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第二章 宝探し

第87話 ローマは一日にして成らず

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 渡へのイジりはこのくらいにと、大和は宝箱の前にてしゃがみ込む。
 外観にじっくり目を通すと、やはりそこにもアルファベットが刻まれていた。

「P……FFF……OAA……LL……。これを復号すると……M……CCC……LXX……ⅠⅠ……か。並びから察するにこれは……」

 大和がそう呟くと、

「『ローマ数字』のようですね。Mは1000、Cは100で三つありますから300。LXXは70でⅠⅠは流れからして2を表している。そう仮定するとこれは、『1372』ということになりますが」

 御門が補足するように続ける。

「1372? まーた暗号かいな……」

 伍堂はまたも顔を顰め、頭をポリポリ。

「と言っても鍵はついてないわよ? 打ち込むような場所もないし」

 藤宮も大和同様しゃがむと、宝箱をつんつん。

「そもそも宝箱は誰でも開けられるようになってますからね……。こんなクソの役にも立たない私ですら……」

 一ノ瀬はこの世の終わりかの如き面持ちで持っていたPCを閉じ、

「でも……鳥さんたちが言うには、他の宝箱にも同じ文字が刻まれてるみたい……。何か法則性があるのかも……」

 橋本は体調が優れぬ中でも、しっかりと会話に参加していた。

 各々の意見を総合したのち、沈黙に包まれる御一行。
 しかし大和は、ある仮説に辿り着いたのか、眉をピクリと動かす。

「何かお分かりに?」

 御門はすぐに察し、大和へと尋ねると、皆の視線が一斉に注がれる。

「やはり……またイタリア縛りか」
「また、とは?」
「ついこの前、猫探しをした時にもこんな問題が出てな。でも、何故……」

 再び顎に手を触れる大和に、後方に佇んでいた渡が「そういえば……」と、助け舟を出す。

「学園に住みついている黒猫のカーポ。実は名付け親は理事長って話だ。レクリエーションの主催者も理事長だし、あながち当たらずとも遠からずだったりして?」

 渡から齎された情報に、ある種の確信を得る大和。
 この男がこのタイミングで関係のないことを言うはずがないと。

「となると、この数字は……イタリアの年代を表している可能性が高いな」

 大和がそう推理すると、御門が「まあ、妥当ですね」と何度か頷いてみせ、次いで藤宮が独り言のように疑問を零す。

「年代? 1372年ってこと? その時に何かあったとか?」
「1372年といえば、『ピサの斜塔』が完成した年ですね」

 と、気を遣ったのか、その問いには御門が答える。

「ふ~ん、『ピサの斜塔』ねぇ……って、なんだっけ?」
「イタリアのトスカーナ州にあるピサ大聖堂の鐘楼のことです。テレビなどで一度は見たことあるでしょう? 傾いている塔を」
「あぁ! アレね! ……で、それがなんなの?」
「『ピサの斜塔』が傾いたのは地盤の不等沈下が原因です。何度も修正を試みたようですが総じて。額面通りに受け取れば、『この宝箱は開けるべきではない』という意味かもしれませんね」

 御門の推理を前に藤宮は「へ、へえ……」と困惑した顔で愛想笑いを浮かべている。正直、ついていけないといった様子。

 だが、大和がすかさず――

「しかし、そんな『ピサの斜塔』も今や名所。逆に『この宝箱はアタリ』と捉えることもできる。今の成功か過去の失敗か……。法則性を見極めるという意味では、この宝箱はアタリと言えるかもしれん。このエリアの保有ポイントは?」

 と、異を唱え、御門へと尋ねる。

「先程、皆さんが席を外している間にマイナスを食らいましてね。今は87ポイントです」
「なら、余裕はあるな?」
「そうも言えません。マイナスポイントはランダム性のようです。一回目は10ポイント。二回目は3ポイントでしたから。どこまで上限があるのか判断できない以上、一発アウトの可能性も考慮しなければなりません」
「なら、お前らは別エリアに行って指くわえて見てろ。オレが開ける」
「誰もやらないとは言ってませんが?」

 強情な二人である。と、藤宮は思いつつ溜息と共に愚痴を漏らす。

「っていうか、わざわざそんなとこまで読み取らなきゃいけないわけ? 知識ないと無理ゲーじゃない……」

 大和はゆるりと腰を上げると宝箱を眼下に見据え、その問いに答える。

「だからこそ鍵がついてないんだろう。誰でも開けられる……。だが、仮にこの法則が当たっていた場合、『永遠とわの指輪』にも同じルールが適用される可能性がある。今やって得はあっても損はないだろう。それこそ『ローマは一日にして成らず』だ」

 藤宮は気後れしたのか「ハイハイ、仰せのままに……」と両手を差し出し、それ以上口を挟むことなく大和へとバトンを返す。
 大和はそんな彼女に口端を緩め、全員の意を確かめるように視線を移していく。

 藤宮、伍堂、一ノ瀬、橋本、御門、渡……全員が神妙な顔で頷いてみせ、宝箱を開けることに賛成の意を示す。
 確認が済むと大和も返すように頷き、「じゃあ……行くぞ?」と一拍置くと――思いっ切り宝箱を蹴り上げた。

 衝撃で宝箱が開かれるなり中から光の柱が飛び出し、宙には十字架のようなものが出現。全員が唖然とする最中、その十字架は大和のデバイスへと吸い込まれていく。

 すぐさまデバイスを覗き込むと画面には――

「フッ、どうやら……成功したようだな」

 『お助けアイテム』の文字と共に『復活の十字架』(失格になった仲間を復活させる)の名が浮かび上がっていた。
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