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第二章 宝探し
第78話 報告ニャンコ
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大和宅――
本日は土曜日。怒涛の一週間を過ごした大和は、疲れ切った身体を休めんと二連休を謳歌する。はずだったのだが……
ポツリ……ポツリ……
あいにくの空模様。
携帯の天気情報では、週末に急遽、台風が接近するとか。今にも本降りになりそうな勢いである。
「はぁ……」
別段、外に出ようと思ったわけではない。だが雨は、どうにも気が滅入る。
特に最近は、やたらと人付き合いが多い所為か、余計そう感じてしまう。元から無機質だった部屋も今日は一段と静かだ。
大和は八の字になる眉でカーテンを閉め、ベッドへと寝転がる。
「………………」
何も無い。何も。
テレビも無い。ゲーム機も無い。本すら一冊も無い。携帯はあるが、必要最低限しか使わない。
無音。ただ無音が広がっている。
聞こえるのは精々、微かに届く雨音と、
カリカリカリカリカリ……!
……扉を引っ掻く妙なカリカリ音。
「まさか……」
大和はすぐ起き上がるなり玄関へ。
カリカリカリカリカリ……!
近づく度に音が大きくなっていく。
どうやら扉の向こう側に犯人がいると見て間違いないようだった。
大和は辟易した様子でチェーンを外し、ロックを解除して扉を開ける。
すると眼下には――
『ハ~イ、坊や。しばらくぶりね?』
予想通り、黒猫のカーポがいた。
「カーポ……何故、お前がここに?」
『ちょっとした雨宿りにね。台風来るんでしょ? 私の小さい体じゃ、余裕で吹き飛ばされちゃうからさ』
「だったら牧瀬のとこに行けばいいだろ? 一々こっち来んな」
呆れた面持ちで扉を閉める大和。だが、すぐに――
カリカリカリカリカリ……!
「おい、いい加減にしろッ……! 傷がつくだろうがッ……!」
大和は扉を開け、周りに聞こえぬよう静かに怒る。
『ごめんなさい。私、猫だからつい』
「インターホンくらい、お前ならもう理解してるだろッ……⁉」
『だから、ごめんて。じゃ、おっ邪魔~』
「ちょっ――おいっ!」
カーポは大和の制止を振り切り、股の間をすり抜けていくと、一気にリビングまでペタペタペタペタ。
『うわぁ……想像以上に何にもないわね……。つまんないの』
「おい……誰が掃除すんだ、コレ……?」
大和はフローリングにできた肉球の道を追い、その有り様に頬をピクつかせている。
『ねえ? キャットタワーとかないの?』
しかしカーポは、またも素知らぬ顔でリビングをペタペタペタペタ。
「ある訳ねえだろッ……! っていうか、汚い足で歩くな!」
『汚いなんて失礼しちゃう。でも、一理あるわね。お風呂借りようかしら。どこ?』
大和は真横にあった扉を無言で開け、電気をつける。
『じゃ、お言葉に甘えて使わせてもらうわね』
そう言ってカーポは、また足跡をつけながら浴室へ。
「オレは別に何も言ってないんだがなッ……!」
と、大和が歯軋り交じりに訴えるも、カーポには始めっから届いていない。
彼女は前脚で器用に水栓を捻るとオーバヘッドシャワーから温水を出し、前脚でチロチロと温度を確認している。
「猫って風呂とか苦手じゃなかったっけ?」
『今更そんなこと聞くの? もうとっくに克服済みよ』
大和からの問いを軽く流し、温度確認が完了すると、
『で、いつまでそこに突っ立ってる気? 一緒に入りたいの?』
カーポは続けて、ニヤついた眼差しを向けてくる。
「……もうツッコむ気力も失せた」
大和は溜息をつくと戸棚からタオルを取り出し、さっさと退場。
フローリングに広がる肉球の跡に辟易しつつも、半ば諦めた様子で持っていたタオルを動かした。
◆
その後、雨は本降りになり、風がカーテンの奥にあるガラス戸をガタガタと揺らしている。
完全に台風直撃。流石にこの状況で追い出すわけにもいかず、大和は覚悟を決める。
