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レティは意を決し、ゆっくりと話はじめた。
「私はレティシア·ガーランド。今はアルトリアに住んでいます。」
生まれは隣国のエステザニア。商家の生まれだったそうだが、物心つく頃には内乱が起こり、両親を失った。
まだ幼かったレティをアルトリアまで逃がし、ここまで育ててくれたのは、血の繋がらない義兄だ。
隣国での住まいが近く、その縁で面倒を見てくれたらしい。
内乱で落ち着かないエステザニアに居るよりも、知り合いのいるカルストリアに逃げた方が安全だと思ったと言っていた。
本当の兄妹のように仲が良かった。
その兄も二週間前、知り合いに届け物があると家を出たきり帰らない。
方々を探したが見つからず、後はこの屋敷だけだった。
そこで、もしやと以前から目をつけていた垣根をくぐり、ソウンディックに見つかる事になったのだ。
「そうか。兄君を探していたのか。」
「勝手に入り込んですみませんでした。」
「いや、気にしなくて良い。ただ兄君はこちらを訪れてはいないぞ。」
てっきり、知り合いとはギルデガンドの事なのでは?と期待していたので、気落ちしてしまう。
「なぁ、それってさぁ。精霊王が言ってた奴じゃねぇの?」
アルベルトは立ったままティーカップを空にすると、自分で二杯目をつぎはじめた。
「ああ、その可能性はあるな。」
「精霊王ですか?」
見えないものの、精霊がいるのは知っている。
生活に密着したところでは竈に火を灯したり水を溜めたり。
平民には精霊の加護を持つものは少ないため、小さな力でも商売が成り立つくらい重宝されていた。
その精霊たちの王様。
レティは物語の中でしか聞いた事がない。
「うん。リュクスの居場所を知ってるんじゃないかと、精霊王に聞きに行ったんだ。付けてた者からの連絡がないって言ってたな。」
「兄の知り合いは精霊王なんでしょうか。」
まるで夢物語だ。
「聞きに行ってみれば?」
あっけらかんとした感じに、アルベルトは言う。
散歩にでも行くのかという気軽な雰囲気だ。
でも他に何の手がかりもない以上、どこに行くのかは分からないが、アルベルトの案しかない。
「兄の手がかりがあるのなら行きたいです。わたしでもお会い出来ますか?」
王というくらいだ、会うのにも条件があるのかもしれない。
「お兄さんが精霊王の所に行くつもりだったなら、途中で何か分かるかもしれないしな。お前と一緒なら大丈夫だろ。ソウンディック?」
「お前、なんてこと言うんだ!」
ソウンディックはもの凄い勢いでアルベルトを睨み付けた。
「ごめんなさい、無理を言って。」
「いや、レティのせいじゃない。大丈夫。お兄さんを見つけるのを手伝わせて。」
ソウンディックはレティに微笑むと、すくっと立ってアルベルトに向き合った。
頭を抱えながら、ぶつぶつと呟いている。
「他に方法があるかもしれないだろ。リュクスのように、あいつから離れなかったらどうするつもりだよ。レティをあれと会わせるなんて…。」
「せいぜい頑張るんだな。」
アルベルトはそんな彼に苦笑いしながら、肩に手を置いた。
「私はレティシア·ガーランド。今はアルトリアに住んでいます。」
生まれは隣国のエステザニア。商家の生まれだったそうだが、物心つく頃には内乱が起こり、両親を失った。
まだ幼かったレティをアルトリアまで逃がし、ここまで育ててくれたのは、血の繋がらない義兄だ。
隣国での住まいが近く、その縁で面倒を見てくれたらしい。
内乱で落ち着かないエステザニアに居るよりも、知り合いのいるカルストリアに逃げた方が安全だと思ったと言っていた。
本当の兄妹のように仲が良かった。
その兄も二週間前、知り合いに届け物があると家を出たきり帰らない。
方々を探したが見つからず、後はこの屋敷だけだった。
そこで、もしやと以前から目をつけていた垣根をくぐり、ソウンディックに見つかる事になったのだ。
「そうか。兄君を探していたのか。」
「勝手に入り込んですみませんでした。」
「いや、気にしなくて良い。ただ兄君はこちらを訪れてはいないぞ。」
てっきり、知り合いとはギルデガンドの事なのでは?と期待していたので、気落ちしてしまう。
「なぁ、それってさぁ。精霊王が言ってた奴じゃねぇの?」
アルベルトは立ったままティーカップを空にすると、自分で二杯目をつぎはじめた。
「ああ、その可能性はあるな。」
「精霊王ですか?」
見えないものの、精霊がいるのは知っている。
生活に密着したところでは竈に火を灯したり水を溜めたり。
平民には精霊の加護を持つものは少ないため、小さな力でも商売が成り立つくらい重宝されていた。
その精霊たちの王様。
レティは物語の中でしか聞いた事がない。
「うん。リュクスの居場所を知ってるんじゃないかと、精霊王に聞きに行ったんだ。付けてた者からの連絡がないって言ってたな。」
「兄の知り合いは精霊王なんでしょうか。」
まるで夢物語だ。
「聞きに行ってみれば?」
あっけらかんとした感じに、アルベルトは言う。
散歩にでも行くのかという気軽な雰囲気だ。
でも他に何の手がかりもない以上、どこに行くのかは分からないが、アルベルトの案しかない。
「兄の手がかりがあるのなら行きたいです。わたしでもお会い出来ますか?」
王というくらいだ、会うのにも条件があるのかもしれない。
「お兄さんが精霊王の所に行くつもりだったなら、途中で何か分かるかもしれないしな。お前と一緒なら大丈夫だろ。ソウンディック?」
「お前、なんてこと言うんだ!」
ソウンディックはもの凄い勢いでアルベルトを睨み付けた。
「ごめんなさい、無理を言って。」
「いや、レティのせいじゃない。大丈夫。お兄さんを見つけるのを手伝わせて。」
ソウンディックはレティに微笑むと、すくっと立ってアルベルトに向き合った。
頭を抱えながら、ぶつぶつと呟いている。
「他に方法があるかもしれないだろ。リュクスのように、あいつから離れなかったらどうするつもりだよ。レティをあれと会わせるなんて…。」
「せいぜい頑張るんだな。」
アルベルトはそんな彼に苦笑いしながら、肩に手を置いた。
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