3 / 132
序章 暴露
第2話 口撃開始
しおりを挟む
大和くんはケースから錠剤を出し、口に運んでは噛み砕く。
そんなマイペースな彼を前に出鼻を挫かれた六車くんは、舌打ちをしつつも止めていた手をもう一度振りかぶる。
カラカラカラカラカラカラカラカラ……!
――が、またもや妨害され、六車くんの矛先は徐々に大和くんの方へ。
「おい……なんなんだよ、テメエ?」
「あれ……今、言ったよな? お薬の時間だって。聞こえなかった?」
「俺は邪魔すんなっつってんだよ? そんなのも分かんねえのか?」
「邪魔? 一人でくっちゃべってるのに邪魔も糞もないだろ。可笑しなことを言う……」
まるで大和くんは機械の如く平坦に返すと、また錠剤を口に入れた。
「一人だぁ? テメエ、喧嘩売ってんのか?」
「別に……ただ、一人遊びしてるのが見るに堪えなくてな。悪かったよ――」
その挑発的な台詞に六車くんは教科書捨て、大和くんの胸倉へと掴みかかる。
「六車くんっ‼」
私は止めに入るも声を掛けることしかできず、六車くんの蛮行は更に続いてしまう。
「おい、転校生? あんま調子に乗んなよ? この学園じゃ、そういう奴から消えてくんだぜ?」
「ご忠告どうも。そんなことより、腕いいのか? 怪我してるんだろ?」
しかし、大和くんは全く動じることなく、六車くんの腕を掴んでは軽く振り払ってみせる。
「テメエッ――」
「そういえばテレビで一時期、取り沙汰されてたっけ。稀代のエースが怪我して引退したって。あれってアンタだよな?」
「あ? それがどうした?」
「いや? その割には元気そうだなぁと思って。やっぱり、あの噂は本当だったのかな?」
「噂……?」
「ああ。引退したのは怪我が原因じゃなくて――『公式戦で能力を使ったから』ってヤツ」
嘘か誠か……大和くんの放ったその真相に、教室内はざわつき始める。
「お前……なんでそれを……!」
「実は、この学園に知り合いが居てな。確か公式戦で能力を使っていいのは、十八歳以上のプロだけのはず。学生が使っていいのは指定された授業のみ。つまりアンタのお仲間は、それを隠蔽する為に『怪我で引退』なんてフェイクを流した。違うか?」
傍から見ても分かる。六車くんの怒りが沸々と湧き上がっていくのが。
「ああ、そうだッ‼ だが、何が悪い⁉ 俺のお陰でアイツらは、あそこまで勝ち上がってこれたんだぞ⁉ それなのにバレた瞬間、俺を切り捨てて、大会まで辞退しやがったッ……! だから――」
「バカか? 能力使えば誰だって勝てる。お前のお陰じゃなくて『力』のお陰だ」
六車くんは再び、「なんだとッ⁉」と大和くんへ掴みかかる。
「おいおい、やめろって。力……随分なくなってるんだろう?」
「何……?」
「さっきから右腕の力が異常に少ない。もしかしてアンタの『代償』は――『筋肉の縮小』なんじゃないか?」
「――ッ⁉ お前……!」
この時、我々の心中から『安寧』という文字が消えた。
だって大和くんがしているそれは、能力者同士で御法度の――『暴露』への道だから。
能力者は『条件』、『媒体』、『代償』を暴かれたのち、能力名を名指しされると、その力を失う。これが、この世界での基本ルールだ。
だが、もし一度でも『暴露』しようものなら、周りから裏切り者の烙印を押され、その世界で生きていくことはかなり難しくなる。
だからこそ誰もやらない。みんな見て見ぬ振りをする。一人は嫌だから。それなのに彼は……
「さっき腕を掴んだ時わかった。必要以上に包帯を巻いているのは、細くなった腕を悟らせない為だろう? 『媒体』は硬球……と言いたいところだが、恐らく投げられるものならなんでもいい。力ってのは制限されるほど強力になるからな。アンタ程度じゃ、それはないだろう。『条件』は――」