『な⁉ にゃに⁉』
カーポが上がるなり、すぐにバスタオルにくるみ、わしゃわしゃと濡れた体を拭く。
『にゃ~……』
それが済むとドライヤーでさっさと乾かし、
『あら、気が利くわね』
液状スティックタイプのおやつ(まぐろ)をご提供。
用意がいいのは元々、世話になった御礼と献上しようと思っていたからだ。だが、今の今まで普通に忘れていた。
食事が済んだカーポは、ただ今、満足そうに毛づくろい中。
大和はベッドへと腰を下ろし、ようやく本題へ。
「で? わざわざ雨宿りだけしに来たわけじゃあるまい。……何の用だ?」
カーポはそこでピタリと毛づくろいをやめ、直後、大和の膝上に勢いよくジャンプ。ポジションを調整しながら丸まっていく。
『実は一つ気になったことがあってね。その報告をしようかと』
「気になったこと? なんだ?」
と、大和はカーポを撫でながら、そう返す。
『坊やが聞いたかどうか……伍堂出が仮死薬で死んだ後、実は警察が直ぐに到着してね。知ってる?』
「ああ。蛯原の話じゃ、そんな感じだったな」
『タイミング良すぎると思わない?』
だが、次第にその手は鈍さを増し……
「……確かにそれは思った。本当はオレが通報するつもりだったんだが、景川に捕まっちまってな。思うようにできなかった」
『あれはね。多分……葦原計都がやったことよ』
名を聞いた途端、完全に凍りついてしまった。
カーポはその手から動揺を感じ取るも、更なる情報を付け加える。
『あの件には私も一枚噛んでたからさ。高みの見物でもしようかと思って、校舎裏の階段を上ってたのよ。そしたら三階に……あの子がいた』
「つまり、奴が呼んだと?」
『わからない……。ただ、あの子はずっと見ていただけ。それがおかしいのよ』
「というと?」
『坊やは転校してきたばかりで知らないでしょうけど、あの子は学園内でいざこざがあった場合、いの一番に駆け付けて事態の収拾にあたるの。徹底した暴力でね。そこまでする子が喧嘩を見逃すというのはどうも不自然でね』
「互いに潰し合った後で警察を呼び、しょっぴいてもらう。それなら分からなくもないが……」
『ええ。それか……最初っから全部、知ってたか』
大和は度重なる懸案事項を前に天を仰ぐと……
「内通者……か」
胃の痛みを和らげるように優しくカーポを撫でた。
本日は土曜日。怒涛の一週間を過ごした大和は、疲れ切った身体を休めんと二連休を謳歌する。はずだったのだが……
ポツリ……ポツリ……
あいにくの空模様。
携帯の天気情報では、週末に急遽、台風が接近するとか。今にも本降りになりそうな勢いである。
「はぁ……」
別段、外に出ようと思ったわけではない。だが雨は、どうにも気が滅入る。
特に最近は、やたらと人付き合いが多い所為か、余計そう感じてしまう。元から無機質だった部屋も今日は一段と静かだ。
大和は八の字になる眉でカーテンを閉め、ベッドへと寝転がる。
「………………」
何も無い。何も。
テレビも無い。ゲーム機も無い。本すら一冊も無い。携帯はあるが、必要最低限しか使わない。
無音。ただ無音が広がっている。
聞こえるのは精々、微かに届く雨音と、
カリカリカリカリカリ……!
……扉を引っ掻く妙なカリカリ音。
「まさか……」
大和はすぐ起き上がるなり玄関へ。
カリカリカリカリカリ……!
近づく度に音が大きくなっていく。
どうやら扉の向こう側に犯人がいると見て間違いないようだった。
大和は辟易した様子でチェーンを外し、ロックを解除して扉を開ける。
すると眼下には――
『ハ~イ、坊や。しばらくぶりね?』
予想通り、黒猫のカーポがいた。
「カーポ……何故、お前がここに?」
『ちょっとした雨宿りにね。台風来るんでしょ? 私の小さい体じゃ、余裕で吹き飛ばされちゃうからさ』
「だったら牧瀬のとこに行けばいいだろ? 一々こっち来んな」
呆れた面持ちで扉を閉める大和。だが、すぐに――
カリカリカリカリカリ……!
