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第18話 思わぬ展開へ
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全てを説明し終えた後、直ぐに意見したのはルクレツィアの父親だった。
モンタール公爵はルクレツィアが前世の記憶がある事を知っている為、既にこの内容が真実だと受け止めているので、棘がある物言いをした。
「これが真実だとすれば、神殿はこの真実を全く知らなかったという事なのか?これだけの事があったのにも関わらず?」
責める様な口調で言えば、神殿側がそれに反発した。
「そんな記述はどの歴史書にも書かれていない。この資料は全てデタラメだっ」
そしてカークに向き直ると、怒りの声を上げた。
「こんな話を信じる訳ないだろうっ。どうやって解読したのか、まずは説明してみろっ」
その言葉にルクレツィアが手を上げた。
「はい。それについては私が説明致します。」
そう言い立ち上がると、カークの隣に並んだ。
そして咳払いをして、周囲を見渡した。
「まず、ここに私が嘘偽りなく話すと誓約させていただきます。」
ルクレツィアが右手を上げて誓いを宣言した。
この世界では、魔法で誓いを立てる事で、それが破られた時に相手が気付く様な仕組みがあった。
以前、アルシウスがルクレツィアに行った事もある。
ルクレツィアはここにいる人々全員に向かって魔力を放ち、誓いを宣言した。
「これで私が解読方法について嘘偽りない言葉を話すと、信じていただけたと思います。」
そしてルクレツィアが一度大きく息を吸い、緊張を解すと口を開いた。
「ご存じの方もいらっしゃると思いますが、改めて申し上げます。この聖書を解読したのは、私、ルクレツィア・モンタールです。私は一目見てこの文字を読む事が出来ました。この文字を見たのはこの世界に生まれて初めてでしたが、頭の中で母国語の様に理解が出来たのです。」
その言葉に神殿の人々と、知識者の人々が驚きの声を上げる。
知識者の1人がルクレツィアに尋ねた。
「……恐れながら質問させていただきます。なぜ貴女に解読できたのでしょうか?この文字は特殊で、この世界に存在するものとは思えず、私達の中では神が聖女に与えた特別な文字だと結論付けていました。あなたも神から与えられたものだとお考えですか?」
「それは……私にも分かりません。ですが、神が私に記憶をお与えになっているのならば、そうだと肯定せざるを得ないでしょう。」
すると、神殿側の1人が口を開いた。
「それだと、貴女も聖女だという事でしょうか。神に与えられた知識を持つならば、少なくとも神にとってあなたは特別な存在だという事です。」
その言葉にルクレツィアは強く否定した。
「聖女ではありません。何故なら、メルファに起きた聖夜祭の時の様な神の祝福は私には起きていませんから。私が言える事は、少なくとも500年前の聖女と私の記憶には、共通する世界が存在します。これはその世界で使われていた言語です。」
その言葉に質問者は嘘くさそうな顔をした。
だが、誓約の下で嘘は付いていないのは明白なので、神殿側の人の中にもルクレツィアの話に興味を抱いている者も見受けられる。
その中の1人が更に質問を重ねた。
「その世界で500年前の聖女様にお会いしているのですか?」
それに対して、ルクレツィアは首を横に振った。
「恐らく、お会いしていないでしょう。その世界には星の数ほどの人々が暮らしていましたから、その世界の人々全員にお会いする事は不可能です。よって、その世界での聖女様がどなたなのか存じ上げません。私の記憶は、この世界とは全く異なる別の世界で生活をしている記憶と申し上げましたが、そこで使われていた言語を覚えただけです。ですから、その言語をご存じだった聖女様もその世界で生活をしていたのでは、という考えに至ったまでです。」
「もしかしたら、その世界が神々の世界なのでは?」
神殿側の人が更に問い掛けてくる。
あれが神々の世界?
そんな訳がない。
人々は老いるし、殺人だって、戦争だって存在する。
ただ、前世とは何だろう……。
私の記憶は果たして前世で間違いないのだろうか?
過去の記憶と同じ様な感覚だから、前世だと私が勝手に思っていただけだ。
いけない。
論点がズレている……。
今はその世界が何なのかを見定める事ではなく、聖書の内容に偽りがないかを審議する場なのに。
そう思っていると、国王陛下が声を上げた。
「その世界の話は後で検証する事にしよう。今は時間が惜しい。少なくともルクレツィアが嘘を付いていない事は証明された。だが、精神異常の可能性は否定できない。ルクレツィアがそう思い込んでいるだけかもしれん。」
国王陛下が不敵な笑みを浮かべてルクレツィアを見詰めた。
ルクレツィアは顔を引き攣らせた。
こんの狸オヤジめっ!
