口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

文字の大きさ
上 下
51 / 132
第一章 支配者

第49話 逆襲の口撃

しおりを挟む
「……え?」

 大和からの思いがけぬ問いに、景川の面持ちから一瞬にして笑みが消える。
 抱きしめられていた温もりもいつの間にか消え失せ、幸せの絶頂に満ちていた身体は絶対零度が如き寒気により震えだしていた。

「ようやく薄気味悪い笑みが消えたな?」

 嘲りたっぷりの囁きに、景川は慌てて大和の抱擁から脱する。
 太陽はまた雲に隠れ、差し込んでいた白い日は、早々に居場所を無くす。

「どうした? 甘えさせてくれないのか?」

 目の前でほくそ笑むのは先程まで弱音を吐いていた可愛い後輩ではない。
 機械のような冷淡な眼差しで年上を見下す、生意気な後輩――『口撃のヤマト』であった。

「フッ……冗談だよ。それよりも、さっさとオレの質問に答えてくれないか?」
「……質問?」
「惚けんな。影武者かって聞いてるんだよ。答えられないのか?」

 景川は一瞬、扉方面へと視線を移す。
 すりガラス越しに映るを確認すると、体中に纏わりつく冷や汗を感じながら、再び大和へと視線を戻した。

「なんの話をしてるのかな、大和くん? お姉さん、さっぱり――」
「そりゃあ、答えられないよな? そんなことしたら、自分が嘘ついてることがバレてしまう。まあ、をここに通した時点で、もう自白してるようなものだから、無理に答える必要もないけどな」

 景川は取り繕おうと笑みを浮かべるが、大和によって即遮断。
 もう逃げられぬと悟り、観念したように肩の力を抜いた。

「……図ったのね?」
「ああ。お前がの策を逆手に取ると踏んでな」
「なるほどね……。そして、さらにそれを逆手に取ったと?」
「そういうこと。奇しくもオレたちの切り札は一致していたってわけさ。なあ――牧瀬?」

 振り返った大和の視線の先、すりガラス越しの影が扉を開けると、そこには先程までテレビに映っていたはずの牧瀬の姿が。

「本当に会長が影武者だったんですね……?」

 と、牧瀬が両目を赤と青に光らせつつ問うも、景川はノーコメントと言わんばかりに無を貫く。
 大和は頑なな姿にフッと鼻で笑うと、ポケットに手を突っ込み、椅子の背に寄りかかった。

「お前は駒を使って知っていたんだろう……。追いかけていった牧瀬が途中で、に代わっていたことに。藤宮はそのまま蛯原を止める役目に。入れ替わった牧瀬は身を隠しながら学園へと戻る。テレビに映し出されていた映像は勿論、牧瀬の部分だけフェイクだ。うちの部には優秀な『一ノ瀬ハッカー』が居るからな。この程度は造作もない」

 と、大和が解説したところで携帯のバイブ音が鳴る。
 取り出して画面を確認すると、すぐに携帯をしまい、話へと戻る。

「こうして表面上、牧瀬はこの学園に居ないことになる。では何故、牧瀬をバレぬように学園へと戻したのか? お前はすぐに気付いたことだろう。オレが牧瀬の『嘘を見破る』能力を使い、自分に黒幕かどうかを尋ね、正体を暴きに来ると。そこまで見抜いたお前は、逆にその策を利用することを思いついた。わざと牧瀬をこの場に通せば、自分に向けられた黒幕の容疑を晴らせる。『だって私は影武者だから』」

 今までの憔悴っぷりが嘘のような流れる口撃に、思わず素の笑みが零れてしまう景川。今や張っていた肩肘も、どこか下がり気味だった。

「欲張っちゃったかぁ……。ここは意地でも通すべきじゃなかったんでしょうね……」
「そう。通しさえしなければ、お前が影武者かどうかなんて確かめようがなかった。だが、通さなければオレがお前を信用するチャンスは二度とこない。結果、お前は逃すことができなかった。親友を失い、クラスメイトを見殺しにしてしまった可哀想な後輩を。弱音を吐けるのも、頼れるのも、甘えられるのも自分だけ。憔悴しきった今なら完璧に篭絡できる。『恐怖』ではない、本物の『信頼』を勝ち取れる。……そんな感じか?」

 一頻り聞いたのち、景川は笑みを絶やさず、賞賛の拍手を送る。

「お見事。流石は大和くんね。私を追い詰める為だけに、あの小物を贄とするなんて……。そういうとこ、嫌いじゃないよ?」
「贄? 何か勘違いしてるようだから一応言っておくが……蛯原は生きてるぞ?」

 景川はその事実を前に一瞬顔をキョトンとさせるが、すぐに緩む口元を手で隠す。

「もうこれ以上、騙す必要もないでしょ? 君は犠牲を払って私を――」
「『魅了』ってのは便利な力だよな?」

 その一言に景川の口元が徐々に引き攣っていく。

「まさか……?」
「ああ。当然、あいつも――」



 某ビル屋上――

 蛯原は追い詰められていた。
 度重なる失敗、伍堂の殺害、そして裁き……。心には既に大きな隙間が空いており、気付けばの介入を許していた。

 得も言われぬ『恐怖』は次第に心を蝕み、やがて電源でも切ったかのように思考を停止させる。

 もはや何も分からない。視界も真っ暗。
 薄れゆく意識の中で最後に感じたことといえば、眼下に渦巻く虚無へと、ただ堕ちていくことだけ――

『え……は……』

 しかし、その時……声が届く。

『蛯……ラァ……!』

 耳にではなく、大きく隙間の空いた……心に。

『――原ァ! お前、ここで死んだら死に損だぞ⁉ さっさと目ぇ覚ませ‼ コラァッ‼』

 その『魅了』が完全に『恐怖』を上書きすると――蛯原は己が手を掴む存在を漸く認識する。

「え……? なんで……お前が……?」

 降り注ぐ日を一身に受けたその男は、

「よお、蛯原? 戻ってきたでぇ……天国から」

 天を指差しながら現世へと舞い戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。 ※この作品は小説家になろうにも掲載されています

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...