるか?」
実に楽しげな大和だが、彼女の方は迷子の少女が如く、ただ泣きじゃくるだけ。
大した返答が得られず、肩を竦めた大和は、「まあいい」と最後の工程へ。
「さて、これで全てが揃った。糸による拘束、毒の生成、視力の悪化……。オレは、これら三つを一言で表せられる画期的な言葉を一つ知っている。それは……」
大和は一旦間を開け、小刻みにステップを踏むと、くるりと一回転。
盛大に勿体ぶりつつ、フィンガースナップと共に、四十九院を指差し――
「【女郎蜘蛛】だ」
異能名を告げた。
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