私が前世の記憶を持っている事を知っているくせに、そんな事を投げかけてくるのは自分は手助けしないぞと、この状況を面白がっているからだ。
国王がこの記憶に偽りがない事を認めていると示せば、反論する人も黙るだろう。
けど……、国王が認めたところで、本当の意味で解決したとは言えない。
こんな荒唐無稽な話を国王が信じているからといって、本人が、はい。そうですか。と、すんなり納得してくれるはずがないからだ。
それが分かっているから陛下は手助けしないんだ。
その内容が真実だと証明して、納得する説明をしなければならない。
ルクレツィアは不敵な笑みを向ける国王陛下に、挑む様な悪役令嬢の挑戦的な笑みを浮かべた。
「その可能性も否定できません。よって、この他にもこの内容が正しいと証明する資料をご用意しております。」
そう言い、カークを振り返った。
カークはそのルクレツィアの視線に頷くと、前に進み出た。
「新たな資料をご用意致しました。その資料はこの本です。」
カークが用意していた本を皆の前に掲げて見せた。
「これはオルグの日記です。」
その言葉に多くの人がどよめいた。
その声が落ち着くのを待って再びカークが口を開いた。
「この本を鑑定していただければ、500年前に書かれた物だと証明されるでしょう。もちろん、この国の言葉で書かれていますので、誰でも読む事が可能です。」
カークがそう言うと、新たに用意した資料を配り、全員を見渡して言った。
「この日記と聖書に書かれていた内容は全て一致しております。しかもこのオルグの日記には聖女が特殊な文字で日記を書いているという記述もあります。機密事項も含まれていますので直接お見せする事は不可能ですが、付箋をしている箇所を確認していただく事は可能です。」
カークがそう言い、国王にその本を献上した。
国王はその本を手に取ると、付箋の箇所を開いて資料と内容を確認した。
そして、次に神皇にその資料を渡す様、他の者に指示を出した後で口を開いた。
「……確かに。この資料と同じ事が書かれている。だが、この本をどこで手に入れた?本物である証拠は?」
心の奥を探る様な瞳で国王がカークを見詰めた。
カークは逸らす事なく真っ直ぐな瞳で言った。
「その本は我がユリゲル家に代々受け継がれていた本です。」
「なんだとっ!?」
誰かがそう叫んだ。
それから、一斉に皆の視線がカークの父親であるユリゲル侯爵の方へと注がれた。
国王がユリゲル侯爵に問いただした。
「それは真か?」
ユリゲル侯爵はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「……はい。真実で間違いありません。」
カークは父親のその回答に、少なからず驚いた。
嘘を付かれるかもしれないと思っていたからだ。
皆がその返答に絶句していると、国王が続けて言った。
「……という事は、ユリゲル侯爵は500年前の出来事を全て知っていたという事か。」
そう尋ねられたユリゲル侯爵が席から離れると、王の前へ跪いて頭を垂れた。
「はい。陛下。お伝えせず、申し訳ありませんでした。確かにこの本は、我がユリゲル家では当主以外に知らされず、秘密裏に受け継がれてきた門外不出のもので間違いありません。この本は決して公にしてはならないという掟がありました。それに、この本が真実である証拠は何もありませんでした。内容もとても信じられないものでしたし……」
「なるほどな。そなたの言う事も一理ある。この話が真実だという証拠もないのに公にしてしまえば、ユリゲル家の立場は危ういものになろう。真実の確証もないのに気安く報告は出来なかったという事か……」
「はい。ですが今回、この本の内容と日時まで全て一致する聖女様の手記が解読された事で、この本が偽りでない事が立証されました。よってユリゲル家としても陛下に隠す必要は無くなりました。ですから、私は包み隠さずお伝えする所存です。」
「内容によってはユリゲル家の立場が危うくなるやもしれんぞ?」
そう国王が言い、射貫く様な鋭い視線でユリゲル侯爵を見詰めた。
だが、ユリゲル侯爵は顔を上げると、その視線に怯む事なく表情一つ変えずに言った。
「覚悟の上でございます。むしろ陛下にお話する事で……ようやく長年に渡るユリゲル家の重責の念を下ろす事ができる事に安堵しております。」
それは芯の通ったハッキリとした声だった。
国王はユリゲル侯爵の瞳に揺るぎない覚悟を見受けると、静かに頷いて見せた。
そして国王が通る声で言った。
「よかろう。ユリゲル侯爵。まずは何故この本がユリゲル家に受け継がれていたのか、説明を聞かせて貰おうか。」
