口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第二章 宝探し

第83話 蛯で鯛を釣る

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 講堂、観戦エリア――

 失格した我々二年B組は、興奮冷めやらぬ中、講堂へと到着。
 今や装着した『Turritopsisツリトプシス』も赤い輝きを失っている。つまり、機能してないということ。失格者の証だ。

 ステージ上には巨大なスクリーンが設置されており、それを前方に捉えつつ半円を描くように席がずらりと並んでいる。
 二階には保護者席も完備しており、名門校らしく以下省略。この学園に居ると語彙力が失われていく気がするなぁ……

 二年B組はまるで勝利者の如く中央へと腰かけ、私も悪いとは思いつつ、一応その流れに続いて着席する。

 すると突然、隣に座った神田くんが小声で私に話しかけてきた。

「なあ、牧瀬? もしかして俺ら……踏み台にされただけじゃね?」

 あ、バレた。流石に冷静に考えたら気付いちゃうよね……

「あぁ……いやぁ……」

 私が首を傾けながら言い淀んでいると、横から――

「でも、そのお陰で大和は生き残ることができた。……そうだろう?」

 姿を消していた制服姿の蛯原くんがウィンクと共に登場した。気持ち悪っ……!

「蛯原くん……今まで何処に?」

 と、私が若干引きつつ問うと、蛯原くんは気味の悪い笑みを浮かべつつ、隣へと腰を下ろしてしまう。

「なんだい、牧瀬さん? もしかして俺のこと心配して――」
「してません! ど・こ・に! 行ってたんですか?」

 いけない……。このままでは眉間にしわが刻み込まれちゃう。冷静にならないと……

「どこって……大和から聞いてないのかい?」
「聞いてないから聞いてるんです。二度同じことを言うのは嫌いなのですが?」
「……なんか大和に似てきたね、牧瀬さん……。もしかして付き合って――」
「神田くん。席、交換してください。このままだと頭が沸騰しちゃいそうです」

 私の圧が珍しかったのか、神田くんは「お、おぅ……」と素直に提案を受け入れる。

「おいおい、まだ席はいっぱいあるんだ。余所に行きなよ、余所に?」

 と、文句を言いながら手をしっしと振る蛯原くん。どの面下げて言ってるんだろう。

「なんでお前に指図されなきゃいけねえんだよ! このごますり野郎ォ!」

 神田くんは蛯原くんの頭をぺちこーんと叩くと、私を守るように間に座る。

「ごますって何が悪いのさ? 人間、どんなに堕ちたとしても、生き残ることに意味がある。生き残れば……いつだって変われるんだ!」
「何ちょっとカッコいいこと言ってんだバーカ! お前が言ったらなぁ! 全部、台無しなんだよ、台無し! テメエみたいなやつは一生這いつくばってろ、この下っ端野郎がッ!」
「何だとッ⁉」
「何をォ⁉」

 二人は掴み合ったのち、ポカポカと互いを殴り始める。
 あまりにも無駄なやり取りに私は辟易しつつ、止めに入りながら蛯原くんへと今一度問う。

「あのぅ……もうそういうのいいですから。で、蛯原くんは何処に居たんですか?」

 蛯原くんは神田くんの手を払い除けると、咳払いののちに笑みを浮かべ、言葉を返していく。

「もちろん牧瀬さんたちと同じエリア㉑さ。と言っても俺は『別動隊』だけどね」
「別動隊……?」
「うん。実は事前に大和から頼まれててさ。俺の役目は君たちが敵を引き付けている間、裏で片っ端から宝箱を開けること。まあ、四十九院側もエリア封鎖を恐れて別動隊を動かしてたみたいだけど、俺には【展開投射】があったからさ。遠方から宝箱をつついて、ちょちょいのちょい! 結果、見つかることなく、陰で暗躍できたってわけさ」
「それってつまり……⁉」

 私の反応がさぞ嬉しかったのか、蛯原くんはこれ見よがしに一拍開けると、

「そう! エリア㉑の封鎖と同時に全員をまとめて失格に追い込んだのは、何を隠そう――この俺さ♪」

 ドヤ顔で気持ちの悪い笑みを浮かべた。



 数十分前、エリア④――

「まさか、こんなに上手くいくなんて……」

 と、デバイスに映る失格者を見ながら、驚きを露わにする藤宮。

「大したもんや、兄弟! さすがはワシの認めた男や!」

 伍堂は腕を組みながら、大層嬉しげに頷いている。
 格好は他の者とは違い、専用スーツの上にいつもの制服を着こんでいるようだ。

「うんうん! 本当に凄いよ、大和くん! 牧瀬ちゃんが犠牲になっちゃったのは、ちょっと残念だけど……」

 橋本は嬉しさと寂しさが入り交じる面持ちに。

「でも、そのお陰で上手いことカモフラージュできた。そうだろ? ……大和くん」

 渡は伍堂同様、制服を着こんでおり、ポケットに手を入れる定番スタイルで、総大将――大和慧へと問いかける。

「ああ。これで邪魔者はほとんど消えた。これでオレたちは『宝探し』に専念できるというわけだ」

 先程までエリア㉑に居たはずの大和は、デバイスから目を離し、全員を見遣る。
 ちなみに大和も制服姿だった。

「いったいどんな手を使ったのよ? まさか……妙なことしてないでしょうね?」

 藤宮はそれはそれは訝しげな視線を大和へぶつける。

「今回の『宝探し』は妨害、戦闘、なんでもありだ。妙なことをしたとて咎められる筋合いはない」

 が、大和の返答は相変わらずのもので、藤宮は「なんかしてるのね……」と呆れていた。

「それで兄弟。これからどないするんや? うちのクラスはやる気あらへんから、ここの封鎖も時間の問題やで?」

 伍堂は特段、焦った様子もなく大和へ告げる。

「そうだな。ならそろそろ、お宅訪問といこう。……もう一人の『協力者』のところにな」

 総大将たる大和はそう零すと、口辺に笑みを漂わせつつ、少数精鋭を連れて南下を始めた。
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