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第17話 聖女の恋の行方は

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その後、ルクレツィアが解読した内容を書き写したものを無事に神皇に提出する事が出来た。

それからしばらくして、ラウナスがルクレツィアの元へ訪れた。
神皇が内容を確認し、国王に知らせる事を許可されたと教えてくれた。
もちろん内々に、だ。
ルクレツィアは、まずは真実だと証明されてから国王に知らせるのではと考えていたので、その事を聞き少なからず驚いた。
そして、それを聞いた時の神皇の様子が気掛かりだったのでルクレツィアが尋ねると、ラウナスは困った様な顔をして見せて言った。
「神皇聖下は驚いてはいたが、特に怒りは感じていなかった様だよ。だから、モンタール家を咎める事はない。それは保証するから安心して欲しい。その為に内々で報告したのだから。」
その言葉を聞きルクレツィアが安堵の息を漏らすと、ラウナスが更に言った。
「ただし、やはり非公式で審議を行う事になった。極限られた人々でね。その時には国王陛下と神皇聖下も参加される。」
「そうですか。」
あらかじめ想定していたので、ルクレツィアが驚く事はなかった。
「証明できるでしょうか……」
独り言の様に呟くと、ラウナスが目を細めて言った。
「証明か……」
その様子が変だったので、ルクレツィアは不思議そうに彼の名を呼んだ。
「ラウナス大神官様?」
名前を呼ばれて、視線をルクレツィアに戻すと穏やかな笑みを浮かべて言った。
「いや、……きっと証明されるだろう。ただ、この真実が公にされるかは国王陛下の御心次第だけれど……」
その言葉にルクレツィアは少し考え込む様に黙っていたが、やがて口を開いた。
「私は、この真実が必ずしも公にされる必要はないと思っています。」
「というと?」
ラウナスが尋ねた。
「私達の望みはあくまでも聖女の待遇改善です。それさえ達成できればいいと考えているからです。」

だから、神殿がこの事で国王陛下に咎められる事がなければいい。
ルクレツィアはそう思っていた。

きっと500年前の聖女も同じ事を思っているはず。
だって、当時の国王陛下に告発する機会はいくらでもあったはずだ。
けれど聖女はそれをしなかった。
彼女がそれを望まなかったからだ。
まぁ、もしかしたら脅されていた可能性も否定はできないけれど……。
けれど、そんな記述は日記には書かれていなかった。
脅されていたなら、少なくとも日記には書き残されていたんじゃないかと思う。
だから彼女が望んでいなかったのなら、公にする必要はないとルクレツィアは思っていた。

ラウナスはそれを聞き、穏やかな笑みを漏らした。
「そうだったね。君達の目的は明確だ。大丈夫。真実だと証明されれば、聖女の規律について見直されるのは間違いないだろう。」
「はい。神殿の方々には申し訳ありませんが、証明に全力を尽くさせて貰います。」
「神殿としても、それを望んでいるよ。過ちは正さねばいけないからね……」
その言葉にルクレツィアは、少なからず感じる負い目を軽くする事が出来た。
神殿としては、間違いなく証明して欲しくないはずだから。
それでもそう言ってくれるラウナスの心遣いに、ルクレツィアは深く感謝した。

間違いなく、神殿の総意ではないだろう。
そして国民の総意でもないだろう。
やはり聖女は神の化身であり、高潔であって欲しいと多くの人々が思っている事だろう。
けれど、それは聖女の自由という犠牲を求めているという事に他ならない。
実際に御子を産んでも、聖なる力は失われなかったのに。

