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第一章 支配者

第31話 決別

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 真っ直ぐ伸びる廊下の先に『時戒室』を捉え、私は一歩一歩足を踏み締める。
 現実時間で考えれば、メンタルケアは一人当たり五分程度の計算。そろそろ終わる頃だろう……彼の順番が。

「………………」

 そう思った矢先、大和くんが『時戒室』から出てくる。
 私を一瞥するも無言を貫き、横を通り抜けていく。予想通りの対応だ。

「大和くん……あとでお話があります。部室まで来てください」

 その背に申し出ると、大和くんは心を閉ざしたまま歩を止める。

「オレに話すことはない。強いてあるとすれば、部活はもう辞めるってことくらいだ」
「そうですか。であれば尚更、一度お越しになって下さい。諸々、手続きがありますので」

 私は淡々と会話を切り上げ、『時戒室』へと入っていく。

 こうすれば彼も来ざるを得ないだろう。いつまでも後手に回るつもりはない。私だって……!



 時刻は十二時半ちょうど。メンタルケアやHRが終わり、チャイムの鳴る音と共に生徒たちは早々に教室を後にしていく。その中には当然、藤宮さんの姿はなく、私は彼女の鞄も一緒に部室へと向かった。

 いつもなら大和くんと一緒だが、今日は時間をずらす。その方がきっと彼も来やすいだろう。
 帰る生徒の波を逆走するのは少々骨が折れたが、三階を越えたあたりでその人込みはぱったり消え、一番奥の部室前に二人の姿を見い出す。

 一人は叶和ちゃんで、もう一人は藤宮さん。どちらもこの後の話し合いのためと呼んだ二人だ。

「どうしたんですか、お二人とも? 入らな……」

 しかし、私の言葉はそこで途切れた。彼女らの惨憺たる面持ち、その先にある光景の所為で……

「なんなんですか……これは……?」

 視界に入ってきたのは荒れに荒れた部室の姿だった。
 テーブルは砕かれ、破かれた本が散乱し、周囲の壁には『犯罪者』、『死ね』、『消えろ』など罵詈雑言が書かれた紙が多数張られていた。

 誰もが一瞬で察した。首謀者の魔の手が私たちのすぐ側まで迫っていることに……

「だから言ったろ。『友達は選べ』って」

 すると真横から『退部届』を差し出す大和くんの姿が。

「そして、こうも言った。『誰かれ構わず助けようとすると、今度はお前が面倒ごとに巻き込まれるぞ』ともな」

 私が受け取らないまま固まっていると、大和くんは『退部届』を手放し、強烈な冷気を纏いながら踵を返す。

「ちょっと待ってよ、慧っ! この惨状を見たでしょ? 独りでどうにかできる相手じゃないわ! ここはみんなで一緒に……」

 止めたのは藤宮さん。しかし、氷壁に阻まれて触れることすら叶わない。

「もうオレに話しかけんなって言ったよな? それとも何か? お前は助けられたら誰にでも尻尾を振るのか?」

 機械的に振り向き、冷めた口調で述べる大和くん。

「慧……何を言って……」

 片や藤宮さんの面持ちは、見る見るうちに沈んでいく。

「そういう奴のこと何ていうんだったかな? そう。確かアバズ――」

 パンッ――‼

 乾いた音が静まり返る廊下に響き渡った。
 直後、彼の頬はほんのり赤く腫れ、私の手の平にもその痛みが伝達する。

 本当は私も分かっていた。彼が我々を巻き込むまいと、このような態度を取っていたことなど。全ては優しさからくる厚意で、彼は何一つ変わっていない。わかっていたはず……だけど!

「嘘でもそんなこと……言わないでくださいッ……!」

 視界が滲む私に薄笑いを浮かべる大和くん。

 きっとこれも彼の想定通りなんだろう。こうやって人を遠ざけて、一人で解決しようとする。誰よりも冷たくて……優しい人。

 なら私も覚悟を決めなければならない。叩いてしまったことは、あとで誠心誠意謝ればいい。私が今なすべきことは、この一件が終わるまで――彼と決別することだ。
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