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第二章 宝探し
第73話 戦慄のブラフ
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「優勝って……」
私は思わず、声が漏れ出してしまっていた。
確かに大和くんが負けず嫌いなのは私も知っている。だけど、行事ごとにまで前向きになるほどとは正直思えない。まさかまた、のっぴきならない事情が……
「あれ……もしかしてアタシが焚き付けちゃったせい……?」
藤宮さんは何やら責任を感じてわなわなしているが……多分、関係ない。
「フッ……いいね」
そして、隣の渡くんは……何故か嬉しそうである。イベント事とか好きなのかな?
「大和……本気なのか……?」
蛯原くんもそこまでは聞いていなかったらしく、『優勝』の二文字をまじまじと見たのち、大和くんへゆっくり視線を移す。
「ああ。だが、優勝する為にはお前たちの力が必要だ。でなければ、第一関門すら突破できない可能性がある」
と、珍しく協力を仰ぐ大和くん。
「どういう意味だよ? ちゃんと俺らにも分かるように説明しろ!」
そんな彼に声を上げたのは、正面に立つ生徒、神田岳斗くんだった。
神田くんはオレンジの短髪を逆立て、ツーブロックでさっぱりさせた、一見イカつめの見た目をした男子生徒。耳にピアスも開けており、制服の着崩し方も今時といった感じ。
ただ、決して不良とかではなく、単純に地で人を引っ張っていくタイプなだけであり、蛯原くんが陥落した今、実質的に彼がこのクラスのリーダーと言って差し支えないだろう。
「実は四十九院の娘と一悶着あってな。おまけに奴は⑲番に陣取ってて、オレが気に入らないとときてる」
その四十九院の名に周りの生徒は、
「四十九院だと……?」
「終わった……」
「四十九院財閥の娘が相手とか……」
「もう絶対、勝てねえじゃん……」
口々に弱音を吐き、力が抜けたように腰を下ろしていく。
みんなの言うことはもっともだ……。四十九院財閥なんて誰もが知る超一流企業。その娘に何かあったとなれば、一体どんな制裁が待っているかなど想像に難くない。負け戦もいいところだ。
「四十九院……なんであの先輩がお前に……⁉」
そんな中でも神田くんだけは、大和くんの正面に立ち続ける。
「問題はそこではなく、奴が周りの総大将らも引きずり込む可能性があるということだ」
「確かに……四十九院の名を出されたら誰だって逆らえやしねえ……」
「恐らく相手は攻囲戦を仕掛けて一気に潰しにかかるはずだ。そうなってはもう勝ち目が無い」
「じゃあ……どうすんだよ?」
大和くんは神田くんの問いに対し、黒板に書いてある⑯番をノックすることで答える。
「この⑯番には風紀委員長の葦原という男がいる。どういうわけかオレは、こいつに気に入られててな。もしここに逃げ込むことができれば……まだやりようはある」
「風紀委員長にまで目を付けられてるなんて……。信用できんのかよ?」
「奴は集会で四十九院に宣戦布告していた。少なくとも利害は一致している。利用する価値はあるだろう」
そこで我々はようやく合点がいった。何故、大和くんが皆の力を……多くの駒を欲しているのかを。
「つまり俺らに盾になれと? お前が逃げ込めるように……」
「そうだ。お前らは幾ら消えても問題ないが、総大将のオレが消えたらその時点で終了。だから全勢力を㉑番に注ぐ。退路を確保できるまで時間を稼ぐんだ」
大和くんからの提案に静まり返る教室……
できることなら私や藤宮さんも大和くんを後押ししたい。でも、この状況は幾らなんでも無謀すぎる。もっと具体案が無いと正直……
もはや非難の一つも上がらぬ状況の中、神田くんは冷ややかな笑みで皆の声を代弁する。
「これがみんなの答えだ。誰もお前についていく気はないってよ?」
「なら、このまま一年を棒に振るのか?」
「どっちにしろ相手が相手だ。歯向かうだけ無駄だろうよ……」
神田くんはそう言うと遂に腰を下ろし、リタイアの意を示す。
教室内には暗雲が立ち込め、滝先生もかける言葉がなく、歯痒い面持ちをなさっていた。
「大和。お前のことだ……何か突破口があるんだろ? でなければ優勝なんて言葉は出ないはず。違うか?」
だが唯一、蛯原くんだけは大和くんに食らいついた。嘗て自分を追い詰めた相手とあって、妙な信頼があるのかもしれない。
「もちろん。オレにはもう何処に宝が眠ってるのか……見当がついてる」
その逆転の口撃に皆は――
「え? 嘘……」
「それって……宝の在り処が分かってるってこと……?」
「マジかよ……? それだったら勝てんじゃね……?」
「いや、でも……本当かどうか……」
一手にざわつき始め、幾分か活路が見えてくる。
「ちょっと待て、みんなッ! 希望を持つのはまだ早ぇ! だってこんなん幾らだって言えるだろ⁉ ……証拠見せろよ、証拠」
しかし、神田くんは音を立てて立ち上がると周りの皆を見回し、最後まで大和くんへと反抗する。
「証拠? 今まで散々見てきただろ。お前らが一番近くで」
大和くんの言葉に室内に居た全員が息を呑んだ。
確かに……大和くんはこれまでどんな逆境をも跳ね除け、数々のことを成し遂げてきたのだ。これ以上の生き証人はいないだろう。いい返し方だ。
「だが……例え勝ったとしても、あとで四十九院に何されるか……」
と、当然の懸念を述べつつ弱気になる神田くん。
そんな彼を見た大和くんは面倒そうに溜息をつくと、
「……ちょっと待ってろ」
そう言い残して教室を出て行ってしまった。
私は思わず、声が漏れ出してしまっていた。
確かに大和くんが負けず嫌いなのは私も知っている。だけど、行事ごとにまで前向きになるほどとは正直思えない。まさかまた、のっぴきならない事情が……
「あれ……もしかしてアタシが焚き付けちゃったせい……?」
藤宮さんは何やら責任を感じてわなわなしているが……多分、関係ない。
「フッ……いいね」
そして、隣の渡くんは……何故か嬉しそうである。イベント事とか好きなのかな?
