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序章 暴露
第22話 ストーカー&ストーカー
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明朝――
時刻は八時十五分過ぎ。今日も今日とて学生を全うせんと登校する大和。他の学生に紛れながら、波に乗るように校門を潜る。
『にゃー』
すると隅の木陰から、お姉さんの鳴き声が届く。
大和は一瞬固まるも、すぐ歩を進める。
『坊にゃー』
大和はまた固まり、観念したのか溜息をつきつつ右折する。
「喋りかけんな。今はマズい」
『大丈夫よ。猫に話しかけるなんてよくある光景なんだから。気にしすぎよ』
声の主は当然、猫のカーポ。
相変わらずふてぶてしい態度で大和を見上げている。
「で? なんか用?」
と、大和は周りに怪しまれぬよう、屈むなりカーポを撫でる。
『別に? あの子は大丈夫かなぁとか、坊やは約束守ってくれてるかなぁとか、それで見に来ただけ』
「約束してないけどな。それに、そんな心配なら直接あいつに言えばいいだろ? 喋れんだからさ」
『それはできない。だってあの子、正義感強いし。もし居るなんて知ったら、絶対探すに決まってるわ。自分の為じゃなく、みんなの為にね』
大和はフンと鼻を鳴らし、視線を逸らす。
自分でも分かり切ってた答えがゆえの歯痒さか。
『あの子にそんな危険な橋は渡らせられない。だから坊やに頼んでるのよ。あちらが裏で動いてる以上、こちらは引きずり出せるくらいの人材じゃないと。そういった意味じゃ、坊やは適任じゃない?』
「ったく……察しのいい猫様だこと」
年下の坊やを手玉に取り、満足気に笑みを零すカーポ。
そののち、鼻をひくつかせると、何かを見つけたかのように後方へ振り向く。
『来たみたい……。じゃあ、あとはお願いね……騎士くん?』
そう言うとカーポは校舎へと駆けていく。
彼女が視線を向けていた先からは、こちらに気付いた牧瀬が駆け寄ってきていた。
◆
「おはようございます、大和くん。……今、誰かと話してませんでしたか?」
私がそう話しかけると大和くんは「別に……」と腰を上げ、いつも通りの素っ気無い態度で歩を進める。
「そうですか……。あ! そういえば大和くん、何で昨日帰っちゃったんですか? せっかく打ち上げしようと色々買ったのに……」
私はその背についていきながら少しばかり頬を膨らます。
「墓参りだよ、墓参り。急に入っちゃってなぁ」
「お墓参りは急になんて入りません。もう……どうしてそんなに嫌がるんですか?」
「別に嫌がってるわけじゃ……」
「じゃあ、今日するってことでいいですよね?」
「よかねえだろ。なんで行く前提になってんだよ」
「だって昨日、見学しに来たじゃないですか?」
「見学したら入らなきゃいけない決まりでもあるのか? ねえだろ? オレには合わなかった。ただそれだけのことさ」
「いや、絶対合ってますって。もっと自信持って下さい」
「自信とかじゃねえんだよ。嫌だって言ってんだよ」
「あ、やっぱり嫌なんですね?」
そこで大和くんは沈黙する。
その背からは『してやられた』という空気が醸し出されていて、私は不謹慎にも笑ってしまう。
「これは……一本取ったということでいいですかね?」
「……お前、意外と面倒臭い女だな」
「今頃気付いたんですか? そうです。私は面倒臭い女なんです」
私は少々意地の悪い笑みを浮かべるも、すぐにそれを解き、「でも……」と続ける。
「大和くんは私と違って……優しい人です」
「は……?」
大和くんは歩を止め、こちらを訝しむ。
「困ってる人が居たら誰であろうと絶対に見捨てない。必ず助けてくれる。そんな人だから私は誘ったんです」
「お前……」
それから神妙な面持ちに切り替わるが……
「それに大和くんは……意外と押しに弱いです」
「……は?」
すぐに呆けた顔に。
「頼み続けたらきっと入ってくれます。私、気付いちゃいましたから!」
そんな彼を私は満面の笑みで追い越し、まるで勝ち逃げするかのように校舎へと駆けていった。
◆
あれから私は宣言通り、休み時間ごとに彼を勧誘した。
移動教室の時も、トイレに行こうとする時も、屋上に逃げようとした時も、トイレに行こうとする時も。
幸い今日は伍堂君が来ず、チャンスは幾らでもあった。
昼休みに彼用の『お弁当を作ってきた』と言ったら流石に引かれたけど、それでも私は構わず、彼を一日中ストーキングした。
その結果――
◆
「ねえ? 一回、殴っていい?」
放課後一発目にこれである。少々やり過ぎただろうか?
