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序章 暴露

第18話 気まぐれニャンコ

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「二回……? カーポちゃん、水泳部に二回訪れたんですか?」

 聞き返す私に森先輩は「うん」と前置きしつつ続ける。

「確か先月の二十四と二十六だったかなぁ……。の水泳キャップ取ってってたから、よく覚えてるよ」
「しかも同じ方の水泳キャップを? それは妙ですね……。ちなみにその方はどちらに?」

 そう問うと森先輩は柳先輩なる人物を、こちらへ呼び寄せる。
 柳先輩は色黒の引き締まった肉体と、眉尻にある傷痕が特徴的の精悍な男性であった。

「何? どうしたの?」
「この子たち異能探求部の子でさ。猫探ししてるんだと。で、お前のキャップ二回も取ってったのが怪しいってさ~?」

 茶化す森先輩に柳先輩は「はぁ?」と眉を顰める。

「ち、違います! ただ単純に疑問に思ったので、お話を聞きたいと……」

 私が慌てて訂正すると、柳先輩は溜息と共に肩を落とす。

「聞きたいのはこっちの方さ。あいつ……なんでか知らんが、毎回、俺のキャップ取っていきやがって……。迷惑してるから早く捕まえてくれよ?」

 その台詞を聞いた途端、叶和ちゃんが勝機を得たといわんばかりに柳先輩へと詰め寄る。

「迷惑ぅ~⁉ つまり柳先輩はカーポがだったと⁉ それは自白と捉えて宜しいですね⁉」 
「はぁ⁉ 違ぇよっ! 俺は被害者なの、被害者‼ 変な言いがかりつけんな!」
「では、その眉尻の傷は何なんです? 抵抗された時に、やられたんじゃないですか~?」
「これはガキの時にできた傷だ! 猫がこんな傷、残せるわけないだろ!」
「じゃあ、お着けになってるキャップ見せてください。そこに重大な証拠があるはずですから!」

 そう言って手を差し出す叶和ちゃん。
 さすがにやり過ぎだと私が止めようとしたその時――

「――ッ⁉ こ、これはダメだっ! 見せるわけにはいかない! 俺、練習戻るから……」

 柳先輩は見るからに動揺、足早にプールへと戻ってしまう。

「あいつ、俺たちにもキャップ触らせないんだよねー。多分、願掛けでもしてんじゃないかな?」

 去りゆく柳先輩を見ながら、森先輩はそう語る。
 私が「願掛けですか……?」と尋ねると、

「うん。だからって、それを取られたからやり返すなんて真似はしない思うよ? 茶化しといてなんだけどさ」

 森先輩は振り返りながら笑ってみせた。



「怪しいです!」

 観戦室に移動して早々、腰に手を当てながら声を上げる叶和ちゃん。どうやら、まだ柳先輩への疑念は晴れていないらしい。

「だからって誰かれ構わず犯人扱いは良くありませんよ、叶和ちゃん?」

 私は八の字になる眉を感じつつ、先輩として彼女を窘める。

「ですが何か隠しているのは事実! なのでここは、この叶和ちゃんにお任せください!」

 そう言うと叶和ちゃんは座席に腰掛け、己がノートパソコンを広げては、一心不乱にキーボードを叩き始める。

「何をしてるの?」

 と尋ねる梅原先輩に、叶和ちゃんが得意気に解説を入れる。

「【ハッキング】です!」
「ハッキング……って、何に対して?」
「柳先輩に決まってるじゃないですか!」
「へぇ~……え⁉ 柳くん⁉」
「はい! 私の能力は電子機器のみならず、人間や動物にもハッキングすることができるんです! これを使えば真実は我が手に……ハーッハッハッハッ!」
「へ、へぇ……」

 荒ぶる叶和ちゃんに梅原先輩はドン引き。私の耳元に寄っては囁き交じりに疑問を呈す。

「ねえ、いいのコレ? 倫理的に……」
「ですよね……。私もよくはないと承知しているのですが、ここはカーポちゃんの為にも目を瞑ります……」

 私は目を瞑った。物理的に。

「そ、そう……。でも、あの子……ずーっと柳くん見てるけど、大丈夫?」
「そうしないと能力が発動できないんです。詳細は省きますが」
「そっか……。なんか凄いね、異能探求部って……」



 三十分後――

「できましたァァー‼」

 エンターキーを叩く音と叶和ちゃんの歓喜が耳に届き、私は目を開ける。

「お疲れ様です、叶和ちゃん。早速ですが、柳先輩をこちらへ呼んでいただけますか? あとは私が承ります」
「はい……あとは……お願い……しま……す……」

 叶和ちゃんは充血した目でパソコンに指示を打ち込むと、まるで力尽きたかのように首をガクンと落とし……沈黙した。

 そこから間を開けず、階段の駆け上がる音が耳に届き、勢い良く扉が開かれる。

「どうした? なんか用か?」

 入ってきたのは若干目が虚ろの柳先輩。ここから先は私の役目だ。

「柳先輩、単刀直入に聞きます。カーポちゃんに何かしましたか?」
「カーポ? いや……俺は何もしてない……」

 私は一旦、梅原先輩と顔を見合わせ、再び質問へと戻る。

「では何故、柳先輩のキャップを取っていったか分かりますか?」
「……わからない」
「そうですか……。では、そのキャップに何か願掛けでも?」
「ああ。このキャップには……朝比奈の名前が書いてある」

 そう言って柳先輩は『朝比奈』と書かれたキャップを私たちに見せてきた。

「朝比奈さんとは誰でしょう?」
「朝比奈はガキん時からの幼馴染で――俺の好きな人だ」
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