「おい、テメエッ‼ それ以上言ったら、どうなるか分かってんのか……⁉ あぁッ⁉」
「ウソウソ。そこまでは知らないって……オレはな?」
そう言いながら大和くんは、涙を拭う橋本さんへ視線を移す。
「なあ? アンタ、名前は?」
「え……? は、橋本ですけど……?」
「橋本さん。アンタなら知ってるんじゃないか? ……こいつの力の『条件』」
橋本さんは一瞬目を見開くと、すぐに視線を逸らす。
傍から見ても分かった。橋本さんが六車くんの能力、その『条件』を知っているだろうことが。
「なっ……⁉ テメエ、何を勝手なことをッ!」
焦り出す六車くん。
そんな彼を余所に、大和くんは更に橋本さんを焚き付ける。
「橋本さんも、やられっぱなしは嫌だろう? 心配しなくても名指しはオレがやってやるから安心しな」
「おい、橋本ッ! 絶対、言うんじゃねえぞ⁉ 裏切りだからな、これはッ‼」
『裏切り』……その一言が橋本さんの中にあった、最後の『良心』を打ち砕いた。
「裏切り……? 先に裏切ったのは……六車くんの方じゃない……」
「は……?」
私は驚いた。あの誰にでも優しかった橋本さんが、拳を震わせながら怒りを露わにしていることを。
「みんな力を使わず、一生懸命練習してたんだよ? それなのに六車くんの所為でみんなは……!」
「橋本……お前……?」
「勝つのも大事だよ? でも、それ以上に大事なことがあると私は思うから……言わせないで……!」
橋本さんの脅しとも取れる強き言葉に、六車くんは顔を悔し気に歪め、沈黙を余儀なくされる。
そののち、彼はいたたまれぬ空気を前に教室から逃げ出し、『硬球飛来事件』はこれにて幕引きとなった。
再び、しんと静まり返る教室。
結局、私は何もできず、ただ見てるだけ。
座りながらそんな自己嫌悪に陥っていると、大和くんの呟きが微かに届く。
「狩り損ねたか……」
でも、何を言っているかは聞き取れなかった。
そんなマイペースな彼を前に出鼻を挫かれた六車くんは、舌打ちをしつつも止めていた手をもう一度振りかぶる。
カラカラカラカラカラカラカラカラ……!
――が、またもや妨害され、六車くんの矛先は徐々に大和くんの方へ。
「おい……なんなんだよ、テメエ?」
「あれ……今、言ったよな? お薬の時間だって。聞こえなかった?」
「俺は邪魔すんなっつってんだよ? そんなのも分かんねえのか?」
「邪魔? 一人でくっちゃべってるのに邪魔も糞もないだろ。可笑しなことを言う……」
まるで大和くんは機械の如く平坦に返すと、また錠剤を口に入れた。
「一人だぁ? テメエ、喧嘩売ってんのか?」
「別に……ただ、一人遊びしてるのが見るに堪えなくてな。悪かったよ――」
その挑発的な台詞に六車くんは教科書捨て、大和くんの胸倉へと掴みかかる。
「六車くんっ‼」
私は止めに入るも声を掛けることしかできず、六車くんの蛮行は更に続いてしまう。
「おい、転校生? あんま調子に乗んなよ? この学園じゃ、そういう奴から消えてくんだぜ?」
「ご忠告どうも。そんなことより、腕いいのか? 怪我してるんだろ?」
しかし、大和くんは全く動じることなく、六車くんの腕を掴んでは軽く振り払ってみせる。
「テメエッ――」
「そういえばテレビで一時期、取り沙汰されてたっけ。稀代のエースが怪我して引退したって。あれってアンタだよな?」
「あ? それがどうした?」
「いや? その割には元気そうだなぁと思って。やっぱり、あの噂は本当だったのかな?」
「噂……?」
「ああ。引退したのは怪我が原因じゃなくて――『公式戦で能力を使ったから』ってヤツ」
嘘か誠か……大和くんの放ったその真相に、教室内はざわつき始める。
「お前……なんでそれを……!」
