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第一章 支配者
第41話 稚魚の叛乱
しおりを挟む 異能開発学園校舎裏――
普段から閑静なこの空間は、能力者が事を起こすのに打って付けの場所。
巻き込まれたくなくば、このエリアは避けるべし……。少なくともそれが生徒間で共有されている認識であった。
ゆえに影どもの聖戦でその音を轟かせようと、咎める者は誰も居ない……が、それはさっきまでの話。
今や校舎裏は平時と同様の静けさを取り戻しており、周囲にはそれを表すかの如く数多の影が横たわっていた。
「――ぐッ‼ 馬鹿なッ……! この……俺がぁッ……!」
地に膝をつく樫江田もその一人。
今にも倒れそうな血みどろの身体を何とか支えている。
「ゔぅ……さすが名門校やッ……! ええ能力者が揃っとる……」
片や一人、傷だらけのまま立ち続ける男――伍堂出。
ふらつく足取りで見せたその顔は、苦悶と笑みが入り交じっていた。
「バケモンか……テメエはッ……⁉」
「へっ……せやな……。ワシはバケモンや。せやから兄弟のことは、もうほっといたれ。どうせワシ一人壊せんような奴らじゃ、兄弟の命は取れんからのう……」
樫江田は口元の血を拭うと、伍堂同様、笑みを浮かべ返す。
「そいつは無理な相談だ……。なんせ俺らには、もう後がねえ。大和慧を地獄に叩き落せなきゃ、どっちみち消されちまうんだからよぉ……」
やられた所為もあってか、いくぶん自棄気味の樫江田。
そんな弱音を吐く男に伍堂は歩み寄ると、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「なら、お前らのボス教えろや? ワシが逆に叩き潰したる。そうすりゃあ、お前らが助かる目も」
「――それじゃあダメなんだよなぁ?」
何処か聞き覚えのある嫌悪感を生む声音……
伍堂は胸のざわめきと共に振り返ると、背後には因縁浅からぬ男――蛯原亮二が立っていた。
「お前は……兄弟にちょっかい出してた下っ端か?」
「蛯原だ。覚えとけ落ちこぼれが」
伍堂はゆるりと伸びをしながら痛む体を押し上げる。
「で? その蛯原が何の用や? またボコられに来たんか?」
「フッ……そんな事された日には、俺ぁもうお終いだ。だが、まだ終わる気はない……。コレがあるからなぁ?」
蛯原は徐にスマホを取り出すと、映し出された映像を見せつける。
「あ? なんやそれ?」
「よーく見てみろよ。見知った顔が居るんじゃないか?」
伍堂は言われた通り、眉間にしわを寄せながら画面を覗き込む。
一歩二歩……映し出された映像がより鮮明になるにつれ、先ほどの胸のざわめきが確信へと変わる。
「――ッ⁉ こ、これは……⁉」
「お前、中学のとき仲間たちとテッペン目指すっつって、毎日毎日、一緒に連んでヤンチャしてたらしいなぁ? 確かこの学園に来たのも、こいつらともう一度ダチになる為なんだろう? ハッ……泣ける話じゃないか」
その画面には伍堂が学園に来た理由の根幹である――嘗ての仲間たちの姿が映し出されていた。だが、決して捕らえられているわけではない。あくまでも日常の風景を切り取っただけの映像のよう。
しかし伍堂からすれば、それは『いつでも襲える』という脅し。
画面が切り替わる度に見知った顔が映し出され、見る見るうちにその形相は鬼へと変貌していく。
「テメエェ……! アイツらをどうするつもりやッ‼」
「クッフッフッフッフ……驚きだよなぁ? 朝、お前が出しゃばってきてもうコレだ。ボスの手の早さったら尋常じゃない」
今にも飛び出しそうな握り拳を押し殺す伍堂。
対して蛯原は朝の件もあってか、偉くご満悦で続ける。
「わかったろ? あの方に喧嘩を売ったらどうなるか。駒は俺たちだけじゃない。外にだって無数にいるんだ。それにあの人は全てお読みになってる。お前が大和慧を陰から守ることも、樫江田先輩たちと喧嘩してボロボロになるのも、ぜーんぶなぁ?」
「読んでたやと……?」
「ああ、そうさ。ま、本来の筋書きはお前が負けることだったんだろうけど、ボスは勝つことも想定済み。ゆえにこの映像を俺に送ってきたんだ。これが這い上がる最後のチャンスだってなぁ?」
蛯原ももう後がない。追い詰めている反面、この男もまた追い詰められており、浮かべていた冷笑も何処かぎこちないものだった。
そんな憐れな男は一頻り嗤ったのち、スマホをしまいながら意を決したように大きく息を吐く。
「……じゃあ理解できただろうし、そろそろ行こうか? お前には相応しい場所を用意してある。樫江田先輩たちも同行してください。そういう指令なんで」
ボス経由とはいえ後輩からの命令に屈辱感を露にする樫江田。
舌打ち交じりに体を押し上げると、下っ端たちも呼応するようにその後に続く。
そんな影たちを従えた蛯原は一拍置くと両手を広げ――
「さあ、再開するとしようぜ、伍堂? ダセェ不良漫画の……続きをよぉ?」
