口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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序章 暴露

第22話 ストーカー&ストーカー

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 明朝――

 時刻は八時十五分過ぎ。今日も今日とて学生を全うせんと登校する大和。他の学生に紛れながら、波に乗るように校門を潜る。

『にゃー』

 すると隅の木陰から、お姉さんの鳴き声が届く。
 大和は一瞬固まるも、すぐ歩を進める。

『坊にゃー』

 大和はまた固まり、観念したのか溜息をつきつつ右折する。

「喋りかけんな。今はマズい」
『大丈夫よ。猫に話しかけるなんてよくある光景なんだから。気にしすぎよ』

 声の主は当然、猫のカーポ。
 相変わらずふてぶてしい態度で大和を見上げている。

「で? なんか用?」

 と、大和は周りに怪しまれぬよう、屈むなりカーポを撫でる。

『別に? あの子は大丈夫かなぁとか、坊やは約束守ってくれてるかなぁとか、それで見に来ただけ』
「約束してないけどな。それに、そんな心配なら直接あいつに言えばいいだろ? 喋れんだからさ」
『それはできない。だってあの子、正義感強いし。もし居るなんて知ったら、絶対探すに決まってるわ。自分の為じゃなく、みんなの為にね』

 大和はフンと鼻を鳴らし、視線を逸らす。
 自分でも分かり切ってた答えがゆえの歯痒さか。

『あの子にそんな危険な橋は渡らせられない。だから坊やに頼んでるのよ。あちらが裏で動いてる以上、こちらは引きずり出せるくらいの人材じゃないと。そういった意味じゃ、坊やは適任じゃない?』
「ったく……察しのいい猫様だこと」

 年下の坊やを手玉に取り、満足気に笑みを零すカーポ。
 そののち、鼻をひくつかせると、何かを見つけたかのように後方へ振り向く。

『来たみたい……。じゃあ、あとはお願いね……騎士ナイトくん?』

 そう言うとカーポは校舎へと駆けていく。
 彼女が視線を向けていた先からは、こちらに気付いた牧瀬が駆け寄ってきていた。



「おはようございます、大和くん。……今、誰かと話してませんでしたか?」

 私がそう話しかけると大和くんは「別に……」と腰を上げ、いつも通りの素っ気無い態度で歩を進める。

「そうですか……。あ! そういえば大和くん、何で昨日帰っちゃったんですか? せっかく打ち上げしようと色々買ったのに……」

 私はその背についていきながら少しばかり頬を膨らます。

「墓参りだよ、墓参り。急に入っちゃってなぁ」
「お墓参りは急になんて入りません。もう……どうしてそんなに嫌がるんですか?」
「別に嫌がってるわけじゃ……」
「じゃあ、今日するってことでいいですよね?」
「よかねえだろ。なんで行く前提になってんだよ」
「だって昨日、見学しに来たじゃないですか?」
「見学したら入らなきゃいけない決まりでもあるのか? ねえだろ? オレには合わなかった。ただそれだけのことさ」
「いや、絶対合ってますって。もっと自信持って下さい」
「自信とかじゃねえんだよ。嫌だって言ってんだよ」
「あ、やっぱり嫌なんですね?」

 そこで大和くんは沈黙する。
 その背からは『してやられた』という空気が醸し出されていて、私は不謹慎にも笑ってしまう。

「これは……一本取ったということでいいですかね?」
「……お前、意外と面倒臭い女だな」
「今頃気付いたんですか? そうです。私は面倒臭い女なんです」

 私は少々意地の悪い笑みを浮かべるも、すぐにそれを解き、「でも……」と続ける。

「大和くんは私と違って……優しい人です」
「は……?」

 大和くんは歩を止め、こちらを訝しむ。

「困ってる人が居たら誰であろうと絶対に見捨てない。必ず助けてくれる。そんな人だから私は誘ったんです」
「お前……」

 それから神妙な面持ちに切り替わるが……

「それに大和くんは……意外と押しに弱いです」
「……は?」

 すぐに呆けた顔に。

「頼み続けたらきっと入ってくれます。私、気付いちゃいましたから!」

 そんな彼を私は満面の笑みで追い越し、まるで勝ち逃げするかのように校舎へと駆けていった。



 あれから私は宣言通り、休み時間ごとに彼を勧誘した。
 移動教室の時も、トイレに行こうとする時も、屋上に逃げようとした時も、トイレに行こうとする時も。

 幸い今日は伍堂君が来ず、チャンスは幾らでもあった。
 昼休みに彼用の『お弁当を作ってきた』と言ったら流石に引かれたけど、それでも私は構わず、彼を一日中ストーキングした。

 その結果――



「ねえ? 一回、殴っていい?」

 放課後一発目にこれである。少々やり過ぎただろうか?

「大和くん。女の子……いえ、人を殴るのは良くないかと?」
「オレもそう思う。でも、させる側にも問題あると思うんだよ」
「そうですね。こうさせたのは大和くんですし」
「お前ってこんなに会話できない奴だっけ? えらいIQ下がってるぞ……」
「取りあえず部室に行きませんか? このままだと大和くん、帰っちゃいそうですし」

 そう。ここはもう昇降口。ただ今、なんとか引き留め中である。

「帰っちゃいそうじゃなくて帰るんだよ。墓参りが立て込んでんだ」
「お墓参りは立て込みません。じゃあ……大和くんのお家に行くというのはどうでしょう? そこで打ち上げを……」
「お前さぁ……もうちょっと色々、考えてから発言した方がいいと思うぞ?」
「大和くん、今日親御さんは?」
「……いない。一人暮らしだ」
「じゃあ、なんの問題もありませんよね?」
「問題大ありだろ。女がそう簡単に……男の部屋に行くな……」

 視線を逸らし、消え入りそうな声で咎める彼に私は思わず……

「大和くん……可愛いです」
「やっぱ殴っていいよな、これ?」
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