「大和くん。女の子……いえ、人を殴るのは良くないかと?」
「オレもそう思う。でも、させる側にも問題あると思うんだよ」
「そうですね。こうさせたのは大和くんですし」
「お前ってこんなに会話できない奴だっけ? えらいIQ下がってるぞ……」
「取りあえず部室に行きませんか? このままだと大和くん、帰っちゃいそうですし」
そう。ここはもう昇降口。ただ今、なんとか引き留め中である。
「帰っちゃいそうじゃなくて帰るんだよ。墓参りが立て込んでんだ」
「お墓参りは立て込みません。じゃあ……大和くんのお家に行くというのはどうでしょう? そこで打ち上げを……」
「お前さぁ……もうちょっと色々、考えてから発言した方がいいと思うぞ?」
「大和くん、今日親御さんは?」
「……いない。一人暮らしだ」
「じゃあ、なんの問題もありませんよね?」
「問題大ありだろ。女がそう簡単に……男の部屋に行くな……」
視線を逸らし、消え入りそうな声で咎める彼に私は思わず……
「大和くん……可愛いです」
「やっぱ殴っていいよな、これ?」
時刻は八時十五分過ぎ。今日も今日とて学生を全うせんと登校する大和。他の学生に紛れながら、波に乗るように校門を潜る。
『にゃー』
すると隅の木陰から、お姉さんの鳴き声が届く。
大和は一瞬固まるも、すぐ歩を進める。
『坊にゃー』
大和はまた固まり、観念したのか溜息をつきつつ右折する。
「喋りかけんな。今はマズい」
『大丈夫よ。猫に話しかけるなんてよくある光景なんだから。気にしすぎよ』
声の主は当然、猫のカーポ。
相変わらずふてぶてしい態度で大和を見上げている。
「で? なんか用?」
と、大和は周りに怪しまれぬよう、屈むなりカーポを撫でる。
『別に? あの子は大丈夫かなぁとか、坊やは約束守ってくれてるかなぁとか、それで見に来ただけ』
「約束してないけどな。それに、そんな心配なら直接あいつに言えばいいだろ? 喋れんだからさ」
『それはできない。だってあの子、正義感強いし。もし居るなんて知ったら、絶対探すに決まってるわ。自分の為じゃなく、みんなの為にね』
大和はフンと鼻を鳴らし、視線を逸らす。
自分でも分かり切ってた答えがゆえの歯痒さか。
『あの子にそんな危険な橋は渡らせられない。だから坊やに頼んでるのよ。あちらが裏で動いてる以上、こちらは引きずり出せるくらいの人材じゃないと。そういった意味じゃ、坊やは適任じゃない?』
「ったく……察しのいい猫様だこと」
年下の坊やを手玉に取り、満足気に笑みを零すカーポ。
そののち、鼻をひくつかせると、何かを見つけたかのように後方へ振り向く。
『来たみたい……。じゃあ、あとはお願いね……騎士くん?』
そう言うとカーポは校舎へと駆けていく。
彼女が視線を向けていた先からは、こちらに気付いた牧瀬が駆け寄ってきていた。
◆
「おはようございます、大和くん。……今、誰かと話してませんでしたか?」
私がそう話しかけると大和くんは「別に……」と腰を上げ、いつも通りの素っ気無い態度で歩を進める。
「そうですか……。あ! そういえば大和くん、何で昨日帰っちゃったんですか? せっかく打ち上げしようと色々買ったのに……」
私はその背についていきながら少しばかり頬を膨らます。
「墓参りだよ、墓参り。急に入っちゃってなぁ」
