口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第二章 宝探し

第90話 女王の喉元に刃を翳せ

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 大和チームと残党の接敵より数分前……

 エリア⑲――

 女王の間たるこの場所は、総大将――四十九院星花つるしいんしょうかが支配する領域。
 本陣にある根上がりした大樹に座り、周りには綺麗な女子おなごを侍らせ、汚らわしい男共に宝を探させる……

 自分は一切動かず、生意気な害虫も駆除し、優雅にレクリエーションを謳歌する。はずだった……

「どういうことですの⁉ 杏奈‼」

 だが、響き渡ったのは四十九院の怒号。
 飛び跳ねるように立ち上がった彼女に、取り巻く女子生徒は気まずげに顔を俯かせていく。

「申し訳ありません、星花さま。『形代』で探ったところ、どうやら大和慧はエリア④へ移動していた模様です」

 四十九院の秘書、水間寺杏奈みまでらあんなは、相も変わらず謝罪時のお手本のように頭を下げる。

「エリア④……? あの害虫はエリア㉑に居たはずよ⁉ それなのに失格にもならないで、のうのうと生き残ってるなんて……! 奴の能力は⁉」
「申し訳ありません。それはまだ――」
「この役立たずっ‼」

 四十九院は側に落ちていた木の枝を拾い、己が秘書の頭へと投げつける。
 水間寺は一切避けることなく、そして動揺することなく、また「申し訳ありません」と頭を下げるだけ。

「ほんとに……つまらない子ッ……‼」

 歯を食い縛り、見下し、浮かび出た怒りの皺は、とても名家のご令嬢とは思えないもの。
 親すらも頭を抱える邪知暴虐な振る舞いは、エリア内の雰囲気をより殺伐とさせていた。

 が、その空気を打ち破るかのように突如――

「「「「「――――――――――ッ⁉」」」」」

 落雷でも落ちたかの如き、轟音が耳に届く。

 地は揺れ、遠方に宙を舞う砂埃を見い出すと、次いでエリア封鎖を知らせる警告音が鳴り響く。

『えー……みなさん。お疲れ様です……。生徒会長の景川士かげかわつかさです。またまた戦況に変化がありましたので、ご報告させていただきます。時刻~十時十五分……かな? エリア⑮にてそのぅ……『保有ポイント0』を確認いたしました。よって、同エリアは封鎖となります。失格者の方は講堂にある観戦室へと移動してください……。以上で戦況報告、終わります……』

 麗しの景川からの報告にも、今の四十九院には酷く笑えない冗談に聞こえていた。
 デバイスには自分の愛してやまない仔猫の名が順々に表示されていき、その現実を目の当たりにした四十九院は、ただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

「エリア⑮……? そんな……嘘よ……なんで……」
「オレの仲間が上げたのさ……反撃の狼煙をな?」

 と、宙を漂っていた四十九院の問いを、どこからともなく届いた声が捉える。

 その存在は先ほど齎された情報とは決して噛み合うことのないイレギュラー。
 木々が重なり合ってできた闇に『Turritopsisツリトプシス』の赤い閃光が灯されると、この聖域に立ち寄ることを固く禁じていた――『害虫』が姿を現す。

「何故、あなたが此処に居るのォッ……大和慧ィッ⁉」

 四十九院の癇癪は突如現れた大和により留まることを知らず、

「喧嘩を売ったのはお前だろ? だからわざわざ会いにきてやったのさっ」

 この男はこの男で嫌味ったらしくほくそ笑み……ウィンクを飛ばしていた。

 悪寒の走った四十九院は「ヒィッ⁉」と己が身体を抱きしめ、大和はそのまま水間寺の横を通り抜けると、女王の御前ごぜんへと参上する。

「おいおい、そんなに喜ぶなよ。嬉しかったのか? ……オレに会えて?」
「そんな訳無いでしょ⁉ 気色悪いッ……!」

 あの四十九院の傲慢さを以てしても、大和の不気味さには思わず後退り。
 輪をかけてその面持ちも、苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。

「女ばっかとヤってちゃ、さすがに飽きるだろ? たまには男もつまみ食いしたらどうだ? 何だったらオレが相手してやってもいい。夜のあれこれは一通り経験済みだからな?」
「穢らわしいィ……! なんて穢らわしい言葉を吐くの、この害虫はッ……! 自分の置かれている状況が分かっていらっしゃらないようね⁉」
「状況? はて? なんのことやら……」

 大和はわざとらしく辺りを見回すと、外国人風に肩を竦めてみせる。

「わたくしを誰だと思ってますの? 四十九院財閥の一人娘にして、唯一の跡継ぎ――四十九院星花よ! わたくしの手にかかれば、クラスの人員を操作することなど容易きこと。ただ可愛いな子ばかりを揃えたわけじゃありませんことよ?」

 と、四十九院が女王たる笑みを零すと、その命に従うように周りの女子生徒が一歩二歩と前に出る。酷く表情を陰らせながら……

「なるほどね。だから、ご丁寧にも配置したってわけか」

 しかし、一転――四十九院の面持ちから笑みが消える。
 周りの女子生徒たちも大和の言わんとしていることを察したのか、一様に顔を見合わせていた。

「どういう……意味ですの……?」
「だから必要だったんだろ? お前が掲げる――『条件』に」
「――ッ⁉ あなた……まさか……!」

 そこで四十九院はようやく気付いた。
 この男が、これから何をしようとしているのかを。

 自分は四十九院財閥の娘。ゆくゆくはこの国の未来を背負う存在だ。
 そのような選ばれし者に対し、下等な害虫が『愚』を侵すなどあるはずがない。あり得ないと……今の今まで、そう思い込んでいた。

 しかし、立ち塞がった相手は『口撃のヤマト』。
 口先一つであらゆる逆境を跳ね除け、例えどんな強大な敵であっても、噛みついたら離さない命知らずな男。

「さて……じゃあ、そろそろ始めようか? 楽しい楽しい『暴露』の時間を」

 そんな反逆者が今、自分の喉元に刃を翳す――
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