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第一章 支配者
第48話 お姉さんの腕の中で……
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兄弟を失い、その実行犯が裁かれた今、大和の心には、ぽっかりと穴が開いていた。
足取りはふらふらと定まらず、抜け殻のようなその様相は、支えなければ今にも倒れてしまいそう。
そんな男の足は無意識にミーティング室へと向けられていた。
昨日、総大将の集会が行われ、彼女と……景川士と初めて出会った場所だ。
この隙間を埋まられるのは、もう彼女しかいない。
そんな勝手で淡い期待を抱きながら、ミーティング室の扉を開けると――
「よかった……。来なかったらどうしようって思ってたんだよ……?」
視線の先、窓際に立っていたのは、まさに探し求めていた人物……景川本人であった。
「会長……なんでここに?」
大和は入室を果たすと、自然と彼女の下へ。
「教室に居なかったからさ。もしかしたらここじゃないかって……。ここは大和くんと初めて出会った場所だから……って、昨日会ったばっかりなのに大げさかな?」
全てを包み込まんとする慈愛の笑みを前に、大和はバツが悪そうに視線を逸らす。
「会長……オレは――」
「君は悪くない」
その真っ直ぐな言葉に、大和は「……え?」と彼女へ視線を戻す。
「世の中、綺麗事で済ませられないことなんて幾らでもある。能力者が蔓延るこの世界なんかじゃ特にね。そんな中で君は、充分最善を尽くした。だから……悪くない」
「最善……? 親友を失い、クラスメイトを見殺しにすることがですか?」
「うん。よく頑張ったね?」
お姉さんの称賛にむず痒さを感じたのか、大和の表情が漸く緩み始める。
「どうしてそんな風に言えるんです?」
「だって……それを望んでるからここに来たんでしょ?」
「望む……? 何を?」
と、大和が問うなり景川は変わらぬ笑みで、「はい、どーぞ」と両手を広げてみせた。
「なんですか? それ……」
「何って……もう~、しょうがない子ねぇ!」
景川は鈍感男の手を引っ張るや否や――己が胸元にその頭を抱き寄せた。
「ちょっ……いきなり何を……」
大和は咄嗟に逃げようとするが、
「こら、逃げないの! 私だってそのぅ……恥ずかしいんだから……」
景川は赤くなった顔を見せまいと、がっちりホールドする。
お互い無言になり、ただでさえ静かだった学園は更に粛然たる雰囲気を増す。
だが、そこに気まずさはなかった。寧ろ居心地が良く、大和は瞳を閉じると、緩やかにその身を委ねていく。
「あらあら、やっぱり甘えたかったのね? よーしよし……」
景川は顔を綻ばせ、大和の頭を優しく撫でる。
「会長……。オレは優しくされる資格なんて……ありません……」
「……大事な人を守れなかったから?」
「……はい」
景川は一拍置くと、より強く大和を抱きしめる。
「誰かを蹴落とすには蹴落とされる覚悟も必要よ。非情かもしれないけど、今回はこの程度で済んで良かったと君は捉えるべき。だって君は茨の道だと理解した上で歩んできたはずだから」
大和はゆっくり目を開けると景川を見上げつつ、その抱擁から解き放たれる。
「きっとその道は辛いでしょう……。でも、大丈夫……。私がずっと側に居てあげる。弱音を吐きたくなったらギュっと抱きしめてあげる。君を傷つける全てから……守ってあげる」
寄り添う景川の言葉は大和の凍てついた心を溶かし、その温かさは天にさえも呼応する。
先程まで泣き崩れていた空は輝かしい日を覗かせ、まるで後光でも差しているかのように景川を照らした。
「会長……」
大和はあまりの美しさに目を見開かせ、無意識に――景川を抱きしめた。
景川は一瞬驚くも、すぐに大和の想いを受け入れる。
耳元には昨日感じなかった高鳴る鼓動が届いており、景川は悦びに満ちた笑みを浮かべながら大和へと手を回した。
「やっとドキドキしてくれたね?」
「……一々、言わなくていいですよ……」
照れくさそうに大和は言う。
「これで私たちは……いい関係?」
景川がそう問うと、大和は抱きしめていた力を強める。
「もう少し……もう少しだけ……信じさせて……」
「もう~……まだ甘えたりないの? これ以上、お姉さんをどうしたいのかな?」
大和は暫し間を開けると、景川の耳元に囁く。
「聞きたいことが……あります……」
「……聞きたいこと?」
「……はい」
「……何かな?」
だが、また再び黙りこくる。
言い淀む理由を景川は……景川だけは察していた。何故なら……
