アルトリアの花

マリネ

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ソウンディック クロエとマリア

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レティシアがギルデガルドの養子になる手続きを指示し、クロエの身元確認のための問い合わせの文書を出すと、あっという間に日も暮れていた。

「さて、改めて身の振りを確認したい。何故レティシアに近づいた?」
レティシアはギルデガルドと供に邸の者への挨拶のために下がらせた。
彼女の前では嘘は付けないとは言え、念のため確認はしておきたい。
クロエは執務机に座るソウンディックと向き合うと、首を傾げた。
重厚な机から見える彼女の姿は、まだまだ遊びを楽しみに一日を過ごすような少女だ。
「部屋、人居ないと思った。ご飯くれた人、彼女消したと皆が言っていた。何故、聞きたかった。」
「牢でエステザニアの兵に聞いたのか。レティシアにその時の記憶はない。思い出させるな。良いな。」
コクンと頷く。
どんなに見た目が幼くあろうが、間者の可能性はある。
容姿に惑わされるようであってはならない。

「今はレティシアの事をどう思いますか?」
「レティシア様、優しい。側は気持ち良い。」
そうですよね。とマリアは朗らかに笑う。
「これからも側に居たいと思いますか?」
「居ても良いの?」
その問いに、クロエは不安げな視線をソウンディックへと向けた。
怯えるように潤んだ赤い瞳と視線が重なる。
「…はぁ。」
盛大なため息をつくと、椅子にもたれて天井を仰いだ。

「今後、レティシアに敬意を持って接する事を誓えるか?」
「はい。」
「何が起こっても、自分よりも彼女の身を優先し、彼女のために自分の時間の全てをかけられるか?」
「はい。」

本当にどのような事が起こるか分からない情勢だ。
エステザニアのアルトリア侵攻も想定出来る。
レティシアのリュクスの力が狙われている兆しもある。
この幼い少女は何も知らない。
酷な話だ。

震えながらもまっすぐに見つめてくる瞳から、目を背けたくなるが、決めたのは自分だ。
「分かった。レティシア付きとして、よく学ぶと良い。」
パァッと明るく微笑む少女は、声が掠れてしまった事など気がつかないだろう。

「マリア、とりあえずは側付きとしての教養を身につけさせるように。くれぐれも余計な事は教えるな。」
「心得てます。」
ぴょんと勢いよく跳ねるようにして敬礼すると、即座に返答する。
軽く答えたな。
厳めしい顔になってしまうのは、仕方がない。

元々は側使として王宮に入ったはずのマリアの身軽さが気に入り、声をかけたまでは良かったが、まさか魔物使いとしての魔術を極め、鞭まで堪能に操るようになるとは思ってもいなかった。
しかも他の騎士団の者にも後れを取らないほどだ。
その腕前だけを見れば、どの騎士団に在ってもやっていける。それどころか、団長クラスだろう。
頭が痛いのは、自ら斥候を務めたがる所と、敵と見なした者への負傷者の多さだ。
マリアと似た気質の者が増えたら、果たして自分に御する事は出来るだろうか。
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