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第二章 宝探し
第77話 束の間のヤマト
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異能探求部部室――
ミーティング(ほぼ自習)を終え、今は放課後。
我々……というか私は、いつも通り異能探求部へと赴いていた。
大和くんは何やら寄るところがあるらしく、後から合流するとのこと。
なので今は叶和ちゃんと二人、静かな放課後を過ごしている。
先日の一件で荒らされた部室も今や元通り。
ただ、黒幕の計らいなのか口封じの為なのか、ふっかふかの高級ソファが追加されていた。
洋風なソファと和風の畳台……いよいよもって統一感が無くなってきた気もするが、その座り心地は天にも昇るようで、今やここは私の特等席となっている。部長だし少しくらいいいよね?
「あぁ……牧瀬しぇんぱ~いぃ……」
そんな中、叶和ちゃんが不意に私へと語りかけてくる。
ぐでーんとPCに顔を置く様は、どことなくスライムのよう。
「なーに、叶和ちゃん?」
私は叶和ちゃんを正面に捉えつつ、小説に目を落としながらページを一めくり。
「暇ですねぇ……」
「うん。暇だね」
運動部がランニングでもしてるのか、外からは微かに掛け声が聞こえてくる。
「………………」
「………………」
……まあ、暇なのは今に始まったことではない。依頼が無ければ、大体いつもこんなもの。それだけ平和なのだと……そう思うことにしている。
いや、そもそも異能探求部に頼るという選択肢が最初からないと言った方が正しいか。一年間走り回って顔だけは売ってるから、名前だけは通ってるはずなんだけど……如何せん胡散臭い。自分で言うのは、ちょっぴり悲しいけど。
でも、最近は大和くんのお陰で二件も依頼を達成している。こんなことは部活創設以来、初めてのこと。黒幕との一件も後押ししてか、そこら中で噂が飛び交っているのも事実だ。
とは言っても、そう簡単に現実は変わらない。だからこそ我々は今、こうして暇を持て余して――
「……相変わらず閑古鳥が鳴いてるな、ここは」
……っと、噂をすれば影。扉の開く音と共に、大和くんが数日ぶりに部室へと帰還。
代り映えのしない光景を淡々と見渡すも、特段落ち込んだ様子すら見せない。失礼な人だ。
私は小説を閉じるなり溜息をついてみせ、ドアノブを持ったままの大和くんへと視線を移す。
「……お帰りなさい、大和くん。相変わらずは余計ですよ?」
続けて叶和ちゃんも顔を上げ、
「こんにちはぁ……大和せんぱぁい……」
PC越しに寝惚け眼を送っている。
「おう。その様子だと今日も依頼なしか?」
「そうなんですよぉ~……! せっかくブーストがかかったと思ったのに、これじゃあ前と何にも変わりません! やっぱり自分から動くしか……」
腕を組んでうんうん唸る叶和ちゃん。
大和くんは「何か当てでも?」と問うも、先程からドアノブは握ったまま。こりゃ、帰る気満々だなぁ……
「もちろんです! 学校と言えば外せない要素があるじゃないですか~?」
「まさか……」
「そう! 『七不思議』です!」
叶和ちゃんは立ち上がるなり、大きく胸を張ってみせる。先程までのふにゃふにゃが嘘のように元気だ。
「七不思議ねえ……どの学校にもあるもんだな、そういうの。しかし、そんなのオカルト好きが考えた、ただの噂だろ? 依頼が無いからって、そこに走るようじゃ……」
「いえいえ! これが意外と信憑性が高いんですよ~! さっすが名門校ですよね~。話題に事欠きません!」
バンッとテーブルを叩き、前のめりになる叶和ちゃん。
キラキラと浮かべる笑みが、薄暗くなってきた部室に映える。
「あっそ。だが、七不思議ってのは最後のやつを知ると災いが起こると聞く。まあ、やるにしても程々にするんだな。それじゃあ……」
一方、依然として顔色一つ変えぬ大和くん。
持っていたドアノブの伏線を回収するように扉を閉め――
「ちょっと、大和先輩! なに帰ろうとしてるんですか⁉ まだ部活は終わってませんよ⁉」
ようとするが、すかさず叶和ちゃんがそれを阻止。
正直、私も帰ろうかと思っていたので、今日のところは大和くんの味方と無言を貫く。
「終わりだ終わり。今日は墓参りがアレなんだ。それに来週の頭にはもうレクリエーションが迫ってる。お前だって色々やることがあるだろう?」
「それは……! そうですけど……」
すると叶和ちゃんは意外や意外、若干、口を尖らせながらも、素直に引き下がってみせる。何かあるのだろうか……?
「なら、お前らもさっさと帰って身体を休めとけ。じゃあな」
そう優しく諭した大和くんは、覗かせていた顔を引っ込め、ほぼ滞在することなく部室を後に。
「あっ……! レクリエーションが終わったらやりますからねー‼ 七不思議探しー‼」
叶和ちゃんはというと、閉じられた扉に向かって、勝手に約束を取り付けていた。
よく通る声だし、きっと彼にも届いていることだろう。
「じゃあ私たちも帰りますか、叶和ちゃん」
腰を上げた私は、小説を本棚にしまいに行きつつ、彼女を見遣る。
「……そうですね。楽しみは後に取っておきましょう!」
叶和ちゃんは胸の前でガッツポーズを取りつつ、破顔一笑。
いつもの元気を取り戻したところで、今日の部活動は終了と相成った。
来週のレクリエーション、楽しみだなぁ……! 大和くんは優勝を狙ってるから、そうは思えてないのかもしれないけど、私は彼と一緒に何かできるだけで、それだけでもう……
ミーティング(ほぼ自習)を終え、今は放課後。
我々……というか私は、いつも通り異能探求部へと赴いていた。
大和くんは何やら寄るところがあるらしく、後から合流するとのこと。
なので今は叶和ちゃんと二人、静かな放課後を過ごしている。
先日の一件で荒らされた部室も今や元通り。
ただ、黒幕の計らいなのか口封じの為なのか、ふっかふかの高級ソファが追加されていた。
洋風なソファと和風の畳台……いよいよもって統一感が無くなってきた気もするが、その座り心地は天にも昇るようで、今やここは私の特等席となっている。部長だし少しくらいいいよね?
