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第二章 宝探し
第67話 三種の絵札
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異能力開発学園、医務室――
「……ということがあってだな」
「えっとぉ、先輩……。それ夢の話っスよね?」
時刻は九時を少し回ったところ。大和が佐藤に事の顛末を説明している図。
「そうだが?」
「ははは……なるほど……」
「ああ」
丸椅子に座っていた二人は、暫し無言で見つめ合う。
「先輩……」
「ん?」
「少しくらい休んでも罰当たらないっすよ?」
一瞬、間が空いたのち、大和のアイアンクローが佐藤の顔面を捉える。
「痛い痛い痛い痛いっ‼ 冗談! 冗談ですって!」
「一日に二回も同じことさせるな……!」
乱雑に離された佐藤は顔を摩りつつ、涙目で「に、二回……?」と聞き返す。
「あ、ちなみに一回目は私よ?」
すると横から机に向かう鈴木が、恥ずかしげもなく己が失態を曝け出してくる。
朝とは違って白衣を纏っているも、ラベンダー色のブラウスからは胸元がハッキリと見えており、タイトな黒スカートはもう限界ギリギリ。眼鏡を掛けてはいるが、完全に伊達。セクシーに見えるとかその程度の理由である。
「一回目って、鈴木パイセンかよ……。こんな痴女と同じ末路を辿るとは、なんたる不覚……」
瞳を閉じ、天に向かって後悔の念を呟く佐藤。
その失礼極まりない言動と態度に、鈴木は持っていたペンを机に叩きつける。
「誰が痴女よ⁉ これでも立派な養護教諭だっつーの!」
「その格好のどこが養護教諭なんスか……。でもまあ、今は好都合です。さあ、先輩。カウンセリングならそちらへどうぞ」
と、佐藤は手のひらで鈴木の方を指し示す。
「ほう……オレが間違ってるとでも言いたいのか?」
しかし、瞳孔がバッキバキに開いた大和を前に、佐藤は思わず「ヒッ⁉」と身体をビクつかせ、引き攣った面持ちのまますぐに釈明会見へ。
「だ、だって夢なんですよね⁉ 相手の渡って奴が認めてないのに、勝手に世界がどうこうなんて、そりゃ妄想が過ぎますって! 俺らがここに来た理由、忘れたわけじゃないでしょう? 宝探しで優勝掻っ攫ってる暇があんなら、『本星』、探したほうがいいんじゃないですか? ねえ、鈴木パイセン?」
佐藤は少しでも己が立場を良くせんと鈴木へ話を振るが……
「いいじゃない別に。校長とのいざこざも済んだんだし、多少寄り道するくらい。『休んでも罰当たらない』って言ったのアンタでしょう?」
この痴女がどう転んでも大和側だということを忘れていたらしい。
「そりゃ言いましたけど……」
「それにレクリエーションは全員参加。もし生徒の中に『本星』が居るんだとしたら、今回の宝探しで接触する可能性も無きにしも非ず。自分と同じような存在が居るなら尚更ね? であれば、やる価値は充分にあるわ。転校前の思い出は、あくまでもそのついでで作ってあげればいい。ミスったとしても何も無いって言うなら、気兼ねなく『本星』を探せるでしょ? 違う?」
ちょうどいい落としどころを提示され、ぐうの音も出ない佐藤。
そんな圧し口をかます後輩へ、大和はブラック上司らしく命令を下す。
「佐藤、渡の情報を掻き集められるだけ掻き集めろ。奴が何者で、どこから来たのか……徹底的に探るんだ」
◆
その後、大和は教室へ戻るなり学生らしく授業を全うする。
あれ以降、渡とは一言も交わしていないが、その背にはずっと大いなる存在を感じていた。
午前、昼休み、午後と何事もなく時は過ぎ、気付けばもう放課後。
ただただ勉学に勤しんだだけの一日はすぐに終わりを告げ、生徒は皆、席を立ち、各々の居場所へと向かい始める。
当然、真後ろに座るこの生徒も例外ではない。
「大和くん。今日、部活は無理そうですかね?」
牧瀬が鞄両手に覗き込む形で語りかけると、
「ああ。総大将の集会があるからな。終わり次第、そのまま直帰する」
大和も鞄片手に席を立ち、告げて早々、ミーティング室へ向かい始める。
「頑張りなさいよ、慧? やるからには優勝よ、優勝!」
そんな背にガッツポーズとエールを送る藤宮。
もちろん冗談のつもりだったが、真に受けた大和は歩を止め……
「安心しろ。オレは負けない。誰にも……」
真っ直ぐ前だけを見て、教室を後にした。
「え……? いや……冗談だからね、冗談! 総大将なんて真面目にやるもんじゃ……。あれ? もしかしてマジでやる気……?」
慌てふためく藤宮に牧瀬が「ははは……まさか……」と乾いた笑いを漏らす中、渡は大和が出て行った扉をじっと見つめていた。
◆
行き交う生徒の波から抜け出し、大和はミーティング室前へと到着。
「……気乗りしないな」
しかし、室名札を見上げるなり舌打ちをかましていた。
珍しく弱音が出てしまうのは、先日の集会で痛手を負ったからゆえか。
とはいえ、もう烏間の手は伸びてこない。警戒こそすれ、心配する必要などないのだが……他の総大将と折り合いがついていないのもまた事実。もし徒党でも組まれたら間違いなく優勝は遠のくだろう。
なんて事を考えつつ暫し立ち尽くしていると――
「そんなところでボーっとして何してるのかな……大和くん?」
