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第二章 宝探し

第81話 空蝉のヤマト

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 大和くんの『追撃』に周りの者たちはただ顔を見合わせるだけ。
 微かに『一理あるかも……』、『どうする……?』などの声が届き、四十九院傘下の軍勢には風穴が開き始めていた。

 口先一つで戦況を変える様は、まさしく『口撃のヤマト』そのもの。でも、さっきまでのキャラは明らかにおかしいし……。ただ、この大立ち回りっぷりは本物としか……

「おい……! なんか作戦と違くないか……?」

 と、神田くんも流石に異変を感じたのか、小声で大和くんに問いかける。

「やれることは全部やるだけだ。それにお前らは家族。生き残る時も死ぬ時も……一緒だ」
「大和……お前……」

 絆されてるぅー! 完全に絆されてるよ神田くん! やっぱり偽者だ、この人! だって大和くんはもっとこう……社交性ないもん! 失礼だけど!

 大和くんは相変わらずのイケメンスマイルで神田くんの肩に手を置くと、一歩前に出て敵側へと語りかける。

「さあ、どうする? もしオレの側につくって言うなら、アンタらの未来……変えることができるかもしれないぜ?」

 すると矢面に立つ先輩は、

「変えるって……どうやって?」

 と若干歩み寄りを見せる。

「オレは『口撃のヤマト』だ。やることは……一つだろ」
「……まさかっ! 『暴露』する気か⁉」

 『暴露』……その一言に更なる動揺が広がる敵方。
 あまりの緩急に私でさえ、その波に呑まれそうになる。

「そんなに驚くことか? いつものことだろ」

 と、指先をいじりながら軽く言い放つ大和くん。

「お前っ……いくらなんでもそれはやりすぎだ! 言ってること無茶苦茶だぞ⁉」

 それに対し神田くんは猛反発。

 彼が怒るのも尤もだ。いくら彼女が道理を弁えないからといって、四十九院財閥の一人娘を『暴露』するなんてリスクに見合わなさすぎる……! どこまで堕ちても子は子。親が許すとは到底思えないが……

 敵方も同じ思いと、一斉に戦闘態勢へと移行。
 矢面に立つ先輩は一歩前に出るなり、大和くんへと宣戦布告する。

「やっぱ、お前とは組めねえわ! 『暴露』はどこまでいっても『暴露』ッ……! 一生、裏切り者の烙印を押される! そんなんじゃこの世界、生きて行けねえんだよ! 向こう見ずのバカはどっちだって? その言葉、そっくりそのまま返してやるぜッ! 行くぞォッ‼」

 そして、ぶり返す戦意を糧とし、一手に雪崩れ込んでくる敵勢。
 神田くんは、「結局こうなるのかよッ……!」と拳を握り締め、クラスの皆と共に大和くんを守らんと迎撃の構えに。

 もはや戦いは避けられぬといった様相。しかし――

「そうか。それは残念。……

 当の大和くんが淡々とデバイスを覗いたその時――事態は急変する。

 ビィィイイーッ‼ ビィィイイーッ‼ ビィィイイーッ‼ ビィィイイーッ‼

 両者入り乱れる中、突如として鳴り響く警告音。
 敵味方関係なく巻き込むこの異常事態に、周囲の者たちは一様に辺りを見回し始め、動揺を露わにしていく。

『みなさん、レクリエーションお疲れ様です。生徒会長の景川士かげかわつかさです。ただ今、戦況に変化がありましたので、ご報告させていただきます。時刻九時十六分、エリア㉑において――『保有ポイント0』を確認いたしました』

 当たりに響き渡るのは、間違いなく景川会長の声。
 その呆気ない宣告に――

「何っ……⁉」
「そんなっ⁉」
「嘘だろ……⁉」
「なんで⁉」

 と、敵方から取り乱す声音が聞こえてくる。

『よって、エリア㉑は封鎖となります。なお、同エリアに留まっていた生徒も問答無用で失格です。すぐさま退場して講堂にある観戦エリアへと移動してください。詳しくはデバイスに表示されるので、各自ご確認をお願いいたします。以上で戦況報告を終わります。お疲れ様でした』

 事務的な連絡が終わり、辺りが静寂に包まれると、まず初めに声を上げたのは、矢面に立っていた先輩だった。

「バカなッ……! まさか道連れだと⁉ 聞いてた話と違――って、あれ……?」

 だが、この事態を引き起こした当の本人は……忽然と姿を消していた。
 その異変は我がクラスにまで波及し、私も遅ばせながら周囲へと視線を彷徨わせる。

「おい……大和の奴、どこ行ったんだよ? まさか一人で突破したんじゃ……⁉」

 神田くんも辺りを見回していたが、恐らくそれは無いだろう。外周は完全に囲まれている。何かあれば誰かが気付くはずだ。いったい彼は何処へ……

 そんな折、デバイスのバイブレーション機能が作動。
 小さな画面には『DSQ失格』と表示され、失格者の名が次々と羅列されていく。

 神田くん、私、クラスのみんな……中には姿が無かった蛯原くんの名前も表示されおり、文字が上へ上へと流れていくにつれ緊張が高まっていく。

 そう。今、重要視すべきは大和くんの名があるかどうか。
 ここにいる全員、気持ちは違えど『大和慧』の名に注目する。

 篠山、安形、楠木……数ある名前が出たのち、しばらくすると――『失格者、計176名』の文字を最後に画面は暗闇へとした。

「大和の名前が無い……? ってことはこれ……上手くいったってことか⁉」

 神田くんのその言葉を聞いた瞬間、我が二年B組は一転――

「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお‼」」」」」

 両手を挙げて歓喜の声を上げた。
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