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序章 暴露
第15話 兄弟の契り
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大和は暫し固まった後、「は?」と聞き返す。
「せやから『暴露』や。お前の十八番やろ?」
軽く言い放つ伍堂に大和は今一度、思考を巡らす。しかし、答えが出ることはなかった。
「……何が目的だ?」
「目的? んなもん能力消してほしい以外にないやろ。邪魔なんや、コレ」
「邪魔ねぇ……。ちなみにどんな能力か聞いても?」
伍堂は煙草を一吸いすると、溜息交じりに吐き出す。
「ワシの能力はな……【魅了】や」
「魅了……?」
「せや。ワシが喋ると誰かれ構わず惹きつけられてまうねん。みーんな言うこと聞いてまう。それが嫌なんや」
「わからないな。嫌なら使わなければいいだけのこと。……『代償』の所為か?」
伍堂は「それや!」と両手をパチンと叩くと、大和を指差しながら理由を述べ始める。
「ワシは能力のオンオフができひん。普通に喋ってまうと勝手に力が出る。せやから邪魔なんや」
「なるほどね。さっき標準語だったのは、能力を発動させてたからか。で、普段は抑え込むためにエセ関西弁を?」
「そういうこっちゃ。能力の『条件』はワシの真なる声が届くこと。ニセモンやったり相手の理解できひん言語だと、効力が落ちたり使えへんくなる。『媒体』は自分の言葉。『代償』は喋ってるだけでメッチャ喉が渇く。ついでにオンオフができない。さあ! 頼んだでぇ!」
両手を広げ、受け入れ態勢抜群の伍堂。しかし、大和は……
「………………」
乗り気でない様子。
「なんや? どないした?」
「いや……消す必要あるのかなぁと思って」
「は?」
「だってそうだろ? 他人に言うこと聞かせられるなんて便利な能力じゃないか。多少、発動したところで気にするほどじゃ……」
そんな当然の疑問に、伍堂はこれ見よがしに肩を落とす。
「それだとワシ……一生、本物のダチができひん……」
「……贅沢な悩みだな」
伍堂は網目状のフェンスを掴み、景色を見ながら煙草を一吸いする。
「ワシは中学の時、えらいヤンチャしててな。仲間たちとテッペン目指す言うて、毎日喧嘩に明け暮れとった……」
「なんか急に語りだしたし……」
「でもある時、イカれ野郎に襲撃されてな。病院行った時に初めて能力者だって分かったんや」
「初めて? ってことは、お前……孤児かなんかか?」
「せや。ガキん頃に捨てられての。だから自分が能力者なんて全然知らんかったんや」
伍堂は、また煙草を一吸いし、言葉を続ける。
「ワシは絶望した。今まで付いて来てくれた仲間は、ただワシの能力に踊らされてただけやったんやと。それが申し訳なくてのう……」
先程まで話半分だった大和も、今は伍堂の言葉に耳を傾ける。
「せやからワシは、もう一度アイツらとダチにならなアカンねん。この学園に来たんはその為や。ここは不良も一定数とっとる上に名門校、ワシの能力をどうにかできる奴がおるかもしれん思うてな。で、見つけたんが……お前や」
そう言うと伍堂は振り返り、煙草で大和を指す。
「理由は分かった。だが、『暴露』なんて誰だってできるだろ? 別にオレじゃなくても……」
「アカンアカン! 他の奴に『裏切り者』になる度胸なんてあらへん! せやから、お前しかおらんねや! 頼む! ワシを男にしたってくれや! このとおり!」
そう熱弁しながら伍堂は煙草を捨て、足で消すなり頭を下げた。
そんな真摯な姿を前に大和は――
「断る」
その想いを即、却下してしまう。
「なんでや⁉」
顔を上げ、数歩詰め寄る伍堂。
「逆に聞くが、なぜ【魅了】の力を使わない? 使うなら今だと思うが?」
「それは……流儀に反する。仮にも裏切りの道を行かせるわけやし、ここで使うんは……なんか違うやろ?」