「大和……本気なのか……?」
蛯原くんもそこまでは聞いていなかったらしく、『優勝』の二文字をまじまじと見たのち、大和くんへゆっくり視線を移す。
「ああ。だが、優勝する為にはお前たちの力が必要だ。でなければ、第一関門すら突破できない可能性がある」
と、珍しく協力を仰ぐ大和くん。
「どういう意味だよ? ちゃんと俺らにも分かるように説明しろ!」
そんな彼に声を上げたのは、正面に立つ生徒、神田岳斗くんだった。
神田くんはオレンジの短髪を逆立て、ツーブロックでさっぱりさせた、一見イカつめの見た目をした男子生徒。耳にピアスも開けており、制服の着崩し方も今時といった感じ。
ただ、決して不良とかではなく、単純に地で人を引っ張っていくタイプなだけであり、蛯原くんが陥落した今、実質的に彼がこのクラスのリーダーと言って差し支えないだろう。
「実は四十九院の娘と一悶着あってな。おまけに奴は⑲番に陣取ってて、オレが気に入らないとときてる」
その四十九院の名に周りの生徒は、
「四十九院だと……?」
「終わった……」
「四十九院財閥の娘が相手とか……」
「もう絶対、勝てねえじゃん……」
口々に弱音を吐き、力が抜けたように腰を下ろしていく。
みんなの言うことはもっともだ……。四十九院財閥なんて誰もが知る超一流企業。その娘に何かあったとなれば、一体どんな制裁が待っているかなど想像に難くない。負け戦もいいところだ。
「四十九院……なんであの先輩がお前に……⁉」
そんな中でも神田くんだけは、大和くんの正面に立ち続ける。
「問題はそこではなく、奴が周りの総大将らも引きずり込む可能性があるということだ」
「確かに……四十九院の名を出されたら誰だって逆らえやしねえ……」
「恐らく相手は攻囲戦を仕掛けて一気に潰しにかかるはずだ。そうなってはもう勝ち目が無い」
「じゃあ……どうすんだよ?」
大和くんは神田くんの問いに対し、黒板に書いてある⑯番をノックすることで答える。
「この⑯番には風紀委員長の葦原という男がいる。どういうわけかオレは、こいつに気に入られててな。もしここに逃げ込むことができれば……まだやりようはある」
「風紀委員長にまで目を付けられてるなんて……。信用できんのかよ?」
「奴は集会で四十九院に宣戦布告していた。少なくとも利害は一致している。利用する価値はあるだろう」
そこで我々はようやく合点がいった。何故、大和くんが皆の力を……多くの駒を欲しているのかを。
「つまり俺らに盾になれと? お前が逃げ込めるように……」
「そうだ。お前らは幾ら消えても問題ないが、総大将のオレが消えたらその時点で終了。だから全勢力を㉑番に注ぐ。退路を確保できるまで時間を稼ぐんだ」
大和くんからの提案に静まり返る教室……
できることなら私や藤宮さんも大和くんを後押ししたい。でも、この状況は幾らなんでも無謀すぎる。もっと具体案が無いと正直……
もはや非難の一つも上がらぬ状況の中、神田くんは冷ややかな笑みで皆の声を代弁する。
「これがみんなの答えだ。誰もお前についていく気はないってよ?」
「なら、このまま一年を棒に振るのか?」
「どっちにしろ相手が相手だ。歯向かうだけ無駄だろうよ……」
神田くんはそう言うと遂に腰を下ろし、リタイアの意を示す。
教室内には暗雲が立ち込め、滝先生もかける言葉がなく、歯痒い面持ちをなさっていた。
「大和。お前のことだ……何か突破口があるんだろ? でなければ優勝なんて言葉は出ないはず。違うか?」
だが唯一、蛯原くんだけは大和くんに食らいついた。嘗て自分を追い詰めた相手とあって、妙な信頼があるのかもしれない。
「もちろん。オレにはもう何処に宝が眠ってるのか……見当がついてる」
その逆転の口撃に皆は――
「え? 嘘……」
「それって……宝の在り処が分かってるってこと……?」
「マジかよ……? それだったら勝てんじゃね……?」
「いや、でも……本当かどうか……」
一手にざわつき始め、幾分か活路が見えてくる。
「ちょっと待て、みんなッ! 希望を持つのはまだ早ぇ! だってこんなん幾らだって言えるだろ⁉ ……証拠見せろよ、証拠」
しかし、神田くんは音を立てて立ち上がると周りの皆を見回し、最後まで大和くんへと反抗する。
「証拠? 今まで散々見てきただろ。お前らが一番近くで」
大和くんの言葉に室内に居た全員が息を呑んだ。
確かに……大和くんはこれまでどんな逆境をも跳ね除け、数々のことを成し遂げてきたのだ。これ以上の生き証人はいないだろう。いい返し方だ。
「だが……例え勝ったとしても、あとで四十九院に何されるか……」
と、当然の懸念を述べつつ弱気になる神田くん。
そんな彼を見た大和くんは面倒そうに溜息をつくと、
「……ちょっと待ってろ」
そう言い残して教室を出て行ってしまった。
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