「承知致しました。国王陛下。」
ユリゲル侯爵は立ち上がるとカークの元へと歩いていった。
モンタール公爵はルクレツィアが前世の記憶がある事を知っている為、既にこの内容が真実だと受け止めているので、棘がある物言いをした。
「これが真実だとすれば、神殿はこの真実を全く知らなかったという事なのか?これだけの事があったのにも関わらず?」
責める様な口調で言えば、神殿側がそれに反発した。
「そんな記述はどの歴史書にも書かれていない。この資料は全てデタラメだっ」
そしてカークに向き直ると、怒りの声を上げた。
「こんな話を信じる訳ないだろうっ。どうやって解読したのか、まずは説明してみろっ」
その言葉にルクレツィアが手を上げた。
「はい。それについては私が説明致します。」
そう言い立ち上がると、カークの隣に並んだ。
そして咳払いをして、周囲を見渡した。
「まず、ここに私が嘘偽りなく話すと誓約させていただきます。」
ルクレツィアが右手を上げて誓いを宣言した。
この世界では、魔法で誓いを立てる事で、それが破られた時に相手が気付く様な仕組みがあった。
以前、アルシウスがルクレツィアに行った事もある。
ルクレツィアはここにいる人々全員に向かって魔力を放ち、誓いを宣言した。
「これで私が解読方法について嘘偽りない言葉を話すと、信じていただけたと思います。」
そしてルクレツィアが一度大きく息を吸い、緊張を解すと口を開いた。
「ご存じの方もいらっしゃると思いますが、改めて申し上げます。この聖書を解読したのは、私、ルクレツィア・モンタールです。私は一目見てこの文字を読む事が出来ました。この文字を見たのはこの世界に生まれて初めてでしたが、頭の中で母国語の様に理解が出来たのです。」
その言葉に神殿の人々と、知識者の人々が驚きの声を上げる。
知識者の1人がルクレツィアに尋ねた。
「……恐れながら質問させていただきます。なぜ貴女に解読できたのでしょうか?この文字は特殊で、この世界に存在するものとは思えず、私達の中では神が聖女に与えた特別な文字だと結論付けていました。あなたも神から与えられたものだとお考えですか?」
「それは……私にも分かりません。ですが、神が私に記憶をお与えになっているのならば、そうだと肯定せざるを得ないでしょう。」
すると、神殿側の1人が口を開いた。
「それだと、貴女も聖女だという事でしょうか。神に与えられた知識を持つならば、少なくとも神にとってあなたは特別な存在だという事です。」
その言葉にルクレツィアは強く否定した。
「聖女ではありません。何故なら、メルファに起きた聖夜祭の時の様な神の祝福は私には起きていませんから。私が言える事は、少なくとも500年前の聖女と私の記憶には、共通する世界が存在します。これはその世界で使われていた言語です。」
その言葉に質問者は嘘くさそうな顔をした。
だが、誓約の下で嘘は付いていないのは明白なので、神殿側の人の中にもルクレツィアの話に興味を抱いている者も見受けられる。
その中の1人が更に質問を重ねた。
「その世界で500年前の聖女様にお会いしているのですか?」
それに対して、ルクレツィアは首を横に振った。
「恐らく、お会いしていないでしょう。その世界には星の数ほどの人々が暮らしていましたから、その世界の人々全員にお会いする事は不可能です。よって、その世界での聖女様がどなたなのか存じ上げません。私の記憶は、この世界とは全く異なる別の世界で生活をしている記憶と申し上げましたが、そこで使われていた言語を覚えただけです。ですから、その言語をご存じだった聖女様もその世界で生活をしていたのでは、という考えに至ったまでです。」
「もしかしたら、その世界が神々の世界なのでは?」
神殿側の人が更に問い掛けてくる。
あれが神々の世界?
そんな訳がない。
人々は老いるし、殺人だって、戦争だって存在する。
ただ、前世とは何だろう……。
私の記憶は果たして前世で間違いないのだろうか?
過去の記憶と同じ様な感覚だから、前世だと私が勝手に思っていただけだ。
いけない。
論点がズレている……。
今はその世界が何なのかを見定める事ではなく、聖書の内容に偽りがないかを審議する場なのに。
そう思っていると、国王陛下が声を上げた。
「その世界の話は後で検証する事にしよう。今は時間が惜しい。少なくともルクレツィアが嘘を付いていない事は証明された。だが、精神異常の可能性は否定できない。ルクレツィアがそう思い込んでいるだけかもしれん。」
国王陛下が不敵な笑みを浮かべてルクレツィアを見詰めた。
ルクレツィアは顔を引き攣らせた。
こんの狸オヤジめっ!
