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第一章 支配者
第54話 復活の絆
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な……なんたることか……!
私、牧瀬友愛は教室に戻らんと、まっしぐらに廊下を歩く。……高鳴る鼓動と同じ速さで。
わ、わた……私……さっき大和くんに頭を撫でられっ……!
過去の記憶に心奪われていた私も、暫くすると純情な乙女に早変わり。気付いた頃にはもう顔が沸騰したように熱くなっていた。これじゃまるで昔読んだ少女漫画の主人公のよう……
ちゃ、ちゃんとしろ私……! と、取りあえず今は教室に戻らないと……!
私は切り替えるように両頬をペチンと叩き、急ぎ階段を上ると――
「あ! おいおい、あれって……」
「ああ。確かテレビに映ってた……?」
「牧瀬だよ、牧瀬。一年の時、方々にお節介焼いてた……」
「あ~! いたいた! 確かにあいつなら助けに行きそうなイメージだわ……」
二年の教室が並ぶ廊下には、ずらりと人だかりができていた。
恐らく大和くんが戻ってきたことに気付き、他クラスの生徒が様子を見に来たのだろう。皆、こちらを見ながら、あれやこれやと囁き合っている。
「あの……すみません……! ちょっと通してください……!」
私は人込みを掻き分け、何とか二年B組へと辿り着く。
するとクラスメイトから、縋るような視線が向けられた。
私が立ち尽くしていると、橋本さんが心配げな面持ちで近寄ってくる。
「牧瀬ちゃん……あの……大丈夫……?」
「え? あ、あぁ……私は大丈夫ですけど……。これは……?」
「多分、みんな気になってるんだと思う。テレビ途中で切れちゃったからさ……。あの後……そのぅ……どうなったのかなって……」
私はそこで席に座っていた大和くんの方へ視線を移す。
彼は先程の慌てようが嘘のように、頬杖をつきながらボーっと外を眺めていた。
「大和くんは何も……?」
「うん。『待ってれば分かる』とは言ってたけど……」
橋本さんも言い淀みつつ、大和くんを見つめている。
うぅ……いつもだったら色々言いに行けるのに……。今は正直なところ……顔を合わせづらい! 恥ずかしい! 上手く喋れる気がしない! でも、学園中を巻き込んだ以上、説明責任があるのは事実。ここはもう私が……
「おい! あれ……蛯原じゃないか⁉」
その時、廊下からやや高ぶった声が届く。
「は? 何言って――って、マジじゃん! なんで生きてんの⁉」
「しかも隣にいる奴って、まさか……!」
他クラスの生徒がざわつき始めると、次第にそれは教室中を巻き込み、全生徒の視線を一点に集中させる。
傷だらけの顔、派手な外見、突出した背……。もはや誰かなど言うまでもない。人込みを掻き分け、帰ってきたのは――
「よお、兄弟! ちゃーんと約束、守ったでぇ?」
いつも通りの快活な笑みを浮かべる、兄弟分の伍堂くんだった。
その手には首根っこ掴まれた蛯原くんもおり、私に変装してたであろう藤宮さんも、黒のウィッグを持って後に続いていた。
死んだ者、飛び降りた者、決別した者が続々と帰還し、教室内のざわめきはより一層勢いを増す。
「ああ。ご苦労だったな」
大和くんは頬杖を解き、足を組みつつ伍堂くんへと体を向けた。
「おいおい……蛯原どころか伍堂まで生きてるなんて……」
「もしかして、これも全部……あの大和くんが……?」
「ボスがどうこう言ってたよな……? そいつに対抗する為にやったんじゃね……?」
「え~! だとしたらちょっとカッコいいかも……?」
その態度で皆も察したようだ。これら全てが大和くんの差し金だったことを。
「なんや兄弟? 他の奴に説明しとらんかったんか?」
と、伍堂くんは口端を上げながら周りを見回している。
「一から十まで説明する義理はない。お前らが戻ってくれば、それが答えだ」
そんな大和くんの回答を不服に思ったのか、後方に控えていた藤宮さんが腕組みと共に前へ。
「ふーん? このアタシに対しても何の説明もないわけ?」
そして唐突にウィッグを投げつけるが、大和くんは顔色一つ変えずに受け取ってしまう。
「よお、藤宮。苦労かけたな」
「苦労? ただカツラ被って走り回ることが? アンタ喧嘩売ってんの?」
「お前は一番狙われる危険性があったんだ。だからこそオレはお前を遠ざけた。それが出てきたとなれば相手側にも本気だと伝わる。充分、大役だろ?」
そんな理由があったなんて私は一言も聞いていない。物は言いようである。
「で、でも……! アンタはアタシにあんなことを……」
「それについては謝る。すまなかった。ただ、今言ったように全てはお前を守る為だったんだ。もしお前らに助力を請えば、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。だからこそ、あらゆる危険を全て伍堂に請け負ってもらったんだ。最悪の展開を避けるために……。本当に悪かった」
頭を深々と下げるなんて真摯な姿を見せられちゃったら、べた惚れの藤宮さんは……
「ふ、ふぅーん! ま、まあ、そこまで言うなら許してあげなくもないけどね! なんたってアタシの為にやったんだから! アタシの為に!」
許しちゃうよなぁ……。藤宮さん、ちょっとチョロすぎやしないだろうか? って、私も人のこと言えないけど……
と、私は藤宮さん同様、頬を染めたのち、己が頭に触れる。
「これで一件落着やな? あとは……コイツをどうするかや!」
話も一段落と伍堂くんは語尾を強め、掴んでいた蛯原くんを大和くんの前へと放った。
私、牧瀬友愛は教室に戻らんと、まっしぐらに廊下を歩く。……高鳴る鼓動と同じ速さで。
わ、わた……私……さっき大和くんに頭を撫でられっ……!
