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序章 暴露
第19話 首領ニャンコ
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「「ええぇっ⁉」」
突然の告白に顔を赤らめる私と梅原先輩。
しかし柳先輩は構うことなく、熱き思いを語る。
「この学園に来たのも朝比奈がいたからだ。俺はあいつと違って頭悪ぃから、水泳頑張ってスポーツ推薦狙ってな。結果、一緒のとこには来れたんだけど、なんか上手く話せなくって……。本当はさ、朝比奈に応援しに来てほしいんだ。でも、それを頼む勇気がないから、こんな願掛けを……へっ、情けねえよね?」
「いや……そんなことは……」
「昔、あいつを事故から助けた時、一生守るって約束したのに……。なーんで今は言えなくなっちまったんだろうなぁ……」
柳先輩は沈んだ面持ちで眉尻の傷を撫でる。
もしかしてアレは、その時にできた傷……? っていうか、これ以上聞くのは流石にマズいよね……今更だけど。
「わ、わかりました……。ご協力感謝します」
「もういいのか? あと五、六時間くらい話せるが?」
「いえ、もう大丈夫です……。なんかすみませんでした……」
話足らなそうな柳先輩を見送りつつ、私は居た堪れない空気の中、状況を整理する。
「取りあえず柳先輩が犯人という線はありませんね。ちゃんとした理由がおありのようですし……」
「そ、そうだね……。じゃあ、水泳部は関係なし……?」
梅原先輩も若干苦笑いを浮かべつつ、そう返す。
「というよりかは、柳先輩絡みと考えた方が良さそうですね。犯人は例えば……朝比奈先輩に好意を寄せていて、それを邪魔する為にカーポちゃんを利用し、キャップを取らせたんじゃないでしょうか?」
「利用って……能力を使ったってこと?」
「その可能性は充分あり得ます。ですが、その犯人の手掛かりが……」
考え込む私と梅原先輩。
すると、それを感じ取った叶和ちゃんが、ゆるりと立ち上がる。
「すみません……私の力不足で……」
「あ、叶和ちゃん……。大丈夫ですか?」
私が気遣うも叶和ちゃんは意気消沈。先程までの明るい彼女の姿は、そこには無かった。
「どうしちゃったの、この子……?」
と、不思議そうに覗き込む梅原先輩。
「叶和ちゃん、能力を使ったあとネガティブになっちゃうんです……すっごく」
そう私が解説を入れると梅原先輩は「そうなんだ……」と、また苦笑い。
それを見て叶和ちゃんが――
「所詮、私なんて何の役にも立ちませんよね……? ははっ……いーんすよ……自分、そういうの慣れてますから……。どうせ、こんな世界に希望なんてありゃしませんから……」
またネガティブに。
このままでは、ただでさえ重い空気がさらに重くなる……。そう思った私は今まで影を潜めていた彼へと助け舟を求めた。
「大和くんは、どう思います……?」
三人の視線が集まる中、大和くんはというと腕を組み、壁に凭れ掛かっていた。
「オレは見学者なんだが?」
「そう……ですよね……。すみません……」
分かり切っていたとはいえ、そのきっぱりとした態度に私は幾分か俯いてしまう。
しかし、それを見たからなのか何なのか、彼は溜息をつくと梅原先輩へ問い始めた。
「梅原先輩。猫が部活に顔出した順番、わかりますか?」
「順番? えーっとぉ……確か最初は野球部だったと思う。『昨日、見たぞ』って月曜に聞いたから。その次がラグビー部なのは憶えてるよ。で、水泳部が二十四と二十六って言ってたから、多分その間はテニス部じゃないかな? そうなると最後はフェンシング部ってことになるけど……?」
「なるほど。やはり、そうか……」
頷き交じりのその発言に、私は驚きを隠せぬまま真っ先に尋ねる。
「え、わかったんですか……?」
「ああ。今回の首謀者は……大層、幼稚らしい」
「幼稚……?」
「そうだ。さながら覚えたての言葉を使う子供のよう……」
私が「どういうことですか?」と問うと、大和くんは壁から背を離し、解説し始める。
「単純な話さ。まずカーポって名前、あれはイタリア語で『頭』って意味がある。マフィアの首領とか幹部は、そのCapoってのがつくらしい。そうだよな、牧瀬?」
「ええ、まあ……」
「その流れで部活名もイタリア語に変換。野球部は『Baseball』、ラグビー部は『Rugby』、水泳部は『Nuoto』、テニス部は『Tennis』、フェンシング部は『Scherma』だ。ここまで言えばわかるだろ?」
私は一応、数瞬考え、答えを出す。
「まさか……『頭文字』を取れと?」
「その通り。頭文字はB、R、N、T、N、S。でもこのままじゃ、ただの文字の羅列。そこでカーポが水泳キャップを取ってった意味が活きてくる」
「キャップを取る……もしかして頭文字である『N』を取るということですか?」
「そういうこと。『N』を取ったら次の頭文字は『U』だ。これでもう一度、頭文字を並べるとB、R、U、T、U、S――『Brutus』になる。イタリアでブルータスっつったら、有名どころがあるよな?」
ここまで御膳立てしてもらえれば嫌でも分かる。
今度は考えることなく、私は答えを出した。
「マルクス・ユニウス・ブルトゥス……。カエサル暗殺の首謀者の一人……!」
「じゃあ、学園でブルータスに関係のありそうな場所は?」
「……美術室です! ブルータスの胸像はデッサンでよく使われますから!」
大和くんは「よくできました」と前置きし、出入り口の扉を開けながら――