聖女が結婚する事が常識になればいい。
それが常識になれば、人々の聖女に対する神格化も少しは軟化するのではないだろうか。

そして、聖女がもっと人としての幸せを感じられればいい。

ルクレツィアはそう強く願うのだった。






 ◈·・·・·・·◈·・·・·・·◈






遂にこの日がやってきた。

今日は、解読した聖書の内容が真実であるのか審議される日だ。
公式の場でなく非公式として。
理由としては、神殿の隠蔽についての内容である事も然りだが、それ以外にも重要な内容が多々含まれているのと、解読者であるルクレツィアの解読方法が前世の記憶の文字であるという事、しかもルクレツィアは現国王の姪に当たる。
真実でないと判断した場合、ルクレツィアの言動は異常者という事になる。
その理由だけを並べても、神殿側だけで真実でないという判定を下す事は憚れる問題であり、国王と共に審議する必要があると神皇が判断した。
なのでまずは、極限られた人物達で審議するという事に至った。
本日の審議に出席したのは、国王、神皇、アルシウス皇太子、ルクレツィアの父親であるモンタール公爵、カークの父親で宰相でもあるユリゲル侯爵、ラウナス大神官、その他数名の神殿関係者、文字や歴史に通ずる数名の知識者という顔ぶれだ。

そして現在、その場にいる全員がカークを見詰めていた。

ラウナス大神官は審議する側として席に着いていた。
そして聖女であるメルファも、審議には参加しないが少し離れた場所でカークを見守っていた。

カークは後ろに控えたルクレツィアを振り返ると、ゆっくりと頷いた。
ルクレツィアも真剣な顔で頷き返す。
それからカークはメルファの方へと視線を向けた。
メルファもその視線に応える様に頷き返す。
カークは口を引き結ぶと、前へと向き直った。


さぁ、戦いを始めよう。
自分達の未来のために。

そして、500年前の聖女のために……


カークの瞳に静かな炎が灯ると、そこに集まる全ての人々の顔を見渡した。
そして儀礼の挨拶を行うと、カークは第一声の言葉を放った。
「皆様、本日はお忙しい中、私達のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。今回の審議についての内容はもうご存じだとは思いますが、今一度確認をさせていただきます。500年前の聖女様の残した聖書を解読した内容の真偽についてです。」
そこでカークが一旦言葉を切ると、辺りを見回した。
カークは緊張のあまり冷や汗を掻いていた。
先ほど潤したというのに、既に喉の奥がカラカラだ。

けれど、ここで諦める訳にはいかない。

カークはゆっくりと深呼吸をして焦る気持ちを静めた。
そして手に力を込めると、声高に訴えた。
「そしてそれが真実だと認められた場合、聖女様に対する待遇の改善を要求しますっ」
その言葉に、その場にいる人々のどよめきが巻き起こった。
現段階で話す内容ではないからだ。
今回の審議はあくまでも聖書の内容の真偽についてであって、聖女の待遇改善については議題にすら上っていなかった。

しばらくして、国王が手を上げて人々の騒めきを制した。
国王はカークを見詰めると言った。
「確かに聖女の待遇に関しては、神殿と国政で審議しなければならない。だが今回、例えそれが真実だと認められたとしても、簡単に要求が通ると思っている訳ではあるまいな。」
国王陛下が威圧するようにカークを見下ろした。
カークは冷や汗を感じながらも、真っ直ぐにその瞳を見詰めると言った。
「それは承知しております。今回は提案だけさせていただきたいと考えています。そして審議後、真実と証明された場合に神殿と国政で審議していただきたいのです。」
「良かろう。そなたの要求に適うだけの内容が記されているかどうか、まずは判断する事としよう。では、早速その解読した内容を聞かせてもらおうか。」
「はい。それでは始めさせていただきます。」
カークが一礼をすると、手にしていた資料を配り始めた。
全てを配り終えるとカークは元の位置に戻り、全員を見渡して言った。
「今回の聖書の内容については、書かれている内容の主要な文章の部分だけを切り出して資料に纏めています。そして重要な出来事については箇条書きさせていただいております。なぜそうしているかと言いますと、国家機密などにも関わっている部分もありますからお見せできないのと、全てをお話するには時間が足りません。ご了承ください。」

――――そうして、カークは資料を手に説明を開始した。



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