「実は、この学園に知り合いが居てな。確か公式戦で能力を使っていいのは、十八歳以上のプロだけのはず。学生が使っていいのは指定された授業のみ。つまりアンタのお仲間は、それを隠蔽する為に『怪我で引退』なんてフェイクを流した。違うか?」
傍から見ても分かる。六車くんの怒りが沸々と湧き上がっていくのが。
「ああ、そうだッ‼ だが、何が悪い⁉ 俺のお陰でアイツらは、あそこまで勝ち上がってこれたんだぞ⁉ それなのにバレた瞬間、俺を切り捨てて、大会まで辞退しやがったッ……! だから――」
「バカか? 能力使えば誰だって勝てる。お前のお陰じゃなくて『力』のお陰だ」
六車くんは再び、「なんだとッ⁉」と大和くんへ掴みかかる。
「おいおい、やめろって。力……随分なくなってるんだろう?」
「何……?」
「さっきから右腕の力が異常に少ない。もしかしてアンタの『代償』は――『筋肉の縮小』なんじゃないか?」
「――ッ⁉ お前……!」
この時、我々の心中から『安寧』という文字が消えた。
だって大和くんがしているそれは、能力者同士で御法度の――『暴露』への道だから。
能力者は『条件』、『媒体』、『代償』を暴かれたのち、能力名を名指しされると、その力を失う。これが、この世界での基本ルールだ。
だが、もし一度でも『暴露』しようものなら、周りから裏切り者の烙印を押され、その世界で生きていくことはかなり難しくなる。
だからこそ誰もやらない。みんな見て見ぬ振りをする。一人は嫌だから。それなのに彼は……
「さっき腕を掴んだ時わかった。必要以上に包帯を巻いているのは、細くなった腕を悟らせない為だろう? 『媒体』は硬球……と言いたいところだが、恐らく投げられるものならなんでもいい。力ってのは制限されるほど強力になるからな。アンタ程度じゃ、それはないだろう。『条件』は――」
「おい、テメエッ‼ それ以上言ったら、どうなるか分かってんのか……⁉ あぁッ⁉」
「ウソウソ。そこまでは知らないって……オレはな?」
そう言いながら大和くんは、涙を拭う橋本さんへ視線を移す。
「なあ? アンタ、名前は?」
「え……? は、橋本ですけど……?」
「橋本さん。アンタなら知ってるんじゃないか? ……こいつの力の『条件』」
橋本さんは一瞬目を見開くと、すぐに視線を逸らす。
傍から見ても分かった。橋本さんが六車くんの能力、その『条件』を知っているだろうことが。
「なっ……⁉ テメエ、何を勝手なことをッ!」
焦り出す六車くん。
そんな彼を余所に、大和くんは更に橋本さんを焚き付ける。
「橋本さんも、やられっぱなしは嫌だろう? 心配しなくても名指しはオレがやってやるから安心しな」
「おい、橋本ッ! 絶対、言うんじゃねえぞ⁉ 裏切りだからな、これはッ‼」
『裏切り』……その一言が橋本さんの中にあった、最後の『良心』を打ち砕いた。
「裏切り……? 先に裏切ったのは……六車くんの方じゃない……」
「は……?」
私は驚いた。あの誰にでも優しかった橋本さんが、拳を震わせながら怒りを露わにしていることを。
「みんな力を使わず、一生懸命練習してたんだよ? それなのに六車くんの所為でみんなは……!」
「橋本……お前……?」
「勝つのも大事だよ? でも、それ以上に大事なことがあると私は思うから……言わせないで……!」
橋本さんの脅しとも取れる強き言葉に、六車くんは顔を悔し気に歪め、沈黙を余儀なくされる。
そののち、彼はいたたまれぬ空気を前に教室から逃げ出し、『硬球飛来事件』はこれにて幕引きとなった。
再び、しんと静まり返る教室。
結局、私は何もできず、ただ見てるだけ。
座りながらそんな自己嫌悪に陥っていると、大和くんの呟きが微かに届く。
「狩り損ねたか……」
でも、何を言っているかは聞き取れなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる