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第二章 宝探し
第82話 大立ち回り
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モニタリング室――
「「「「「おお……!」」」」」
どよめきが上がったのはモニタリングしていた教員たち。
開幕して早々、大和慧の大立ち回りに室内は盛り上がりを見せていた。
「凄いな、あの生徒は……!」
「これで内周エリアは葦原のとこ以外、ほぼ半壊か……」
「しかも自分だけは、ちゃっかり生き残ってますしね」
「さすが、自ら『暴露』していくだけのことはある」
「飛び降り事件も彼が収めたって話ですし」
「凄いじゃないですか、滝先生!」
ガタイのいい体育教師に背中を叩かれた滝は、どうリアクションしていいか分からず、「あ、ありがとうございます……」と苦笑いで返している。
しかし、そんな中……
「どういうこと……?」
一人、呟くはモニター前に立つ景川。
腕を組みながら画面に映る位置情報に小首を傾げている。
「さっきまで㉑に居たはずなのに……どうしてエリア④に?」
㉑番に本陣を構えていたはずの大和慧。
しかし、今あの男は何故か伍堂出が牛耳る――エリア④へと出現していた。
すると、生徒会書記と思われる女子生徒もまた首を傾げ、景川に問いを投げかける。
「エリア㉑が消失した瞬間、位置情報が切り替わりましたからね……。もしかして大和慧さんは【瞬間移動】の能力でも持ってたんでしょうか?」
「う~ん、それはないと思うんだけど……」
そんな彼女らに後方に座していた王――
「彼には優秀なサイドキックがついていますからね。この程度、造作もないでしょう」
烏間久が解説を挟む。
「烏間校長……。サイドキックってまさか……?」
と、景川は自分より『上』の存在である烏間に、恐る恐る言葉を返していく。
「ええ。恐らくデバイスに【ハッキング】でもし、位置情報を改竄したのでしょう」
「ハッキング……。『一ノ瀬叶和』、ですか……」
「フッフフ……相変わらず盤外戦術が得意ですね、彼は。面白い……」
烏間は何処か自分のことのようにクスクスと笑みを零す。
いかにもご機嫌と言った様子だが、景川からすれば不気味なことこの上ない。ただ言葉を交わすだけでも、嫌な汗が滲み出てくる。
「ですが、監視カメラがエリア㉑に映る大和慧の姿を捉えています。外周を取り囲んだ生徒の様子から見ても、本陣に居たことは間違いありません。位置情報の謎は解けても、そちらの説明が……」
「どうやら部外者が紛れ込んでいたようですね。……彼になりきった誰かさんが」
「部外者……?」
烏間はまた不敵な笑みを浮かべると、「あぁ、いやいや」と自分の言葉を訂正するように前置きし、
「別に構いませんよ、それくらい。今回の『宝探し』は妨害、戦闘、なんでもありですからね。そもそも能力者に正道など愚の骨頂。本番前から仕込みを済ませ、外部の力さえ利用し、裏工作する。まさにこれこそが能力者のあるべき真の姿なんですから」
◆
『時戒室』――
いつもと違い、映画館のようなこの場所。
荒廃してるもののスクリーンには大和の雄姿が映し出されており、主たる不時之求馬は特等席に座りながら彼の動向を見守っている。
「おお! さすが大和さん! 素晴らしき策です!」
……法被をその身に纏って。
両手にはスティックバルーンも握られており、それを六十代の老女が年甲斐もなくポンポン叩いていらっしゃる。
「………………」
そばで控えていた佐藤も、これには苦笑い。
一つ咳払いをしたのち、不時之へと語りかける。
「お気に召したようで何よりです。では、自分はこれで……」
そう言って佐藤は足早に『時戒室』を後にせんと扉を開ける。が――
「あぁ……やっぱこうなるよね……」
もう既に時空の渦に囚われていた為、不時之の傍らへと戻ってきてしまう。
「さあ、佐藤先生! あなたもこれを!」
不時之は特段気にした様子もなく、少女のような笑みで法被とスティックバルーンを差し出す。
佐藤はそれを「……はい」と死んだ目で受け取り、観念して羽織っては不時之の隣へと着席する。
「いやぁー! しかし、大和さんは相変わらず面白いことをしてくれますね~! 自分と影武者のデバイスをハッキングし、あたかもエリア㉑にいると見せかけて本体は雲隠れ! 運営を騙すしつつ、内周の男子生徒たちを餌で釣り、押し寄せてきたところでボンッ! 見事、半壊に追い込むことに成功! 大和くんも優勝を狙ってましたし、まさか道連れにするなんて思わなかったんでしょうね~! 油断大敵! 四十九院さんも女性には甘いですから、これで追撃の手も少しは緩むはず! 運営側も不正を疑おうにも、【瞬間移動】能力の可能性を否定できないため、罰することは難しい! 美しい! なんと美しいのでしょう!」
「は、はあ……」
(出たぁー! 不時之理事長の長ったらしい解説ぅー! 去年も聞かされたんだよなぁぁ、これぇ……。まあ……話し相手、俺しかいないし、他に娯楽が無いからしょうがないけど、毎回聞かされる身にもなってくれよぉ! マジで!)
佐藤は心の中で叫んだ。奥底から叫んだ。まあ、それも無理からぬこと。
二年目のペーペーが学園のトップと二人きりなのだ。普通に考えれば、胃に穴が開くどころの話ではない。
例え『異能狩り』の件で繋がっていようと、その緊張感、のしかかるストレスは計り知れないだろう。気まずいったらありゃしない。
「さあて! 大和さんはどうやって宝を見つけるのかなぁ~! 楽しみですね、佐藤先生!」
「はは……そうっスね……」
(先輩! お願いします! 早めに決着つけてください! さすがに三時間ずーっとこれは――キツ過ぎます!)
佐藤の受難は続く……
「「「「「おお……!」」」」」
どよめきが上がったのはモニタリングしていた教員たち。
開幕して早々、大和慧の大立ち回りに室内は盛り上がりを見せていた。
「凄いな、あの生徒は……!」
「これで内周エリアは葦原のとこ以外、ほぼ半壊か……」
「しかも自分だけは、ちゃっかり生き残ってますしね」
「さすが、自ら『暴露』していくだけのことはある」
「飛び降り事件も彼が収めたって話ですし」
「凄いじゃないですか、滝先生!」
ガタイのいい体育教師に背中を叩かれた滝は、どうリアクションしていいか分からず、「あ、ありがとうございます……」と苦笑いで返している。
しかし、そんな中……
「どういうこと……?」
一人、呟くはモニター前に立つ景川。
腕を組みながら画面に映る位置情報に小首を傾げている。
「さっきまで㉑に居たはずなのに……どうしてエリア④に?」
㉑番に本陣を構えていたはずの大和慧。
しかし、今あの男は何故か伍堂出が牛耳る――エリア④へと出現していた。
すると、生徒会書記と思われる女子生徒もまた首を傾げ、景川に問いを投げかける。
「エリア㉑が消失した瞬間、位置情報が切り替わりましたからね……。もしかして大和慧さんは【瞬間移動】の能力でも持ってたんでしょうか?」
「う~ん、それはないと思うんだけど……」
そんな彼女らに後方に座していた王――
「彼には優秀なサイドキックがついていますからね。この程度、造作もないでしょう」
烏間久が解説を挟む。
「烏間校長……。サイドキックってまさか……?」
と、景川は自分より『上』の存在である烏間に、恐る恐る言葉を返していく。
「ええ。恐らくデバイスに【ハッキング】でもし、位置情報を改竄したのでしょう」
「ハッキング……。『一ノ瀬叶和』、ですか……」
「フッフフ……相変わらず盤外戦術が得意ですね、彼は。面白い……」
烏間は何処か自分のことのようにクスクスと笑みを零す。
いかにもご機嫌と言った様子だが、景川からすれば不気味なことこの上ない。ただ言葉を交わすだけでも、嫌な汗が滲み出てくる。
「ですが、監視カメラがエリア㉑に映る大和慧の姿を捉えています。外周を取り囲んだ生徒の様子から見ても、本陣に居たことは間違いありません。位置情報の謎は解けても、そちらの説明が……」
「どうやら部外者が紛れ込んでいたようですね。……彼になりきった誰かさんが」
「部外者……?」
烏間はまた不敵な笑みを浮かべると、「あぁ、いやいや」と自分の言葉を訂正するように前置きし、
「別に構いませんよ、それくらい。今回の『宝探し』は妨害、戦闘、なんでもありですからね。そもそも能力者に正道など愚の骨頂。本番前から仕込みを済ませ、外部の力さえ利用し、裏工作する。まさにこれこそが能力者のあるべき真の姿なんですから」
◆
『時戒室』――
いつもと違い、映画館のようなこの場所。
荒廃してるもののスクリーンには大和の雄姿が映し出されており、主たる不時之求馬は特等席に座りながら彼の動向を見守っている。
「おお! さすが大和さん! 素晴らしき策です!」
……法被をその身に纏って。
両手にはスティックバルーンも握られており、それを六十代の老女が年甲斐もなくポンポン叩いていらっしゃる。
「………………」
そばで控えていた佐藤も、これには苦笑い。
一つ咳払いをしたのち、不時之へと語りかける。
「お気に召したようで何よりです。では、自分はこれで……」
そう言って佐藤は足早に『時戒室』を後にせんと扉を開ける。が――
「あぁ……やっぱこうなるよね……」
もう既に時空の渦に囚われていた為、不時之の傍らへと戻ってきてしまう。
「さあ、佐藤先生! あなたもこれを!」
不時之は特段気にした様子もなく、少女のような笑みで法被とスティックバルーンを差し出す。
佐藤はそれを「……はい」と死んだ目で受け取り、観念して羽織っては不時之の隣へと着席する。
「いやぁー! しかし、大和さんは相変わらず面白いことをしてくれますね~! 自分と影武者のデバイスをハッキングし、あたかもエリア㉑にいると見せかけて本体は雲隠れ! 運営を騙すしつつ、内周の男子生徒たちを餌で釣り、押し寄せてきたところでボンッ! 見事、半壊に追い込むことに成功! 大和くんも優勝を狙ってましたし、まさか道連れにするなんて思わなかったんでしょうね~! 油断大敵! 四十九院さんも女性には甘いですから、これで追撃の手も少しは緩むはず! 運営側も不正を疑おうにも、【瞬間移動】能力の可能性を否定できないため、罰することは難しい! 美しい! なんと美しいのでしょう!」
「は、はあ……」
(出たぁー! 不時之理事長の長ったらしい解説ぅー! 去年も聞かされたんだよなぁぁ、これぇ……。まあ……話し相手、俺しかいないし、他に娯楽が無いからしょうがないけど、毎回聞かされる身にもなってくれよぉ! マジで!)
佐藤は心の中で叫んだ。奥底から叫んだ。まあ、それも無理からぬこと。
二年目のペーペーが学園のトップと二人きりなのだ。普通に考えれば、胃に穴が開くどころの話ではない。
例え『異能狩り』の件で繋がっていようと、その緊張感、のしかかるストレスは計り知れないだろう。気まずいったらありゃしない。
「さあて! 大和さんはどうやって宝を見つけるのかなぁ~! 楽しみですね、佐藤先生!」
「はは……そうっスね……」
(先輩! お願いします! 早めに決着つけてください! さすがに三時間ずーっとこれは――キツ過ぎます!)
佐藤の受難は続く……
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