アルトリアの花

マリネ

文字の大きさ
上 下
5 / 70

4

しおりを挟む
レティは意を決し、ゆっくりと話はじめた。
「私はレティシア·ガーランド。今はアルトリアに住んでいます。」
生まれは隣国のエステザニア。商家の生まれだったそうだが、物心つく頃には内乱が起こり、両親を失った。
まだ幼かったレティをアルトリアまで逃がし、ここまで育ててくれたのは、血の繋がらない義兄だ。
隣国での住まいが近く、その縁で面倒を見てくれたらしい。
内乱で落ち着かないエステザニアに居るよりも、知り合いのいるカルストリアに逃げた方が安全だと思ったと言っていた。
本当の兄妹のように仲が良かった。
その兄も二週間前、知り合いに届け物があると家を出たきり帰らない。
方々を探したが見つからず、後はこの屋敷だけだった。
そこで、もしやと以前から目をつけていた垣根をくぐり、ソウンディックに見つかる事になったのだ。

「そうか。兄君を探していたのか。」
「勝手に入り込んですみませんでした。」
「いや、気にしなくて良い。ただ兄君はこちらを訪れてはいないぞ。」
てっきり、知り合いとはギルデガンドの事なのでは?と期待していたので、気落ちしてしまう。
「なぁ、それってさぁ。精霊王が言ってた奴じゃねぇの?」
アルベルトは立ったままティーカップを空にすると、自分で二杯目をつぎはじめた。
「ああ、その可能性はあるな。」
「精霊王ですか?」
見えないものの、精霊がいるのは知っている。
生活に密着したところでは竈に火を灯したり水を溜めたり。
平民には精霊の加護を持つものは少ないため、小さな力でも商売が成り立つくらい重宝されていた。
その精霊たちの王様。
レティは物語の中でしか聞いた事がない。
「うん。リュクスの居場所を知ってるんじゃないかと、精霊王に聞きに行ったんだ。付けてた者からの連絡がないって言ってたな。」
「兄の知り合いは精霊王なんでしょうか。」
まるで夢物語だ。
「聞きに行ってみれば?」
あっけらかんとした感じに、アルベルトは言う。
散歩にでも行くのかという気軽な雰囲気だ。
でも他に何の手がかりもない以上、どこに行くのかは分からないが、アルベルトの案しかない。
「兄の手がかりがあるのなら行きたいです。わたしでもお会い出来ますか?」
王というくらいだ、会うのにも条件があるのかもしれない。
「お兄さんが精霊王の所に行くつもりだったなら、途中で何か分かるかもしれないしな。お前と一緒なら大丈夫だろ。ソウンディック?」
「お前、なんてこと言うんだ!」
ソウンディックはもの凄い勢いでアルベルトを睨み付けた。
「ごめんなさい、無理を言って。」
「いや、レティのせいじゃない。大丈夫。お兄さんを見つけるのを手伝わせて。」
ソウンディックはレティに微笑むと、すくっと立ってアルベルトに向き合った。
頭を抱えながら、ぶつぶつと呟いている。
「他に方法があるかもしれないだろ。リュクスのように、あいつから離れなかったらどうするつもりだよ。レティをあれと会わせるなんて…。」
「せいぜい頑張るんだな。」
アルベルトはそんな彼に苦笑いしながら、肩に手を置いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

処理中です...