「会長は……」
「うん……」
早まっていた鼓動が――
「影武者ですか?」
……急に冷たくなったから。
足取りはふらふらと定まらず、抜け殻のようなその様相は、支えなければ今にも倒れてしまいそう。
そんな男の足は無意識にミーティング室へと向けられていた。
昨日、総大将の集会が行われ、彼女と……景川士と初めて出会った場所だ。
この隙間を埋まられるのは、もう彼女しかいない。
そんな勝手で淡い期待を抱きながら、ミーティング室の扉を開けると――
「よかった……。来なかったらどうしようって思ってたんだよ……?」
視線の先、窓際に立っていたのは、まさに探し求めていた人物……景川本人であった。
「会長……なんでここに?」
大和は入室を果たすと、自然と彼女の下へ。
「教室に居なかったからさ。もしかしたらここじゃないかって……。ここは大和くんと初めて出会った場所だから……って、昨日会ったばっかりなのに大げさかな?」
全てを包み込まんとする慈愛の笑みを前に、大和はバツが悪そうに視線を逸らす。
「会長……オレは――」
「君は悪くない」
その真っ直ぐな言葉に、大和は「……え?」と彼女へ視線を戻す。
「世の中、綺麗事で済ませられないことなんて幾らでもある。能力者が蔓延るこの世界なんかじゃ特にね。そんな中で君は、充分最善を尽くした。だから……悪くない」
「最善……? 親友を失い、クラスメイトを見殺しにすることがですか?」
「うん。よく頑張ったね?」
お姉さんの称賛にむず痒さを感じたのか、大和の表情が漸く緩み始める。
「どうしてそんな風に言えるんです?」
「だって……それを望んでるからここに来たんでしょ?」
「望む……? 何を?」
と、大和が問うなり景川は変わらぬ笑みで、「はい、どーぞ」と両手を広げてみせた。
「なんですか? それ……」
「何って……もう~、しょうがない子ねぇ!」
景川は鈍感男の手を引っ張るや否や――己が胸元にその頭を抱き寄せた。
「ちょっ……いきなり何を……」
大和は咄嗟に逃げようとするが、
「こら、逃げないの! 私だってそのぅ……恥ずかしいんだから……」
景川は赤くなった顔を見せまいと、がっちりホールドする。
お互い無言になり、ただでさえ静かだった学園は更に粛然たる雰囲気を増す。
だが、そこに気まずさはなかった。寧ろ居心地が良く、大和は瞳を閉じると、緩やかにその身を委ねていく。
「あらあら、やっぱり甘えたかったのね? よーしよし……」
景川は顔を綻ばせ、大和の頭を優しく撫でる。
「会長……。オレは優しくされる資格なんて……ありません……」
「……大事な人を守れなかったから?」
「……はい」
景川は一拍置くと、より強く大和を抱きしめる。
「誰かを蹴落とすには蹴落とされる覚悟も必要よ。非情かもしれないけど、今回はこの程度で済んで良かったと君は捉えるべき。だって君は茨の道だと理解した上で歩んできたはずだから」
大和はゆっくり目を開けると景川を見上げつつ、その抱擁から解き放たれる。
「きっとその道は辛いでしょう……。でも、大丈夫……。私がずっと側に居てあげる。弱音を吐きたくなったらギュっと抱きしめてあげる。君を傷つける全てから……守ってあげる」
寄り添う景川の言葉は大和の凍てついた心を溶かし、その温かさは天にさえも呼応する。
先程まで泣き崩れていた空は輝かしい日を覗かせ、まるで後光でも差しているかのように景川を照らした。
「会長……」
大和はあまりの美しさに目を見開かせ、無意識に――景川を抱きしめた。
景川は一瞬驚くも、すぐに大和の想いを受け入れる。
耳元には昨日感じなかった高鳴る鼓動が届いており、景川は悦びに満ちた笑みを浮かべながら大和へと手を回した。
「やっとドキドキしてくれたね?」
「……一々、言わなくていいですよ……」
照れくさそうに大和は言う。
「これで私たちは……いい関係?」
景川がそう問うと、大和は抱きしめていた力を強める。
「もう少し……もう少しだけ……信じさせて……」
「もう~……まだ甘えたりないの? これ以上、お姉さんをどうしたいのかな?」
大和は暫し間を開けると、景川の耳元に囁く。
「聞きたいことが……あります……」
「……聞きたいこと?」
「……はい」
「……何かな?」
だが、また再び黙りこくる。
言い淀む理由を景川は……景川だけは察していた。何故なら……
「会長は……」
「うん……」
早まっていた鼓動が――
「影武者ですか?」
……急に冷たくなったから。
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