口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第一章 支配者

第60話 つまり、まあまあ楽しいってこと

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「いやぁー、もうすぐ夏休みやな!」

 打ち上げもそこそこ進んだ頃、唐突に話題を放り込む伍堂くん。
 基本的に彼が話を回すMC的立ち位置を担っている。始まる時も終わる時も彼主導だ。

「いや、まだ二ヶ月くらいあるでしょ⁉ 気ィ早すぎよ!」

 そして、毎回ツッコミ役を担ってくれてるのが安定の藤宮さん。
 お陰で我々はちょいちょいガヤを入れるだけで済んでいる。一々構ってたら疲れちゃいそうだ。

「たかが二か月やろ~? あっちゅう間やで、そんなん! 今のうちに予定立てとかな、夏に置いてかれてまうで⁉」
「いやいや……その前にまず、ドでかいイベントがあるでしょうが?」
「ドでかいイベント……? なんなんや、それは?」

 小首を傾げる伍堂くんに、藤宮さんは入れた飲み物を吐き出すまいと、グラスを口につけたまま驚きを露にする。

「レクリエーションよ! レクリエーション! 毎年恒例の! ったく……アンタは関係ないでしょうけど、慧は総大将なのよ? ねえ……慧?」

 口元を拭いながら眉を吊り上げてみせる藤宮さん。
 だが一転、大和くんの方を見遣る時は乙女の顔。なんと分かり易いことか……

「そういえばそんなのあったな。忘れてた」

 大和くんは行儀よく手皿しながら懐石料理を口に運んでいる。まあ、ここ最近いろいろあったし、それどころじゃなかったのだろう。

「大和くんは、このまま総大将を続けるんですか?」

 と、私も懐石料理に箸を付ける。

「どうだかな。別に興味ないし……蛯原にでも押し付けるか」

 すると、意外や意外――

「いや、君がやった方がいいんじゃないかな?」

 グラスの縁を持つ渡くんが大外から意見を述べた。

「……何故?」

 と、大和くんは訝しむように眉根を搾る。

「深い意味はないよ。ただ適任だと思って」

 すると今度は叶和ちゃんが、「確かに!」と人差し指をピンと立ててみせる。

「レクリエーションは総大将が落とされたらクラスごと失格ですからね~! 妙な人材に任せるくらいなら、大和先輩がやった方が安全というのは頷ける話です」

 そう続ける叶和ちゃんは、腕を組みながら言葉通りに頷く。

「あ、それ言えてる~! 蛯原なんかに任せたら、それこそ首が幾つあっても足らないしね! アタシも慧がやった方がいいと思う!」

 藤宮さんも笑みを見せながら、隣に座る大和くんへ急接近。これは同性の私でさえ、ドキッとしちゃうかも……

「……面倒だな」

 でも大和くんは、変わらず動揺の一つも見せない。溜息をつく姿でさえ、どこか様になっている。

「そないなもんはパパパーッと済ませればええやん! そんなことよりも夏休み入ったら、みんなで海行こうや、海! 夏休みと言ったら海! 海といったら水着や!」

 伍堂くんはまだ諦めてないのか、同意を求めるように皆の顔を覗き込むと、拳をぐわしと握りしめる。

「アンタはただ、水着姿見たいだけでしょうが⁉ ……ま、まあでも? 海に行くのは賛成かな~? ちなみに慧はそのぅ……どんな水着が好きだったりする……?」

 だが、即座に藤宮さんが、その拳をチョップ。
 強烈なツッコミを浴びせるも、大和くんに対しては相変わらず乙女。さすがの大和くんもこれには……

「別に水着なんて全部同じだろ」

 あぁー……ダメだ、この人……。なーんにも分かってない。どうやら彼の辞書に『女心』という文字は刻まれていないようだ。藤宮さん、顔引き攣っちゃってるし……

「ちなみにワシは貝殻がええな! 貝!」

 と、少年のようなキラキラした目で告げる伍堂くん。

いにしえすぎるわ! っていうか、アンタには聞いてないっつーの!」

 藤宮さんは悔しさをぶつけるように、伍堂くんの胸倉を掴んでは、ぐわんぐわん揺らしている。

「水着ですか……私たちには縁遠いものですね、牧瀬先輩」

 叶和ちゃんは何故か、自分の胸と私の胸を死んだような目で交互に見つつ、肩に手を置いてくる。そんな失礼な人には「一緒にしないでください」とだけ返しておけばいいだろう。

「まあ、その前に……『テスト』あるけどね」

 と、唐突に頬杖をつく渡くんから残酷な一言が飛んでくる。
 現実を突きつけられた我々は見事、どんよりムードへ移行するも、伍堂くんだけは違ったようで、一人、みんなの顔をキョロキョロ見回していた。

「なんや、お前ら? 急にテンション下げて……」
「なんでって……テストあんのよ、テスト? 赤点取ったら補習地獄で夏休みどころじゃないじゃない……」

 藤宮さんは肩を下げに下げ、がくんと項垂れている。どうやら勉強は苦手のよう。

「Gクラスは品行方正に過ごしとれば、テストの点数は関係あらへんねん。せやから赤点なんてシステム、最初はなっから無いっちゅうこっちゃ。ま、精々頑張るんやな、藤宮くん? ダッハッハッ!」
「アンタのこと羨ましいって初めて思ったわ……」

 正直、私も少し羨ましいと思った。
 しかし、神様はしっかり見ているのだろう。大和くんの一言で伍堂くんの状況は一変する。

「死を偽装して学園どころか世間すら騙してた奴が品行方正ね……。面白い冗談だ」
「え?」
「今ごろ教員たちは、あれやこれやと対応に追われていることだろう。こりゃあ、もしかすると夜中までかかるかもなぁ……」
「え?」
「そんな面倒ごとを起こした奴の肩を持つ者が、果たしてあの学園にいるだろうか? いや、いないだろうなぁ……残念ながら」
「え?」
「となると、信頼を取り戻すにはもう……ということになるが?」
「それってつまり……?」

 目はパチクリ、汗はだらんだらん。
 顔を引き攣らせた伍堂くんは、咄嗟に隣の同志へと首を捻る。すると……

「一緒に地獄に堕ちましょテスト、頑張りましょ? ……伍堂きゅん?」

 藤宮さんが腕を掴んでいた。……能面みたいな笑みで。

「ぐあぁぁぁああああぁぁぁあががぁあああぁああがががぁあああッッ‼」

 結果、伍堂くんは蛯原くんのように叫ぶと、白目をむきながら泡を吹きだしたのだった。
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