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第一章 支配者
第29話 騎士の歩み(前編)
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「………………」
だが、当の大和くんは我関せず。その頬杖を突く姿に、堪らず蛯原くんが口を開く。
「お前もなんか言ったらどうなの? 女を盾にしてるんじゃなくてさ」
「別に? この女が勝手にやってるだけのこと。オレには関係ない」
大和くんの吐き捨てるような物言いに、藤宮さんは「はぁ⁉」と眉根を寄せ、振り返る。
「ちょっと助けたくらいで勘違いされて、こっちも迷惑してるんだ。そりゃ、あんな噂も流されるわ」
「アンタ何言ってんの⁉ アタシはアンタの為に――」
「聞こえなかったか? 迷惑してるんだ。もうオレに話しかけんな」
大和くんのそれは、私でさえ嫌悪感を抱かせるものだった。
冷たい眼差し、声音、態度に至るまで、とても演じているようには見えない程の圧倒的な拒絶。思わず私も声を上げそうになった。
藤宮さんは震える下唇を嚙み、ポロポロと涙を流す。恐らく今度は本物の。
「さっすが犯罪者。切り捨てるときも容赦ないねぇ。でも……本当にそうなのかなぁ?」
顎をさする蛯原くんは不敵に笑むと、カッターの照準を藤宮さんへ移す。
「藤宮さん、危ないっ‼」
私が立ち上がったと同時に、蛯原くんは容赦なくカッターを射出。気付いた藤宮さんが振り返ろうとするも一手遅く、その背にカッターが――
「――ッ⁉」
……教室中の視線が一点にソレを捉える。根元まで突き刺さるその鋭利な刃を。
しかし、視線の行く先は藤宮さんではなかった。刺さっていたのは背ではなく、正面の黒板のさらに上……天井だったからだ。
「まーだ歯向かう気力あったんだ? 腐っても能力者だねぇ」
ペンケースの中身を出す蛯原くんに、藤宮さんは「いや、アタシじゃ……」と呟くが、ジャラジャラと立てる音に搔き消される。
そう。今のは藤宮さんがやったことではない。私からはハッキリと見えた。私の視界の端、隣に座る渡くんの目が――不規則かつ異様な速さで動いていたのを。
「おーい、次、蛯原の番……って、あれ? 何、この空気……?」
ちょうどその時、一番手だった相沢くんが戻ってくる。すぐに察したのか、当たりをキョロキョロ見回していた。
「……命拾いしたねぇ」
蛯原くんは舌打ち交じりに席を立ち、ポケットに手を入れては入れ替わるように教室を出て行く。
緊迫した空気が解かれ、静寂を取り戻す教室内。
今ならと藤宮さんは恐る恐る大和くんを一瞥する。
――――――――――――――――――――――――――――――
が、彼は分厚い氷壁を纏い、一切の介入を許さなかった。
冷徹な対応は大粒の涙となり、彼女を否応なしに、この場から逃避させる。
「藤宮さん!」
私が呼びかけるも、彼女が止まることはなかった。
大和くんに視線を移せど彼は凍ったように動かず、私は視線を何度か彷徨わせたのち、駆け出した彼女の後を追った。
◆
彼女の駆ける足音を頼りに追うこと数分……
場所は屋上。漸くその背を捉える。
「藤宮さん……」
上がる息を整えつつ、私は慎重に言葉を紡ぐ。
「大和くんはその……藤宮さんを巻き込むまいと、あんな事を言ったんだと思います。彼は基本的に人を遠ざける性格ですから……。決して本心じゃありません。だって彼は――」
「優しいから……でしょ……?」
よかった……彼女にもちゃんと伝わっていたようだ。
「でも……なんか出ちゃうのよぉ! わかんないけどっ……いっぱいぃ……」
藤宮さんは嗚咽交じりに蹲る。そこにいつものアグレッシブさはなかった。どこか儚く……そして、とても小さく感じた。
そんな姿を私は見ていられず、考えるよりも先に身体が動く。
「好きになっちゃったんですね……彼のことを」
ゆっくりと肩に寄り添い、私は藤宮さんを抱きしめた。
頭を撫でるとタガが外れたのか、藤宮さんはわんわんと泣き出した。
◆
それからしばらくは彼女と共に屋上で過ごす。今さら戻るに戻れなかった為、橋本さんと連絡を取ることで、藤宮さんの順番も無事終わり、メンタルケアは滞りなく進んでいく。
