口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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第一章 支配者

第44話 激昂

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「大和くん……大丈夫ですか……?」

 私は沈黙を破り、大和くんへと語りかける。が……

「………………」

 変わらず反応は……ない。

「これから……どうしましょう……?」
「………………」
「あの……もし動くのであれば私も手伝わせてはもらえませんか?」
「………………」
「大和くんを叩いてしまった分際で虫が良すぎるのは分かってます。そのことは本当にすみません……。でも……! こんな姿の大和くんを、私は放っておくことなんてできません!」

 度重なる訴えにも、彼は無を貫く。
 でも、決して耳を貸してないわけじゃない……と思いたい。

「私じゃダメ……ですかね……?」
「………………」
「足手まといでしょうか……?」
「………………」
「そうですよね……。景川会長に比べたら私なんて……」

 ここから先は単なる愚痴。無駄に人と比べて、己を蔑むだけ。

「学園に入学した時から誰かの力になれればという一心で行動していましたが、私がしたことと言えば異能探求部を作っただけ。部長のくせに大和くんや叶和ちゃんが居なければ……何もできません……」
「………………」
「それに引き換え景川会長は一年の時から生徒会長さんですもんね……。生徒のために尽力して、先生からの人望も厚い。私なんかじゃ到底……」

 まったく……なんと情けないことか。己を嘲る暇があったら、もっとやるべきことがあるだろうに……。彼を少しでも元気づけるなり、この状況を打破せんと対策を講じたり、何か……

「――一年の時から生徒会長?」

 その時、何に引っ掛かったのか大和くんが口を開いた。こちらを見ずに淡々と。

「え? ええ……。確か聞いた話では前任の人に問題があって、繰り上げで生徒会長になったとか……」

 私がそう返すと大和くんは暫し沈黙したのち、徐に語り始めた。



 伍堂くんと別れを済ませ、私たちは警視庁を後にする。
 雨が降りやまぬ中、再びタクシーに乗って帰ってきたのは、ちょうど二時限目が終わった頃。

 休み時間に戻ってきたお陰もあってか、廊下には生徒たちが行き交っており、幸いにも抜け出した事実をカムフラージュできた。

 と言っても、滝先生には完全にバレているので、あとで怒られるのだろうことは自明の理。そんな懸案事項に頭を悩ませつつ、クラスに戻ると――

「大和っ……大和慧は何処だ……⁉」

 蛯原くんが慌てた様子で席を立ち、私へと詰め寄って来た。
 クラスのみんなが注目する中、その顔面蒼白っぷりに、私は幾分か後退ってしまう。

「な……なんですか、急に……?」

 と、返すも蛯原くんの興味はここには無く、その視線は私の後方へと彷徨っていた。
 そんな彼を横目に私が身体を避けると、後方からゆるりゆるりと大和くんが歩いて来る。

「や、大和慧……!」

 蛯原くんは、まるで希望の光でも見いだしたかの如く笑みを見せ、

「………………」

 対する大和くんは先程から変わらず、若干項垂れ気味だった。

「や、やあ……。その……大丈夫……か?」

 珍しく心配してみせる蛯原くんを前に、大和くんは一瞬だけ目元をピクつかせ、何も言わぬまま横を通り過ぎていく。

「あ、あのさあ……! チケットの件……覚えてるか……?」

 そんな気も知らぬまま、蛯原くんはへらへらと、大和くんの背に語りかける。

「……チケット?」

 と、大和くんは歩を止め、振り返らず聞き返す。
 その声色から怒りを宿していたことは誰が見ても明らかだった。……ただ、一人を除いては。

「そう……! チケットだ! あれってそのぅ……まだ使えたりするか……?」

 そのただ一人の言葉に大和くんは振り向くと、早足に彼の真ん前まで詰め寄る。

「どういう風の吹き回しだ?」
「いや……ほら、言ってたじゃないか! 身の振り方を考えろって……。だから、色々考えて……そのぅ……」

 煮え切らない蛯原くんに痺れを切らしたのか、大和くんは彼の胸倉を掴み、強引に引き寄せる。

「オレは理由を聞いてんだよ? そんなことも一々、教えなきゃいけないのか?」
「そ、そんな怒るなって……! 理由ね、理由……」

 続けて蛯原くんは語りだすが……

「やっぱさ……得体の知れない奴につくなんて気味悪いじゃん? 自分は矢面に立たず、裏から人使って……。前々から嫌な奴だって思ってたんだよ!」
「蛯原……」

 そのどれもが子供の言い訳のようで……

「その点お前はさ……! あんだけ追い詰められても一人で立ち向かって、本当にすげえっつーか……カッコいいよ! うん!」
「おい……」
「それに俺も脅されてるしさ! もう一心同体だろ? ここは一時休戦にして、あの卑怯な殺人犯を一緒に捕まえようぜ! だから――」

「蛯原ァッッ‼」

 ……あの大和くんを激昂させた。

 教室内は一瞬にして、しんと静まり返る。
 廊下にさえ届いたその怒号に、他クラスの生徒も何事かと、否応なく惹き寄せられていく。

 蛯原くんはそれらの状況を前にして、漸く己が立場を理解する。
 言い訳をピタリと止め、対照的に身体をプルプルと震えさせたからだ。

「ご、ごめんッ‼ 実は昨日……! 色々あって……」

 そして蛯原くんは間をおかず、大和くんの手から離れると、床に向かって頭を垂れる。
 大和くんは彼の懺悔を見下ろしつつ、皆の注目を浴びる中、射るような眼差しで最後の催促をする。

「話せ……包み隠さず」
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