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第一章 支配者

第37話 お姉さんの言う通り

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「あの……もう大丈夫ですから……」

 医務室へ向かう道中、大和は景川から距離を離す。

「大丈夫じゃないでしょ? そんなに痛そうにして……」

 景川の言うように、大和は己が腕を労わるようにさすっていた。

「でも、医務室はちょっと……」

 と、何やら視線を逸らす大和。
 その姿を見て景川はスッとジト目になり、視線の先に回り込んでは、ニヤニヤしながら顔を覗き込んだ。

「もしかして大和くん……病院とか苦手なタイプ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「あ、図星でしょ? もう、しょうがない子ねぇ……。ほら、お姉さんがついていってあげるから早く行くわよ?」

 結局、大和は強引に押し切られ、再び景川に担がれながら医務室へと向かった。



 医務室――

「失礼しまーす……って、あれ? 先生いないわね」

 寂とした医務室に景川の声だけが当てもなく彷徨う。
 どうやら誰も居ないらしく、大和は安堵の息を漏らしながら景川から離れる。

「もう大丈夫です。あとは一人で――」
「取りあえず患部は冷やさないとだよね? アイスバッグ用意するから、ちょっと待ってて」

 景川は有無を言わさず、冷蔵庫を物色し始める。

「いや、自分でやりま――」
「大和くんはベッドで休んでて。あ、上着脱いで袖まくっといてくれる? 患部が見えるようにね。っていうか、痛いのどっち? 右? 左?」
「…………左です」
「そ。じゃあ、ちょっと待っててね。今、お姉さんがやってあげるから」

 てきぱき用意し始める景川を前に、大和は口撃の余地なく白旗。見事、押しの弱さをつつかれ、情けなくもベッドへと腰を下ろす。

 上着を脱ぎ、左腕の袖をまくると、まるで反抗期の子供みたく不貞腐れながら待機。
 その様子を見た景川は笑みを零し、しばらくすると準備ができたのか、アイスバッグを持って大和の患部を覗き込んでくる。

「腫れはそこまで酷くなさそうね。痛みは?」
「多少ありますが、心配する程のもんじゃありません。……どうも」

 大和は少しばかり頭を下げると、景川からアイスバッグを取り、患部へと当てる。
 景川はそれを姉のような笑みで包み込み、大和の隣へと腰を下ろした。

「なら良かった。骨折の心配はなさそうだけど、ちゃんと病院行くのよ? あ、なんだったら付いていってあげようか?」
「結構です。そこまで気を遣ってもらわなくても」

 不愛想な大和に尚も笑みを零す景川。距離を詰めるように今一度座り直す。

「でも、凄いね。この程度の怪我で済んでるなんて。結構、鍛えてるんだ?」
「どうしてそうなるんです?」
「聞いたことない? 能力者は鍛えるとって。まあ、都市伝説みたいなものだけどね」

 大和は朝の伍堂を思い出す。が、当然そのは知っていた。知っててとぼけた。

「運が良かっただけですよ。オレは病弱なんで」
「そうなの? 結構、筋肉質に見えるけど」

 そう言って景川は二の腕をツンツンつつく。
 すると大和は鬱陶しそうに、つつかれた腕を反射的に動かす。

「さっきから随分と馴れ馴れしいですね? なんなんですか、あなたは?」
「あ、ごめん……。自己紹介がまだだったよね。私は三年A組の景川士かげかわつかさ。さっき言った通り生徒会長をやってるの。よろしくね」

 景川は握手せんと手を差し出すが、大和はそれを受け入れない。

「生徒会長ってのは、そんなに土足で踏み込んでくるものなんですか?」
「……どういう意味?」
「さっきから、やたらと距離が近いんですよ。――オレのこと知ってるはずなのに」

 一瞬、真顔になったのち、景川は再び柔らかな笑みを浮かべる。

「大和くんは人を助けるのに理由がいるタイプ?」
「あなたこそ誰かれ構わず助けるタイプですか? 『暴露』するうえ、自殺に追い込むような奴が相手でも?」
「『暴露』はしただろうけど自殺までは関与してないでしょ? それくらい分かるわよ」
「どうしてそう言い切れるんです?」

 大和からの追及に景川は暫し間を取る。
 己が膝をポンと叩くと腰を上げ、後ろ手を組みながら大和の正面へと立つ。

「朝比奈さんのこと覚えてる?」
「朝比奈……? 美術部の?」
「そう。朝比奈さんとはクラスメイトでね。君のことは彼女から聞いたの。ずっと好きだった人と付き合えたのは大和くんのお陰ってね。おまけに猫探しまでして、ちゃーんと見つけたらしいじゃない。そんな優しい人が自殺に追い込むなんてことするはずがない。それが理由じゃダメ?」

 景川は大和を覗き込むように目線を合わせると、少々あざとめに小首を傾げてみせた。

「『暴露』したのは事実ですよ?」
「それは相手が悪いことしたからでしょ? 君は何も悪くない。それが分かってるから私は大和くんを助けたの。距離が近いのだって誰にでもってわけじゃない。少なからず君に……って、全部女の子に言わせる気?」

 若干頬を染め、恥ずかしげに笑ってみせる景川。
 対する大和は調子が崩れたのか、気まずそうに視線を逸らす。

「だからね……」

 ゆえに大和は隙を突かれ――

「お姉さんが守ってあげる。君のそばで……ずっと……」

 景川に頭を撫でられてしまった。
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