「お墓参りは急になんて入りません。もう……どうしてそんなに嫌がるんですか?」
「別に嫌がってるわけじゃ……」
「じゃあ、今日するってことでいいですよね?」
「よかねえだろ。なんで行く前提になってんだよ」
「だって昨日、見学しに来たじゃないですか?」
「見学したら入らなきゃいけない決まりでもあるのか? ねえだろ? オレには合わなかった。ただそれだけのことさ」
「いや、絶対合ってますって。もっと自信持って下さい」
「自信とかじゃねえんだよ。嫌だって言ってんだよ」
「あ、やっぱり嫌なんですね?」
そこで大和くんは沈黙する。
その背からは『してやられた』という空気が醸し出されていて、私は不謹慎にも笑ってしまう。
「これは……一本取ったということでいいですかね?」
「……お前、意外と面倒臭い女だな」
「今頃気付いたんですか? そうです。私は面倒臭い女なんです」
私は少々意地の悪い笑みを浮かべるも、すぐにそれを解き、「でも……」と続ける。
「大和くんは私と違って……優しい人です」
「は……?」
大和くんは歩を止め、こちらを訝しむ。
「困ってる人が居たら誰であろうと絶対に見捨てない。必ず助けてくれる。そんな人だから私は誘ったんです」
「お前……」
それから神妙な面持ちに切り替わるが……
「それに大和くんは……意外と押しに弱いです」
「……は?」
すぐに呆けた顔に。
「頼み続けたらきっと入ってくれます。私、気付いちゃいましたから!」
そんな彼を私は満面の笑みで追い越し、まるで勝ち逃げするかのように校舎へと駆けていった。
◆
あれから私は宣言通り、休み時間ごとに彼を勧誘した。
移動教室の時も、トイレに行こうとする時も、屋上に逃げようとした時も、トイレに行こうとする時も。
幸い今日は伍堂君が来ず、チャンスは幾らでもあった。
昼休みに彼用の『お弁当を作ってきた』と言ったら流石に引かれたけど、それでも私は構わず、彼を一日中ストーキングした。
その結果――
◆
「ねえ? 一回、殴っていい?」
放課後一発目にこれである。少々やり過ぎただろうか?
「大和くん。女の子……いえ、人を殴るのは良くないかと?」
「オレもそう思う。でも、させる側にも問題あると思うんだよ」
「そうですね。こうさせたのは大和くんですし」
「お前ってこんなに会話できない奴だっけ? えらいIQ下がってるぞ……」
「取りあえず部室に行きませんか? このままだと大和くん、帰っちゃいそうですし」
そう。ここはもう昇降口。ただ今、なんとか引き留め中である。
「帰っちゃいそうじゃなくて帰るんだよ。墓参りが立て込んでんだ」
「お墓参りは立て込みません。じゃあ……大和くんのお家に行くというのはどうでしょう? そこで打ち上げを……」
「お前さぁ……もうちょっと色々、考えてから発言した方がいいと思うぞ?」
「大和くん、今日親御さんは?」
「……いない。一人暮らしだ」
「じゃあ、なんの問題もありませんよね?」
「問題大ありだろ。女がそう簡単に……男の部屋に行くな……」
視線を逸らし、消え入りそうな声で咎める彼に私は思わず……
「大和くん……可愛いです」
「やっぱ殴っていいよな、これ?」
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