口撃のヤマト~異能を狩る天才~

最十 レイ

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序章 暴露

第10話 嫉妬の代償

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 大和くんの宣言後、その噂は三限目の授業中に飛び交い始めた。

「ねえねえ、聞いた? あの二人……前々かららしいって?」
「聞いたぁ~! しかもんでしょ? それでさっき揉めてたって!」
「そうそう! 転校生は育てるって言ってるらしいけど、尻軽藤宮は堕ろすってさ~!」
「どうせ他の奴ともヤリたいだけでしょ? ほんと最低だよね……」

 私もその噂は聞いた。当然、信じてなどいない。今日、会ったばかりでいきなり堕胎話なんて、いくらなんでも度が過ぎているからだ。明らかにおかしい。

 だとすると大和くんが言った犯人の能力とは、なのかもしれない。彼は何らかの手段で、それを知ることができた。恐らく、それが彼の能力なのだろう。

「……最悪」

 溜息をつき、酷く項垂れていく藤宮さん。
 今までの噂の蓄積もあってか、流石にもう限界……。後ろからでもそれが優に見て取れた。

 ここで私は再び、名指しされた三人へと視線を巡らす。

 井幡さんは何やらペンを小刻みにトントン叩き、笹井さんは対照的に姿勢を正して板書を取っていた。渡くんは変わらずボーっとしている。

 三者三葉の行動。この中に噂を流した犯人が……?

「……いい感じだな」

 対して大和くんは頬杖を突き、そんなことを呟いていた。

 彼は能力の発動を認識していた。となると、誰が使っていたかも自ずと認識しているはず。だとしたら彼の性格上、

『そう――ただの私怨だ』

 『暴露』する可能性が高い。

 でも、その行く末は――あの『異能狩り』と同じだ。

 ダメ……! そんなことさせちゃいけない! だって『異能狩り』はお父さんを……! でも……藤宮さんは謂れもない噂で、あんなにも苦しんでいる。一年の時からずっと……

 周りに味方は居ない。居るのは大和くんだけ。助け出せるのも。

 それを止める権利なんて、私には――



 三限目終了のチャイムが鳴るや否や、大和くんはを追うように席を立つ。藤宮さんを一人置いて……

「大和くん!」

 そんな彼を私は思わず止めてしまう。
 しかし、止まったものの振り返ることはなく、私の考えを先読みして話しだす。

「牧瀬……お前は噂、信じてるのか?」
「え……? 信じてるわけないじゃないですか……そんなの……」
「そうか……ご苦労。あぁ、あと四限目は医務室で休むって先生に伝えておいてくれ。体調悪いんでな」
「え? ちょっ――大和くん!」

 大和くんは言うだけ言うと私の制止を振り切り、教室を出て行ってしまった。

 ふと残された藤宮さんへと視線を移す。
 変わらず項垂れたまま……その姿に私は話しかけずにはいられなかった。

「あの……藤宮さん――」
「放っておいて……! いいから……」

 結局、私には……何も……



 四限目――

 宣言通り、大和は授業を休んだ。
 その間、藤宮への噂はとどまることなく、むしろ悪化の一途をたどっていた。

 大和はというと医務室――ではなく、屋上へと足を運ぶ。
 そこで待っていたのは当然、異能演習の教諭である佐藤であった。

「収穫は?」
「……一言目にはそれっスね? もう少しこう、やり取りとかないんスか?」

 しかし、大和の一睨みに佐藤は直ぐ音を上げる。

「冗談ですって! ありましたよ……収穫」
「どこまで分かってる?」
「奴の嫉妬が爆発したのは二限目の休憩時間。場所はトイレ。オーラの位置取り的に個室に入ってました」

 そこまで説明したところで、佐藤は大和からの冷めた視線に気付く。

「……なんですか、その目は?」
「いや……そこだけ切り取ると変態みたいだなぁと思って」
「……怒りますよ?」
「……すまん」

 佐藤は咳払いをしたのち、説明へと戻る。

「トイレには他の人物もいました。数は三人。オーラの色的に何か噂話をしているように見受けられました」
「『噂』ねぇ……。それが能力を発動する『条件』か?」
「どうでしょう? もしかしたら『媒体』の方かもしれません。で、『条件』が個室……例えば『一人で居ること』とか?」

 佐藤は肩を竦めると、背にあったフェンスへと寄りかかった。

「どちらにしても限定的すぎるな。牧瀬が噂を信じていない以上、そこまで強力な能力だとは思えん。あくまで『信じたい奴に信じさせる』程度だろう。そういえばさっき嫉妬が爆発したって言ってたが、その後、奴のオーラは?」
「鳴りを潜めてます。今はイライラするのにご執心のようで」
「イライラ……『代償』の影響だろ、それ?」
「ありゃりゃ、そこまで分かってましたか。いいネタになると思ったのに……」
「休憩時間になった瞬間、席を立ってたからな。その後、お前が屋上を指定してきたことで察しがついたよ。も残らないしな。ま、なんにせよ、そろそろ決着の時だ。ご苦労だった。後で百万一本、振り込んでおく」

 大和は軽く言い放ったのち、踵を返す。
 今はまだ四限目の途中。だが、戻るのだろう……藤宮の待つ教室へ。

「またのご利用お持ちしてます……先輩」

 そんな背に佐藤は、取って付けたように頭を下げた。
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