「あぁ……牧瀬しぇんぱ~いぃ……」
そんな中、叶和ちゃんが不意に私へと語りかけてくる。
ぐでーんとPCに顔を置く様は、どことなくスライムのよう。
「なーに、叶和ちゃん?」
私は叶和ちゃんを正面に捉えつつ、小説に目を落としながらページを一めくり。
「暇ですねぇ……」
「うん。暇だね」
運動部がランニングでもしてるのか、外からは微かに掛け声が聞こえてくる。
「………………」
「………………」
……まあ、暇なのは今に始まったことではない。依頼が無ければ、大体いつもこんなもの。それだけ平和なのだと……そう思うことにしている。
いや、そもそも異能探求部に頼るという選択肢が最初からないと言った方が正しいか。一年間走り回って顔だけは売ってるから、名前だけは通ってるはずなんだけど……如何せん胡散臭い。自分で言うのは、ちょっぴり悲しいけど。
でも、最近は大和くんのお陰で二件も依頼を達成している。こんなことは部活創設以来、初めてのこと。黒幕との一件も後押ししてか、そこら中で噂が飛び交っているのも事実だ。
とは言っても、そう簡単に現実は変わらない。だからこそ我々は今、こうして暇を持て余して――
「……相変わらず閑古鳥が鳴いてるな、ここは」
……っと、噂をすれば影。扉の開く音と共に、大和くんが数日ぶりに部室へと帰還。
代り映えのしない光景を淡々と見渡すも、特段落ち込んだ様子すら見せない。失礼な人だ。
私は小説を閉じるなり溜息をついてみせ、ドアノブを持ったままの大和くんへと視線を移す。
「……お帰りなさい、大和くん。相変わらずは余計ですよ?」
続けて叶和ちゃんも顔を上げ、
「こんにちはぁ……大和せんぱぁい……」
PC越しに寝惚け眼を送っている。
「おう。その様子だと今日も依頼なしか?」
「そうなんですよぉ~……! せっかくブーストがかかったと思ったのに、これじゃあ前と何にも変わりません! やっぱり自分から動くしか……」
腕を組んでうんうん唸る叶和ちゃん。
大和くんは「何か当てでも?」と問うも、先程からドアノブは握ったまま。こりゃ、帰る気満々だなぁ……
「もちろんです! 学校と言えば外せない要素があるじゃないですか~?」
「まさか……」
「そう! 『七不思議』です!」
叶和ちゃんは立ち上がるなり、大きく胸を張ってみせる。先程までのふにゃふにゃが嘘のように元気だ。
「七不思議ねえ……どの学校にもあるもんだな、そういうの。しかし、そんなのオカルト好きが考えた、ただの噂だろ? 依頼が無いからって、そこに走るようじゃ……」
「いえいえ! これが意外と信憑性が高いんですよ~! さっすが名門校ですよね~。話題に事欠きません!」
バンッとテーブルを叩き、前のめりになる叶和ちゃん。
キラキラと浮かべる笑みが、薄暗くなってきた部室に映える。
「あっそ。だが、七不思議ってのは最後のやつを知ると災いが起こると聞く。まあ、やるにしても程々にするんだな。それじゃあ……」
一方、依然として顔色一つ変えぬ大和くん。
持っていたドアノブの伏線を回収するように扉を閉め――
「ちょっと、大和先輩! なに帰ろうとしてるんですか⁉ まだ部活は終わってませんよ⁉」
ようとするが、すかさず叶和ちゃんがそれを阻止。
正直、私も帰ろうかと思っていたので、今日のところは大和くんの味方と無言を貫く。
「終わりだ終わり。今日は墓参りがアレなんだ。それに来週の頭にはもうレクリエーションが迫ってる。お前だって色々やることがあるだろう?」
「それは……! そうですけど……」
すると叶和ちゃんは意外や意外、若干、口を尖らせながらも、素直に引き下がってみせる。何かあるのだろうか……?
「なら、お前らもさっさと帰って身体を休めとけ。じゃあな」
そう優しく諭した大和くんは、覗かせていた顔を引っ込め、ほぼ滞在することなく部室を後に。
「あっ……! レクリエーションが終わったらやりますからねー‼ 七不思議探しー‼」
叶和ちゃんはというと、閉じられた扉に向かって、勝手に約束を取り付けていた。
よく通る声だし、きっと彼にも届いていることだろう。
「じゃあ私たちも帰りますか、叶和ちゃん」
腰を上げた私は、小説を本棚にしまいに行きつつ、彼女を見遣る。
「……そうですね。楽しみは後に取っておきましょう!」
叶和ちゃんは胸の前でガッツポーズを取りつつ、破顔一笑。
いつもの元気を取り戻したところで、今日の部活動は終了と相成った。
来週のレクリエーション、楽しみだなぁ……! 大和くんは優勝を狙ってるから、そうは思えてないのかもしれないけど、私は彼と一緒に何かできるだけで、それだけでもう……
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