「で、美術室ってどっち?」
と、淡々とこちらへ振り向いた。
突然の告白に顔を赤らめる私と梅原先輩。
しかし柳先輩は構うことなく、熱き思いを語る。
「この学園に来たのも朝比奈がいたからだ。俺はあいつと違って頭悪ぃから、水泳頑張ってスポーツ推薦狙ってな。結果、一緒のとこには来れたんだけど、なんか上手く話せなくって……。本当はさ、朝比奈に応援しに来てほしいんだ。でも、それを頼む勇気がないから、こんな願掛けを……へっ、情けねえよね?」
「いや……そんなことは……」
「昔、あいつを事故から助けた時、一生守るって約束したのに……。なーんで今は言えなくなっちまったんだろうなぁ……」
柳先輩は沈んだ面持ちで眉尻の傷を撫でる。
もしかしてアレは、その時にできた傷……? っていうか、これ以上聞くのは流石にマズいよね……今更だけど。
「わ、わかりました……。ご協力感謝します」
「もういいのか? あと五、六時間くらい話せるが?」
「いえ、もう大丈夫です……。なんかすみませんでした……」
話足らなそうな柳先輩を見送りつつ、私は居た堪れない空気の中、状況を整理する。
「取りあえず柳先輩が犯人という線はありませんね。ちゃんとした理由がおありのようですし……」
「そ、そうだね……。じゃあ、水泳部は関係なし……?」
梅原先輩も若干苦笑いを浮かべつつ、そう返す。
「というよりかは、柳先輩絡みと考えた方が良さそうですね。犯人は例えば……朝比奈先輩に好意を寄せていて、それを邪魔する為にカーポちゃんを利用し、キャップを取らせたんじゃないでしょうか?」
「利用って……能力を使ったってこと?」
「その可能性は充分あり得ます。ですが、その犯人の手掛かりが……」
考え込む私と梅原先輩。
すると、それを感じ取った叶和ちゃんが、ゆるりと立ち上がる。
「すみません……私の力不足で……」
「あ、叶和ちゃん……。大丈夫ですか?」
私が気遣うも叶和ちゃんは意気消沈。先程までの明るい彼女の姿は、そこには無かった。
「どうしちゃったの、この子……?」
と、不思議そうに覗き込む梅原先輩。
「叶和ちゃん、能力を使ったあとネガティブになっちゃうんです……すっごく」
そう私が解説を入れると梅原先輩は「そうなんだ……」と、また苦笑い。
それを見て叶和ちゃんが――
「所詮、私なんて何の役にも立ちませんよね……? ははっ……いーんすよ……自分、そういうの慣れてますから……。どうせ、こんな世界に希望なんてありゃしませんから……」
またネガティブに。
このままでは、ただでさえ重い空気がさらに重くなる……。そう思った私は今まで影を潜めていた彼へと助け舟を求めた。
「大和くんは、どう思います……?」
三人の視線が集まる中、大和くんはというと腕を組み、壁に凭れ掛かっていた。
「オレは見学者なんだが?」
「そう……ですよね……。すみません……」
分かり切っていたとはいえ、そのきっぱりとした態度に私は幾分か俯いてしまう。
しかし、それを見たからなのか何なのか、彼は溜息をつくと梅原先輩へ問い始めた。
「梅原先輩。猫が部活に顔出した順番、わかりますか?」
「順番? えーっとぉ……確か最初は野球部だったと思う。『昨日、見たぞ』って月曜に聞いたから。その次がラグビー部なのは憶えてるよ。で、水泳部が二十四と二十六って言ってたから、多分その間はテニス部じゃないかな? そうなると最後はフェンシング部ってことになるけど……?」
「なるほど。やはり、そうか……」
頷き交じりのその発言に、私は驚きを隠せぬまま真っ先に尋ねる。
「え、わかったんですか……?」
「ああ。今回の首謀者は……大層、幼稚らしい」
「幼稚……?」
「そうだ。さながら覚えたての言葉を使う子供のよう……」
私が「どういうことですか?」と問うと、大和くんは壁から背を離し、解説し始める。
「単純な話さ。まずカーポって名前、あれはイタリア語で『頭』って意味がある。マフィアの首領とか幹部は、そのCapoってのがつくらしい。そうだよな、牧瀬?」
「ええ、まあ……」
「その流れで部活名もイタリア語に変換。野球部は『Baseball』、ラグビー部は『Rugby』、水泳部は『Nuoto』、テニス部は『Tennis』、フェンシング部は『Scherma』だ。ここまで言えばわかるだろ?」
私は一応、数瞬考え、答えを出す。
「まさか……『頭文字』を取れと?」
「その通り。頭文字はB、R、N、T、N、S。でもこのままじゃ、ただの文字の羅列。そこでカーポが水泳キャップを取ってった意味が活きてくる」
「キャップを取る……もしかして頭文字である『N』を取るということですか?」
「そういうこと。『N』を取ったら次の頭文字は『U』だ。これでもう一度、頭文字を並べるとB、R、U、T、U、S――『Brutus』になる。イタリアでブルータスっつったら、有名どころがあるよな?」
ここまで御膳立てしてもらえれば嫌でも分かる。
今度は考えることなく、私は答えを出した。
「マルクス・ユニウス・ブルトゥス……。カエサル暗殺の首謀者の一人……!」
「じゃあ、学園でブルータスに関係のありそうな場所は?」
「……美術室です! ブルータスの胸像はデッサンでよく使われますから!」
大和くんは「よくできました」と前置きし、出入り口の扉を開けながら――
「で、美術室ってどっち?」
と、淡々とこちらへ振り向いた。
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