視界の端から懸案事項の主、もとい影武者であった景川が姿を現した。
「……ということがあってだな」
「えっとぉ、先輩……。それ夢の話っスよね?」
時刻は九時を少し回ったところ。大和が佐藤に事の顛末を説明している図。
「そうだが?」
「ははは……なるほど……」
「ああ」
丸椅子に座っていた二人は、暫し無言で見つめ合う。
「先輩……」
「ん?」
「少しくらい休んでも罰当たらないっすよ?」
一瞬、間が空いたのち、大和のアイアンクローが佐藤の顔面を捉える。
「痛い痛い痛い痛いっ‼ 冗談! 冗談ですって!」
「一日に二回も同じことさせるな……!」
乱雑に離された佐藤は顔を摩りつつ、涙目で「に、二回……?」と聞き返す。
「あ、ちなみに一回目は私よ?」
すると横から机に向かう鈴木が、恥ずかしげもなく己が失態を曝け出してくる。
朝とは違って白衣を纏っているも、ラベンダー色のブラウスからは胸元がハッキリと見えており、タイトな黒スカートはもう限界ギリギリ。眼鏡を掛けてはいるが、完全に伊達。セクシーに見えるとかその程度の理由である。
「一回目って、鈴木パイセンかよ……。こんな痴女と同じ末路を辿るとは、なんたる不覚……」
瞳を閉じ、天に向かって後悔の念を呟く佐藤。
その失礼極まりない言動と態度に、鈴木は持っていたペンを机に叩きつける。
「誰が痴女よ⁉ これでも立派な養護教諭だっつーの!」
「その格好のどこが養護教諭なんスか……。でもまあ、今は好都合です。さあ、先輩。カウンセリングならそちらへどうぞ」
と、佐藤は手のひらで鈴木の方を指し示す。
「ほう……オレが間違ってるとでも言いたいのか?」
しかし、瞳孔がバッキバキに開いた大和を前に、佐藤は思わず「ヒッ⁉」と身体をビクつかせ、引き攣った面持ちのまますぐに釈明会見へ。
「だ、だって夢なんですよね⁉ 相手の渡って奴が認めてないのに、勝手に世界がどうこうなんて、そりゃ妄想が過ぎますって! 俺らがここに来た理由、忘れたわけじゃないでしょう? 宝探しで優勝掻っ攫ってる暇があんなら、『本星』、探したほうがいいんじゃないですか? ねえ、鈴木パイセン?」
佐藤は少しでも己が立場を良くせんと鈴木へ話を振るが……
「いいじゃない別に。校長とのいざこざも済んだんだし、多少寄り道するくらい。『休んでも罰当たらない』って言ったのアンタでしょう?」
この痴女がどう転んでも大和側だということを忘れていたらしい。
「そりゃ言いましたけど……」
「それにレクリエーションは全員参加。もし生徒の中に『本星』が居るんだとしたら、今回の宝探しで接触する可能性も無きにしも非ず。自分と同じような存在が居るなら尚更ね? であれば、やる価値は充分にあるわ。転校前の思い出は、あくまでもそのついでで作ってあげればいい。ミスったとしても何も無いって言うなら、気兼ねなく『本星』を探せるでしょ? 違う?」
ちょうどいい落としどころを提示され、ぐうの音も出ない佐藤。
そんな圧し口をかます後輩へ、大和はブラック上司らしく命令を下す。
「佐藤、渡の情報を掻き集められるだけ掻き集めろ。奴が何者で、どこから来たのか……徹底的に探るんだ」
◆
その後、大和は教室へ戻るなり学生らしく授業を全うする。
あれ以降、渡とは一言も交わしていないが、その背にはずっと大いなる存在を感じていた。
午前、昼休み、午後と何事もなく時は過ぎ、気付けばもう放課後。
ただただ勉学に勤しんだだけの一日はすぐに終わりを告げ、生徒は皆、席を立ち、各々の居場所へと向かい始める。
当然、真後ろに座るこの生徒も例外ではない。
「大和くん。今日、部活は無理そうですかね?」
牧瀬が鞄両手に覗き込む形で語りかけると、
「ああ。総大将の集会があるからな。終わり次第、そのまま直帰する」
大和も鞄片手に席を立ち、告げて早々、ミーティング室へ向かい始める。
「頑張りなさいよ、慧? やるからには優勝よ、優勝!」
そんな背にガッツポーズとエールを送る藤宮。
もちろん冗談のつもりだったが、真に受けた大和は歩を止め……
「安心しろ。オレは負けない。誰にも……」
真っ直ぐ前だけを見て、教室を後にした。
「え……? いや……冗談だからね、冗談! 総大将なんて真面目にやるもんじゃ……。あれ? もしかしてマジでやる気……?」
慌てふためく藤宮に牧瀬が「ははは……まさか……」と乾いた笑いを漏らす中、渡は大和が出て行った扉をじっと見つめていた。
◆
行き交う生徒の波から抜け出し、大和はミーティング室前へと到着。
「……気乗りしないな」
しかし、室名札を見上げるなり舌打ちをかましていた。
珍しく弱音が出てしまうのは、先日の集会で痛手を負ったからゆえか。
とはいえ、もう烏間の手は伸びてこない。警戒こそすれ、心配する必要などないのだが……他の総大将と折り合いがついていないのもまた事実。もし徒党でも組まれたら間違いなく優勝は遠のくだろう。
なんて事を考えつつ暫し立ち尽くしていると――
「そんなところでボーっとして何してるのかな……大和くん?」
視界の端から懸案事項の主、もとい影武者であった景川が姿を現した。
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