私が前世の記憶を持っている事を知っているくせに、そんな事を投げかけてくるのは自分は手助けしないぞと、この状況を面白がっているからだ。
国王がこの記憶に偽りがない事を認めていると示せば、反論する人も黙るだろう。
けど……、国王が認めたところで、本当の意味で解決したとは言えない。
こんな荒唐無稽な話を国王が信じているからといって、本人が、はい。そうですか。と、すんなり納得してくれるはずがないからだ。
それが分かっているから陛下は手助けしないんだ。
その内容が真実だと証明して、納得する説明をしなければならない。
ルクレツィアは不敵な笑みを向ける国王陛下に、挑む様な悪役令嬢の挑戦的な笑みを浮かべた。
「その可能性も否定できません。よって、この他にもこの内容が正しいと証明する資料をご用意しております。」
そう言い、カークを振り返った。
カークはそのルクレツィアの視線に頷くと、前に進み出た。
「新たな資料をご用意致しました。その資料はこの本です。」
カークが用意していた本を皆の前に掲げて見せた。
「これはオルグの日記です。」
その言葉に多くの人がどよめいた。
その声が落ち着くのを待って再びカークが口を開いた。
「この本を鑑定していただければ、500年前に書かれた物だと証明されるでしょう。もちろん、この国の言葉で書かれていますので、誰でも読む事が可能です。」
カークがそう言うと、新たに用意した資料を配り、全員を見渡して言った。
「この日記と聖書に書かれていた内容は全て一致しております。しかもこのオルグの日記には聖女が特殊な文字で日記を書いているという記述もあります。機密事項も含まれていますので直接お見せする事は不可能ですが、付箋をしている箇所を確認していただく事は可能です。」
カークがそう言い、国王にその本を献上した。
国王はその本を手に取ると、付箋の箇所を開いて資料と内容を確認した。
そして、次に神皇にその資料を渡す様、他の者に指示を出した後で口を開いた。
「……確かに。この資料と同じ事が書かれている。だが、この本をどこで手に入れた?本物である証拠は?」
心の奥を探る様な瞳で国王がカークを見詰めた。
カークは逸らす事なく真っ直ぐな瞳で言った。
「その本は我がユリゲル家に代々受け継がれていた本です。」
「なんだとっ!?」
誰かがそう叫んだ。
それから、一斉に皆の視線がカークの父親であるユリゲル侯爵の方へと注がれた。
国王がユリゲル侯爵に問いただした。
「それは真か?」
ユリゲル侯爵はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「……はい。真実で間違いありません。」
カークは父親のその回答に、少なからず驚いた。
嘘を付かれるかもしれないと思っていたからだ。
皆がその返答に絶句していると、国王が続けて言った。
「……という事は、ユリゲル侯爵は500年前の出来事を全て知っていたという事か。」
そう尋ねられたユリゲル侯爵が席から離れると、王の前へ跪いて頭を垂れた。
「はい。陛下。お伝えせず、申し訳ありませんでした。確かにこの本は、我がユリゲル家では当主以外に知らされず、秘密裏に受け継がれてきた門外不出のもので間違いありません。この本は決して公にしてはならないという掟がありました。それに、この本が真実である証拠は何もありませんでした。内容もとても信じられないものでしたし……」
「なるほどな。そなたの言う事も一理ある。この話が真実だという証拠もないのに公にしてしまえば、ユリゲル家の立場は危ういものになろう。真実の確証もないのに気安く報告は出来なかったという事か……」
「はい。ですが今回、この本の内容と日時まで全て一致する聖女様の手記が解読された事で、この本が偽りでない事が立証されました。よってユリゲル家としても陛下に隠す必要は無くなりました。ですから、私は包み隠さずお伝えする所存です。」
「内容によってはユリゲル家の立場が危うくなるやもしれんぞ?」
そう国王が言い、射貫く様な鋭い視線でユリゲル侯爵を見詰めた。
だが、ユリゲル侯爵は顔を上げると、その視線に怯む事なく表情一つ変えずに言った。
「覚悟の上でございます。むしろ陛下にお話する事で……ようやく長年に渡るユリゲル家の重責の念を下ろす事ができる事に安堵しております。」
それは芯の通ったハッキリとした声だった。
国王はユリゲル侯爵の瞳に揺るぎない覚悟を見受けると、静かに頷いて見せた。
そして国王が通る声で言った。
「よかろう。ユリゲル侯爵。まずは何故この本がユリゲル家に受け継がれていたのか、説明を聞かせて貰おうか。」
「承知致しました。国王陛下。」
ユリゲル侯爵は立ち上がるとカークの元へと歩いていった。
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