成魚にならんと一世一代の叛乱を始める。
普段から閑静なこの空間は、能力者が事を起こすのに打って付けの場所。
巻き込まれたくなくば、このエリアは避けるべし……。少なくともそれが生徒間で共有されている認識であった。
ゆえに影どもの聖戦でその音を轟かせようと、咎める者は誰も居ない……が、それはさっきまでの話。
今や校舎裏は平時と同様の静けさを取り戻しており、周囲にはそれを表すかの如く数多の影が横たわっていた。
「――ぐッ‼ 馬鹿なッ……! この……俺がぁッ……!」
地に膝をつく樫江田もその一人。
今にも倒れそうな血みどろの身体を何とか支えている。
「ゔぅ……さすが名門校やッ……! ええ能力者が揃っとる……」
片や一人、傷だらけのまま立ち続ける男――伍堂出。
ふらつく足取りで見せたその顔は、苦悶と笑みが入り交じっていた。
「バケモンか……テメエはッ……⁉」
「へっ……せやな……。ワシはバケモンや。せやから兄弟のことは、もうほっといたれ。どうせワシ一人壊せんような奴らじゃ、兄弟の命は取れんからのう……」
樫江田は口元の血を拭うと、伍堂同様、笑みを浮かべ返す。
「そいつは無理な相談だ……。なんせ俺らには、もう後がねえ。大和慧を地獄に叩き落せなきゃ、どっちみち消されちまうんだからよぉ……」
やられた所為もあってか、いくぶん自棄気味の樫江田。
そんな弱音を吐く男に伍堂は歩み寄ると、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「なら、お前らのボス教えろや? ワシが逆に叩き潰したる。そうすりゃあ、お前らが助かる目も」
「――それじゃあダメなんだよなぁ?」
何処か聞き覚えのある嫌悪感を生む声音……
伍堂は胸のざわめきと共に振り返ると、背後には因縁浅からぬ男――蛯原亮二が立っていた。
「お前は……兄弟にちょっかい出してた下っ端か?」
「蛯原だ。覚えとけ落ちこぼれが」
伍堂はゆるりと伸びをしながら痛む体を押し上げる。
「で? その蛯原が何の用や? またボコられに来たんか?」
「フッ……そんな事された日には、俺ぁもうお終いだ。だが、まだ終わる気はない……。コレがあるからなぁ?」
蛯原は徐にスマホを取り出すと、映し出された映像を見せつける。
「あ? なんやそれ?」
「よーく見てみろよ。見知った顔が居るんじゃないか?」
伍堂は言われた通り、眉間にしわを寄せながら画面を覗き込む。
一歩二歩……映し出された映像がより鮮明になるにつれ、先ほどの胸のざわめきが確信へと変わる。
「――ッ⁉ こ、これは……⁉」
「お前、中学のとき仲間たちとテッペン目指すっつって、毎日毎日、一緒に連んでヤンチャしてたらしいなぁ? 確かこの学園に来たのも、こいつらともう一度ダチになる為なんだろう? ハッ……泣ける話じゃないか」
その画面には伍堂が学園に来た理由の根幹である――嘗ての仲間たちの姿が映し出されていた。だが、決して捕らえられているわけではない。あくまでも日常の風景を切り取っただけの映像のよう。
しかし伍堂からすれば、それは『いつでも襲える』という脅し。
画面が切り替わる度に見知った顔が映し出され、見る見るうちにその形相は鬼へと変貌していく。
「テメエェ……! アイツらをどうするつもりやッ‼」
「クッフッフッフッフ……驚きだよなぁ? 朝、お前が出しゃばってきてもうコレだ。ボスの手の早さったら尋常じゃない」
今にも飛び出しそうな握り拳を押し殺す伍堂。
対して蛯原は朝の件もあってか、偉くご満悦で続ける。
「わかったろ? あの方に喧嘩を売ったらどうなるか。駒は俺たちだけじゃない。外にだって無数にいるんだ。それにあの人は全てお読みになってる。お前が大和慧を陰から守ることも、樫江田先輩たちと喧嘩してボロボロになるのも、ぜーんぶなぁ?」
「読んでたやと……?」
「ああ、そうさ。ま、本来の筋書きはお前が負けることだったんだろうけど、ボスは勝つことも想定済み。ゆえにこの映像を俺に送ってきたんだ。これが這い上がる最後のチャンスだってなぁ?」
蛯原ももう後がない。追い詰めている反面、この男もまた追い詰められており、浮かべていた冷笑も何処かぎこちないものだった。
そんな憐れな男は一頻り嗤ったのち、スマホをしまいながら意を決したように大きく息を吐く。
「……じゃあ理解できただろうし、そろそろ行こうか? お前には相応しい場所を用意してある。樫江田先輩たちも同行してください。そういう指令なんで」
ボス経由とはいえ後輩からの命令に屈辱感を露にする樫江田。
舌打ち交じりに体を押し上げると、下っ端たちも呼応するようにその後に続く。
そんな影たちを従えた蛯原は一拍置くと両手を広げ――
「さあ、再開するとしようぜ、伍堂? ダセェ不良漫画の……続きをよぉ?」
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