そして、そろそろ……彼の順番だ。
だが、当の大和くんは我関せず。その頬杖を突く姿に、堪らず蛯原くんが口を開く。
「お前もなんか言ったらどうなの? 女を盾にしてるんじゃなくてさ」
「別に? この女が勝手にやってるだけのこと。オレには関係ない」
大和くんの吐き捨てるような物言いに、藤宮さんは「はぁ⁉」と眉根を寄せ、振り返る。
「ちょっと助けたくらいで勘違いされて、こっちも迷惑してるんだ。そりゃ、あんな噂も流されるわ」
「アンタ何言ってんの⁉ アタシはアンタの為に――」
「聞こえなかったか? 迷惑してるんだ。もうオレに話しかけんな」
大和くんのそれは、私でさえ嫌悪感を抱かせるものだった。
冷たい眼差し、声音、態度に至るまで、とても演じているようには見えない程の圧倒的な拒絶。思わず私も声を上げそうになった。
藤宮さんは震える下唇を嚙み、ポロポロと涙を流す。恐らく今度は本物の。
「さっすが犯罪者。切り捨てるときも容赦ないねぇ。でも……本当にそうなのかなぁ?」
顎をさする蛯原くんは不敵に笑むと、カッターの照準を藤宮さんへ移す。
「藤宮さん、危ないっ‼」
私が立ち上がったと同時に、蛯原くんは容赦なくカッターを射出。気付いた藤宮さんが振り返ろうとするも一手遅く、その背にカッターが――
「――ッ⁉」
……教室中の視線が一点にソレを捉える。根元まで突き刺さるその鋭利な刃を。
しかし、視線の行く先は藤宮さんではなかった。刺さっていたのは背ではなく、正面の黒板のさらに上……天井だったからだ。
「まーだ歯向かう気力あったんだ? 腐っても能力者だねぇ」
ペンケースの中身を出す蛯原くんに、藤宮さんは「いや、アタシじゃ……」と呟くが、ジャラジャラと立てる音に搔き消される。
そう。今のは藤宮さんがやったことではない。私からはハッキリと見えた。私の視界の端、隣に座る渡くんの目が――不規則かつ異様な速さで動いていたのを。
「おーい、次、蛯原の番……って、あれ? 何、この空気……?」
ちょうどその時、一番手だった相沢くんが戻ってくる。すぐに察したのか、当たりをキョロキョロ見回していた。
「……命拾いしたねぇ」
蛯原くんは舌打ち交じりに席を立ち、ポケットに手を入れては入れ替わるように教室を出て行く。
緊迫した空気が解かれ、静寂を取り戻す教室内。
今ならと藤宮さんは恐る恐る大和くんを一瞥する。
――――――――――――――――――――――――――――――
が、彼は分厚い氷壁を纏い、一切の介入を許さなかった。
冷徹な対応は大粒の涙となり、彼女を否応なしに、この場から逃避させる。
「藤宮さん!」
私が呼びかけるも、彼女が止まることはなかった。
大和くんに視線を移せど彼は凍ったように動かず、私は視線を何度か彷徨わせたのち、駆け出した彼女の後を追った。
◆
彼女の駆ける足音を頼りに追うこと数分……
場所は屋上。漸くその背を捉える。
「藤宮さん……」
上がる息を整えつつ、私は慎重に言葉を紡ぐ。
「大和くんはその……藤宮さんを巻き込むまいと、あんな事を言ったんだと思います。彼は基本的に人を遠ざける性格ですから……。決して本心じゃありません。だって彼は――」
「優しいから……でしょ……?」
よかった……彼女にもちゃんと伝わっていたようだ。
「でも……なんか出ちゃうのよぉ! わかんないけどっ……いっぱいぃ……」
藤宮さんは嗚咽交じりに蹲る。そこにいつものアグレッシブさはなかった。どこか儚く……そして、とても小さく感じた。
そんな姿を私は見ていられず、考えるよりも先に身体が動く。
「好きになっちゃったんですね……彼のことを」
ゆっくりと肩に寄り添い、私は藤宮さんを抱きしめた。
頭を撫でるとタガが外れたのか、藤宮さんはわんわんと泣き出した。
◆
それからしばらくは彼女と共に屋上で過ごす。今さら戻るに戻れなかった為、橋本さんと連絡を取ることで、藤宮さんの順番も無事終わり、メンタルケアは滞りなく進んでいく。
そして、そろそろ……彼の順番だ。
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