「フッ……そういうとこだろ、お前の良さは? 言葉ではなく魂で動く。それこそが、お前の持って生まれた――『魅力』ってやつだ」
意外な評価に伍堂は「お、おぉ……」と若干後退る。
「それでもお前は、まだ消してほしいと望むのか?」
大和からの歩み寄りに伍堂は暫し俯き、頭を搾りつつ言葉を紡ぐ。
「せや……な。これは気持ちの問題や。ワシのやない……相手の気持ちや。せやからやっぱ、消してもらわな困んねや」
「真っ直ぐな男だな……。気に入った。消してやってもいいが、二つ条件がある」
裏手で二本指を提示する大和に、伍堂は「条件? なんや?」と厭わず返す。
「オレはこの学園でやらなきゃならないことがあってな。お前にはその手伝いをしてもらいたい。もし、それができたなら……その時は能力を消してやってもいい」
「やらなきゃあかんこと? まあ、ワシにできることなら別にかまへんけど……。もう一つは?」
大和は腕組みを解くと、伍堂を真っ直ぐ見据え、こう答える。
「オレのダチになれ。本物のな」
「はぁ⁉ ダチに⁉ お前、どないしたんや急に……?」
似合わぬ台詞に、たじろぐ伍堂。
しかし、大和は相も変わらず淡々と続ける。
「オレなりの流儀ってやつさ」
「流儀って……気持ちは嬉しいんやけど、さっきも言うた通り、ワシの能力は完璧に押さえつけることができへん。多分、お前のその気持ちも……」
「安心しろ。オレにその手のものは効かない。お前らと違ってオレは――普通の道を歩けるからな」
「普通の道……?」
「だからオレが能力を消すのは、お前の能力に屈したからではない。ダチからの願いとして消す。それをここに誓う為の……流儀だ」
大和からの熱き言葉に、暫し大口を開けていた伍堂。
だが、次第にその口元は緩やかにほどけ、内なる『魅力』が嬉々とした面持ちに表れていく。
「この学園にも、お前みたいな男がおったんやな……。よっしゃ分かった! せやったら今日からワシらは――兄弟や!」
こうして大和と伍堂は、唯一無二の『兄弟』となった。
「せやから『暴露』や。お前の十八番やろ?」
軽く言い放つ伍堂に大和は今一度、思考を巡らす。しかし、答えが出ることはなかった。
「……何が目的だ?」
「目的? んなもん能力消してほしい以外にないやろ。邪魔なんや、コレ」
「邪魔ねぇ……。ちなみにどんな能力か聞いても?」
伍堂は煙草を一吸いすると、溜息交じりに吐き出す。
「ワシの能力はな……【魅了】や」
「魅了……?」
「せや。ワシが喋ると誰かれ構わず惹きつけられてまうねん。みーんな言うこと聞いてまう。それが嫌なんや」
「わからないな。嫌なら使わなければいいだけのこと。……『代償』の所為か?」
伍堂は「それや!」と両手をパチンと叩くと、大和を指差しながら理由を述べ始める。
「ワシは能力のオンオフができひん。普通に喋ってまうと勝手に力が出る。せやから邪魔なんや」
「なるほどね。さっき標準語だったのは、能力を発動させてたからか。で、普段は抑え込むためにエセ関西弁を?」
「そういうこっちゃ。能力の『条件』はワシの真なる声が届くこと。ニセモンやったり相手の理解できひん言語だと、効力が落ちたり使えへんくなる。『媒体』は自分の言葉。『代償』は喋ってるだけでメッチャ喉が渇く。ついでにオンオフができない。さあ! 頼んだでぇ!」
両手を広げ、受け入れ態勢抜群の伍堂。しかし、大和は……
「………………」
乗り気でない様子。
「なんや? どないした?」
「いや……消す必要あるのかなぁと思って」
「は?」
「だってそうだろ? 他人に言うこと聞かせられるなんて便利な能力じゃないか。多少、発動したところで気にするほどじゃ……」
そんな当然の疑問に、伍堂はこれ見よがしに肩を落とす。
「それだとワシ……一生、本物のダチができひん……」
「……贅沢な悩みだな」
伍堂は網目状のフェンスを掴み、景色を見ながら煙草を一吸いする。
