口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

文字の大きさ
上 下
40 / 132
第一章 支配者

第38話 稚魚よ踊れ

しおりを挟む
 二年B組――

 六限目終了後、大和くんの安否が気になり、そわそわする私。できることなら今すぐにでも確かめに行きたいが、決別という状況が足を引っ張って以下同文。

 やっぱりあんなことするべきじゃなかった。謝ろう……彼が戻ってきたらすぐに。そして、みんなで一緒に――

「よお、大和慧。よく無事で戻って――ッ⁉」

 気を取り直した矢先、蛯原くんの疎ましい声が扉方面から届く。
 どうやら大和くんを待ち構えていたらしいが、何やら様子がおかしい。私はすぐに声のする方へ視線を移す。すると、そこには……

「無事? もしかして君も彼らのお仲間?」

 何故か生徒会長の景川士先輩が鞄を持って立っていた。
 突如現れた生徒内最高権限者に、教室中がざわつき始める。

「な、なんで生徒会長がここに……?」

 蛯原くんは顔を引き攣らせながら、隣り合う大和くんと会長を交互に見やる。

「彼、怪我してね。心配だから付き添ってきたの。何か問題だったかしら?」
「いや……別に……」

 さすがに生徒会長相手では分が悪いのか、蛯原くんは珍しく歯切れも悪かった。

「なら良かった。じゃあ、鞄取ってきてあげるから、ちょっと待ってて」

 景川会長は大和くんへそう言うと、彼の席へ真っ直ぐ向かう。
 直後、蛯原くんは間隙を縫うように鼻で笑った。

「藤宮に伍堂……次は生徒会長ってか? よかったなぁ、色んな奴に守ってもらえて? こんな奴相手にしてるかと思うと、ちょいと情けなくなってくるよ」
「人は知らず内に色んな奴に守られてる。それはお前も例外じゃない。その服も食事も、学園に通えてるのだって、お前を守ってくれた誰かさんのお陰だ。そんな当たり前のことも教えなきゃならんほどに、お前は愚かだったのか?」

 大和くんの挑発に蛯原くんは「あぁ⁉」と分かり易く乗る。

「名門校の生徒以前に、もっと人として頭使って話したらどうだ? オレはお前の先生じゃないんだ。毎回、教えてやれるわけじゃないんだぜ?」
「テメエェ……! いい加減にッ――」

 蛯原くんが掴みかかろうとした瞬間、「そこまでよ!」と景川会長が割って入る。

「それ以上やったら違反行為とみなして『時戒室』行きよ! 大和くんも、あんまり挑発しないの! いくら君でも、やり過ぎたら守り切れないんだから……」

 なんとか双方を窘める景川会長。が、蛯原くんはもう止まれないようで……

「邪魔しないでくださいよ、会長ォ……! これは男同士の喧嘩……アンタの出る幕じゃないッ……!」

 半ば八つ当たり気味の蛯原くんに、大和くんは意趣返しするかの如く鼻で笑う。

「喧嘩? お前とそんなことをするつもりはない。何故ならオレは、お前に感謝してるから」
「はぁ⁉ 感謝だと……?」
「ああ。だってそうだろ? お前が踊ってくれたお陰で――

 彼の一言にざわついていた教室が一挙にして静まり返る。

 普段この時間帯は一日の終わりと活気づくころ。しかし、今はピンと張りつめた空気が教室中を飲み込んでいた。

「は……ははっ……ハッタリかましてんじゃねえよ……?」

 蛯原くんは顔を強張らせながらも、なんとか気丈に振る舞ってみせる。が、傍から見ても無理しているのが丸わかりだった。

「オレがハッタリかます奴かどうかは、お前が一番よく分かってるはず。ゆえにオレはお前と喧嘩をする必要がない。いや……手を出す必要がないと言った方が正しいか」
「……え?」
「おいおい、気付いてないのか? お前自身が……ボスの尻尾を掴ませてしまっただってことに」

 聞いた途端、一歩二歩と首を横に振りながら後退りする蛯原くん。もはや彼がその『黒幕《ボス》』とやらに怯え切っているのは、火を見るよりも明らかだった。

「……いや……違う……俺は……」

 そんな蛯原くんの肩をガシリと掴む大和くん。落ち着かせる為なのか、はたまた逃がさない為なのか……

「そろそろ身の振り方を考える時じゃないか?」
「身の……振り方……?」
「お前んとこのボスは仲間だろうが『裁き』と称して粛清するような輩。井幡の前例がある以上、十中八九お前もその後を辿ることになる。いいのかそれで?」

 額に冷や汗を滲ませ、歯を食い縛る蛯原くん。
 すると大和くんはすかさず、彼の耳元で何やら囁き始める。

「お前に渡した『頭を垂れて助けてもらうチケット』はまだ有効だ。使い方を間違えないよう、よーく考えるんだな。どっちが『大和』で……どっちが『蛯原』か……」

 大和くんは乱雑に蛯原くんを解き放つと、景川会長から己が鞄を取り上げ、早々に教室を後にする。

「ちょ……ちょっと待ってよ、大和くん!」

 景川会長が追いかけていくと、残された蛯原くんだけがぽつん立つ。
 次第に握られた拳は震え、あらゆる感情が臨界点を突破した時――

「ぐあぁぁぁああああぁぁぁあががぁあああぁああがががぁあああッッ‼」

 やるせない咆哮が教室中に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...