過去の記憶に心奪われていた私も、暫くすると純情な乙女に早変わり。気付いた頃にはもう顔が沸騰したように熱くなっていた。これじゃまるで昔読んだ少女漫画の主人公のよう……
ちゃ、ちゃんとしろ私……! と、取りあえず今は教室に戻らないと……!
私は切り替えるように両頬をペチンと叩き、急ぎ階段を上ると――
「あ! おいおい、あれって……」
「ああ。確かテレビに映ってた……?」
「牧瀬だよ、牧瀬。一年の時、方々にお節介焼いてた……」
「あ~! いたいた! 確かにあいつなら助けに行きそうなイメージだわ……」
二年の教室が並ぶ廊下には、ずらりと人だかりができていた。
恐らく大和くんが戻ってきたことに気付き、他クラスの生徒が様子を見に来たのだろう。皆、こちらを見ながら、あれやこれやと囁き合っている。
「あの……すみません……! ちょっと通してください……!」
私は人込みを掻き分け、何とか二年B組へと辿り着く。
するとクラスメイトから、縋るような視線が向けられた。
私が立ち尽くしていると、橋本さんが心配げな面持ちで近寄ってくる。
「牧瀬ちゃん……あの……大丈夫……?」
「え? あ、あぁ……私は大丈夫ですけど……。これは……?」
「多分、みんな気になってるんだと思う。テレビ途中で切れちゃったからさ……。あの後……そのぅ……どうなったのかなって……」
私はそこで席に座っていた大和くんの方へ視線を移す。
彼は先程の慌てようが嘘のように、頬杖をつきながらボーっと外を眺めていた。
「大和くんは何も……?」
「うん。『待ってれば分かる』とは言ってたけど……」
橋本さんも言い淀みつつ、大和くんを見つめている。
うぅ……いつもだったら色々言いに行けるのに……。今は正直なところ……顔を合わせづらい! 恥ずかしい! 上手く喋れる気がしない! でも、学園中を巻き込んだ以上、説明責任があるのは事実。ここはもう私が……
「おい! あれ……蛯原じゃないか⁉」
その時、廊下からやや高ぶった声が届く。
「は? 何言って――って、マジじゃん! なんで生きてんの⁉」
「しかも隣にいる奴って、まさか……!」
他クラスの生徒がざわつき始めると、次第にそれは教室中を巻き込み、全生徒の視線を一点に集中させる。
傷だらけの顔、派手な外見、突出した背……。もはや誰かなど言うまでもない。人込みを掻き分け、帰ってきたのは――
「よお、兄弟! ちゃーんと約束、守ったでぇ?」
いつも通りの快活な笑みを浮かべる、兄弟分の伍堂くんだった。
その手には首根っこ掴まれた蛯原くんもおり、私に変装してたであろう藤宮さんも、黒のウィッグを持って後に続いていた。
死んだ者、飛び降りた者、決別した者が続々と帰還し、教室内のざわめきはより一層勢いを増す。
「ああ。ご苦労だったな」
大和くんは頬杖を解き、足を組みつつ伍堂くんへと体を向けた。
「おいおい……蛯原どころか伍堂まで生きてるなんて……」
「もしかして、これも全部……あの大和くんが……?」
「ボスがどうこう言ってたよな……? そいつに対抗する為にやったんじゃね……?」
「え~! だとしたらちょっとカッコいいかも……?」
その態度で皆も察したようだ。これら全てが大和くんの差し金だったことを。
「なんや兄弟? 他の奴に説明しとらんかったんか?」
と、伍堂くんは口端を上げながら周りを見回している。
「一から十まで説明する義理はない。お前らが戻ってくれば、それが答えだ」
そんな大和くんの回答を不服に思ったのか、後方に控えていた藤宮さんが腕組みと共に前へ。
「ふーん? このアタシに対しても何の説明もないわけ?」
そして唐突にウィッグを投げつけるが、大和くんは顔色一つ変えずに受け取ってしまう。
「よお、藤宮。苦労かけたな」
「苦労? ただカツラ被って走り回ることが? アンタ喧嘩売ってんの?」
「お前は一番狙われる危険性があったんだ。だからこそオレはお前を遠ざけた。それが出てきたとなれば相手側にも本気だと伝わる。充分、大役だろ?」
そんな理由があったなんて私は一言も聞いていない。物は言いようである。
「で、でも……! アンタはアタシにあんなことを……」
「それについては謝る。すまなかった。ただ、今言ったように全てはお前を守る為だったんだ。もしお前らに助力を請えば、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。だからこそ、あらゆる危険を全て伍堂に請け負ってもらったんだ。最悪の展開を避けるために……。本当に悪かった」
頭を深々と下げるなんて真摯な姿を見せられちゃったら、べた惚れの藤宮さんは……
「ふ、ふぅーん! ま、まあ、そこまで言うなら許してあげなくもないけどね! なんたってアタシの為にやったんだから! アタシの為に!」
許しちゃうよなぁ……。藤宮さん、ちょっとチョロすぎやしないだろうか? って、私も人のこと言えないけど……
と、私は藤宮さん同様、頬を染めたのち、己が頭に触れる。
「これで一件落着やな? あとは……コイツをどうするかや!」
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