「ワシは中学の時、えらいヤンチャしててな。仲間たちとテッペン目指す言うて、毎日喧嘩に明け暮れとった……」
「なんか急に語りだしたし……」
「でもある時、イカれ野郎に襲撃されてな。病院行った時に初めて能力者だって分かったんや」
「初めて? ってことは、お前……孤児かなんかか?」
「せや。ガキん頃に捨てられての。だから自分が能力者なんて全然知らんかったんや」
伍堂は、また煙草を一吸いし、言葉を続ける。
「ワシは絶望した。今まで付いて来てくれた仲間は、ただワシの能力に踊らされてただけやったんやと。それが申し訳なくてのう……」
先程まで話半分だった大和も、今は伍堂の言葉に耳を傾ける。
「せやからワシは、もう一度アイツらとダチにならなアカンねん。この学園に来たんはその為や。ここは不良も一定数とっとる上に名門校、ワシの能力をどうにかできる奴がおるかもしれん思うてな。で、見つけたんが……お前や」
そう言うと伍堂は振り返り、煙草で大和を指す。
「理由は分かった。だが、『暴露』なんて誰だってできるだろ? 別にオレじゃなくても……」
「アカンアカン! 他の奴に『裏切り者』になる度胸なんてあらへん! せやから、お前しかおらんねや! 頼む! ワシを男にしたってくれや! このとおり!」
そう熱弁しながら伍堂は煙草を捨て、足で消すなり頭を下げた。
そんな真摯な姿を前に大和は――
「断る」
その想いを即、却下してしまう。
「なんでや⁉」
顔を上げ、数歩詰め寄る伍堂。
「逆に聞くが、なぜ【魅了】の力を使わない? 使うなら今だと思うが?」
「それは……流儀に反する。仮にも裏切りの道を行かせるわけやし、ここで使うんは……なんか違うやろ?」
「フッ……そういうとこだろ、お前の良さは? 言葉ではなく魂で動く。それこそが、お前の持って生まれた――『魅力』ってやつだ」
意外な評価に伍堂は「お、おぉ……」と若干後退る。
「それでもお前は、まだ消してほしいと望むのか?」
大和からの歩み寄りに伍堂は暫し俯き、頭を搾りつつ言葉を紡ぐ。
「せや……な。これは気持ちの問題や。ワシのやない……相手の気持ちや。せやからやっぱ、消してもらわな困んねや」
「真っ直ぐな男だな……。気に入った。消してやってもいいが、二つ条件がある」
裏手で二本指を提示する大和に、伍堂は「条件? なんや?」と厭わず返す。
「オレはこの学園でやらなきゃならないことがあってな。お前にはその手伝いをしてもらいたい。もし、それができたなら……その時は能力を消してやってもいい」
「やらなきゃあかんこと? まあ、ワシにできることなら別にかまへんけど……。もう一つは?」
大和は腕組みを解くと、伍堂を真っ直ぐ見据え、こう答える。
「オレのダチになれ。本物のな」
「はぁ⁉ ダチに⁉ お前、どないしたんや急に……?」
似合わぬ台詞に、たじろぐ伍堂。
しかし、大和は相も変わらず淡々と続ける。
「オレなりの流儀ってやつさ」
「流儀って……気持ちは嬉しいんやけど、さっきも言うた通り、ワシの能力は完璧に押さえつけることができへん。多分、お前のその気持ちも……」
「安心しろ。オレにその手のものは効かない。お前らと違ってオレは――普通の道を歩けるからな」
「普通の道……?」
「だからオレが能力を消すのは、お前の能力に屈したからではない。ダチからの願いとして消す。それをここに誓う為の……流儀だ」
大和からの熱き言葉に、暫し大口を開けていた伍堂。
だが、次第にその口元は緩やかにほどけ、内なる『魅力』が嬉々とした面持ちに表れていく。
「この学園にも、お前みたいな男がおったんやな……。よっしゃ分かった! せやったら今日からワシらは――兄弟や!」
こうして大和と伍堂は、唯一無二の『兄弟』となった。
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