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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
闇の中に光は射す
しおりを挟む闇に染まる視界。それが私の見る世界。前まで見えていたはずの美しい光はもう私には映らない。聞こえるのは愛おしいとても大切な友人が私の名前を叫ぶ声。
数十分前に起こった出来事。あれは地獄絵図だ。勇者候補達の試験を映す水晶を覗いてた時に、突然現れた5人の男女。彼らは玉座の間にいた全員を襲撃した。兵士達を口にしたくないほどに残虐な方法で虐殺し、抵抗した私やお父様、彼女にもその殺意の矛先を向けた。ただ、真っ先に神眼魔法を扱う私が無力化され、そのあとの記憶はない。でも、最後に聞こえたのはお父様と彼女の怒りの声。
あぁ、そうだ。お父様はどうなったのだろう。
私はそれを尋ねるために友人であるリレウに話しかけようとする。だけど、どこにいるのか分からない。それもそうか。目が見えないんだから…。
目が見えないというのはこんなに怖いものなんだと初めて知った。音だけが聞こえる暗い部屋に目隠しをされて閉じ込められたかのような感覚。いやそれの方がまだ優しい方か。だって微かに射す光がまだあるのだから。今の私に微かな光はない。あるのは黒く塗りつぶされた世界。
・・・怖い。
あまりにも不安で全てが押しつぶされそうだ。
今にも潰れてしまうんじゃないかと思うその時に、友人の声がハッキリと私の耳に響いた。
「かの者の傷を癒せ、【治癒】!」
治療魔法を唱える声は間違いなく友人のものだ。
その声が聞けた瞬間、恐怖や不安が消えた。
「その声・・・リレウなの? ねえ、そうなのね」
そう問いかけると、彼女は答えてくれた。
あぁ…彼女が無事で良かった。彼女が無事ならこの目が潰されても悔いはない。いつも守ってくれた彼女に恩返しが出来たなら良かった。
「安心したわ。あなたが無事で」
心の底から出てきた言葉。それに対して、リレウから微かに聞こえたのは悔しさを噛み締めるような音。
こんな時かけていい言葉は私には思いつかない。『助けてくれてありがとう』なんて今の彼女にとっては皮肉に過ぎない。
「待っててくださいね…姫様」
彼女は1回、私から離れて何かを掴んだ。それがなんなのか何となく察しがついた。
「【奇跡剣アロンフェグラル】よ!お前が奇跡の剣と言うならば、今ここにその力を証明しろ!!」
怒りをぶつける様に彼女は自分の愛剣にそう命令した。
そして--
『主の命により、またひとつ【奇跡】が生まれる』
そんな男性の声が聞こえて、私を優しい大きな両手が包んだ。
『生まれし【奇跡】は【癒し】』
その声の主【奇跡剣アロンフェグラル】がそう言葉を紡いだ瞬間、闇に染まる世界に光が射した。
そう・・・
「おはようございます、姫様」
「えぇ、おはよう。リレウ」
涙を浮かべて笑いかけるリレウという光が。
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