「おい、いい加減にしろッ……! 傷がつくだろうがッ……!」
大和は扉を開け、周りに聞こえぬよう静かに怒る。
『ごめんなさい。私、猫だからつい』
「インターホンくらい、お前ならもう理解してるだろッ……⁉」
『だから、ごめんて。じゃ、おっ邪魔~』
「ちょっ――おいっ!」
カーポは大和の制止を振り切り、股の間をすり抜けていくと、一気にリビングまでペタペタペタペタ。
『うわぁ……想像以上に何にもないわね……。つまんないの』
「おい……誰が掃除すんだ、コレ……?」
大和はフローリングにできた肉球の道を追い、その有り様に頬をピクつかせている。
『ねえ? キャットタワーとかないの?』
しかしカーポは、またも素知らぬ顔でリビングをペタペタペタペタ。
「ある訳ねえだろッ……! っていうか、汚い足で歩くな!」
『汚いなんて失礼しちゃう。でも、一理あるわね。お風呂借りようかしら。どこ?』
大和は真横にあった扉を無言で開け、電気をつける。
『じゃ、お言葉に甘えて使わせてもらうわね』
そう言ってカーポは、また足跡をつけながら浴室へ。
「オレは別に何も言ってないんだがなッ……!」
と、大和が歯軋り交じりに訴えるも、カーポには始めっから届いていない。
彼女は前脚で器用に水栓を捻るとオーバヘッドシャワーから温水を出し、前脚でチロチロと温度を確認している。
「猫って風呂とか苦手じゃなかったっけ?」
『今更そんなこと聞くの? もうとっくに克服済みよ』
大和からの問いを軽く流し、温度確認が完了すると、
『で、いつまでそこに突っ立ってる気? 一緒に入りたいの?』
カーポは続けて、ニヤついた眼差しを向けてくる。
「……もうツッコむ気力も失せた」
大和は溜息をつくと戸棚からタオルを取り出し、さっさと退場。
フローリングに広がる肉球の跡に辟易しつつも、半ば諦めた様子で持っていたタオルを動かした。
◆
その後、雨は本降りになり、風がカーテンの奥にあるガラス戸をガタガタと揺らしている。
完全に台風直撃。流石にこの状況で追い出すわけにもいかず、大和は覚悟を決める。
『な⁉ にゃに⁉』
カーポが上がるなり、すぐにバスタオルにくるみ、わしゃわしゃと濡れた体を拭く。
『にゃ~……』
それが済むとドライヤーでさっさと乾かし、
『あら、気が利くわね』
液状スティックタイプのおやつ(まぐろ)をご提供。
用意がいいのは元々、世話になった御礼と献上しようと思っていたからだ。だが、今の今まで普通に忘れていた。
食事が済んだカーポは、ただ今、満足そうに毛づくろい中。
大和はベッドへと腰を下ろし、ようやく本題へ。
「で? わざわざ雨宿りだけしに来たわけじゃあるまい。……何の用だ?」
カーポはそこでピタリと毛づくろいをやめ、直後、大和の膝上に勢いよくジャンプ。ポジションを調整しながら丸まっていく。
『実は一つ気になったことがあってね。その報告をしようかと』
「気になったこと? なんだ?」
と、大和はカーポを撫でながら、そう返す。
『坊やが聞いたかどうか……伍堂出が仮死薬で死んだ後、実は警察が直ぐに到着してね。知ってる?』
「ああ。蛯原の話じゃ、そんな感じだったな」
『タイミング良すぎると思わない?』
だが、次第にその手は鈍さを増し……
「……確かにそれは思った。本当はオレが通報するつもりだったんだが、景川に捕まっちまってな。思うようにできなかった」
『あれはね。多分……葦原計都がやったことよ』
名を聞いた途端、完全に凍りついてしまった。
カーポはその手から動揺を感じ取るも、更なる情報を付け加える。
『あの件には私も一枚噛んでたからさ。高みの見物でもしようかと思って、校舎裏の階段を上ってたのよ。そしたら三階に……あの子がいた』
「つまり、奴が呼んだと?」
『わからない……。ただ、あの子はずっと見ていただけ。それがおかしいのよ』
「というと?」
『坊やは転校してきたばかりで知らないでしょうけど、あの子は学園内でいざこざがあった場合、いの一番に駆け付けて事態の収拾にあたるの。徹底した暴力でね。そこまでする子が喧嘩を見逃すというのはどうも不自然でね』
「互いに潰し合った後で警察を呼び、しょっぴいてもらう。それなら分からなくもないが……」
『ええ。それか……最初っから全部、知ってたか』
大和は度重なる懸案事項を前に天を仰ぐと……
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